第27章
「ご無沙汰しております、閣下。さきほどは助けて頂きありがとうございました」
ラッシュフォードが魔術師に深々と頭を下げた。実はグリンバルド公爵は娘を心配して度々このヒートリア王国に訪れていたので、ラッシュフォードとは何度も会っていたのだ。もちろん瞬間移動で入国審査も受けない密入国の方法ではあったが。
「いやいや、こちらこそ娘を守ろうとしてくれたことに感謝する。娘を愛するという君の思いが形に見えたので安心したよ、未来の婿殿」
父親の言葉にレディアは真っ赤になり、ラッシュフォードは嬉しそうに笑った。
そんな微笑ましい姿を暫く眺めていたフレシアだったが、やがてレディアに向かってこう言った。
エメラインだけではなく、卒業生やその親族、そして来賓の方々にも事の顛末について説明してやって欲しいと。
すると、レディアは顔を引き締めて頷き、ラッシュフォードと魔王と神殿、そして国王の関係性について語り出したのだった。
「皆様はこの国の成り立ちについては既に学んで、よくご存知のことだと思います。
この国の地下神殿の奥深くには、我が国の祖となった冒険者達の手で封印された、あの魔王様が眠っておられます。
中には魔王様は既に葬られたと思っていらっしゃる方々もおられるようですが、それは間違いです。
魔王様はご先祖様達との戦いで力尽きて眠られただけで、我々では魔王様の命を奪うことまではできませんでした。いいえ。もっと正確に言えば我々には魔王様を倒すことはできないのです。それは眠られた状態になっても同じことなのです。
魔王様は永遠の命を持っていて、一定のリズムで起きたり眠ったりしていると、古代史には記されています。
一度睡眠期に入ると、最低でも千年は眠っているということですので、当分魔王様が目覚めることはありません。
ところが、この魔王様はただ眠っているだけでも、周りから栄養分を自然に吸収してしまうらしく、時間とともにエネルギーを体内に溜め込んでしまうようなのです。
それは我々にとって大きな脅威になることなのですが、魔王様にとってもあまりかんばしくないことのようです。どうも魔力が溜まり過ぎると睡眠の妨げになるらしいのです。
ですから魔力がある程度溜まると、魔王様は無意識にそのエネルギーを爆発させて放出しているのです。
歴史書には約百年単位で大きな災害に襲われていることがわかりますが、つまりそれは一定量溜まったエネルギーを魔王様が吐き出したという記録でもあるのです。
ところが十八年前に、宮殿の記録係をなさっていた神官のナロー様、現在の神官長様がラッシュフォード様の精神状態が魔王様と関連していること気付かれたのです。
その後ラッシュフォード様は周りの方々からは、まるで腫れ物に触るように扱われ、常人とは違う境遇の中で辛い思いをされて、余計に感情を乱すようになったそうです」
「すまなかった」
息子のことを心配したのだろう。ラッシュフォード様のご両親であるアソート公爵夫妻が彼らの直ぐ側までやって来ていたようで、小さな声でそう呟いた。
彼らは大分前から、息子に対するこれまでの自分達の接し方を反省していた。しかし、レディアのとりなしの甲斐もなく、今のところまだ親子の溝は埋まってはいなかった。
レディアは彼らに視線で挨拶をしてから話を続けた。
「百年ごとに起こる大災害ほど大きくはありませんでしたが、私達が生まれた頃、頻繁に地震が起きたり、火山が噴火したり、大雨が降ったりしていたので、人々は不安を募らせていました。
国王陛下は国民の不満が大きくなることを恐れて、わがミカモン魔術公国に助けを求めて来られました。
それでこの私が、ラッシュフォード様の精神コントロールを指導する家庭教師としてこのヒートリア王国にやってきたのです。
ですが同時に私には、本来ダムリン王太子殿下の婚約者としての肩書きもあったのですよ」
「「「え・・・・・」」」
「ところが国王陛下を始めとするこの国の高官の方々は、私と従姉妹のフレシアを勘違いしたのです。
フレシアは私の補助をするためについてきてくれたのですが、彼女が私より華やかで美しかったので、元首の娘だと思い込んだのでしょうが、曲がりなりにも王太子妃として迎えようとする相手を調査もしないなんて、到底信じられ無いことです。
私達だけではなくダムリン殿下や国民の皆様に対しても失礼です」
来賓として卒業パーティーに参加していた高官達は瞠目した後、真っ青になって一斉に頭を下げた。しかし八年も経っているのだから今更だ。
「ダムリン王太子殿下と元フォーリア侯爵令嬢だったフリシアは、幸運にも相性がよくて自然に想い合う仲となったので、父が二人を認めてフリシアを養女にしました。
こちらの国の誤りを我が国の方が正当化して差し上げたのです。
私はラッシュフォード様の家庭教師となりましたが、ラッシュフォード様は大変優秀な方でしたので、学園に入学される頃にはもう、ご自分で感情のコントロールをすることができるようになっていました。
ですから私にも多少時間の余裕ができたので、ラッシュフォード様がご自分の研究に没頭されている時は、自分の好きな読書をすることにしたのです。そして神殿にある本を順に読んでいって、とあることに気付いたのです」
「とあること?」
「ええ、ラッシュ。貴方に関する重要なことよ」
レディアの言葉にラッシュフォードは目を丸くした。自分に関する気付きとは一体何なのだろうと。
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