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第15章

 これから、今まで影のように薄かった王太子殿下の存在が大きくなってきます!


 衣装の打ち合わせが終わって二人きりになると、ダムリンは即座に婚約者に頭を下げた。しかしそれを見てフリシアは怪訝な顔をした。

 

「一体何について謝っておられるのですか?」

 

「いや、だから僕がミカモン魔術公国を象徴する色をその…避けようとしたことだよ。

 僕は別に君の祖国の象徴する色を嫌がっているわけではないんだよ。ただ本当に僕には派手かなと思っただけで」

 

「そんなことを怒ってはいませんわ。そもそも貴方がミカモン魔術公国を象徴する色をご存知だとは最初から思っておりませんでしたもの。

 貴方は私の故郷などに興味がないのでしょう?」

 

「そんなことはないよ。君が生まれた故郷だもの」

 

「それではミカモン魔術公国について知ってらっしゃることを言ってみてくださいな」

 

「ええと…………」

 

「ほらご覧なさい。即答できないではないですか。

 これがラッシュフォード様だったら一時間くらいミカモン魔術公国について語れると思いますよ。たとえそこに好意や興味が全くなかったとしても。

 あの方は好きな(だった)相手や物のことなら徹底的に調べますからね。つまり貴方は、私のことなどに関心を持っていなかったということですよ。

 でもまあ仕方ないですよね。王太子に選ばれるためにはミカモン魔術公国の娘と婚約及び結婚しなければいけなかった。それだけで貴方はこの話を受けたんですもの」

 

 淡々とそう言う婚約者に王太子は瞠目した。確かに最初は王命で婚約した。

 しかし付き合っていくうちに段々と彼女を好きになっていった。そして彼女といるのが当たり前になり、今では彼女以外の女性との未来など想像もできないくらいだ。

 

 親元から離れて寂しいだろうと、できるだけ一緒にいたし、彼女が好きなものを調べて贈り物をしたり、食事や観劇に出かけもした。

 それなのに無神経なあの従兄弟より思いが足りないと言われてショックを受けた。

 確かにミカモン魔術公国について調べたことはなかった。距離的に遠い場所にはあったが、自国の一部という認識しかなかったから、態々調べようとも思わなかったのだ。

 

 しかし改めて彼女にそう言われて初めて思い至った。何故王太子になるための条件が自国の一部に過ぎないミカモン魔術公国の令嬢との結婚だったのか。

 しかも浮気は駄目、側室を持ってはならないなどの条件まで強いられて。完全に立場が逆転している。

 婚約者はいつも控えめで、上から目線で話すことがなかったから気付かなかったが。

 

 ラッシュフォードの性格を矯正するためにミカモン魔術公国に家庭教師を依頼したと聞く。

 確かにラッシュフォードは天才でこの国のためには必要な人間だった。だからといってその見返りに、ミカモン魔術公国の令嬢を王太子妃に態々迎え入れるか?

 

 ダムリンは今更ながらそのことに疑問に抱いた。知らされてはいないが、我が国にはそこまでしてもラッシュフォードを守らなければいけない理由があるというのか? 

 そしてあのレディア嬢には何か特別な能力があるとでもいうのか?

 

 しかしそれにしては、この数年のラッシュフォードのレディア嬢への対応は酷い。

 目にするとその都度ダムリンはフリシアとともに注意をしてきたのだが、彼は聞く耳を持たなかった。

 

 彼の親である国王夫妻や従兄弟の親であるアソート公爵夫妻もずっと注意をしてきた。それが、そう言えば両親が近頃、彼を自由にさせて見て見ぬ振りを決め込んでいる……

 そのことにもようやく思い至ったダムリンは何か途方も無い恐怖に襲われて身震いをした。それに……

 

「貴方も薄々感じているんじゃない? 卒業パーティーの話が出ても、私達の結婚式の準備の話が一向に話題に上らないことに。それに…」

 

「ああ。近頃やたら高位貴族の令嬢達が僕に近寄って来るな。

 僕と君の結婚は八年も前に決まっていて広く周知されているから、そちらの意味で近付いてくるご令嬢はいなかったというのに。

 しかし、一体これはどういうことなんだ? 父には何も聞かされてはいないぞ」

 

「おそらく陛下は直接には何もおっしゃってはいないでしょう。

 ただ裏事情を知っている一部の高位貴族の方々には、ラッシュフォード様の近頃の言動から何か思うところがあったのでしょう。目ざといですわね」

 

「これはラッシュフォード絡みということか? 

 ラッシュフォードのせいで君と僕の結婚がなくなるかもしれないというのか?」

 

 ダムリンは驚愕して声を荒げた。

 自分とフリシアの間に何かある時は必ずその原因はラッシュフォードが関係している。

 そもそも婚約するきっかけは彼だったのだから、そこだけは感謝している。

 しかしこうして未来の王太子と王太子妃として貴族社会だけでなく、広く市井にまで認知されるようになったのは、紛れもなく二人で努力してきたからだ。

 

 社交界にも積極的に参加したし、外交活動でも多くの来賓をもてなして高評価を受けてきた。頻繁に市井に出て庶民との触れ合いの機会も持ったし。

 

 二人でこの国をもっとよい国へ変えようといつもいつも話し合ってきたのだ。今更結婚を取りやめるなんて冗談じゃない。

 彼女以上の女性なんていないし、そもそもフリシアを愛しているのだから。


 読んで下さってありがとうございました!

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