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第14章


「フリシア様、このことをレディア様にはお伝えするのですか?」

 

 女性魔術師のベティスがこう尋ねると、フリシアは考えるように小首を傾げた。そして少し思案してからこう言った。

 

「もちろん話すわ。さっきのはなしは重要なことだから隠してはおけないもの。

 大体既にレディア自身が彼の心を読むのを止めてしまっているのだから、ラッシュフォード様のことはもう踏ん切りをつけているんじゃないの?

 もしそうでなくても、ラッシュフォード様のことはともかく、レディアはアソート公爵家との方々とはずいぶんと懇意にしているみたいだから、さっきの話は伝えておいた方がいいと思うのよね。

 だって、ラッシュフォード様を国外に婿入りさせて、その代わりにトリスタン様を婿入りさせるだなんて、アソート公爵家の乗っ取りじゃないの。

 しかもあんな出来の悪い不良債権を押し付けるなんて」

 

「ラッシュフォード様は本当にエメライン嬢にお心を移されてしまったのでしょうか? あれほどレディア様を思われていたのに」

 

 ベティスは困惑した表情を浮かべてこう言った。確かに学園に入学してからのラッシュフォードの言動には眉を顰めていたし、エメラインに対する親しげな態度にも不満はあったが、あのラッシュフォードが浮気をするとはとても信じられなかったのだ。

 

「ラッシュフォード様のお気持ちはわからないけど、あの子は彼からどんな酷い態度をとられてたり悪口を言われても、本心を読み取れていたから彼のことを愛せたし、信用していたわ。

 それなのにレディアが自分の意志で彼の心を読むのを止めたということは、裏切られたと感じたからなんじゃないの? 

 まあ、人の恋路に余計な口を挟むような真似はするつもりがないけれど。第三者が口を出すとろくなことにはならないというし。

 それに大体私も自分のことだけで精一杯なのよ」

 

「確かにそうでしたね。

 それにそもそもお嬢様方の恋話がどうなろうとも、この国を潰すことは我が国の決定事項で既に変更の余地はございませんけれどね。

 この数百年に渡る積年の恨みをようやく果たせるのかと思うと、血が湧き心躍る思いです」

 

 普段冷静沈着なベティスが次第に高揚していく顔を見ながら、フリシアは却ってクールダウンしてこう思った。

 

『本当に魔王が目覚めたら一体国王はどうするつもりなのかしら? 

 いくらご先祖様が封印できたからといって、子孫の我々もそれが可能だなんてどうして思えるのかしら。

 まあ、私が考えても仕方がないか。後始末はグリンバルド叔父上や長老方にお任せしましょう』

 

 結論が出ないとわかっていることを考えるのは時間の無駄だわ!とばかりにフリシアは思考することをサッサと諦めた。

 彼女は愛らしくておっとりしたお姫様のような容姿とは裏腹に、その中身はさっぱりした性格の持ち主だった。

 

「私はこれから、ダムリン様に今後私との関係をどうするつもりなのかを確認しに行くわ。

 だからあなたは引き続きエメライン様の動向を見張っていてね」

 

「承知しました、お嬢様」

 

 女性魔術師のベティスは恭しく頭を下げたのだった。

 

 ✽

 

 卒業パーティーに着る衣装の相談のために、王太子の婚約者であるフリシアが彼の執務室にやって来た。

 そして最初のうち王室御用達のデザイナーから多種多様なデザイン画の説明を受けていたが、一通り聞き終わった後で、婚約者のフリシアがこう質問をした。

 

「こちらのデザインが気に入りましたわ。でも、こちらをゴールドというよりレモンイエローの生地で作ってもらうことは可能かしら? ネイビーでアクセントを付けて」

 

「ええ、もちろんです。とても華やかで素敵だと思いますわ。

 殿下の衣装もネイビーの上着にレモンイエローのシャツになされば、バランスがよろしいと思いますし」

 

「えっ? 僕には少し派手ではないかな?」

 

「あら、殿下は無理に私に合わせることはありませんわ。だって、私がこの色にしたいのは、我がミカモン魔術公国を象徴する色だからですもの」

 

「まあ、そうなんですか?」

 

「ええ。卒業したらその半年後には結婚する予定ですので、そうしたらもう祖国の色を纏うこともできなくなるでしょう?

 ですから独身時代の思い出にこの色合いのドレスを身に着けたいのです」

 

「お気持ちお察しいたしますわ。幼い頃にこちらにいらしたのですから、ずっと寂しい思いをなさってこられたのでしょうね。さぞかし故郷が懐かしいことでしょう。

 フリシア様の故郷に対する思いが籠もった素晴らしいドレスを、精一杯作らせて頂きますわ」

 

「それじゃあ僕も……」

 

「殿下は無理をして私に合わせることはありませんわ。ご自分の髪と同じゴールドで作られたらいいのでは? 

 いえ、派手なのが嫌ならシンプルな黒でいいのではないですか? 無理に私に合わせる必要はございませんわ」

 

 フリシアはダムリンの言葉を遮るようにこう言った。あくまでゆっくりと穏やかな口調で。

 他の者達は気付かなかったが、八年近くいつも側にいたダムリンには、フリシアが怒っていることがすぐにわかった。

 

 フリシアはおおらかな性格で滅多に怒ることはない。彼女が機嫌を損ねるのは親友のレディアと故郷のミカモン魔術公国を蔑ろにされた時くらいである。

 

 少し派手ではないかと、ミカモン魔術公国を象徴する色を否定しかけたことを怒っているのだろうか。

 別にレモンイエローとネイビーの組み合わせが嫌だという意味ではなかった。彼女にはよく似合うと思った。ただ地味な自分には少し派手かと思っただけなのだ。

 もちろん彼女とお揃いが嫌だったわけでもない。少し照れくさいとは思ったが。

 でも、もし彼女が悪い意味に受け取ったとしたら……一テンポ遅れてそのことに思い至ったダムリンは冷や汗をかいた。

 

 彼女は滅多に怒らないが、一度怒らせるとなかなか許してはもらえないのだ。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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