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6.人形の服選びと彼の苦悩の仕方

 















「さぁっ! ルーカスさんっ? 私と今から一緒に、お人形さん遊びを始めましょうかっ?」

「今すぐそれをボイコットしたい、というか本気で元の牢屋に帰りたいなぁ、もう・・・・・・!!」








 ガートルードがいつものように無表情の真顔できらきらと、こちらを見つめてきている。




 そして今現在、俺は赤い薔薇柄絨毯の上で二の腕を組んで座っていた。




 彼女はおもむろにどんっと、目に強烈なマゼンタピンクの鞄を置いて、先程のおぞましいにも程がある発言をしてきたのだ。








「っあのなぁ、俺はもう二十九歳なんだぞ!? それに大体、お前だってお人形遊びするような年でも何でも───────・・・・・・・」

「ごめんなさい、ルーカスさん。このピクニックバスケットにとびっきり美味しい、さっくさくのガレットが入っていますから」











 その言葉にぴたりとルーカスが口を閉じる。


 ガートルードは無表情のままで「こいつ意外とちょろいな」と考えていた。






 ただ彼女は表情筋が動かないタイプの人間だったので、つんと澄ました無表情でピクニックバスケットを引き寄せ、ぱかりとその蓋を開けた。




 そして中から苺柄のペーパーに包まれた、卵色のガレットを取り出してぺいっと、ルーカスの前へ放り投げる。






 慌てたルーカスがそれを受け止めて、間抜けなポーズになりつつもけたたましく怒り始めた。






「っおいおいおいおい!? 一体どうしてそう、お前はことあるごとに何でも投げて済まそうとするんだよ!? 危ないだろうがよ、俺のガレットがさぁ!?」

「いつの間にか。ルーカスさんのガレットになっていて笑えますねぇ~・・・・・・何かこれぞ、詐欺師の餌付けに成功した! ぱんぱかぱーん! みたいな」

「おい、お前、俺のことを馬鹿にしているのか・・・・・・・?」

「していません。でもおちょくってならいますよ、ルーカスさん?」








 その言葉にルーカスは苛立って眉を顰める。







(・・・・・・いや、でも、ちょっと待てよ?)







 彼女にしては珍しい敵意の向け方だと、何となくそう思った。



 いつものカーキ色の軍服を着ているガートルードは無表情だが、しかし。







(いつもはもっとこう。あの宝石みたいに可愛い瞳だって煌いていて・・・・・・・・いやいやいや、気の迷い、気の迷い、そうじゃなくってだなぁ、俺!)







 いつもの明るく澄んだ海の宝石のような瞳が、じっとりとしていてこちらを睨みつけているような気がする。







(いや、お人形さん遊びをしようと。そう言っている間は少なくともご機嫌だった。つまりこの俺が美味しそうなガレットにつられて、彼女とお人形さん遊びをしようと言い出した時から機嫌が悪い)







 人の仕草や表情を読んで、相手の望み通りに動いて人を喜ばせるのが好きだった。




 そして最も好きなことはそれらの技を駆使して、相手の女性をとことん惚れさせて尽くさせて、金品を巻き上げて酒と遊びに使ってしまうことだった。




 そうやって馬鹿で孤独な女を騙すのが楽しくて、こうなってしまった訳だが。






「ガートルード? 君は一体、何が気に食わなかったんだろう? そんなに俺がこの、君が持ってきてくれたガレットに喜んで飛びついたのが嫌だったのか?」






 そんな言葉を受けてガートルードが驚いている。






「よく分かりましたね、ルーカスさん。・・・・・・大抵の人は、気が付いてくれないのに」

「こんなのはお手の物だよ、お嬢さん? いくら鈍い俺であったとしても、これだけの時間を可愛い君と一緒に過ごしていたら気が付くものさ。なぁ?」







 楽しいと素直にそう思った。







(ああ、楽しいなぁ・・・・・・やっぱりこいつも、この辺りは他の女と変わらないのかぁ)






 ほんの僅かな失望と普段の自分に戻れた喜びと。







(やっぱりいいな、こういうことは。さて。これまで散々彼女に振り回されてきたものの、そんな時間も終わりにしよう。早いところガートルードを口説いて、元の、いや、どうせならシャバに出てやるかぁ)







 そう考えると幸運だという気がしてきた。



 彼女の馬鹿な父親が俺のことを浚ってきて、この馬鹿げた牢屋に閉じ込めたのも。




 そしてこの俺を、可愛い年頃の娘と二人っきりにさせていることも。







(ここから出るためならば。お人形さん遊びでも何でもしてやろうじゃないか)






 胡散臭い笑顔を浮かべたまま考え込んでいると、おもむろにガートルードがすっくと立ち上がってこちらを見下ろしてきて、一体なんだなんだと困惑してしまう。





 早くも自分のペースが乱されてしまうような気がして、焦りつつ後退った。







「おっ、おいおいおい? いっ、いいいいったい、お前はどうしたんだよ!?」

「あら、大丈夫ですよ? そんなに怖がらなくっても」







 ガートルードが俺のことをじっと、静かに見下ろしている。




 その青く澄んだ瞳を見つめていると何だかどうしようもなく、自分が馬鹿な冒険者のように思えてきて更に後退る。





(俺はもしかして今、とんでもないことを、企んではいやしないか・・・・・・・・?)







 彼女を口説いて自分の意のままに操るだなんて、それは頭で思うほど簡単なことではないのかもしれない─────────・・・・・・・・・。
























「・・・・・・おい、ガートルード?」

「どうかしましたか、ルーカスさん?」

「いや、どうかしましたか? じゃなくってお前は一体、どうしてこんなことを・・・・・・・?」





 彼女は今現在、俺の膝に座っていた。




 そしてご機嫌に鼻をふすふすと鳴らしながらも、可愛らしいララちゃん人形に青と白いチュールレースの派手なドレスを着せていた。








「うーん? 中々、上手く着せられませんねぇ・・・・・・?」

「ちょっと待て待て待て? お前はその人形を絞首刑にでもするつもりなのかよ!?」

「いや、だって。何だかちっとも上手くいかないし?」

「あーっ、もうっ、ほらっ? いいからもう、俺に貸してみろよ?」







 彼女の銀髪頭に自分の顎を乗せて、持っていた人形とドレスをひったくる。







「どうしてこうなったんだよ、お前は? この人形の骨という骨をボキボキに折って、絞首刑にでもするつもりだったのかよ? なぁ?」

「ごめんなさい、ルーカスさん。私実は、お人形さん遊びをしたことがなくってですね・・・・・・」

「・・・・・・そうだったのか? それはまた、一体どうしてなんだ?」






 手早くララちゃん人形にチュールドレスを着せてやると、彼女の両手に人形を押し付けてやった。



 そして彼女がそれをきゅっと、両手で握り締める。







(か、かわ・・・・・・・!! いやいやいや。頭がおかしいだろうに、たかだかこんな仕草ごときで)







 少々動揺しながらも彼女の返答を待つ。彼女はあまり、はきはきと答えるのが得意ではない。







「・・・・・・仲間外れに、されてしまって」

「それは」








 ぽつりと真っ白な雪原に、一輪の紅い花が落ちるように。彼女が静謐な声で呟いた。




 それからまた、あの不器用な父親にそっくりの平淡な口調で話し始める。







「私が悪いんですけど。他の子みたいに笑えなくって。・・・・・・上手く」







 それは本当にそう思っているかのような口調だった。








「上手く遊ぼうよって言えなかったんですよ、ルーカスさん。私の母も、私と遊んでくれるような人ではありませんでした」







 ああ、嫌だ。






(ああ、本当に嫌だなぁ・・・・・・こいつを見ていると、まるで)







 遠い昔に淋しくて泣いていた自分が、ふとその姿を現してしまうかのようで。



 そしてこの少女を大事に慈しんでやりたいだとか、そんな耐え難い感情に襲われてしまうのだ、この自分は。







(ああ、嫌だ。本当に嫌だ。でも、それでも俺は)








 それでも今俺は、この彼女を猛烈に強く強く抱き締めてやりたいのだ。



 それは本当にどうしようもなくて、愛しいだとかそんな馬鹿げた感情に支配されてしまって。







「ルーカスさん? あの? ・・・・・・ひょっとして私の事を、そのっ、慰めてくれるんですか?」









 その動揺した声を聞いて何だか無性に腹が立ってきた。



 まるで自分が他人に優しくして貰えなくて当然の人間なのだと、彼女がそう思い込んでいるような気がして涙が浮かびそうになる。




 自分の感情がおもむくままに強く強く、彼女を抱き締めていた。







「いいだろ、別に。・・・・・・今からでも、俺と遊べば」

「いい、んですかね? この年にもなって?」






 その言葉にふっと、笑みを浮かんだ。







「ばーか。何がこの年にもなってだよ? まだたったの十九歳のくせに!」

「えっ? えっ? でっ、でもっ、私はもう十九歳なんですよ!? こんなことはもう、しないほうがいいに決まって、」

「いいから、そういうのは。いくつになっても取り返せばいいだろう? ・・・・・・こういうことはさ?」






 ガートルードが持っていた人形に手を添えて、優しく言い聞かせてやる。


 彼女の心にちゃんと届くように。






「今までしたくても、出来なかったことは。今すればいい。何度だってそう、取り返せば済む話じゃないか。なぁ?」







 膝の上のガートルードがこくりと静かに頷く。



 彼女は本当に純粋無垢で素直な人間だ。ただほんの少し、不器用で変わっているだけで。






「そっ、それじゃあ、私。ルーカスさんと一緒に美味しいお菓子を食べて、たっ、沢山、お人形さん遊びをしまふ・・・・・・!!」

「ちょっ、ちょっと待て。何でお前、泣きそうになってんの!?」







 何かまずいことを言ってしまったのかと思って、少々焦ってしまう。



 それなのに膝の上のガートルードはこちらを振り返って、ふんにゃりと幸福そうな微笑みを浮かべる。






「いいえ? とっても嬉しかったんですよ、ルーカスさん! どうもありがとうございますっ」







 その言葉にそっと、両目を閉じた。



 閉じて後ろから抱き締めて、彼女の肩に顔を埋めてふるふると震えてしまう。





(どっ、どうしよう? 物凄く可愛い・・・・・・・・・!!)







「るっ、ルーカスさんっ? あのっ、一体どうしましたかっ?」

「いや、もう、別に、何でもないから・・・・・・俺は別にちゃんと正気だから!!」

「は、はぁ・・・・・・何だかよく分かりませんけど、私と一緒に遊びませんか?」


























 そんな訳で、ガートルードはルーカスと一緒にお人形さん遊びをすることになった。






「おっ、おおっ!? 凄いな!? 今の人形ってくっそ生意気なことに、ルームウェアまで持っているのか・・・・・・!!」

「ルームウェアだけじゃなくって、ちゃんとブレザーとかもありますよ? ほら?」

「おっ、おおっ、すっげえ、眼鏡と教科書まで付いてるんだ・・・・・・へー。あっ、白い靴下まである! 生意気だ、生意気だぞ、こいつら! しかもちゃんとローファー付きだし!」






 向かいのルーカスがやたらとはしゃいだ様子で、人形に白いシャツと紺色のブレザーを着せては非常に楽しく遊んでいた。







(ううん。やっぱりあれじゃないの、ルーカスさんだって、お人形さん遊びがしたかったんじゃないの)






 彼も彼で、何かと複雑な家庭環境だったのだろうし。



 きっと今こうして私と一緒に遊んでやるという大義名分を得て喜び、心ゆくまで楽しんでいるのだろう。







(うーん。何て、可哀想なルーカスさんなのかしら・・・・・・・!!)







 ここは繊細で気弱で病弱で情緒不安定で神経質で胃が弱くって敏感肌で、お人形さん遊びがしたいと素直に言い出せない、恥ずかしがり屋さんなルーカスさんを癒してあげなくては!





 目元の涙を拭い取って、彼に告げてみる。







「大丈夫ですよ、ルーカスさんっ! 貴方のご飯はこの私がっ、きちんと運んできてあげますからね!?」

「えっ? あっ、ああ? まぁ、俺としてもここで餓死したくはないから、それは物凄く助かるんだけど・・・・・・?」







 やっぱり彼にはガートルードの保護が必要なのだ。





(可哀想なルーカスさんっ! でも大丈夫ですよっ、この私がきちんと、貴方の面倒を一生見てあげますからねっ)







 一方のルーカスは嫌な予感に背筋を震わせていた。







(一体、何なんだよ!? さっきから俺のことを、何故そんな、慈しみ深い聖母のような瞳で見つめてくるんだよ!?)







 どうせ彼女のことだからきっとまた、非常に下らないことを考えているに違いない。





 そしてふと気が付くと自分は、このララちゃん人形に白いシャツと紺色のブレザーを着せて楽しんでいた。






「俺はもう、駄目だ。・・・・・・・・すっかりお前に毒されてしまったんだぁっ!!」








 わぁっと、ルーカスが人形を握り締めたまま蹲ってしまう。






「どっ、どうかしましたかっ、ルーカスさんっ!? またっ、いつもの発作でしょうか!?」

「いつもの発作って、一体何なんだよ!? 言っておくが俺の情緒不安定の原因はお前だからなっ!?」






 自分のか弱い王子様を助けてやらなくてはと焦ったガートルードは、ルーカスに駆け寄って震える背中を擦ってやる。







「大丈夫ですよ、ルーカスさん? そう心配しなくっても貴方はずっと、ずぅっと、この牢屋で私と一緒にお人形さん遊びを、」

「っいやいやいやいや!! ちょっと待って、ちょっと待って! 怖いって!! いきなりそんな、頭のイカれた女みたいなことを言い出すのはやめてくれよ!?」









 ふむ、ここはどうやら追加でガレットを分け与えなくてはならないようだ。



 彼も彼で中々に世話が焼ける男性である。



 しかし面倒なので手を翻して、魔術で先程のガレットを出現させる。









「ほーら、ルーカスさーん? 美味しいガレットですよー? だから一旦落ち着きましょうねー?」

「っぐ、非常に解せん!! どうして俺はお前の手にかかってしまうと、こうもまた、情緒不安定な人間になってしまうんだろうなぁ~・・・・・・はーあ」





 彼の口元へ運んでやると大人しく噛み砕いて、もそもそと不貞腐れたような表情で食べ始める。



 このガレットは口に入れたら香ばしいアーモンドとバターの生地がほろりと崩れ落ちて、優しい甘さがじんわりと広がってゆくのだ。




 情緒不安定だった彼もそれを食べて落ち着いたのか、飲み込んでぼそりと呟く。





「何で俺は。二十九歳にもなってこんな所で一体、何をしているんだろうなぁ~」

「可哀想に、ルーカスさん? でも大丈夫ですよ!!」

「っいやいやいやいや、元はと言えば、お前のせいだからな!? いいや、最初から最後までお前のせいだからな!?」

「ルーカスさんって本当に、情緒不安定な人ですよねぇ・・・・・・・」

「誰のせいだと思っているんだ、誰のせいだと」

「ルーカスさんのせい?」

「おい、何でだよ・・・・・・・・」












 俺は全てを諦めて、いっそのこと楽しむことにした。






「なぁ、お前? この人形の、靴のもう片方を知らないか?」

「うーん、どこだっけ? あっ、あったあった。はい、これ。どうぞ」

「ありがとう・・・・・・」





 それでもやはり、現実は耐え難いもので。





(俺は本当に一体、何をしているんだろうなぁ・・・・・・・!!)





 ひたすら人形にピンク色のパンプスを履かせつつ、自分の不運さを呪っていた。




 ちなみに今の俺はララちゃん人形に、淡いピンクのフリルブラウスとデニムを着せて麦わら帽子を被せ、黒いサングラスも付けていた。





 そんな俺の向かいに座って両手を何とか動かして、白いニットワンピースを着せているガートルードが口を開く。







「うーん、やっぱり。私のララちゃん人形の方が、ルーカスさんのよりもお洒落で可愛いですよね・・・・・・?」

「お前。もしかして俺に喧嘩でも売っているのか? なぁ?」





 彼女は不満そうにくちびるを尖らせる。





「いや、だって。どこからどう見てもルーカスさんのそいつって。いかにも頭が軽そうな、そんな都会の女子だもん・・・・・パンケーキとかに飛び付いていそうな」

「お前は都会の女子に一体、何の恨みを持っているんだよ? それにだ。お前のその、ララちゃん人形だって平気でマカロンが好きです! とか言いそうな、アホ臭い服装の女じゃないか・・・・・・・」

「なっ、なんですか!? 今のそのっ、悪意のある高い裏声は!?」






 思いっきり馬鹿にした甘い声で笑ってやると、彼女がこちらを睨みつけてきたので苛立ってしまう。





「お前だって俺のララちゃん人形を馬鹿にしたじゃないか?」

「えーっ!? だってほらぁっ! 可愛いでしょう!? この、白いニットワンピースに紺色のベレー帽を被ってくれたララちゃん人形がっ」

「正確に言うとそれは、お前が着せたやつな? でもだっさい。いかにもふわふわな女子で、すっごくだっさい!!」

「なっ、なにおう!? いいもーんだっ、それならそれで、ルーカスさんの都会系女子よりも素晴らしく可愛い服を着せてみるんだから・・・・・・・!!」





 ぷぅっと、ガートルードが怒ったように白い頬を膨らませる。




 そして目にものを見せてやると言わんばかりに、ざかざかと周囲の服と靴を漁り始めた。


 それを見て負けじと俺も周囲を漁り始める。







「無理無理無理、お前みたいなセンスゼロの人間には絶対に無理だからっ」

「むっきゃああああ!! ルーカスさんの馬鹿っ、ハゲてしまえっ!!」

「ハゲませーんっ、俺の毛根は豊かで、今もこれからもふっさふっさですぅー!」

「ぐむむむむむ!! ぎゃふんと言わせてやる、絶対にぎゃふんと言わせてやる・・・・・・・!!」







 ガートルードは強く歯軋りをして血眼になって、どこかに素敵な服と靴はないかと年老いた魔女のように探し始める。





 そして俺もこの生意気な少女の鼻っ柱を叩き折ってやろうと思って、彼女の周囲からわざと素敵な靴や服を奪いつつ、熱心に探し回っていた。







「ほらっ、これでどうだっ!?」

「ださいっ!! ぜんっぜん私の好みなんかじゃないっ!!」

「お前っ、さっきからそれしか言わねーじゃねーか!! くそがっ、見ていろよっ!? 絶対に吠え面をかかせてやるからな!?」

「あっかんべー! ルーカスさんみたいなおじさんには絶対に負けたりなんかしないもーんっ」

「誰がおじさんなんだよ!? 俺はまだぎりぎりかろうじて、二十代の二十九歳で・・・・・・・」






 そこではっと、自分の年齢に気が付いてしまった。



 そして俺の手元には、可愛い小花柄のワンピースを着たララちゃん人形があって。




 思わずそれを放り投げて、ばっと両手で顔を覆ってしまった。






「もうっ、もう俺は手遅れなんだぁ!! っどうして、一体どうしてこんな年にもなって、俺はこんな不気味な無表情の十九歳の女の子と、こんな、こんな、お姫様部屋の牢屋なんかで遊んでいるだろうか・・・・・・!!」

「不気味な無表情とは、これまた失礼な・・・・・・・」






 ガートルードがむぅっとくちびるを尖らせる。


 一瞬だけ可愛いと思ってしまったが、何とかその感情を打ち消した。






「それにルーカスさん。私を見つめて可愛いって、そう呟いているのに?」

「っええっ!? 俺は一体、いつの間にそんなことを!?」

「ええっ? いや、それはぼそっと、可愛いなぁって、そう呟いて・・・・・・・」






 そんな驚きのことを耳にして、頭を抱えてしまう。






「まっ、まさか! そんなっ、この俺が!? お前のことをっ!?」

「えっ? 無意識だったんですか、あれって?」

「うっ、うわあああああっ! 頼むからもうっ、それ以上は何も言わないでくれよ!? 頼むからさぁ、も~・・・・・!!」





 そこで何もかも全てに耐え切れなくなって、ごろりんと寝転がった。





「もう駄目だ、もう駄目なんだ、俺は・・・・・・!! もうこのままずっと、お前に洗脳されて骨抜きにされて、飼い慣らされていくしかないんだ、俺は!!」

「一体何の話でしょうか? ルーカスさん? そんなことはどうでもいいから早く、お人形さん遊びをしましょうよー?」

「もう頼む。もう頼むからこの俺を、どうか少しだけ、そっとしておいてくれないか・・・・・・?」






 ゆさゆさゆさと、彼女が激しく揺さぶってくる。どうやらそっとしておくつもりは微塵も無いらしい。



 それでもやっぱり、彼女と俺の美味しい牢屋生活は始まったばかりである。














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