28.いつかは好きだって言おう、そうしよう
「何とまぁ。酷い有様だな? 俺の娘がすまなかった、ルーカス君。まぁ、だけど俺としては気分がすっきりとしたな、少しだけ」
「少しだけなんですか・・・・・・? いててっ、もうちょい治して貰えませんか?」
「駄目だ、自然治癒力を妨げる。本来人間というものはあまり、魔術に頼るべきではないんだ。あとは自力で治せ、いいな?」
アレクサンダーの言葉に頷いた、ここはいつもの牢屋だった。
「ガードルードは・・・・・・今はどこに? 今日は来ないんですかね?」
「ああ。今日はやたらと眠いらしい。今頃はジゼルが毛布をかけている頃だろう、そして君と結婚をしたら気が済んだらしい。明日は部屋の家具を見に行くのだと言っていた。・・・・・・君と一緒にな?」
涼しげなダークブルーの瞳に怯んで、寝台の上に座ってぽりぽりと首筋を掻く。
「あの、俺は。この隷属の首輪もかけられたし・・・・・・浮気なんて一生しません、そして彼女のことも。実はその、ちゃんと愛しています」
「見れば分かる、それぐらい。何故かあの子はよく分かっていないようだが。しきりに嫌われてしまったと、そう言って泣いていた。昨夜は」
「あんだけ散々拷問しといて!? 訳が分からん!!」
思わず頭を抱えてしまった。
そんな風に怖がるのなら、最初から拷問なんてしなきゃ良かったのに。
「俺にも訳が分からん。あの子は何かと、変わっているからな・・・・・・・」
「ブーメラン」
「何か言ったか? 義理の息子よ」
「何でもありませんよ、お義父さん・・・・・・でも」
あれから俺は婚姻届を書いて、彼女が役所に提出したらしい。
魔術の影響が残っているのか頭がぼんやりとする、上手く考え事が出来ない。
「ああ、ほら? まだ寝ておけ。やはりハーヴェイさんに頼むべきでは無かったかもしれんなぁ~」
「その。ハーヴェイさんってのは一体誰なんですか・・・・・・?」
「頭がおかしい魔術師だ、ほら。寝転んでおけ、もう」
何故か黒いローブを纏ったアレクサンダーに促されて、その白い手を借りて寝そべった。
まだ体のあちこちが痛い、でも彼女に会いたい。
「俺、本当に呪われたんですかね? 自覚も実感も湧かない、首輪だってどこにも見当たらないし」
「そういう仕様になっているからな。疑うのならまたいつか女でも口説いてみるといい。舌が固まって何も言えなくなるだろうが」
「いや・・・・・・もう。ガードルード以外の女に興味は無いんですよ。まぁ、暫くの間。そんなことは言ってやりませんけど」
柔らかな枕に頭を乗せたままそう呟くと、アレクサンダーがその瞳を瞠っている。
「意外だな、怒っているのか?」
「拷問されて喜ぶ人間がいますか?」
「しかし娘の話だとその。君はかなり特殊な性癖を持っていて、」
「あいつ・・・・・・!! 凄まじい勘違いをしているな、まったくもう!」
両手で額を押さえて呻いてしまった。別に俺はドマゾの変態という訳じゃない。
(ただあの時の。ガードルードの微笑みが恐ろしく美しかっただけで)
不気味に輝く満月を背負った彼女は美しかった、あの光景が強烈に焼きついている。
「あの。すみませんでした。こんなことになってしまって」
「いや、いい。もう。どうせあの子の我が儘は今に始まったことじゃないしなぁ・・・・・・そして君も酷い目に遭ったことだし。妻の件も含めて許してやろう、仕方が無い」
アレクサンダーが深い溜め息を吐いて、こちらの腹をぽんぽんと叩いてくる。この人もこの人で今いち訳が分からん。
「ここを出てその。住む場所ってのは・・・・・・?」
「俺達の家だ。部屋も余っていることだし。ウィリアムもいることだし」
「あーっ・・・・・・・最悪ですよ、それってもう。俺、あいつにちくちくと嫌味を言われるんだろうなぁ、はーあ」
明日からこの人と一緒に暮らすのかと思えば気が滅入った、でも。
「俺。ガードルードと一緒に暮らすのが楽しみです。あと職は・・・・・・・?」
「働くな、今はまだ。身重のガードルードに何かあったら一体どうする? 常に傍にいて支えろ、あとあの子は赤子の世話なんて出来ないだろうからな? 悲惨な事故ばかりを招くだろう、君が育てろ。それが当面の仕事だ、生活費は俺が全て出す」
「っぐ、申し訳ない・・・・・・・!!」
「お小遣いはガードルードと同額をあげよう、それでいいか?」
「大金の予感しかしませんけど。まぁ、有難く受け取っておきます。ありがとうございます」
生活費とはまだ別なのかと考えつつ、目蓋が重たくなってきて両目を閉じる。
少しだけ熱が出ているのか重たくてだるい、徐々に意識が揺らいでいった。
「俺、楽しみです。でも彼女に怒ってもいるので。俺が好きだってことを伝えないようにして下さいよ、お義父さん? よろしくお願いします」
「ああ、分かった。じゃあそうしよう、おやすみ。ルーカス君、また明日」
「ああ、そうか。また明日・・・・・・・」
がちゃんと牢屋の鉄格子が閉まって、一人で笑っていた。
「ああ、良かった。俺、ずっとガードルードの傍にいられる。明日は家具選びか~、何か買ってやりたいけど。まぁいっか、とりあえず。この先もまだまだ時間はあるんだろうし」
彼女の傍にいられる、でも「愛してるよ」とは言わないでおこう。そうしよう。
「ガードルード、多分これが俺の復讐で愛情だよ。お前が何も信じてくれなかったから。・・・・・・俺を散々殴りつけて拷問したから」
ユージーンにも会って愚痴ろう、ウィリアムには何て言おうかな。
「ひとまず眠ろう、そうしよう。あー、でも。ほっとした、良かった。殺されずに済んで!!」
そしてガードルードの夫として生きていく。
ふと左手の薬指に嵌めた金色の指輪を眺めて、彼女が必死に考えて再現した香りを嗅ぐ。
「ガードルード、好きだよ。でも言わない、言わないでおこう。そうしよう・・・・・・・」
信じて貰えないのなら言わないでおこう、結婚指輪だって買ってやらない。そんな金も無いだろうし。
腕を伸ばして枕を抱きかかえて眠りに落ちた、古い本の香りとマーマレードのような香りが漂っていた。
俺の復讐はその後、何年間も続いた。いや、続いてしまったと言うべきか。
「えっ!? ・・・・・・えっ!? 双子ですか!? 女の子の!?」
「わ~、凄い! お得感がある! 一つの子宮で二人も産める! やったぁ~!」
「お前な!? もうちょっと考えてから発言しなさい、先生が驚いているだろうが!」
「あだっ!? 妊婦の頭を叩かないでください、ルーカスさんっ!」
病院の帰り道で、嬉しくて嬉しくて泣き出しそうな気持ちでエコー写真を見つめていた。
女の子が産まれる、それも二人同時に。
「わっ、わ~。双子かぁ! お前と同じ銀髪だといいんだけどな~、絶対に可愛いだろうなぁ~」
「それは絶対に嫌だ! 茶色が一番好きな色だから茶色がいい、ルーカスさんにそっくりな女の子がいい!」
「ええ~? つまんないだろ、茶色なんて」
手を繋いで歩いていると、ガードルードが不満げにくちびるを尖らせていた。
それを見て「可愛い」と言いそうになって飲み込んでいた、まだだ。
まだ好きとも可愛いとも言いたくない、復讐も兼ねてだけどまだ認めたくはなかった。
俺が彼女を好きになってしまって、隷属の首輪を少しだけ嬉しく思っているのを認めたくなかった。
自分で自分のことが信じられない、俺はそんなドマゾの変態ではない。
「いいもん、別に。気合いで茶髪茶目の女の子を産むから! 双子のっ!」
「それ、気合いで何とかなるもんなの・・・・・・? まぁ、お前ならしそうだけどなぁ~」
「ねぇ、ルーカスさん? その」
「ん? どうしたんだ、ガードルードちゃん?」
彼女が淋しそうに見上げてくる、俺の黒いシャツの袖を引っ張って。
そんな彼女は柔らかなクリーム色のシャツワンピースを着ていた、長い銀髪が陽に煌いていて今日も可愛い。
「何でもない・・・・・・その。私のことを好きになったら。教えてくれる?」
「ああ、まぁ。ならないだろうけどな? 教えてやるよ、その時は」
「っう、ルーカスさんの意地悪。いいもん別に。いいもん・・・・・・・」
そのあまりにも落ち込んだ様子に胸が痛くなって、苦しく締め付けられて「好きだよ」と言いたくなってしまった。
でも、頭を撫でるだけにしておく。
「ルーカスさん?」
「まぁ、そ、その。恋愛感情じゃないけど。あー、妹的な可愛い存在として。たっぷり甘やかしてやるから。なっ?」
「むぁ~・・・・・・ちょっと不満。悲しい~」
「ちょっとなのかよ・・・・・・・? まぁ、いいだろ? 別にそれで。自業自得だ、お前の」
「っふ、うう。分かりました、我慢しまっふ・・・・・・・」
思ったよりも悲しまないし落ち込まないのだと知って焦った、やっぱり俺だけが彼女のことを好きなのかもしれない。
(ああ、まぁ。オモチャ的な意味合いの好きかもしれないし・・・・・・やっぱり告白するのはやめておこう、そうしよう)
ガードルードが「結婚式をしたい! ねぇ、いいでしょう!?」と言い出した時も冷たく断った。
流石に彼女の両親に出して貰うのは気が引けるし、するのならちゃんと金を貯めてプロポーズしてからがいい。そんなのいつになるか分からないけど。
でも彼女は全く違うことを考えていて、真夜中の寝室で淋しそうに俯いていた。
「ごめんなさい、私。やっぱりあの時かっとなって、ハンマーで殴ったりナイフで切るんじゃなかった・・・・・・・!! 拷問するんじゃなかった!!」
「あのな? ついかっとなってやったとかいうレベルじゃないからな!? それって! あー、それに結婚式は。いつかウィアムとでもしろよ、その時は出席してやるから。なっ?」
「っう、うう~・・・・・・・」
「あ~、もうっ! 泣くなって、ほら? 自業自得だろう? お前の!」
ぐずぐずと泣き出した彼女の涙を拭い取ってやって、ほくそ笑みながら抱き締める。
(あーあ、いい気味だ。でもこいつは俺と違って浮気出来るからな・・・・・・まだ。まだだ。まだ言うのはやめておこう、そうしよう)
でも彼女のウェディングドレス姿は見たいからこつこつと貯金していこう、そうしよう。
(そしていつかはちゃんとした指輪も買ってやって。好きだと告白して結婚式を挙げよう、あー。楽しみだなぁ。その時が)
怖かった、彼女に飽きられて捨てられるのが。
(だから好きだとは言わない。まだだ、まだだよ。ガードルード。まだだ。まだその時じゃない)
彼女の目論見どおり茶目茶髪の女の子が産まれて、年甲斐もなく泣いて泣いて赤子を抱えていた。
「うっ、可愛い! は~、良かった。死ななくて!! ありがとう、ガードルード。よく頑張ったな!!」
「ねぇ、ルーカスさん?」
「ん? 何だ? 寝てろ、お前。死んだらどうするんだ!?」
「大袈裟ね~、じゃなくって!」
くたくたに疲れきった彼女が俺の袖を引いて、苦しそうな青い瞳で見上げてくる。
「私のこと。好き? ルーカスさん」
「子供のことは愛してるけどな? 俺のことを拷問したりしないから」
「む~・・・・・いけるかと思ったのに。無理だったか」
ガードルードのあっさりとした呟きに怯えていた、もしかしたら俺はあまり好かれていないのかもしれない。
「名前。・・・・・・・・名前、どうする? お前が決めるか?」
「メロンとチェリーにする!!」
「却下だ!! 俺が決める! よし、そうしよう! 出生届も俺が書こう、今そう決めた!!」
「えーっ!? なんでぇーっ!? なんでぇーっ!?」
「寝てろ、お前は! ゆっくりと! 出産直後に暴れるんじゃない!」
産まれた二人の娘には「アリス」と「アリサ」と名付けて、義理の両親とガードルードから何故その名前にしたのかと聞かれる。
「俺の周りにもいない名前だな、それは」
「いや、そういうことを意識して名前を付けた訳じゃないんで・・・・・・・」
「ねぇ? 過去の女だったりしない? ねぇ?」
「あのな? ガードルードちゃん? 過去の女の名前なんてろくに思い出せやしないし、実の娘にそんな名前は付けないからな!?」
「あら、じゃあ」
おっとりと微笑んだ義母のジゼルが口を開く、どうにもこの人は苦手だ。
柔らかい雰囲気なのに当たりが強い。まぁ、当然かもしれないが。
「どうしてその名前にしたの? まさか何も考えずに付けただなんて。そういう訳じゃないでしょう? ねっ?」
「あっ、はい。勿論です、お義母さん・・・・・・でも内緒です、娘達が成長したら打ち明けます」
「えーっ!? ルーカスさんのけちーっ! 絶対ろくでもない考えからでしょう!? そうでしょう!?」
「何でだよ!? 絶対に違うし!! あっ、俺。オムツ替えてこなきゃ! そんじゃっ!」
「あっ、逃げたーっ! ずるーいっ!」
ばぶばぶの可愛い二人の娘を見つめて、へらりとだらしなく笑う。
爪も指も小さい、まんまるな茶色い瞳がガードルードそっくりで本当に可愛い。
「あー、可愛い。言える訳が無いだろう? そんなこと・・・・・・絵本に出てきた銀髪のお姫様が。アリサだったから付けただなんて。そんな」
絵本のお姫様は双子じゃなかったから渋々と、もう一人の娘には「アリス」と名付けたのだ。
彼女は俺にとってお姫様だったから、手の届かない湖のお城に住むお姫様だったから。
銀髪に青い瞳のお姫様、こよなく愛しているけどまだそのことは言ってやらない。言わない。
「あ~、可愛い。今ならお義父さんの気持ちも分かる、嫁にやりたくねぇなぁ~」
「あはは、もうすっかり。親馬鹿のルーカス君だ~」
「おい、ユージーン!? 抱っこをするのなら手を洗ってこい、お前は! 俺の娘が汚れる!!」
「え~? 泥遊びなんかしてないんだけどなぁ~、ちぇっ」
ユージーンは度々遊びに来た、遊びに来てガードルードの愚痴を聞いている。
「それでね? ルーカスさんがまだ私のことを好きって言ってくれないの。ああ、ほら。アリサ? 零すからそれは。はい」
「ん~、捨てちゃえば? もう。ルーカス君と子供達は俺が引き取るよ、お金もあるし引き取って育てるよ? 君の代わりに!」
「叩き出すわよ、ユージーン?」
「おい、お前ら・・・・・・飽きずによくそんな話が出来るなぁ、もう」
二人にお茶とお菓子を出してやって、一歳になったアリスを抱きかかえる。
この頃になると本当にガードルードそっくりに成長していて「他の男と結婚するって言ったらどうしよう? 泣ける、つらい」とぼやいて酒を飲むのが習慣となっていた。
ずっとずっと俺だけのお姫様でいてくれたらいいのに、娘も彼女も。
(でも。隣国との戦争もとうとう始まったからな~。・・・・・・何かある前に。告白しておこうか? でもなぁ)
国力の差は明らかで誰もが自国の勝利を信じているが、どうだろう?
エオストール王国はルートルード王国に勝てるんだろうかと不安に思ってしまう。
そう考え込んでいると、ユージーンが不思議なオレンジ色の瞳を細めて笑う。
何故かこいつに娘二人が懐いていて嫌な予感しかしない。絶対に嫁にはやらないからなと釘を刺している最中だ。
「好きって言わないの? ルーカス君。まだ?」
「いやぁ~、別に。好きじゃないから俺。ガードルードのこと」
「私もアリスとアリサみたいに泣いちゃおうっかな~、どうしようっかな~?」
「やめろよ、も~。いいだろ? 別に。夫婦としてやることはやってんだからさ~」
「うわ、惚気だ。惚気~」
「帰れ、お前はそろそろ。三日おきに来るんじゃない、迷惑だ!!」
「え~? そんなぁ~」
社会情勢が不安定の中、育児をしながらアレクサンダーに魔術を教わる。
聞くところによると魔術トラブル対応総合センターの「魔術犯罪防止課」の部署にて、元受刑者を雇う取り組みがなされているらしく、そこへの就職を目指して必死に勉強していた。
記憶の改ざんは重大な魔術犯罪に当たるので、根が真面目なアレクサンダーは刑務所の記録と刑務官達の記憶を元通りにしたのである。
「わっけ分からん!! お前、ガードルードな!? 本当にここからここの術語を覚えているのよ!? 全部!?」
「ふふふふ~、覚えてるも~ん。そんな魔術なら一瞬で発動できるよ? ほら」
「えーっ!? 今の何個使った? 術語」
「んー、五個ぐらい? 一個唱えたら次に行くといいよ、それで同時に炎と氷が出せるから。ねっ?」
「無理。絶対に無理だよ、そんなもん。天才と一緒にするなよ、も~」
「私、天才? 天才!?」
「はいはい、天才天才。はー、心が折れそう。つらっ!」
そこでガードルードがふっと微笑んで、俺の頬に優しくキスをしてくれる。
驚いて見つめるとまた、あの言葉を口にした。
「ねぇ? ルーカスさん。・・・・・・私のこと好き?」
「好きだよ、ガードルードちゃん。好き好き」
「嘘吐き、ルーカスさんの。馬鹿・・・・・・・!!」
彼女が甘えてきて抱き締めていた、好きだと言わない代わりに可愛いだの何だのは言っているんだが。
「大事には。してるだろう? 可愛がってもいる。お前のことをさ?」
「アリスとアリサみたいにね? 違うもん、それは。私が欲しいのは、そんなものじゃないから・・・・・・」
いつ言おうかどうしようかと考え込んで、魔術師になる為の勉強をして幼い娘二人の面倒を見ていた。
「よし。それじゃあ戦争が終わったらにしよう、そうしよう・・・・・・・・」
引っ込みがつかなくなって俺は何年も引き延ばしていた。
銀行口座にまともな指輪が二つ買えて、結婚式を挙げれるだけの金が入ってもまだ決めかねていた。
何となくずるずるとその瞬間を引き延ばしていた。
「ねぇ? パパー? パパはママのことが好きじゃないの?」
「え~? 誰から聞いたんだよ、それ~」
「「ママから!」」
「だっ、だよなぁ~。ええっと」
四歳になったアリスとアリサを膝に抱えて、深く考え込む。
娘二人が「お家が欲しい! リアちゃんのところみたいに引越しがしたい! お家が欲しい!」と言い出したので、すっかり頭が馬鹿になった祖父のアレクサンダーが「よし分かった。それじゃあお祖父ちゃんが家を買ってあげよう。即金で」と言い出したので、俺達家族は新しい家に引っ越していた。
金だけ出して一切の口出しをしないというスタイルを貫いてくれたので助かった、だからと言って俺の意見が反映される訳では無いが。
爽やかなペールグリーンの壁に赤茶色の屋根の家は可愛らしく、広々としたリビングには真っ赤な薔薇柄の絨毯を敷いてみる。
かつて使っていたもので、ここだけは俺の我が儘を聞いてもらった。
ガードルードは不貞腐れて「趣味が悪~い、目に痛ぁ~い」と言っていたが無視を決め込んだ、どうしてもこの絨毯が良かったのだ。
まぁ、彼女は「ルーカスさんって本当にケチで倹約家よね~」とぼやいていたので本当の理由はばれていない。いつかこれも言ってみようかどうしようかと悩んでいる。
可愛い娘二人をぎゅっと後ろから抱き締めて、打ち明けてみた。
子供を不安にさせるのもなんだし、どうせいつかは言うことなんだから。
「あのな? 実はパパは昔。ママに酷いことをされたんだよ。でもまだそれに怒っているから言わないだけで本当はママのことが好きなんだ。だから気にしなくてもいいぞー?」
「えっ? 酷いことって一体どんなことをされたの?」
「教えて、教えてー?」
きらきらとした茶色い瞳で問いかけられて、思わず微笑んでしまう。
「ん~、内緒! でもお前らがママに告げ口しないように。内緒にする魔術をかけておこうなー?」
「えーっ!? つまんなーいっ!」
「言ってあげたらいいのに! ママに浮気されちゃうよ!? それでもいいの!?」
「待って、どこで覚えてきたの!? そんな言葉!!」
「ユージーンが言ってた、早く離婚すればいいのにって」
「言ってた~、ふふふふっ」
「あいつ・・・・・・!! 悪影響しか及ぼさないな、本当に。今度会ったら締め上げよう、そうしようっと」
娘二人を後ろから抱き締めて考えていた、一体いつ告白しようかと。
結婚式を挙げるだけの金も貯まって、俺は就職して二等級国家魔術師となっていて。
(まぁ、うん。いつかの結婚記念日にはプロポーズしよう、そうしよう・・・・・・・)




