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27.好きな人なら拷問してしまえよ、ホトトギス

流血描写と暴力シーンがあります、ご注意ください。

 











「やぁ、ガードルードちゃん? 久しぶりだなぁ~、元気だったか? すっかりパパに似て別嬪さんになったなぁ~!」

「うんっ! ハーヴェイおじ様お久しぶりですっ! ガードルードですっ! 拷問キットは!?」








 にこにこと愉快そうな笑顔で頭を撫でてくれた、ハーヴェイ・キャンベルは。



 その不穏な銀灰色の瞳をぱちんとつむって、様になる仕草で人差し指を立ててみせる。





「勿論出来上がったとも、こんな夜更けにすまないね? アレクサンダーが、お前のパパ上がさぁ~? 何としてでも一秒でも早く、届けてくれというもんだからねぇ~」

「わぁ~、これが拷問キットなの? 何だか誕生日プレゼントみたいっ!」







 家の裏口に立ったハーヴェイは真っ黒なコートを羽織りつつ、その濡れた両腕に白い箱を抱えていた。




 真夜中の暗闇に浸された外ではざあざあと、激しい雨が降っていて屋根を叩いている。




 見ると白い箱には真っ赤なリボンがかけられており、緩やかな銀髪を雨で濡らしたハーヴェイは美しく、まるで死を運んでくる死神のようだった。




 ハーヴェイは声を潜めてぐっと身を乗り出し、甘い声で歌うように告げる。






「いいかい? ガードルードちゃん? 浮気が心配だって言う君の為に。ある特別な呪いを用意したんだよ、受け取ってくれるかい?」

「ええ、勿論! ハーヴェイおじ様。私はね? これでずっとずっと一生ルーカスさんを縛って、ずっとずっと一生傍にいて貰うの。ふふふっ」






 こちらが微笑んで白い箱を受け取ると、ハーヴェイは銀灰色の瞳を丸くさせてからにっと笑う。





「ああ。いいなぁ~、それは。俺もかつてはそんなことを考えたもんだが」

「誰に? 奥さんに?」

「そうだ、でも。彼女は俺のことを好きだと言ってくれた、そしてあいつも」

「あいつ? 誰? お友達?」

「ああ、そうだ。かけがえのない唯一の友達で俺の全てだった、俺の世界の全てだった」






 そこでわしゃわしゃと乱暴に頭を撫でると、ふっと身を屈めて額にキスをしてくれる。





「拷問が上手く行くことを願っているよ、ガードルードちゃん? でも大丈夫だ、ちゃんとありとあらゆる注意事項と手順を書き記したメモが入っているから。そこに首輪の使い方も載っている。いいな?」

「はいっ! ハーヴェイおじ様、そのっ!」

「ん? 一体どうしたんだ?」






 少しだけ気にかかっていることがあって、その黒い袖を引っ張って問いかける。





「レイラちゃんとアーノルド君と、シシィちゃんはその、お元気ですかっ? きっと私のことなんか。忘れちゃっただろうけどっ!」

「ああ、大丈夫だよ。元気だ。エドモンが死んでからも子供達は元気だよ、何とかね?」

「それならいいんだけど・・・・・・」

「ハーヴェイさん、すみません。こんな夜更けに来て頂いて」






 慌てた様子の父親がパジャマ姿で現れて、ついでとばかりにハーヴェイがその黒髪頭を撫でてゆく。





「いいや? 気にするなよ、アレクサンダー? お前には随分と世話になったんだ、ありがとうよ? そんじゃあこれでな?」

「そんな、少し上がってお茶でも」

「はは、悪いな? 俺はこの後もちょっとした仕事があってね、それじゃあまた。おやすみ、ガードルードちゃん。アレクサンダー」






 不敵に笑ってハーヴェイが雨の中を去っていって、その足音と気配をぼんやりと見つめていた。




 しかし濡れてしまうことに気が付いて扉を閉めて、白い箱をぎゅっと抱えて笑う。





「ふふふっ、待ってて。ルーカスさん? 貴方は私がとってもお利口で、聞き分けの良い女の子だと思ってるみたいだけど。別に全然そんなことはないの、本当に本当に、貴方を心の底から愛しているから!」






 そんな独白を複雑そうな表情で見守っていたアレクサンダーは、そっと娘の肩に手を添えて促した。






「ああ、ほら? ガードルードちゃん。身重の体なんだから寝ていなさい、夜更かしをしていては駄目だぞ?」

「はい、パパ。ふふっ、楽しみだわ! 明日がねっ」


























 そわそわと落ち着かない気持ちで彼女を待っていた、俺は。





(ああ、どうしよう? 告白してしまうか? でもなぁ~、やっぱりなぁ~)





 彼女に好きだと言ってプロポーズしようかどうしようか悩んでいて、腹がぐるぐると鳴ってしまう。






「何で今日は。朝飯と、昼飯を抜かれたんだろう、俺・・・・・・・・」







 今日は朝早くからガードルードがやって来て「今日のルーカスさんはご飯を食べちゃ駄目なの! 分かった!?」と言って冷蔵庫を漁って、自分はチョコレートを食べつつ食材を全て奪い取っていった。




 半分寝ぼけながら返事をして、渋々と朝食と昼食を抜いているのだが。






「もう、夜の十八時半だぞ・・・・・・・!? どこで何をやっているんだ、あいつは!? くそっ! 腹が減った!!」







 この俺を朝早くから叩き起こしたくせに、そのまま放置して一向に姿を見せない。



 何だか不穏な気配が漂っているのはどうしてだろうか、ひしひしと不安に苛まれてしまう。






(何だ? この、言いようのない不安は)






 彼女は本当に俺のことを諦めたのだろうかとふと、今更なことを考えてみる。






(でもここ数日のガードルードは。本当に大人しくってまさか)






 まさか良からぬことを企んでいるんじゃないだろうなと考えてみるが、それでもこの牢屋から逃げ出せる訳ではなく。






(ああ、不安だ。どうしよう? 怖い)






 せめてユージーンがいてくれたら相談出来たのだが、あれからすっかりその姿を見せない。






「ああっ、くそっ! さてはあいつ、ガードルードが魔術で何かしやがったな!? どうしよう? 今すぐここから逃げ出したほうが、」

「ルーカスさん? どうかしましたか?」

「ガードルードちゃん。ええっと、その今の台詞は、」







 いつもの足音に気が付かなかったが鉄格子の向こうには、きょとんとした表情のガードルードが佇んでいた。




 その服装は何故か黒い総レースのドレス姿で、いつもの銀髪はきっちりと纏め上げ、黒いドットチュール付きのカクテルハットを被り、白い手には黒いレースの手袋を嵌めている。




 まるで葬式の参列者を彷彿とさせる姿にぞっとして、座ったまま後退ってしまう。





 彼女がにっこりと美しく微笑んで、鉄格子の扉をがちゃんと開けて、黒いパンプスでつかつかと歩み寄ってくる。




 真っ赤な絨毯を踏みしめ、妖艶に微笑んでこちらを見下ろしていた。






「ああ。懐かしいですね? ルーカスさん。初めて会ったあの日にも。貴方はそんな風にして怯えて私を見つめていた、こちらから逃げ出そうとしていた」

「がっ、ガードルードちゃん? あのっ? そのっ」

「まさか私が貴方を好きになるだなんて。そんなことはちっとも予想していなかった、何だか遠い昔のようね? ふふっ、さぁ。ルーカスさん?」






 そこでぐいっと顎を掴まれ、持ち上げられる。



 黒いレースの感触に怯えて戸惑って、微笑みを深めたガードルードを見上げていた。



 その背後には豪華なシャンデリアが光り輝いていて、彼女が青い瞳を細める。






「ねぇ、ルーカスさん? 私ね、貴方と結婚したいなって思ってるの。でも貴方はそうじゃないんでしょう?」

「やっ、やっぱり。まだ諦めていなかったんだな!? 俺を殺すつもりなのか、ガードルードちゃん?」

「いいえ、まさかそんな。そんな生温いことで許してやるほど聖女ではないの、分かる?」

「えっ? それは一体どういう・・・・・・んっ!?」






 何故か彼女が舌を捻じ込んできて、殺されるかと思っていたのに唐突にキスをされて戸惑ってしまう。





 どうしたらいいのかよく分からず、ガードルードの首に手を回してキスを受け入れていたが、ふわりと魔術が行使された気配が漂ってきて。




 俺はがちゃんと、両手首に手錠を嵌められていた。





「えっ!? はっ、はぁっ!? えっ!? いつの間に!?」

「ルーカスさんはね、体が大きいでしょう? だから暴れられると。私としても敵わないの、だから縛るの、分かった?」

「えっ? なんっ、何で縛る必要があんの!? なぁ!?」

「さてと、それじゃあ」






 ガードルードがふわりと、手の上に白い箱を出現させる。



 それには真っ赤なリボンがかけられていて、ごくりと生唾を飲み込んで見守っていると次の瞬間、ぴかりと白い光が炸裂して。



 意識が闇へと崩れ落ちゆく、完璧に油断していた。しまった。






(ああ、また。このパターンかよ・・・・・・・・!!)







 俺は折角諦めようとしていたのに、全部全部、お前の幸せの為に涙を飲み込んで諦めていたというのに。





(俺だって好きなんだよ、ガードルードちゃん。でもでも)





 ああ、ままならない。


 伝わらないこの愛情が、やるせない感情が。






(このまま酷い目に遭うのならいっそもう、告白してしまおう。そうしよう)






 闇の中で漂いつつもそう考えていた、彼女に全てを打ち明けてしまおうと決意を固めていた。



 それは本当に、無駄なことだったけれど。


































「っう、ここは・・・・・・?」

「大丈夫、さっきの箱の中ですよ? ルーカスさん」

「いや、それが一番怖いから!! マジで!!」






 目を覚ましてみるとそこは真っ暗闇の空間で、椅子に縛り付けられ、足元には煌く星々と銀河の海が広がっていた。




 何故か頭上には満月が黄色い光を放って輝いており、その不気味な煌きを見ていると無性に逃げ出したくなってしまう。





 目の前に立ったガードルードが黒い鞭を持って、ふうっと物憂げに溜め息を吐く。



 ざっと全身から血の気が引いて、がたがたと椅子を揺らしてみる。





「まっ、待とう!? ガードルードちゃん!? ちょっと一旦待とう!? 落ち着いてよく聞いてくれよ、俺は!! 今までのは全部全部嘘で本当は、」

「今更そんな話を。一体どこの誰が信じると思いますか? ルーカスさん?」

「でっ、ですよね~! いやっ、でもまさか。ごうっ、拷問でも。するつもりじゃあ・・・・・・・?」

「ご名答、ルーカスさん」

「ガードルードちゃん」





 死にそうな声で呟いた俺を見て、彼女がにっこりと本当に美しい微笑みを浮かべていた。





(ああ、こんな時なのに。見惚れてしまう、綺麗だ。どうしようもない程に)





 どうしようもなく恋焦がれているのに、彼女はこの真っ暗闇のプラネタリウムのような空間で俺を拷問するのだと言う。





「流石はハーヴェイおじ様だわ、この空間はね? いるだけで貴方の精神を狂わせ、途轍もない不安と焦燥感に襲われて徐々に理性が無くなってしまうの」

「ひっ・・・・・それは」

「でもね? 理性が無くならないと。私のことを好きになってくれないし、婚姻届にサインだって書いてくれないでしょう? ルーカスさん?」






 ごくりと唾を飲み込んで、プライドも意地も何もかもをかなぐり捨てて懇願してみる。






「っ頼む、ガードルードちゃん!! 俺は。本当はずっとずっと惹かれていたんだ、きっと! 初めて出会ったあの日からきっと俺は、お前のことがずっとずっと好きだったんだ、婚姻届にも今すぐサインをする! だからもう、」

「だからその縄を解けと? ごめんなさい、私ね?」

「えっ? ひっ」





 ガードルードが怒りに燃えた青い瞳で近付いてきて、固まる俺に囁きかけてくる。





「ずっとずっとね? 怒っていたの。だからこれは復讐で仕返しなの。弄ばれて悲しかったの。私は絶対にお母さんのようにはならない、貴方を手中に収めてみせるの」

「ひっ、ちょっ、まっ、待って? まさか本気で? 嘘だろう? なぁ、おい!」

「嘘じゃないわ、本当なの。まずは手始めにそうね?」






 彼女がどこからともなく銀色のペンチのようなものを取り出して、にっこりと甘い微笑みを浮かべた。




 信じられない気持ちで呆然と眺めていると、ガードルードはそれを使って。






「わあああああああっ!? 嘘だろう、嘘だろう!? えっ? えっ? ええっ!?」

「ん~、ちょっと静かにしていて欲しい。えいっ!」

「っぐあ!? あ、あああああ・・・・・・・!?」






 思いっきり手の親指の爪を剥がされ、燃えるような鋭さとじくじくとした痛みに襲われてしまう。




 息も上手く吸えなくなって、涙を浮かべたまま自分の指先を見つめていた。





「えっ? うそっ、嘘だろう? なんでこんな、まさか」

「好きだからですよ、ルーカスさん? 私、ずっとずっと怒っていたんですからねっ? 女の怒りはポイント制なんですぅ~、えいっ!」

「わっ、わああああああっ!?」






 べりっと勢い良く人差し指の爪を剥がされ、首筋が冷えてあまりの痛みに意識が朦朧としてしまう。




 何よりも自分が今、爪を剥がされているということが恐ろしかった。




 じゅわっと溢れ出た真っ赤な血を見たくないのに見てしまう、見る度に指の先がじくじくと鋭く燃え上がっている。





「っは、は、嘘だろう? なぁ? おい? 好きなのに? 俺はお前のことが好きなのに!?」

「ルーカスさんの嘘吐き。まだそんなことを言うの? まだそんなことを言って私から逃げ出そうとするの?」

「違う!! 俺は本当にお前のことが好きなんだよ、ガードルード! ウィリアムにだって嫉妬していた! 自由にお前と過ごせるユージーンが羨ましかった!! 何度、何度、俺はっ、自分の人生をやり直したいと思っていたことか!!」







 ああ、伝われ。伝わってくれよ、本当にもう。頼むからさぁ。




 焦って椅子をがたがたと揺らして、その拍子に指先がまたじくじくと痛み出す。






「お前を連れて動物園だとか! 水族館だとかに!! 結婚して行きたいって、他の女なんかどうでも良くなるほどお前に恋焦がれていて、」

「嘘だ、嘘だ。ルーカスさん。もう信じないの、貴方のそんな甘い言葉は」

「ああっ! だってだって俺がずっとそんな風にして嘘を吐いていたもんな!? でも本当なんだよ、信じてくれよ!? 俺は何度一体お前と結婚したいと思っていたことか!!」







 ああ、手遅れなんだ。もう。


 彼女は俺の言葉を信じない、疑り深い目で見下ろしてくるだけで。





(ずっとずっと嘘を吐いていたから。今更本当の話なんて信じて貰えない、何でだよ? ガードルードちゃん!? 俺はお前のことが好きなのに!?)






 縛られていることを歯痒く思った、彼女を抱き締めたくて仕方が無かったから。



 目の前に立ったガードルードはえぐえぐと泣いていて、ぐしゃりとその顔を歪ませる。






「わっ、私だって。そう言って欲しかったの、ルーカスさんに! 他の女とは違って特別なんだよって、そう!! ずっとずっと優しくそう言って欲しかったの、でもね!?」

「その通りだよ、ガードルートちゃん! 特別なんだ、本当に本当にお前は!!」

「うっ、嘘だ。信じられない、懐柔するためでしょう? 全部。私を。っうぐ」

「ガードルードちゃん、本当なんだ。信じて・・・・・・あぐっ!?」

「信じない。もう何も、貴方の言葉は。傷付くだけだから」





 今度はペンチでがっと頭を殴られ、ぐわんぐわんと意識が揺れてしまう。



 朦朧とする視界の中で彼女が泣いて笑っていた、全身に冷たい汗を掻いていた。






「嘘だろう? お前、どうしてそんな酷いことが。出来るんだ? 俺のことが好きなんだろう!?」

「好きだからよ、ルーカスさん。結婚詐欺師をしていたくせにそんなことも分からないの? ほら」

「あっ、ぐ・・・・・・!!」






 今度は足の親指の爪を剥がされ、悲鳴を上げる気力も無く歯を食い縛って、舌の先を噛み締めていた。




 馬鹿みたいに唾液が溢れ出てきて、次は目元をナイフで切り裂かれて、ついでと言わんばかりに額をざっくりと切られてしまう。





「それじゃあ、次は腕と手足ね? これが私の怒りと愛なのよ、ルーカスさん」と呟かれて、腕をすっすっと丁寧に切り刻まれて、その度に燃えるような痛みが走って背筋が跳ね上がって歯を噛み締めて、溢れ出てきた唾液を何とか飲み込んでいた。





 足のすねもハンマーで殴られ、あまりの痛みに吐き気を催して泣いて謝っていた、それでも彼女は許してくれなくって顔を何度も平手打ちされた。




 次はまるで固い牛肉を叩いて平たくするかのように何度も何度も、爪を剥がした後の指先をハンマーで叩かれて押し潰されて、その度に血が滲んで激痛が走って、まるで雪山で遭難したかのような寒気と震えに襲われてしまう。





 骨の髄からぶるぶると震え出して、朦朧とする意識の中で身じろぎをして、何とかその重たくて熱っぽい痛みから逃れようと必死に足を揺らしていた。






「サイン。サインするから、もう、それでいいんだろう・・・・・・? 許してくれよ、頼む」

「でもね? まだなの。この首輪もつけて欲しいの!」

「は? くび、首輪って・・・・・・?」





 頬と口元には乾いた血がこびり付いていて、震えるように息を吐き出して、ぼんやりと彼女の手元を見つめていた。




 彼女の手に乗せられていたのは禍々しい気配を漂わせた茨の首輪で、いくつもの赤い宝石が煌いていて、黒い靄をしゅうしゅうと吐き出している。






「それっ、それは・・・・・・?」

「この首輪を付けるとね? 文字通り私の言うことを何でも聞いちゃうの、浮気防止なの!」

「えっ? それってまさか。古い文献にも出てくる禁術の、隷属の首輪なんじゃあ・・・・・・・?」

「うん。代々伝わっている禁術なんだって! 家の人しか知らないんだって!」





 青い瞳を輝かせたガードルードはそれを持ち上げて、恍惚とした表情で語り始める。





「これをね? 一度装着してしまうと。二度と外せないんだって! その代わり外からは見えない仕様になっているし、術者が死なない限り解呪されないんだって! でもね? 私は。ルーカスさんに殺されるほどの間抜けなんかじゃないし? それも禁止しておくし?」

「おっ、おい。それって一生、俺の自由が・・・・・・!!」

「そう。無いの。付けてくれる?」






 婚姻届にサインするのは承諾できるが、それは流石にちょっと。





「むっ、無理だ。いやっ、ちょっと待てよ? 付けるにしても心の準備が必要だ、だから俺にもう少しだけ考える時間をくれたら、」

「うーん。駄目なの。これはね? 心の底から付けて欲しいって。そう思わないと発動しないみたいでぇ~」

「へっ、へー・・・・・・そうなんだ~。無理だよ、絶対に。そんな気持ちにはなれない、流石の俺もね?」






 ふらつく頭でそう答えるとガードルードが笑って、首輪を持ったまま、ぼうぼうと赤い炎を纏っている焼きゴテを出現させた。




 それを片手に持って見せ付けつつ、黄色い満月を背負って妖艶に微笑んでいる。




 青い青い瞳が細められて、彼女の白い肌が焼きゴテの炎にきらきらと照らされていた。





「そう言うと思ったわ、ルーカスさん。だから私は拷問するの、貴方を。ここから逃げ出したいって、それを付けて逃げ出したいって。そう思って貰うためにもね?」

「ああ、分かった。付けよう、ガードルードちゃん。ただし、条件が一つだけある」

「なぁに? ルーカスさん。変なの、そんな顔をして」







 ああ、そうだ。


 何もかも全てを理解した、俺は。





「全部全部俺が間違っていたよ、ガードルードちゃん。最初から君に逆らうべきじゃなかった、全部全部自分の頭で考えるべきじゃなかった」

「るっ、ルーカスさん・・・・・・?」






 彼女に体のあちこちを切り刻まれて血が滲み出ている、それなのに興奮している、ああ、彼女はなんて美しいんだろう。




 まるで幼い頃に本当にいると信じ込んでいた月の女神のようだ、その白い爪先にキスをしたい。



 足元に跪いて忠誠を誓いたい、俺の全てという全てを彼女に捧げてしまいたい。



 思わず口元に笑みが浮かんで、じくじくとした痛みでさえも甘美なものだった。






「俺にもう一度だけプロポーズをしてくれよ、ガードルードちゃん? 今この瞬間全てに気が付いた、全てを奪われたんだ、俺は。好きだよ、ガードルードちゃん」

「えっ? ええっ? ルーカスさんが何かに目覚めてしまった、本当にドマゾだった。後でパパに報告しようっと。ええっと」

「さぁ、いいから早く!! その首輪を付けながら俺にプロポーズをしてくれよ!? さぁっ!!」

「あっ、はい。ちょっと待っててね?」





 慌てた様子のガードルードが「えーっと! この焼きゴテは一旦置いといてっと! 魔術で消しまっす!」と宣言してから、こほんと咳払いをする。




 その青い瞳はどこか悲しげで、憂いを帯びた微笑みを浮かべている。




 そして俺の両頬に手を伸ばして、柔らかく包み込んでくれた。





「ねぇ? ルーカスさん。この首輪を付けて、私と結婚してくれますか?」

「ああ、勿論。ガードルードちゃん。俺が今まで全部全部、間違っていたんだよ!! 最初から俺はそうやって全部を君に支配されるべきだったのに、何て俺は愚かだったんだろう!? 本当に心から感謝して謝るよ、ガードルードちゃん!!」

「えっ? ええっ? 理性が無くなるって、こういうことだったんだ・・・・・・?」






 心臓がどくどくと鳴り響いている、彼女に支配される喜びが全身を駆け巡っていた、ああそうだ。





「ガードルードちゃん、俺に。早く首輪を付けてくれるかい? 君に支配されたいんだよ、早く早く!!」

「ええっと、これは。あっ」





 彼女の手の中にあった茨の首輪が光り輝いて、こちらの首に嵌まってじくりと棘を突き刺してくる。




 その瞬間、全身の細胞と血液が沸騰して尿意を催して、歓喜で泣いて吐き出しそうになって、腹がぐるぐると鳴り響いて、熱い涙が目尻に浮かんできて、彼女への愛に浸って酔っていた。




 満ち足りた気持ちで嬉しくて嬉しくて泣き出してしまいそうで、彼女への愛が血のように溢れ出てきて堪らない気持ちだった、支配される喜びに浸っては幸福感に酔って彷徨って、粘り気のない唾液がだくだくと口の中から溢れ出す。






「ああ、ガードルードちゃん。好きだよ、愛しているんだ。本当に」

「でもね? ルーカスさん、私。あらかじめこの首輪に、そんな嘘を吐くようにって。設定しちゃったの」






 ガードルードが悲しげに微笑んで、そっと首を横に振っていた。




 その透き通った宝石のような青い瞳に見惚れていた、彼女以外に美しいものなんてきっと存在しないに違いない、永遠に死ぬまでずっとずっと眺めていたい。



 ずっとずっと彼女に支配されていたい、選択も何もかもを全てを。



 全てを捧げよう、彼女に。



 この瞬間、俺の人生は全て塗り替えられて変わったのである。


 そう、より良い方へと変わったのだ。





「好きだ、好きだよ。ガードルードちゃん。好きだよ? ずっとずっと好きだったんだ、俺は。君のことが好きで好きで仕方がなくって、本当に心の底から愛していて、」

「もしかしたらこれが。私への罰なのかもしれない、しなきゃ良かった」





 何もかもが全部本当の言葉で真実なのに彼女が、淋しそうな微笑みを浮かべて俯いていた。





「それじゃあ。帰りましょうか、ルーカスさん。いつもの牢屋へ。そして引越し準備を始めて私と一緒に新生活を始めましょう、そうしましょう。ルーカスさん、貴方はここを出て私の夫になるんだからね?」




















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