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26.嘘です、拷問するつもりです

 














「ルーカスさん、私ね? よく考えてみたの、一晩。やっぱり婚姻届に無理矢理サインさせて、入籍するのって良くないと思うの。無理強いは駄目だと思うの」

「ガードルードちゃん・・・・・・・・・」










 彼女がいたくしょんぼりとした様子で、こちらをじっと見つめていた。




 その傷付いた表情を見て胸が痛み、結婚するべきなのではという思いに駆られてしまう。




 ここはいつもの牢屋で、今日のガードルードは花柄のワンピースを身に付けていた。



 それは黄色いデイジーが散った黒地のワンピースで、煌く銀髪には黒いリボンのカチューシャが付けられ、お嬢様風で何とも可愛らしい。





 彼女の青く澄んだ瞳は落ち込んでいて、ああ、やっぱり。








「結婚しようとは、うん。ちょっと流石に、それは言えないというかその、」

「いいの、ルーカスさん。困らせちゃってごめんなさい。私、この子は一人で育てることにしたから。パパもママもそれでいいって言ってるし。ルーカスさんと一緒にいられないのはその。とっても残念だけど」










 その静かな声に胸が痛んで、それでも自分の過去を考えると。





(いや、やっぱりガードルードは。誰か他の男と結婚した方が良いに決まっている、俺は)






 彼女の母親を騙して金を巻き上げて、ふらふらと遊んできたような男なんだから。






(ああ、でも。辛いな、こうあっさりと。彼女が諦めるとは・・・・・・・)







 もう少し駄々を捏ねるかと思いきや、やけにあっさりと諦めてくれた。








「ほっとしたよ、ガードルードちゃん。分かってくれて。良かった」

「でもね? ルーカスさん」

「ん?」

「一つだけ聞きたいことがあるの、いーい?」








 可愛く首を傾げているが、その青い瞳は真剣そのもので。



 何故か嫌な予感がして笑って、目だけで続きを促してみた。







「あのね? 私にね? ・・・・・・・好きだって言ってたこと。あれは全部全部、嘘で演技だったの? ここから出たかったから? 私と結婚すれば出られるから?」

「いや、結婚したいとまでは思っていなかった。でもまぁ、女に飢えてもいたし? 出たかったのも事実かなぁ~」








 最後の最後までしっかり拒絶しないときっと、彼女は諦めきれないだろうから。






(うん。多分、これでいいんだ。これで)






 ガードルードの膨らんでいない腹を見てまた、ぎゅうっと胸の奥が締め付けられた。






(ガードルードそっくりの可愛い女の子が生まれても。俺は見ることも抱くことも出来ないんだろうなぁ、あーあ。そう考えると辛いな、本当に)







 風変わりな彼女の傍にいて、一緒に子供を育てて仕事してと、そうやって生きていくことが出来たらどんなに幸せなんだろう。でも。






(望んじゃいけないよな、きっときっと。第一ガードルードはこう見えてもお金持ちのお嬢様なんだし。何かと現実的じゃない、面倒臭い)







 俺があと十歳ほど若かったら頷いていたのかもしれんが、俺はもう次で三十歳になる男だった。







「うーん、まぁ。ごめん、ガードルードちゃん。まさかお前がその。こんな強硬手段に出るとは微塵も思っていなかったし・・・・・・・」

「いいわ、ルーカスさん。別に。ルーカスさんの考えはよく分かったから。この話はもうやめましょう、そうしましょう」








 やけに大人びた口調と表情に淋しくなってしまって、その白い手を握り締めた。







「なぁ? ガードルードちゃん? 病院は行ったのか、お前?」

「ううん、まだ。ママに聞いてみたらね? 何週間か待った方がいいみたい。あんまり早くに行ってもよく分からないんだって。妊娠しているかどうか」

「へ~・・・・・・まぁ、ちゃんと行けよ? お前」

「大丈夫、ちゃんと行くから。心配しなくても」








 冷たい鎧のような壁を感じて、それを淋しく思うのは自分勝手だって理解している筈なのに。



 思わず彼女の両手を握り締めて、その不思議そうな青い瞳を見つめていた。






「ごめん、ガードルードちゃん。物凄く。・・・・・・物凄く、自分勝手だっていうのは分かってるんだけど。でも、俺は」

「優しくして欲しいんでしょう? ルーカスさんってば。も~、本当に貴方は」

「ガードルードちゃん」







 困ったような微笑みを浮かべて、わすわすと頭を撫でられてしまう。



 髪を優しく梳かされて口元が緩んでしまうのだから、俺は本当にもう。








「ルーカスさんは。繊細でか弱くって、敏感肌で神経質なお姫様ですよね! もぉ~」

「あー、敏感肌ってのは・・・・・・うん、もういいや。何でも」

「それしか着られないのも可哀想ですよね・・・・・・私がシルク百%の素敵なお洋服を選んで買って、」

「頼むからやめて? あー、自分で選んだのを。いつか着るからいいよ、もう」







 ガードルードがふしゅんと息を吐いて、やれやれだぜとでも言いたげに見つめてくる。





 その視線にちょっとだけ笑ってしまって、駄目だと理解している筈なのにぎゅっと、驚いた表情の彼女を抱き締めていた。





 ふわりと花のような香りが漂って、汗ばんだ体は妊婦らしい体温で。






(ああ、妊娠しているといいな。ガードルードちゃんが)






 それでひっそりと見に行ってみようか、彼女が子供と手を繋いで歩いているのを。







「いつか。・・・・・・・俺の子供が。俺に会いたいって言ったら。会ってもいいか? なぁ」

「勿論。いいに決まってるわ、ルーカスさん。毎日会いに来たっていいのよ?」

「そのままお前に監禁されそうで嫌だ、結婚してるのも同然じゃねぇかそれって」

「むぅ~、しないもんっ! 監禁なんてっ、そんな酷いことっ!」

「ははは、だよな。流石のお前もそこまではしないよなぁ~」








 体を離して、白い頬を膨らませたガードルードの頭を撫でてやって、また胸の奥がずきりと痛んでしまう。







「そんじゃあ、ガードルード。今日は、何かしたいことは? あと俺って。いつここから出して貰えんの・・・・・・・?」

「うーん、二ヵ月後? とにかくもっ! 私がちゃんと妊娠してるって分かってから! 違うかもしんないし!」

「でも生理だってきてないんだろう? それにやたらと、その。体温も高いし」







 彼女がこくりと凛々しく頷いて、ふすんと息を吐いている。






「でもね? 私はねっ? もしも万が一妊娠していなかったら。またルーカスさんを襲ってトライしてみるから。それまではここにいて欲しいの、分かる?」

「ごめん、ちっとも分かりたくないし。今すぐ逃げ出したい気持ちで一杯だよ、俺は」

「ああ、あと。ユージーンと会うのも禁止だから。分かった?」

「えっ? いきなりだなぁ、おい」








 突然いなくなった俺を探し回っていたというユージーンは、彼女から牢屋の合鍵を貰ってふらりとやって来てはまた、俺に飯を作ってくれとせがんでくる。






「それはまた。一体どうしてなんだ? 今までは許していてくれたのに」

「駄目なの、ユージーンはね? ルーカスさんの味方だから。今ここであの男に邪魔されるのも癪に障るし。腹立たしい」

「えっ? え~、何だよそれ~」







 言葉の意味がよく分からず、詳しく聞いてみようと思った瞬間。



 ガードルードが青い瞳を潤ませて、俺の手をぎゅっと握り締める。





「ねっ? ルーカスさん。あともうちょっとで終わりなんだからね? どんなに引き延ばしても。あと一緒にいられるのは三ヶ月くらいだから。ねっ?」

「いや、でも。ガードルードちゃん? 三ヶ月って結構あるんだし。その間俺としてもその、外部の人間とまったく会えないってのは・・・・・・・あっ、そうだ。ウィリアム君でも、」

「絶対に駄目。浮気なんてしたらちょん切ってやるから。分かった?」

「っ怖い怖い! やめろって、そういうことを言うのはさ!?」







 そこで何故かごんっと、怒り狂った彼女に頭突きをされてしまう。



 咄嗟に両手で押さえようとしたものの、がっちりと手を握り締められているのでそんなことも出来ない。







「いででっ!? おいっ、ガードルードちゃん!? お前な!?」

「ふーんだ! ルーカスさんが浮気しようとするから。絶対に何が何でも許さないからね? ルーカスさんがどう思おうとも! 貴方は私のものなんですぅ~、ぷ~んだっ!」

「おいおい・・・・・・・何だよさっきから。本当に」







 彼女が俺の手をぱっと放して、横に置いてあった白いショルダーバッグを探って、とある魔術仕掛けの雑貨を取り出した。







「じゃーんっ! どうどう?」

「おい、それは。・・・・・・・結構いいやつじゃん、それも香りつきかぁ~」

「ふふっ、これをね? 今日はね? ルーカスさんと一緒に作りたいの。その、思い出作りにね?」







 ガードルードが魔術で作るアクセサリーキットを抱えたまま、ぐしゅんと鼻を鳴らすものだから。



 いてもたってもいられなくなって、彼女の銀髪頭を優しく撫でてやる。






(ああ、なんて健気なんだろう。まさかガードルードが。ここまでちゃんと、俺のことを考えてくれるとは)







 そうだ、もうどうせ。



 彼女の傍にはいられないんだから、一緒にお揃いのアクセサリーを作って身に付けたって、何の罰も当たらないだろう。







「それじゃあ。今日はそれを作ってみようか、ガードルードちゃん」

「うん! ありがとう、ルーカスさん! その、そのね?」

「ん? どうしたんだ? 赤い顔をして」








 照れ臭そうなガードルードがきゅっと、俺の袖を引っ張ってくる。







「あのね? ルーカスさん。これっ、ピアスとかネックレスとかに。良い香りを付けることも出来るんだけど、そのね? 指輪にね?」

「ああ、これ。・・・・・・指輪もあるのか?」







 照れ臭そうな彼女からキットを受け取って、裏面を眺めてみると。






「指輪でもピアスでも、ネックレスでもお好みのアクセサリーが作れます」と書いてあって、更には「世界に一つだけの香りを作成して、二人だけの秘密に」なんて謳い文句も書いてある。






「お前、これ。カップル専用のやつじゃねーか・・・・・・」

「だっ、だってぇ! これってあれなんだよ!? おじさんのルーカスさんにはよく分かんないかもしんないけどっ」

「誰がおじさんだ、誰が! その鼻を摘まんでやろうか!?」

「あぶっ、あぶぅ! ちゅまんでる、ちゅまんでる! もうちゅまんでる!!」







 涙目でばしばしと叩いてきた彼女を見て笑って、それを渋々作ることにした。







「本当はこういうの。あっても傷付くだけじゃないのか? お前と俺はもう二度と。・・・・・会わないのに?」

「子供に。会いに来るんじゃなかったんですか、ルーカスさん?」

「んー、お前に会わなくても。子供には会えるだろう?」







 すっかり母親になった彼女を見て、ついうっかり「俺も一緒に暮らしたい、結婚したい」と言ってしまうかもしれないから。だから。






「お前には出来る限り会いたくないな、ガードルードちゃん。まぁ、ウィリアム君と結婚するってことになったら。こそこそ二人で会っててもなぁ~。あいつが心配するだけだろうし、でぇっ!?」

「ルーカスさんの馬鹿! 嫌いっ!! も~、折角! 説明してあげようと思ったのに! それの! 香りのっ!」








 またしても頭突きをされてしまい、目の前にちかちかと星が飛んでいる。






「おっ、お前なぁ~! 思いっきり、俺に頭突きをしやがって・・・・・・・!!」

「だって鼻を摘まんだんだも~ん、私はなんにも悪くないんだも~ん、ぷーんだ!」

「お前なぁ~・・・・・・はーあ、仕方が無いか。もう」








 こうやって頭突きをされて振り回されるのも、あともう少しで終わりだろうから。



 アクセサリーキットを眺めつつ、ふとこの痛みでさえも愛おしくなってしまう。







「あー、やべぇ。泣きそう、痛い」

「ルーカスさんがね、最初からちゃんと私に。はい! 喜んで作らせて頂きます!! って言ってれば良かったのに! ねっ?」

「ガードルードちゃん。それって俺、絶対に洗脳されてるやつじゃん・・・・・・?」







 突然出てきてしまった涙を、そうやって誤魔化して言い訳をして俯いていた。







(本当は。ずっとずっと傍にいたいのに)






 胸の奥が痛んでそれでも、彼女と釣り合ってないことぐらいはよく理解しているから。







「うん。お前だって。他の男と結婚した方が幸せだからな? ウィリアム君によろしく」

「次そんな口を聞いたら。お口にミントとライムを突っ込んで消毒します。がしゅがしゅって!」

「やめろよ、そのスースーしそうな組み合わせは・・・・・・てか何で消毒なの?」

「浮気心はばっちいからです。不潔です!!」

「ふーん、そっか。そうなんだね、ガードルードちゃんの中ではそうなんだね・・・・・・?」

























 そんな訳で俺は彼女と一緒に、魔術仕掛けの指輪を作ることにした。






「へ~、色々。調香できるのか、凄いな。わっ! 夜明けの海の香りなんてのもあるぞ?」

「そー、そー。そうなのっ! 私はね、苺チョコドーナッツの香りにするの! 頑張って!」

「いや、もっと他のにしよう? ガードルードちゃん?」

「え~? 意外とルーカスさんって。ロマンチック~!」

「・・・・・・・でもそれだけは嫌だよ、俺」








 これは指輪を嵌めると、ぷんとオリジナルの香りが漂うらしいが、その香りを嗅げるのは指輪を嵌めている二人だけらしく。







「だから秘密の香りなんだなぁ。俺、この初夏の朝の木苺ってのも。気になってる。どうだ?」

「ん~、まだもうちょっと。汗臭いのが好み!!」

「お前は香水に何を求めてんの? 他の奴が分からないとはいえ。これ、香水だからな? 一応」






 その言葉にしょんぼりとして、細長いテスター用の硝子瓶を握り締めていた。






「ルーカスさんの匂いを。再現したいの、私。指輪を付けてお出かけしたらその。分かるでしょう? ずっとずっと、まるでルーカスさんの傍にいてるみたいな。そんな気持ちになれるだろうから・・・・・・・・」

「ガードルードちゃん。そっか・・・・・・そっか」







 あまりにも健気な言葉を聞いてしまって、また、鼻の奥がじんわりと熱くなってしまう。






「んー、でもさ? 折角さ? ロマンチックな香りもあるんだしさ? こういうのを混ぜていけばきっと」

「やだ!! ルーカスさんの匂いに近いやつを探すの、それがいいのっ!」

「はーあ。我が儘ばっかり。言いやがって・・・・・・・」







 目の前には色とりどりのラベルが貼られ、そこには「秋の夜長の紅茶の香り」だとか「薔薇園のガゼボで食べた蜂蜜入りのマドレーヌ」だとか、他にも「遠い海の陽射しの香り」や「夏の草原と子羊の香り」だとか、色々と他にもあるのに。






 彼女は俺の匂いが欲しいという、拗ねたように眉を顰めて。





 ぎゅっと、自分の拳を握り締めて耐えていた。



 思わず抱き締めたくなったけどでも、何とかぐっと耐えていた。







「・・・・・・ほら。ウェディングドレスを初めて着た時のときめきとか。あるじゃん? そういうのがさ?」

「ん~、やだ。ルーカスさんの匂いがいいの、ルーカスさんの匂いが! ほら! 彼のシャツの香りとか! そういうのもあるからっ! ねっ?」

「はーあ、作れんのかねぇ~。そんなのを組み合わせて。俺の香りがさ?」







 呆れて頭を掻いていると、ガードルードが凛々しい顔つきで言い放つ。






「いざとなったら本体を嗅ぎに行くからいいの、居場所を突き止めて気絶させるから。ねっ?」

「いや、だからそれは。恋する乙女の行動じゃなくって、ただの追い剥ぎだよ!!」

「シャツの一枚ぐらい、いいじゃないの。まったくもぉ~!」

「やっぱり俺の服を剥いで盗む気だったんだな!? そうなんだな!?」








 二人でああでもない、こうでもないと相談した結果。






「そんじゃあ、この。夜明けのミルクの香りと。あー、二人で過ごした夜のシーツの香りと。晩秋の本の香りと古い魔術書庫の香り、ラズベリージャムと焼き立てスコーンの香りでいいな?」

「うんっ! これをねっ、組み合わせてみるとねっ? ルーカスさんの匂いに一歩近付く気がするの! とっても良い香りなの!!」

「はいはい、落ち着け落ち着け。分かったから。なっ?」







 ふんふんと距離が近い彼女を遠ざけて、どうしても「私が作る! 私が二つとも作ってみせるぅっ!!」と言い出したので、指輪を生み出すのは彼女に任せてみる。俺に選択肢は無い。







(ああ、綺麗だ。やっぱり)








 集中するために両目を閉じて、その手のひらに乗せた金色の塊が光り輝いて、彼女の銀髪もこうこうと風に吹かれてたなびいている。





 これもアクセサリーキットに入っていた演出の一つで、銀色の光に照らされたガードルードは本当に美しい。






(ああ、昔に読んでいた。気に入ってぼろぼろになるまで読んでいた絵本に。そういや、月のお姫様の話があったなぁ~)






 とある月のお姫様が湖の城に閉じ込められていて、とある少年が忍び込んで会いに行って、二人は一目で恋に落ちるのだ。





 そのお姫様は眩い銀の髪を持っていて、美しい瞳はまるで青い海を映したかのよう。



 貧乏な煙突掃除の少年はそのお姫様に恋をしてそれから、一体どうなるんだっけ?





(ああ、でもラストは。意外と悲しい終わり方で。お姫様は太陽の国の王子様と結婚して、少年は毎晩月を見ては美しいお姫様を思い出すっていう。ハッピーエンドにしてくれよっていう)






 何で今、そんなことを思い出しているんだろう。俺は。







「ルーカスさん? ・・・・・・泣いているんですか?」

「何でも。何でもない、腹が痛いだけだ。腹が」

「えっ!? 大変! 温めなくっちゃ! ヨーグルトでも食べる!? 大丈夫!? 乳酸菌を追加しなくっちゃ!!」







 彼女が慌てて指輪を放り投げて、金色の指輪が落ちて、きらりと真っ赤な絨毯の上で光り輝いていた。





 俺はきっと、この指輪を見る度に彼女のことを思い出すんだろう。




 愛おしくて悲しくてそのまま、彼女の膝に縋って泣いていた。




 風変わりな彼女はしきりに「ぽんぽこ良くなぁれ~! ぽんぽこ良くなぁれ~!」と言っていて、その言葉に泣けて笑えてしまった。 







「ああ、ほら? ルーカスさん? 折角指輪も出来たんですから! 付けてみましょうよ、一緒にねっ?」

「よく考えたらこれって。俺のイメージの香りをずっとずっと、俺が嗅ぐ羽目になるんじゃあ、」

「いいのっ! これが世界で一番良い香りだからいいの!! これでルーカスさんと一緒にいられるから。それでいいのっ!」







 そのあまりにも健気な言葉に笑って涙ぐんで、左手の薬指で輝いている金色の指輪を眺めていた。




 ふわりと甘い、蠱惑的(こわくてき)な香りが漂ってくる。




 甘酸っぱいラズベリージャムの香りと素朴なスコーンの香り、洗濯したてのシーツのような匂いと甘い本の香り、それらが織り交ざって確かにこれは。






「うん、俺が昔。気に入ってつけてたコロンの香りと。まんま同じでちょっと怖い。ぞっとした」

「えーっ!? なんでぇーっ!? えーっ!? なんでぇーっ!?」














※拷問される予定です、流血描写注意って書きます。次回は多分。

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