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25.当初の目的を忘れている彼女と怒っている父親

 















「それでね、あれからもう一週間以上経つんだけど。まだ婚姻届にサインしてくれないのよ、どう思う?」

「うーん、魔術で無理矢理書かせちゃえば? 君なら出来るだろうに、ガードルードちゃん?」







 その言葉に押し黙ったガートルードは、向かいでサンデーをつついているユージーンを眺めていた。




 ここは昼間の喫茶店で、目の前のユージーンはバナナチョコサンデーを食べている。



 今日のユージーンは黒髪が飛び跳ねていて、黒いタンクトップに金色の鎖を身に付けていた。



 逞しい腕にはタトゥーが施されていて、先程から店内が少しだけ緊張している。



 一方の私は白いシャツワンピースを着て、銀髪をシニョン風に結い上げて、転ばないようにぺたんこの靴を履いていた。





 向かいの席に座ったユージーンが、不思議なオレンジ色の瞳を細めて笑う。






「書かせちゃえばいいよ、ガートルード。君は彼のことが好きなんだろう? お腹の赤ちゃんのためにも、ねっ?」

「貴方はなんにも分かっちゃいないわ、ユージーン。私の乙女心を!」

「うーん、乙女心?」






 ユージーンは不思議そうに首を傾げて、オレンジ色の瞳を丸くさせた。


 そこから愉快そうにくっと、獰猛に笑って。






「ふふっ、ガードルードちゃん。君はあれかな? 彼に望んで書いて欲しいと思っているの? 婚姻届?」

「そうなの! 確かに魔術でどうとでもなるんだろうけど、私は。・・・・・・無理矢理書かせたくなんてないの、分かるでしょう?」

「分かるよ、ガーティ。俺だって君の立場ならそうするだろうさ、ふふっ」







 何がおかしいのか笑って、黒髪頭を下げて俯いて、その逞しい背中を震わせている。



 私はバニラアイスを食べていたのだが脳内で「妊婦が体を冷やすもんを食うな!」と彼の声が再生されて、泣き出しそうになってしまう。






「っふ、ルーカスさんの馬鹿。私のことを心配するくせに。パパに雑誌を買ってきて貰って。父親としての心得を学んでいるくせに。婚姻届を出したら微妙な顔をするのよ、どう思う!? いっそのこともう、殺してやろうかしら!?」

「うーん、それはやめて欲しいなぁ。二度と会えなくなっちゃうもん、ルーカス君に」






 珍しく渋い顔つきのユージーンが、不快感をあらわにしてこちらを見つめている。



 苛立って、鋭く睨みつけてやった。






「あのねっ? ルーカスさんはっ! 私の物なの!! ここにはルーカスさんが入ってるのも同然なのっ! 分かる!?」

「分かっているよ、そんなことは。でもね? 君は忘れているようだけど。先に知り合ったのはこの俺なんだよ? 分かってるの、そのことは?」

「むうっ、むうぅっ、む~・・・・・・・!!」





 こちらが何も言えなくなって黙り込むと、ユージーンは無邪気に笑って。





「あはは、いい気味だ。俺は君がのんびりと、学校に通っている間にも。ルーカス君にご飯を作って貰って、仲良く遊んでたんだも~ん。ふ~んだ」

「むぁっ、むあ、むああああああ・・・・・・!!」







 悔しい、とても悔しい。



 苛立ってバニラアイスを一気食いして、強く睨みつけてやると。


 向かいに座ったユージーンが笑って、こちらの頭をぽんぽんと撫でてくれる。






「まぁ。落ち着いてよ、ガードルードちゃん? 彼が愛しているのは君だけなんだからさ?」

「本当かなぁ? ルーカスさん。それじゃあ一体どうして、婚姻届にサインしてくれないのかなぁ?」

「さぁねぇ、怖いんじゃない? 失ってしまいそうで。彼は臆病者だからね、お姫様。君みたいに強くはないんだよ」

「何それ? ぜんぜん、訳分かんない・・・・・・・!!」





 ユージーンが低く笑って、オレンジ色の瞳を細めて、妖艶な仕草で自分のくちびるをなぞった。



 いつもの金色の指輪が光って煌いて、それを不満たっぷりに眺めてみる。





「大丈夫だよ、ガードルードちゃん。子供だって出来たんだしさ? 楽しみだよね、生まれるのがさ?」

「そうだわ、ユージーン。拷問しましょう、拷問。ルーカスさんを拷問して吐かせて、婚姻届にサインさせるの。名案だとは思わない?」

「うーん、申し訳ないけど。ちっとも思わないなぁ、それは」






 困ったように微笑んで、腕を組んで見つめてくる。


 本気で戸惑われてしまい、何故だと思って苛立ってしまう。






「何でーっ!? 良くない!? 拷問したら!」

「ちょっと落ち着こうか、ガードルードちゃん? 俺はこんななりだし。本格的にマフィアだと勘違いされちゃいそう、困るなぁ。それは」






 慌てたユージーンが私の口に、甘いバナナを突っ込んでくれる。



 濃厚なチョコソースがかかったそれを、もちゃもちゃと食べて睨みつけてやった。



 何故か困ったようにおろおろとしてから、ユージーンがこほんと咳払いをして、甘い微笑みを恍惚と浮かべる。





「あのね? 結婚して欲しいという気持ちもよく分かるんだ。でもね? 俺は彼のお友達として。拷問には反対するよ? だって可哀想だもん、骨とか折れちゃいそう。骨とか」

「大丈夫よ、折ったあとで治すから。子供も抱っこして貰わなくちゃいけないしね!」

「いや、違うんだよ。違うんだよ、ガードルードちゃん・・・・・・・」






 ユージーンが途方に暮れてしまい、あどけないオレンジ色の瞳でこちらを眺めていた。



 またしてもむぅっと苛立って、彼のサンデーをずるずると引き寄せつつ、そのバナナを掬い上げて貪り食ってやる。




 ユージーンは何もかもを諦めてしまったのか、その逞しい腕を上げて「すみませーん、店員さん。もう一つ、バナナサンデーを貰えませんかー?」と言って注文している。




 チョコバナナサンデーに突き刺さっていた、ポテトチップスをばりばりと噛み砕きつつ。



 私はなんとしてでもルーカスさんを拷問してやろうと、強く決心していた。






























「でもね。よく考えてみたらね、パパ? 私、人を拷問する方法なんて知らないの。図書館に行って調べてみたんだけど。効率の良い拷問の仕方って本が。どこにも無かったのよ!」

「それはそうだろうな、ガートルードちゃん。あれは税金で購入しているものだから。刺激の強い本は置いてないんだよ・・・・・・・」







 いつもの無表情で述べて、アレクサンダーがこちらを見下ろしている。



 今は行ってらっしゃいのキスをするために、この綺麗な玄関ホールに佇んでいるのだが。



 紺色のストライプスーツを着た父親は、こちらの頭を優しく撫でてくれて。






「生憎と俺も。その手のことはよく知らない、が。その手のプロを知っているから。今日の昼にでも会いに行って、話を聞いてこよう。それでいいかな? ガードルードちゃん?」

「ええ、お願い。パパ、ルーカスさんってば頑固なのよ、まったくもう」

「だがなぁ、しかし」






 いつもの無表情で考え込んで、顎に手を添えている。



 それでも私の頭を撫で続け、その温度に少しだけ気分も落ち着く。






「その、胎教に良くないんじゃないか? 父親の、悲鳴と泣き叫ぶ声というのは・・・・・・・・」

「それじゃあ猿轡でもしておくわ、パパ。それで全部解決じゃない? ねぇ?」

「まぁ、何とでも。やりようはあるか。俺も俺で腹を立てているからな。協力してあげよう、ガードルードちゃん」






 ユージーンよりもはるかに、物分かりのいい父親の言葉を聞いて。


 機嫌良く微笑んでしまい、父親に愛情たっぷりのハグをしてやる。






「ありがとう、パパ! 大好き!! 入籍日はパパの好きな日にしてあげるからね!?」

「それじゃあ、俺が。休みの日にでもして貰おうかな? 一緒に行って、その日はお家でパーティーでもしようか」

「やったー! そうしよう、そうしよう!」





 そこでアレクサンダーがふっと、心底嬉しそうに笑って。


 青いパジャマ姿の私を抱き寄せて、額にキスをしてくれた。





「それじゃあ。行ってきます、ジゼルによろしく」

「うん、ママは。今私のクレープを作ってるから忙しいの! ごめんね?」

「いや、大丈夫だ。また昼にでも電話するから」

「するんだ・・・・・・?」

「・・・・・・行ってきます」







 照れ臭くなってしまったのかそそくさと、玄関の扉を開いて出て行ってしまう。



 でも、これでようやく。





「うん! ルーカスさんを拷問できるわ! 懲らしめてやらなくっちゃね!!」
































 あの人に会うのは少しだけ緊張するが、仕方が無い。





(とは言っても。嫌いという訳ではないのだが)





 いつもにこにこと笑っているのにどこか、人に不安を抱かせるような男。



 それがハーヴェイ・キャンベルであり、俺の友人でもある。




 しかし、レストランの個室にて。




 自分の考えに首を傾げてしまい、出されたミントウォーターを飲んでいた。



 話が話だし、普段はあまり入らないような。



 少しだけお高いレストランに入って、この上品なクリーム色のソファーに座って待っている最中なのだが。






 妻に贈って貰った、紺色の腕時計を確認して。



 約束の時間まで五分ほどあることに気が付いて、彼のことを考えてみる。






(うん、一等級国家魔術師の試験で。あの人は群を抜いていた、むしろ楽しそうだった)








 十五歳の俺が緊張して緊張して、控え室で待っている間にも。




 彼ことハーヴェイはのんびりと寛いで、婚約者に作って貰ったのだというアップルパイを食べていた。




 その男は銀髪に褐色の肌を持っていて、銀灰色の瞳は鋭く、試験官から着るようにと言われた白いシャツと黒いズボンを着こなし、ソファーでふんふんと鼻歌を歌っていた。



 他の参加者が鬱陶しそうに見ていても、彼は何も気にせず歌っている。



 俺も白いシャツと黒いズボン姿で座っていたのだが、その彼が気になってじっと見つめていた。




 こちらの物言いたげな視線に気が付いて、にやりと不敵に笑って。






『何だ? これが欲しいのか? ・・・・・・一切れぐらい、分けてやろうか? ん?』

『いいえ、それはきっと。大切なお菓子なんでしょう? 先程から大事に食べているから、俺が。口にしてはいけないものだと思います』







 その言葉に、銀灰色の瞳を丸くして。



 愉快そうに低く笑って、アップルパイを食べつつこちらへとやって来た。



 いきなり隣に座られて、少々驚いたものの。



 緊張していたのでむしろ有難く、ほっとして名乗り合った。





『俺はハーヴェイ。ハーヴェイ・キャンベル。お前の名前は?』

『俺の名前は、アレクサンダー・シャンディです。初めてなんだ、一等級国家試験を受けるのは』

『そうかぁ、初めてかぁ~。俺もだよ、アレクサンダー君?』

『そうだったんですか・・・・・・凄いな、緊張していなくて』






 感嘆してそう話せばまた、銀灰色の瞳を煌かせて笑った。



 どことなく得体の知れない男で、年齢は十九歳とのことだったが、やけに落ち着いて見える。



 短く刈り込んだ銀髪は不良のようで、飄々とした雰囲気に怯えてしまう。





『俺はこの試験に合格するぞ、アレクサンダー。お前は?』

『俺も、頑張ってみようかと思う・・・・・・・凄いな、言い切れるだなんて』

『まぁな! この試験に受かったら。彼女が俺と結婚してくれるんだ、だから』

『へぇ、それは。いいな、羨ましい』







 その途端『だろう?』と言って、子供のように微笑んでみせる。



 もう少しそんな風に笑っていればいいのにな、と思ったが黙っていた。



 大事に大事に包まれた、アップルパイを見つめて。



 この人の婚約者はどんな人なんだろうと、そう考えていた。





『やっぱり俺も、そのアップルパイ。一口だけ貰ってもいいですか? 実は今、緊張してて吐きそうなんです』

『っぶ! ははははは! まったく見えんぞ、そうには! お前、変わってんな~!』

『えっ、えええええ~・・・・・・?』








 ハーヴェイは何故か、腹を抱えて笑い出して。



 他の参加者が迷惑そうに彼を見つめていた。



 俺は呆気に取られて、彼が笑い転げているのをひたすら見つめているしかなかった。



 やがて、笑いの発作も落ち着いたのか。



 やけに優雅な仕草で目元を拭って、不穏な銀灰色の瞳で覗き込んでくる。






『あー、おかしい! いいよいいよ、やるよ? とは言ってもまぁ、一切れだけなー?』

『いえ、一口でいいんですが?』

『うまいぞ、イザベラのはな。ふふっ、照れ屋だから。彼女は』






 本当に婚約者を愛しているのか、嬉しそうな笑顔でアップルパイを見つめて。



 気前よくぽんと、一切れくれた。



 汗ばんだ手で握り締めて、ぼんやりと眺めていたら『早く食べてみろ、なっ?』と急かされて、それをあわてて頬張った。



 ふんわりとシナモンの香りが漂って、くたくたの林檎は甘く、中からは冷たいカスタードクリームが溢れ出てきて。



 何故かそれを食べると、試験に受かるような気がしたのだ。



 実際に俺は、彼を凌ぐ成績で合格した。






『わぁ、これ。・・・・・・・美味しいですね、俺好みの味です』

『何だ、意外と気が合うな? お前あとで連絡先、教えてくんない? 友達になろうよ、友達に』

『はぁ・・・・・・?』






 聞けばハーヴェイには友達が一人しかおらず、嘘が吐けない呪いにかかっていると告げてきた。




 幼い頃に人外者と遭遇して『やーい、ブースブース!』と言ってみたところ、怒り狂った美しい人外者に『そんな嘘を吐くだなんて! お前はこれから先二度と嘘が吐けないでしょう』と言われて、嘘が吐けない呪いにかけられてしまったらしい。




 嘘が吐けないと聞いて、少しだけ身構えてしまったが。





『友達にはなれませんがきっと。後輩のような存在にはなれて、』

『まー、そう! 堅苦しいことを言うなって! うりゃりゃ!』

『おわっ、やめてください・・・・・・!! 近いです、ハーヴェイさん』






 そこから二人とも試験に受かって、ハーヴェイの親友だというエドモンさんにも会って、毎年ほんのりと交流していたのだが───────・・・・・・・・。






(ああ、そうだ。俺が。結婚してぐだぐだと揉めて、疎遠になってしまって、)








 そこでゆさゆさと、体を揺さぶられてしまう。





「おーい? アレク? アレクサンダー? お前なぁ、数年ぶりに連絡してきたかと思えば。居眠りしやがって」

「ハーヴェイさん。ああ、これは。本当に申し訳ない・・・・・・・・」







 眠たい目を開けてみればそこには、随分と老けたハーヴェイが覗き込んでいて。



 にっと、悪戯っぽく笑う。



 十八歳の時とは違ってハーヴェイは、銀髪を鎖骨まで伸ばしていた。




 そして銀髪を摘まんで「俺と一緒だな、長さ! 前は伸ばしてなかっただろう?」と呟いて、優雅な身のこなしで座って、向かいの席で寛ぎ始める。




 ハーヴェイは白いシャツに黒いジャケットを羽織っていて、昔のように話しかけてくれた。





「久しぶりだな、アレクサンダー。どうだ? ガードルードちゃんは。元気か?」

「ガードルードは妊娠したんですよ、ハーヴェイさん。詐欺師の子供を妊娠したんですよ、どう思います?」





 思わず腹立たしい気持ちで尋ねてみると、ハーヴェイは眉一つ動かさずに呟く。





「ほぉ~、それはそれは。俺だったら殺すな、その男を。奥さんは何だって?」

「いえ、離婚したんです。再婚しましたけど。これまで仕事が忙しかったのもありますけど、その。ごたごたとしていて連絡出来なくて、」

「ああ、いい。気にするなよ、アレクサンダー。俺も俺で、中々に忙しかったしな?」






 褐色の手を振って遮って、くちびるを尖らせつつ「どれにしよっかな~」と呟いてメニュー表を眺めている。






「あの、俺。奢りますよ、ハーヴェイさん。あとエドモンさんはお元気ですか? レイラちゃんは? アーノルド君は?」

「ああ、そうか。エドモンなら死んだ、事故でだ」

「えっ!? ・・・・・・あ、ああ。申し訳ない。知らなかったとはいえ、そんな」







 全身から血の気が引いて、口元を押さえた。



 現実味がなく、自分の首筋がひんやりとしていておそろしく悲しかった。



 あの女性のように儚げで優しいエドモンさんが、幼いレイラちゃんを残して死んでしまっただなんて。





(奥さんのメルーディスさんも。さぞかし、今頃は途方に暮れて・・・・・・・)





 呆然と口元を押さえていると、ハーヴェイが低く笑って見つめてくる。





「気にするな、アレクサンダー。そんでレイラは俺が引き取った。養女に迎えたんだ、そんでアーノルドとレイラは。ほれ、写真」

「あっ、ああ。ありがとうございます。きっと俺のことなんて。すっかり忘れてしまったんでしょうね・・・・・・・」

「まぁなぁ。あいつら、ちっこかったからなぁ~」






 差し出された写真を見つめて、思わず微笑んでしまう。



 そこには無邪気な笑顔のアーノルド君とレイラちゃんが映っていて、夏の浜辺で遊んでいるのか、可愛い水着姿だった。



 すっかり大きくなったレイラちゃんが、アーノルド君の腕にしがみついていて、砂だらけの顔でピースサインを作っている。



 あんなに小さかったアーノルド君もすっかり成長していて、何やら色気のある少年へと成長していた。



 しかし無邪気な笑顔はどこか幼くて、真っ白な歯が眩しい。



 腰につけた青い浮き輪も、彼がまだ少年であることを示している。






「やっぱり、奥さんにそっくりですよね。アーノルド君は。・・・・・・レイラちゃんも、元気そうで良かった。これは海に行った時の写真ですか?」

「そうなんだよ~、去年のな。シシィちゃんは映っていないが、元気に海で遊んでいたよ? どうも俺に、写真を撮られるのが最近嫌みたいで・・・・・・・」






 暫く思い出話に花を咲かせていたがやっと、今日ここに来た目的を思い出す。


 運ばれてきたローストビーフを食べつつ、そのことを話してみる。





「そうだ、ハーヴェイさん。貴方は詳しいでしょう? こういったことに」

「お前の話は。いっつも唐突で訳が分からん! ちゃんと説明してくれよ、説明をさ?」

「ああ、申し訳ない。その、人を拷問したりだとか。意のままに操る方法を。ご存知でしょう?」

「ご存知だとも、アレクサンダー君? 何だ? その男に。復讐でもするのか? ん~?」







 にやにやと笑うハーヴェイに頷いて、ワインを口にした。



 彼は分厚いステーキを頼んでいて、面白そうな表情で切り分けている。


 それを一口齧って、優雅にナイフとフォークを置くと、ナプキンで口元を拭いてから。



 “笑う蜘蛛男”と恐れられている不穏さで、優雅に微笑んでいた。






「随分と面白そうな話じゃないか、アレクサンダー君? ガードルードちゃんは俺によく懐いてたからね。勿論構わないとも、この手を貸してあげようか?」

「そうして下さると。とても助かります、ハーヴェイさん」






 これで娘に良い報告が出来るし、今朝のようにハグをしてくれるかもしれない。



 ほっとして礼を言うと「気にするな」と笑って、ステーキを食べていた。






「それじゃあどうする? 障がい者にでもしてみるか? ん~?」

「いえ、それはちょっと。五体満足のままで痛めつけたいんです。あと俺じゃなくて娘がするんですよ、拷問を。妊婦でもやすやすと出来るような、そんな拷問方法ってありますか?」






 人を殴ったり蹴ったりするのも、激しい運動の内に入るだろうから。


 父親としては心配なのだ、拷問して流産でもしたら本末転倒である。




「そうかそうか、娘ちゃんがね~。それじゃあ俺が。初心者用の拷問キットでも開発してあげよう、魔術でな!」






 うきうきと笑って身を乗り出して、話し始めたハーヴェイ・キャンベルを見て。





「やはりどこか、その。よく分からない人ですね? 貴方も」

「ああ。・・・・・・よく言われるよ、それは。がっかりだなぁ、お前が。俺の友達になってくれたら嬉しかったんだけどなぁ」







 にこにこと微笑みつつ、そう言われて戸惑ってしまった。





「しかし。嘘が吐けないということはその」

「俺はお前のことが好きだよ、アレクサンダー。だからこうして手を貸している。そう心配せずとも俺は。必要以上のことはしない、頼まれたことしかしないよ?」






 食い気味に言われてふと、ハーヴェイも淋しいのかもしれないと思った。






「それじゃあ、俺で良ければお友達で。ただ、エドモンさんに。敵う気はしないですけど」

「はは、いいよ。別に。無理しなくってもさ! 俺にはイザベラちゃんと可愛い子供達もいることだし?」







 そこで話を切り上げてしまい「あれかなぁ~? 燃やすのと切るの。どっちが好みかなぁ?」と言い出したので。




 俺達は暫くの間、憎きルーカス・マクラウドを苦しめる方法について話し合っていた。























ハーヴェイは“魔術雑用課”の三角関係に出てきます。(念の為書いておく)


友達が一人しかいないと言っていますが、少しだけ怯えているアレクサンダーを友達認定出来なくてそんな感じに。友達未満が複数いる感じです。


エドモンの死因も事故ではありませんが、そう思っているので口に出来ています。ハーヴェイが「本当」だと思ったことは「嘘」でも口に出来る仕組みです。

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