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22.詐欺師の嘆きと美味しいチーズバーガー

 












「もう、もう俺は駄目なんだ。お前の父親に殺されて終わるんだ、もう。もう駄目だ、俺はなんにも悪くなんてないのに!! つらい!」

「も~、ルーカスさん~。大丈夫ですよ? 私がパパから守ってあげますからね? ねっ?」

「無理だ、俺は。もう、無理なんだ。つらい・・・・・・・!!」

「も~! 大丈夫だって言ってるのに~! も~!」









 背後のガートルードがこちらの背中をぽこぽこと拳で叩いてくる。



 俺はいつものピンク色のパジャマを着て、べそべそと泣いて寝台で寝そべっていた。




 枕に頭を乗せていると絶望的な考えばかりが浮かんでくる、つらい。



 自分でも情けないとは思うが、どうにも不安で不安で寝台から起き上がれない。



 先日俺を襲ったガートルードはそれが不満らしく、今日は青いニットワンピースを着て無い胸を強調しつつ、銀髪はさらりと下ろしている。





 いつもの髪型に戻った彼女を見つめ、それが一番大人っぽく見えるし安定の可愛さだなと思ってしまったことは胸に秘めておく。




 恋心とは何とも厄介なものである。





「ねーえ? ルーカスさんっ? 無駄ですよ、もうっ! 早く諦めて私と結婚してください!」

「っ無理!! 絶対に無理!! 大体お前は好みでも何でもないから、」







 そこまでを口にした所でぞっとして、慌てて口を塞ぐ。




(おいおいおいおい! 殺気! 殺気!! 殺気がやばい! 言論の自由は!? 俺に選択肢は!?)






 混乱しつつも両手で口を塞いでいると、すうっと、揺らぐように彼女がこちらの肩に手を添えてきて。





(怖い、怖い! 怖いって!! 振り返れない、怖い!!)





 ガートルードがそっと俺の茶髪に触れて、後ろへと掻き上げる。


 その指の感触に心臓が騒がしくなった、恐怖で。






「ねぇ、ルーカスさん?」

「いやっ、あの。今のはちょっと。不適切と言うか。その、無神経な発言だったと思って」

「服。脱いでください、今すぐ」

「待って、待って? 許して欲しい、頼むから!!」





 慌てて起き上がって寝台の上で後退ってみると、ガートルードがしょんぼりと落ち込んでいて胸が痛んでしまう。




 思わず口から言葉が突いて出た。





「無理だよ、ガートルード。何もかもが現実的じゃない。お前はまだ子供だからよく分からないだけで、」

「そうだとしても。ルーカスさんと。・・・・・・・一緒にいたいの、お願い」

「ガートルード」






 彼女がぼすんと銀髪頭を預けてくる。その華奢な肩が、小刻みにふるふると震えていて。






(きっと。慰めるべきじゃ、ないんだろうけど。でも)






 それでも愛おしくって、俺だって彼女に触れたかった。




(堂々と、触れることが出来たら良かったのに。どうしようもないな、俺も)




 思わず抱き締め返して、心なしか彼女が嬉しそうにもぞもぞと動いている。




 そしてこちらの胸元を握り締めると。





「ねぇ、ルーカスさん? 私のことが好きじゃなくっても。毎日傍にいてください、お願いです」

「・・・・・・お前にはウィリアム君がいるだろ、ウィリアム君が」

「タイプじゃないって振った。ママが笑ってた。でしょうねって」

「でしょうねって、お前。いや、はー・・・・・・・・」







 どうしたらいいのだろう、この状況を。



 どうやったら彼女を手放せるんだろう、彼女を騙す為の演技もどことなく中途半端で歪で。



 彼女の言葉であっけなく綻びが生まれてしまう。





「あーあ。もう。俺も俺で随分と、厄介な生き物に好かれたもんだよなぁ~」

「いきもの。生き物扱いじゃなくて、女性扱いして欲しい・・・・・・・!!」

「それは無理な話だよ、ガートルードちゃん? とっとと早く俺のことは諦めて、他の男と結婚するといい」







 どれもこれも全部嘘だよ、ガートルード。





(なんて。絶対に言ってやらないけど。でも、まぁ。いいや。これで)






 彼女がまともな男と結婚して幸せに生きて行ってくれるのならば。


 どんなに俺が幸せにしたくとも。






(いいんだ、これで。後悔するだろうけど。いいんだ、これで。ガートルード。・・・・・・・いいんだよ、これで)






 どこかで軋むように胸の奥が痛んで、時折叫び出したくなるけど。






(それでもいいや。ガートルード。いいよ、もう。全部。俺はこれで)






 全てを押し殺して彼女に嘘を吐いて、騙し続けて。


 それでも彼女にもどうやら、譲れないものがあるらしく。





「ルーカスさんの馬鹿。・・・・・・・私を甘く見過ぎです。何が何でも手に入れてみせます!! がっつり捕獲のルーカスさんです!!」

「あのさぁ、ガートルードちゃん? 早いところ、ユージーンと縁を切って欲しいんだが? なぁ?」

「無理でぇーすっ! 結婚式に呼ぶの、ユージーンは! お祝いして貰うのっ!」

「おわっ!? ちょっ、ガートルード、お前・・・・・・!!」







 ぼすんと寝台に押し倒されてしまい、そのままぎゅっと腹にしがみついているガートルードを見て力なく笑ってしまう。



 腕を伸ばして、彼女のさらさらとした美しい銀髪を梳かしていた。






「ガートルード。ほら。飯を食おうぜ、飯。食ってないだろ、今日」

「何で。・・・・・・分かったの、ルーカスさん?」

「分かるよ、そりゃな。昨日もお前。ろくに眠ってないんだろ?」






 来た時からずっと、腹がぐるぐると鳴っている。





(それに。目の下にもクマがある。悩ませているんだろうなぁ、俺が)





 黙って腹にしがみついているガートルードを見て、胸がとんでもなく痛んだ。






「さぁ、ガートルードちゃん? 何が食べたい、今日は? 何でも作ってやるぞ?」

「私のこと。好きじゃないくせに。優しくする、詐欺師、め・・・・・・・」

「ガートルード。お前のことはその。妹みたいに思っているから」






 自分でも苦しい嘘だとはよく分かっていたけど。でも。


 それでも彼女には通用したみたいで。





(ああ、綺麗だ。・・・・・・そんなに。俺のことが好きなのか? あーあ、どうしようもない)





 ガートルードの青く澄んだ瞳に涙が浮かんで、ぐしゃりと歪んでしまう。


 ぎゅっと、両手で俺の服を握り締めて呟いた。





「ルーカスさん。ルーカスさん。・・・・・・好きじゃないのなら、優しくしないで欲しいのにな?」

「ごめん、ガートルード。でも俺は、」

「いいもん、後で襲うから。とりあえずご飯を食べるけど!! どっ!」

「たっ、頼むから。やめて欲しいな、ガートルードちゃん!? 俺の首が飛んじゃうから! なっ!?」
































「むっ、むっ、眠い。眠いです、ルーカスさん・・・・・・眠い!」

「分かった、分かった。眠いのなら寝てろよ、まったく」

「ぐっ、だっそうぼうしよう・・・・・・むぅ」







 俺はガートルードにせがまれてチーズバーガーを作っていた。




 当の本人は背中にしがみついてしきりに眠い眠いと訴えてくる。目の前のキッチンにはまな板とバンズが置かれ、洗ったレタスと玉葱が水滴を弾いて煌いていた。



 キッチンの照明の下で苦笑して、こんがりと焼いたバンズにバターを塗り広げつつ話しかける。





「なぁ? 大丈夫だよ、ガートルード。逃げ出したりなんかしないから」

「ほんとうに? 本当に? ルーカスさん? 私から逃げてしまわない?」

「逃げ出さないよ、ガートルード。ちゃんとお前の傍に。今はいてやるから。なっ?」

「うっ、う~・・・・・悲しい。今だけ、なの」





 悲しく呟いてぎゅうっと、こちらの腹に手を回してきて、その仕草を愛おしく思って黙々とバンズにバターを塗り広げていた。



 こっくりとしたバターが滑って、バンズの表面が煌いて何とも美味しそうな色合いだった。




 彼女から逃げる気なんてさらさらないけど、一生捕まっていてもいいんだけど。





(おっと。俺も俺で。未練がましい男だな)





 深く息を吸って、吐いて。腹の底がずきずきと痛んでいた。


 どうしようもなくその痛みが悲しくて。




(最近は何だか、溜め息を吐く回数が増えた気がする。やれやれ)





 銀色のスプーンで黒い粒の浮かんだマスタードを塗り広げ、自然と笑ってしまう。



 どうやらガートルードは立ったまま眠っているらしい。



 背中に密着した腹が熱く、規則正しく上下してすぴすぴという寝息が聞こえてくる。





「ガートルードちゃん? おーい? 眠るのなら寝台に行って寝ろよ、お前」

「んー、お腹空いた。おなか・・・・・・」

「出来たら起こしてやる。まだかかるからな、これ」

「あい・・・・・んん」





 どんなに宥めすかしても一向に立ち去る気配を見せない。


 仕方ないなと笑ってスプーンを置いて、作業を中断する。





「ほら? ガートルードちゃん? 運んでやるから。寝てろ、寝台で」

「んん・・・・・ルーカスさんが。私のことを好きって言ってくれたら。ねむる」






 もにゃもにゃと眠たい目元を擦ってそんなことを言うものだからつい、腕を伸ばして頭を撫でてしまった。






「好きだよ、ガートルード。いい子だから。ほら、寝てなさい」

「子供扱いばっか。するぅ~・・・・・!! 嫌い。ルーカスさん。嫌い!」

「はいはい、嫌い嫌い。上等だよ、ほら」

「んうう~・・・・・・」





 泣き出しそうな声を出して、こちらに両腕を伸ばしてきて優しく抱き上げてやる。


 そのまま肩にひょいっと担いでやると、白い手足をばたばたとさせて不満そうに鳴き始める。




「むぁっ、むぁっ、むぁっ! 担ぐの嫌! 荷物じゃない、お姫様抱っこして欲しい、お姫様抱っこ!!」

「うるせぇなぁ、もう。この方が良いんだよ、何かとな」

「むぁ~・・・・・・・前には、してくれたのに?」

「したっけ、そんなこと?」

「したーっ! うにゃーっ!」

「いでででっ! やめろってもう! ったく。だから子供なんだよ」






 怒った彼女に髪の毛を引っ張られてしまい、腹いせに子ども扱いしてやるとすぐさま手を引っ込めて、こちらの頭をよしよしと撫でてくる。



 その優しい手つきに、あからさまだなと思って笑みが浮かんでくる。





「おいおい。はーあ。もー。まったく。優しくすればいいってもんじゃないぞ? お嬢さん?」

「んー。じゃあ。何年経ったら大人扱いしてくれる? 三日経ったら? ねぇ?」

「それは数日と言うんだ、年単位じゃない」

「だって。わたし。今すぐルーカスさんに。好きだって、そう、言って欲しいのに・・・・・・・」






 そこでとうとう限界を迎えてしまったのか、ガートルードが静かになってぷうぷうと寝息を吐き出す。




 ぐったりと重たい、熱の塊がのしかかって来て。





「っとと! はーあ。急に重くなるなぁ、こいつも」

「むぅー・・・・・・・んん」






 両腕をだらんと伸ばして、白い両足も力が抜けて呼吸が深くなる。





(寝台の前まで来たけど。・・・・・・あー。降ろしたくない、なぁ)





 すぴすぴと眠っているガートルードを渋々降ろしてやって、ごろりんと寝転がった彼女の寝顔を見て笑ってしまう。



 その白い頬に手を添えて、あどけない寝顔を見つめていた。



 愛おしく、愛おしく。眠っている今だけはと思って。





「好きだよ、ガートルード。・・・・・・好きだよ。嘘じゃない、本当だ。好きだよ」






 彼女が眠っているのをいいことに、何度も何度も愛の告白をしてみる。


 その銀髪を撫でて思う存分堪能していると、もにゃもにゃと口元を動かして。





「ルーカスさん。捕獲、するの。大嫌い、目に物を、骨の髄まで、きょーふを・・・・・・ぬぁっ」

「なんつう寝言だよ、お前は。俺の気も知らないで」





 俺だって同じなのに、ガートルード。


 その呟きに蓋をして、胸の奥が苦しく詰まってキッチンの方へと向かう。





「っとと! 忘れてた。毛布をかけてやらないとな・・・・・・・」





 寝台から引き摺り出して、でーんと寝そべっている彼女の腹に茶色い毛布をかけてやる。


 するともぞもぞと、栗鼠か何かのように包まって体を折り曲げてすやすやと眠り始めた。




 それを見て満足していたのに、眠っているガートルードが呟いた。





「ルーカスさん。ルーカスさん。なんで? なんで、一人にするの。なんで」

「ガートルードちゃん」





 涙が滲んで死にそうな声が出てしまう。疲れきった彼女の寝顔には、クマも涙の跡も浮かんでいて。





「馬鹿だな、お前も。母親と一緒かよ? ならないって言ってたじゃん。お前。母親とは違うって」






 好きだなんて言わないでくれよ、頼むから。


 ガートルードの手を握り締めると、眉を顰めたまま弱々しく握り返してきた。


 荒れた真っ暗闇の海上で、柔らかな灯台の火を何とか見つけたみたいな。




(安らかなものを見つけたけど。手放そう、大事だから。・・・・・・手放そう)





 多分、ずっとずっと俺が望んできたもの。


 思い出せないぐらい昔に、ずっとずっと望んできたもの。


 彼女の手を強く握り締めてから、歯を食い縛ってそれを放した。




「さぁ。・・・・・・さぁ。俺は、ハンバーガーでも作るか。そうするか」





 背を向けて後ろを振り返らずに、ただただ歩いていって。





「あー、なに作ろうかなぁ。他にも。なに作ろうかなぁ」





 涙が滲んで流れ落ちていって、気付かない振りをしていた。


 胸の奥が耐え難い何かでいっぱいになって、今にも蹲って泣いてしまいそうだった。


 その代わりに目元を乱暴に拭う。





(腫れないと。いいが。あーあ、本当に)





 低く笑って、彼女の為にキッチンへと向かう。





「君はとんでもないお姫様だよ、まったく・・・・・・・ガートルードちゃん」


































 ルーカスさんは嘘吐きだと思う。



 ふいに「出来たぞ、起きろ」と揺すられて、起き上がって彼を見上げてみると。



 ふんわりと涙の匂いが漂ってきて、その目元が腫れているような気がした。



 訝しげな茶色い瞳がこちらを見下ろしてくる。






「何だ? ほら。起きろ。腹が減ったんだろ?」

「・・・・・うん。でも」






 頭をわしゃわしゃと撫でられて。


 言葉を探していたが口に出したら、二度と構って貰えないような気がして。






「いい。何でもない。ご飯、食べる。ハーンバーガー! ルーカスさんのっ」

「おう。まぁ、店のよりは。不味いんだろうけど」

「いい、大丈夫。きっとルーカスさんのが一番美味しいだろうから」





 そう褒めて両腕を伸ばしてみると、困ったように微笑んで頭をぽかりと叩かれてしまった。





「甘えんな、ほら。一人で歩けるだろう? 一人で」

「うえーっ? 何で? ルーカスさん、何でーっ?」

「いいから早く。俺が一人で全部、食っちまうぞ?」

「駄目! 反対!! そんなことしたら殴る! 殴ってチーズを吐かせる!!」

「やめろよ、もー。すぐ殴ろうとする! ったく、はーあ」







 仕方が無いので自分で降りて、その背中を見つめてみると。




(やっぱりどこか。淋しそうな気がする。も~、ルーカスさんってば)





 でも、いいのだ。





(最近何だか。やたらと眠たいし、熱っぽいし。妊娠、してるといいな・・・・・・!!)






「数回試した所で無駄だろう」というのが彼の意見らしく。



 薬の効果が切れて目を覚ましたルーカスさんが、一番最初に言ったことはそれだった。



 その言葉を思い出す度に惨めな気持ちになって、胸が苦しくなってしまう。


 こちらの熱が何も伝わっていなくて悲しい。






「いいもーん、とりあえずご飯食べるから」

「フォークとナイフ。いるかー? ああ、まぁ、一応出しておくか」

「多分使わなーいっ、手づかみで食べるー」

「だよなー、お前はなぁ」







 何気ない会話を弾ませて、ルーカスさんの腕にしがみついて「やめろ! 離れろ!!」と言われてぐぐぐぐと頭を掴まれてしまったり。




 そうこうしている内にルーカスさん特製の、とっても美味しそうなハンバーガーが並べられて。



 あまりにも美味しそうな光景にぎゅっと、ナイフとフォークを握り締めてしまう。





「わっ、わぁぁ! 美味しそう! すごい!! 後で一口ください、ルーカスさんっ」

「食ってから言え、食ってから。あとまったく同じ内容のものだからな? 俺とお前の」





 目の前のテーブルには、ふっくらとした茶色いバンズに牛挽肉のパテとチェダーチーズと、赤いトマトを挟んだチーズバーガーが置かれ、その横には皮付きポテトとオニオンリングが添えられている。




 スープは真っ赤なミネストローネで、分厚く切ったベーコンと玉葱がごろごろと浮かんでいた。




 サラダは艶々のスモークサーモンとクリームチーズにマッシュポテトを添えて、美しい緑色のハーブミックスと切ったアボカドにクルトンを散りばめ、ジェノベーゼソースをかけたもの。




 おそるおそるルーカスさんを見上げてみると、いつものように頬杖を突いて、ばつが悪そうな顔をしてそっぽ向いていた。



 それを見て思わず笑ってしまう。





「ルーカスさんってば! やっぱり私のことが好きなんでしょう? ほらほらっ、あーんっ」

「それぐらい、自分で食えるって!! いいからお前はさっさと食べて帰れ! ほらっ」

「むわっ!? むわっ、むわわわ~・・・・・・」

「何だよ、それ。もう」





 いきなり突っ込まれたそれは、脂がたっぷりのサーモンとこってり濃厚なアボカドで。


 しゃきしゃきの甘い玉葱とさくさくのクルトンと、滑らかな舌触りのサーモンが堪らない。


 思わず頬が緩んで、手をぱたぱたと動かしてみる。





「ルーカスさんっ! もう一回! もう一回!! あーんって、してくれる!?」

「しない。自分で食え、いいから早く」

「じゃあ私が! 私がルーカスさんにするもん、とあっ!!」

「お前は俺の目玉にフォークを突き刺すつもりなのか? 今すぐにやめろ! 鬱陶しい」






 乱暴な言葉が並んでも悲しくならないのは、ルーカスさんが照れ臭そうで耳まで真っ赤だから。



 指を差して笑っていると、テーブルの下でがんと軽く足を蹴り飛ばされてしまった。






「いたーいっ! ルーカスさん! いたーいっ! 照れ屋さーんっ、ふふっ」

「うるせぇなぁ、もう! 手加減はしたっての! いちいち大袈裟なんだよ、お前は」

「ふふふっ、ルーカスさんてば。もう~」






 楽しく笑って、両手でチーズバーガーを持って食らいついてみる。



 密かに向かいでルーカスさんの茶色い瞳が光って、不安そうにこちらを見つめていた。



 ふんわりと甘いバンズを噛み締めると、中からじゅわっと牛挽肉のパテが塩気と共に崩れ落ちてきて、そこへチェダーチーズがもったりと絡んで堪らない美味しさである。




「んあっ! んあっ! 美味しいれふよ、ルーカスさん! あーん!!」

「いいから、それはもう。でもまぁ、美味いのなら良かった。一安心だ」





 彼がほっとしたように真っ赤なミネストローネを掬い上げて飲んでいる。


 口元に赤いのが滴っているのを見て、むらむらとしてしまったがひとまず耐えてあげる。私偉い、賢い。





「ふむ、ルーカスさん。ちゃんと私に感謝してくださいね? ねっ?」

「何? いきなり・・・・・・まぁ、でも。ありがとう? 嫌な予感がするから」

「流石は元結婚詐欺師・・・・・・!! 捕まっちゃったけど。ふふっ」

「俺を煽るのやめて? ガートルードちゃん?」

「ふふふーっ、ルーカスさんが。素直にならないから~、ふんふ~ん」







 もう少しだけこの時間が続きますように。






(なんて。願うのはもうやめる。たとえルーカスさんが私のことを好きじゃなくっても)





 たとえどんなに私が傲慢で強欲で、どうしようもなく浅はかな女だとしても。





「離さないの。離してあげないの。私ね、ルーカスさん。ルーカスさんとは違って、待つだけのお姫様なんかじゃないの」

「そうか。・・・・・・そうか」






 反論されるかと思ったのに、美しい顔を伏せて物憂げに呟いて。



 はっとする程に、穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。



 その優しい瞳に恋したのだと理解して、思わず笑みが浮かんでしまう。






「一理あるな、それは・・・・・・お前みたいに。俺は強くないから」

「そうよね、ルーカスさんは。臆病者だもんね!? ねっ?」

「ハードな言葉を使って。俺を罵るのはやめて欲しい」

「ふふふーっ、お代わりーっ! あとあーんして欲しい。でないと襲う」

「選択肢が一つしかない・・・・・・!!」

















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