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21.襲う彼女と襲われる詐欺師

 
















「待って、待って!? 怖い怖い怖い!! 何で!? 何で!?」

「さぁ。黙って早くこれを食べなさい、ルーカスさん。いい子だから」

「っ嫌だぁー!! 絶対なんか入ってる!! 嫌だーっ!!」









 懐かしく感じる無表情で彼女がぐいぐいと迫ってくる。


 あまりの恐怖に涙が滲み、早くも昨日の選択を後悔していた。






「せめてこの縄を解いてくれよ!? 頼むからさぁ!? 命だけは、命だけはどうか・・・・・・!!」

「あら、ルーカスさん」






 手に食い込んだ縄をどうにか外そうと揺らしてみるが、がたがたと椅子が揺れるだけで、目の前に立ったガートルードが妖艶に笑う。






「私はね、貴方を殺すつもりなんて微塵も無いんです。愛しているから、ねっ?」

「怖い怖い、頼む、やめて? やめて!? 俺が悪かったから!! 謝って気が済むのならいくらでも謝るけど、」

「分かっているじゃないですか、ルーカスさん。貴方はちゃんと」






 銀色のフォークに白いバタークリームを掬い上げて笑う。




 ガートルードは何故か白い総レースのパーティードレスを着ていて、細いウエストには青いリボンが巻かれ何とも可愛らしい。



 そして纏め上げた銀髪にはこれまた謎なことに、真っ白な百合が挿してある。




 怖い。それが戦闘服に見える。



 俺は椅子に縛り付けられ彼女はウェディングケーキのような、木苺とラズベリーに粉砂糖をふって白いバタークリームを塗りたくったスポンジケーキを持って、先程からぐいぐいと迫ってくる。





 そのフォークを見つめながら、何とかこの状況から抜け出そうと悪足掻きをしていた。





「がっ、ガートルードちゃん? あのっ、本当に俺は君のためを思って、」

「あら。私の人生をそこまで気にかけて下さるのなら。黙って婚姻届にサインしてくれません? ねぇ?」

「すみません。許して・・・・・・」








 どうしよう、絶体絶命のピンチだ。






(俺だって。ガートルード。お前のことが好きなのに)





 この全ての恋心を封印して何とか彼女を突き放したというのに!






「ああ。泣きそうだ。つらい・・・・・・!!」

「泣いたって。・・・・・・・放してあげませんよ、ルーカスさん」






 ガートルードがぐしゃりと美しい顔立ちを歪める。



 泣き出してしまいそうな表情に「全部嘘だったよ、ごめんね」と言って頭を撫でてやって、抱き締めてやりたい衝動に駆られる。




 でもこの両手は縛られたまんまで、歯痒い思いで縄を揺すって焦っていた。






「ガートルード。お願いだ。頼む! せめて、せめてこの縄を解いてくれないか!? なぁ!」

「ルーカスさんがこのケーキを食べてくれたら解きますよ? このケーキ、とっても美味しく出来たんです。ふふっ」

「怖い怖い、許して? 死にそう。俺、死んじゃいそう・・・・・・・!!」






 彼女の仄暗い表情を見て確信する。






「絶対に毒が入ってるって、それ!! 怖い! もう嫌だーっ!! 心中する気だろう!? 俺と!」

「あら。しませんよ、そんな。無意味なこと」

「むっ、むい、無意味なこと・・・・・・・」






 彼女がにっこりと美しく微笑む。


 その美しい微笑みにこの胸は高鳴って、狭苦しくなっているというのに。





(ああ、歯痒い。何で俺は。縛られて、何も、出来ないんだろうか・・・・・・・・!!)






 愛おしいのに、ちゃんと決意して突き放したというのに。






(まだ残っている、未練が。このまま彼女のプロポーズを受けたら、それは)






 どんなに幸せなことだろう、彼女と歩む人生は。





「まともに働いて。前科も無くて。真面目で誠実で、君のことをちゃんと愛してくれるような。・・・・・・そんな男と一緒になった方がいい、君は」

「嫌です。そんなの。ルーカスさん」






 胸が引き裂かれそうな思いでそう話しているのに、こちらの決意が揺らぐようなことばかりを口にする。






(辛い。・・・・・・辛い。息が吸い込めない)





 俺だって彼女と一緒にいたいのに。





「俺だって。・・・・・・俺だって嫌だよ。こんな風に縛られたくない、束縛されたくない」

「ルーカスさん・・・・・・でも、私は」






 そこでぐすんと涙ぐんでしまい、胸の奥が引き攣ってどうしようもなくなる。


 今すぐ彼女を抱き締めてやりたいのに、手首には縄が食い込んでいる。


 動かせないことに絶望していた。





「っガートルード! 頼む! せめて、せめてこの縄を解いてくれないか!? あと冷静になって俺の、」

「嫌だ!! いいから早く食べてよ、ルーカスさんっ!」

「むごぉっ!?」






 銀色のフォークを突っ込まれ、その甘い塊とふわふわのスポンジをうっかり噛み締めてしまって。




 かなり美味しく食べて、蒼白になってごくりと飲み込んでしまう。



 俺がそれを飲み込むとガートルードが満足げに微笑んでいた。


 背筋がぞっとして、肌が粟立ってのろのろと彼女を見上げる。





「ガートルードちゃん・・・・・・? このケーキには。一体、何が入っているんだ?」

「私の愛情とユージーン特製のお薬です。うふふっ」

「駄目だ!! 最悪なもんが入ってたーっ!! 駄目だ! 死ぬっ! 死ぬやつだ、これっ!! 終わった!!」

「も~、ルーカスさんってば、も~」






 怖い怖い、怖くて堪らない。



 心なしか腹が痛くなってきて、暑さと寒気に襲われて心臓がどくどくと脈打っている。



 乾いた舌を動かして何とか声を発する。





「なぁ、頼む。ガートルード、頼む。一体、それには何が入っていたんだ? なぁ?」

「だから私の愛情ですって。デザートを最高に美味しくするためのスパイスなの。ふふっ」

「怖い~、怖い~、頼むからもう許して? やめて?」

「可愛くお願いしたって無理ですよ、ルーカスさん?」

「ひっ・・・・・・!!」






 彼女がくいと俺の顎を持ち上げて、その青い瞳を恍惚と見上げていた。



 ああ、ずっとこうして彼女の傍にいられたらいいのに。


 彼女の夫として。





「ガートルード・・・・・・お願いだよ、この縄を解いてくれ。頼むから」

「ルーカスさん、ケーキ全部。まだ残っているから。いい子だから食べましょうね? ねっ?」

「ひっ、まっ、まだ残ってる・・・・・・!! ガートルード、君は、」

「よいしょっと。もう少し大きく口を開けて欲しい」

「っぐ、ぐぅ」





 次々とケーキを突っ込まれ、それでも吐かずに食べてしまうのは彼女のことが好きだから。





(この薬物入りケーキでさえも。もしかしたら一生食べられないもので、俺は)





 少しでも彼女との時間を大切にしたいのに、こいつは何もかもを無視して俺を椅子に縛り付けて、よく分からないものが入ったケーキを突っ込んでくる。悲しい。





「っう、怖い。本当に本当に、それ。一体。何が入っているんだよ・・・・・・・?」

「じきに分かりますよ、さーってっと。本でも読もうっかなぁ~!」

「えっ? この状況で!? 俺、縛られたまんまなんだけど!? ガートルードちゃん!?」

「ん~?」

「いや。ん~? じゃなくってさ!? おい!?」






 彼女は白いドレスの裾を翻して、目の前のソファーに腰掛けるとどこからか本を取り出して。



 ふんふんと鼻歌を歌いながら、本を読み始める。



 椅子に縛られている俺はそれを見て、開いた口が塞がらなかった。





(えっ? えーっ?・・・・・・それって。それってありか!? えーっ・・・・・・?)





 がたがたと椅子を揺らしてみたものの、彼女はちらりと一瞥してからどうでもよさそうにふんと鼻を鳴らして本を読み始める。





「おっ、おい? いつになったら一体解いてくれるんだよ!? ケーキはもう、全部食っただろ!?」

「薬の効き目が現れるまで。放置しておく予定です。下ごしらえっ! ふふっ」

「こっわ、こっわ!! 許して欲しいんだけど!? マジで!!」

「ん~? ん~」 

「適当かよ、返事・・・・・・!! ああ、どうしよう?」







 怖い怖い、どうしよう?





(薬って? エイドリアンが? 何で? 協力したのか?)





 あいつと彼女が繫がっているだなんて想像しただけでぞっとしてしまう。





「怖い・・・・・・!! 混ぜるな、危険だろう。それは・・・・・!! 怖い! すっごく怖い!!」

「ふふっ、本当に。ルーカスさんは気が弱くって繊細で、か弱いお姫様ですねぇ~。ふふっ」

「まだその思い込みと設定。続いてたの・・・・・・?」

「だってそうなんだも~ん、ぷっぷ~ん」





 彼女がくちびるを尖らせて、タイトルが「弱肉強食の世界」という本を読んでいる。怖い。


 あれも俺への嫌がらせの一つなのか?





(ああ、俺。どうなるんだろう? 怖い。・・・・・・でも。薬ってまさか)






 毒ではないと言った。


 ユージーンと名乗っているエイドリアンは生粋の変人で、気紛れな野良猫のようで何故か俺にべったりと執着している。





(おおかた。俺の匂いを辿って、彼女と接触したんだろうが・・・・・・まさか)





 媚薬とかそんな類の薬だろうか?



 そこでふっと彼女の服装を思い出す。



 目の前に座っている彼女はまるで結婚式の花嫁のような、白い総レースのドレスを着ていて。



 ざっと全身から血の気が引いた。





「まさか。・・・・・・ガートルード。まさか」

「ルーカスさんは。察しが良い人ですからね」





 ぱたんと、それまで読んでいた本を閉じる。



 彼女が青く澄んだ瞳でにっこりと綺麗な微笑みを浮かべていた。それなのにその瞳はちっとも笑っていない。



 こちらへの執着と恋心と、怒りと憎しみが織り交ざってちらちらと燃え上がっている。



 赤いくちびるを開いてゆったりと笑みを描く。





「私。・・・・・・私ね? ユージーンの提案を。とっても素敵なものだと思ったの、ルーカスさん」

「ていあん。てい、提案って・・・・・・?」

「手に入らないのならば。穢して、犯して、嬲って、滅茶苦茶にすればいいって」

「ガートルードちゃん」






 死にそうな声が出て、心臓がどくどくと脈打っていた。






(これはまずい。俺は、彼女のことが好きなのに。・・・・・・今日の服装だって。あんなにも綺麗なのに)






 この女は悪魔か何かか、と考えて。


 この状況に途轍もなく興奮している自分もいて、くらくらと点滅する視界の中で信じられない事実に直面していた。






「もしかして、俺って。ドマゾなのでは・・・・・・?」

「あれっ? 興奮してます? ひょっとして。まぁ、その方が。都合が良いんですけどね?」

「今のって聞いてた!? 口に出してた!?」

「出してた、出してた~」

「え~、嘘だろ。終わった・・・・・・・!!」

「ふふっ、可愛い。ルーカスさんってば、もう」






 今まで彼女に散々振り回されてウィスキーボンボンや生レバーを突っ込まれたり、腹に飛び込まれたり朝の四時に叩き起こされたり、寝ぼけて足を齧られたこともあるのに俺は。






「しっ、信じられない。自分で、自分のことが信じられない・・・・・・・!!」

「認めてしまった方が楽じゃないですか? ルーカスさん。全部何もかも」






 今まで散々振り回されてきたのに、床掃除やお菓子を作るのだって全部全部彼女の為に。



 思考が混乱して、体の奥が徐々に熱くなってきてその熱で涙が滲んでくる。





「ガートルードちゃん・・・・・・君と出会ったのは本当に。悪夢のような出来事だったよ、本当に。君さえいなければ俺は、俺は」

「お願いだから」






 ぐいっと、顎を持ち上げられる。



 朦朧として見上げれば、いつの間にか泣き出しそうな表情でこちらを見下ろしていた。



 その青い瞳には涙が浮かんでいてごめんねと謝りたくなった。



 無駄だとはよく分かっていても彼女を突き放す為に演技をしていたいんだ、俺は。





「ごめん。ガートルード。ごめん。・・・・・・俺を、解放してくれないか?」

「嫌です、お願い。私の傍にいてよ、ルーカスさん・・・・・・」





 泣き出しそうな声でくちびるを重ねてきて、ふっと離れてその甘い匂いに酔っていると囁いてくる。





「一生、私の傍に。・・・・・・・貴方がどんなに。泣いて嫌がって叫んだとしても」

「ガートルード。ガートルード、俺は」

「お願い。もう何も言わないで、黙って、私の傍にいて欲しい・・・・・・・!!」






 懇願されて縄がしゅるりと解かれて。




 待ち望んでいた筈の瞬間はよく思い出せなくて。



 朦朧とする意識の端で彼女が泣いて泣いて、俺の体にしがみついていた。



 ずっと焦がれていた瞬間の筈なのに彼女が泣いて「それでも傍にいて欲しい」と、懇願して泣いていて。




 あまりの出来事に絶望していた、彼女がまさかこんな手段に出るだなんて。思ってもみなかったから。




 俺は彼女をこよなく大事にしたいと思っていたのに。


 ずっとずっと。










































「浮かない顔だね? ・・・・・・後悔。してる?」

「してないけど、でも。拒絶されたのが悲しかったの、ユージーン」





 低く笑って「そっか。それならしょうがないね?」と呟いて、とぽとぽと酒を注ぐ。



 ここはホテルのラウンジで夜の一人歩きを心配したユージーンが「迎えに行くよ、君のこと」と言ってくれて、最近はよくこうして安全な場所で会っている。





(帰り道も大丈夫だって言ってるのに、送ってくれるから。ルーカスさんが言うみたいに悪い人じゃない)






 あの時のことを考えると腹が立ったのでやめる。悲しい。




 向かいの黒いソファーに座ったユージーンはいつもの青黒いドラゴンのタトゥーを施した顔で笑う。




 今日の服装は少しだけフォーマルで金色の鎖を付けてはいるものの、白いTシャツに黒いジャケットを羽織って、いつもは飛び跳ねている黒髪も後ろへとかっちり固めている。




 美しい額を出して夜の照明を浴びていると、本当にマフィアか何かのように見えた。



 不思議なオレンジ色の瞳を細めて、グラスを持ち上げる。





「いいんだよ。彼が全部悪いんだから。最初から君のことを受け入れていれば良かったのに。ねぇ?」

「私もそう思うわ、ユージーン。すぐに、その。妊娠できるといいけど」

「まだだよ。根気が必要だ。何回か、試してみないと。それにしても、ふふっ」





 甘く笑って、透明なジンの液体を呷って舌なめずりをする。





「ルーカスの歪んだ顔。俺も見たかったなぁ。絶望しただろうに。あいつのことだからさ?」

「してたわね、絶望。私を甘く見ているもの、ルーカスさんは」

「だよね~、ははっ。あーあ、おかしい」





 腹を抱えてグラスを傾けて、水か何かのようにごくごくと飲み干している。


 その姿を見て憂鬱になって自分の腹を擦っていた。





「欲しいものは欲しいと。そう、素直に言えばいいのに。ルーカスさんは意地っ張りなんだから」

「仕方が無いよ、彼は臆病だもん。俺だってそうだよ、彼に嫌われるのが怖い」

「もう。酔ってきたのね? ユージーン」





 真っ赤な顔で低く笑って、空っぽのグラスを持って口ずさむ。



 それが古い古い、ウェディングソングで苛立ってしまった。



 夜のラウンジにふんふんと場違いなウェディングソングが響いて、窓に広がる夜景が美しい。




 その硝子窓に自分の陰鬱な表情が映って、溜め息を吐く。





(こんなことをしても、ルーカスさんは私のことを。・・・・・・・好きになってくれないのに)





 それでもどうしても傍にいて欲しいのだ。


 悲しくなってきて、ユージーンが勝手に頼んでしまった葡萄ジュースを一気に飲み干す。


 目の前でひゅうっと口笛を吹いて、愉快そうに手を叩く。





「いいねぇ、ガートルードちゃん。お嬢さん。悲しいことは全部飲んで忘れてしまうといいよ。覚えていても自分を削ってしまうだけだからね?」

「っう、でも。お酒じゃないの。お酒が飲みたいの・・・・・・!!」

「駄目だよ、肝臓は大事にしなきゃ。それに赤ちゃんが宿っているかもしれないよ? 君のお腹に。ねっ?」





 その言葉を聞いて、グラスを持ったまま眉を顰める。





「本当に。あっという間に。妊娠できるといいけど」

「大丈夫じゃない? あいつ過去にも遊び相手を孕ませていたし?」

「どうなったの、それ?」

「相手の女の子が堕ろしちゃったよ。子供なんか産みたくないって言って。ふふっ」





 何が面白いのか笑って、自分のくちびるを撫でていて。


 節くれだった指に金の指輪が輝いて、ぎらぎらと眩い光を放っている。


 ユージーンは恍惚とオレンジ色の瞳を細めた。





「あぁ、いいなぁ。あの時も俺、悲しかったんだ。女の子が堕ろしちゃって。ルーカスの子供」

「子供好きなの? 意外だわ」

「ううん、ルーカス君の子が好きなんだよ。抱っこしてオムツも替えてみたいな」

「何だか。気持ち悪いのね、ユージーン」

「ふふっ、いいんだ。俺はね、ちゃんと。ルーカス君のことを大事に思ってるから。ふふっ」





 そこで仰け反って、逞しい喉をさらして「お友達なんだ、俺たち」と笑って歌い始める。


 ふんふんと歌っていたが、話の続きが気になって聞いてみる。





「ねぇ。ユージーン? ルーカスさんが堕ろせって言ったの? がっかりしてた?」

「いんや。女の子がね? 可愛い女の子だったから。赤ん坊に時間を取られたくないんだって。さっさと堕ろしちゃったよ、ふふっ。可哀想に」





 そこでまた元の姿勢に戻って、不思議なオレンジ色の瞳で見つめてくる。


 夜のラウンジで見るとそれは妖しい光を放って、夕暮れ時の空のようにも見える。


 沈みゆく太陽が燃え尽きる前みたいな色合い。





「ルーカス君はね。ほっとしてた。説得する手間が省けたって。ふふっ、結婚もしたくなかったから」

「私と。一緒ね、彼女・・・・・・・私はルーカスさんのことがちゃんと好きだけど」

「そうだねぇ~、あの女の子は。彼に、特に何の期待もしてなかったからねぇ~」





 また酒を注いで「聞き分けの良い女だった、本当に」と笑って、自分との関係も仄めかしてこちらを見つめてくる。




「ルーカス君は。一筋縄でいかないからね? ここで雁字搦めにしておかないと、すーぐに噛み付いてくるから。ねっ? ちゃんと分かってる?」

「ちゃんと分かってるわ、ユージーン」





 大きく仰け反って、グラスの底に溜まっていた葡萄ジュースを飲み干す。


 数滴の甘いジュースを堪能しつつ、くちびるを舐めて愉快そうに笑っているユージーンを睨みつけてやる。





「一切の情け容赦はしない。何が何でも理解させてやる。どいつもこいつも邪魔だわ。ルーカスさんと私を引き離そうとするの」

「凄いや、ガートルード。俺は応援しているよ? 君の初恋をさ? ふふっ」




 ユージーンが「ああ、楽しいなぁ。乾杯だ」と笑って、ジンを注いでくれて、そのまろやかな液体をぼんやりと眺めていた。



 ふと見上げるとユージーンが人差し指を立てて「ほんの少しだけね?」と言い、ぱちんとウインクをしてみせる。



 それを見て笑って、景気づけと言わんばかりに勢い良く飲み干した。


 喉が焼けるような熱さに涙が薄っすらと滲んできて。






「それでも。それでも好きなんだから。仕方が無いじゃない、ルーカスさん・・・・・・・・」

「大丈夫だよ、ガートルードちゃん。俺が味方だから。二人で楽しもうね? ふふっ」






 何としてでも彼を手に入れよう、そうしよう。


 私はルーカスさんと違って、か弱いお姫様でも何でもないのだ。


 この世は弱肉強食なのだから。


 きっと力尽くで手に入れてそれを一生大事にしていけばいい。


 たとえ彼の愛情が手に入らなくとも。


 それでもいいから、私の傍にいて欲しいのだ。


 静かに目を閉じると、あの時の熱を思い出した。




(きちんと、妊娠。出来てるといいな・・・・・・・・)































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