20.一世一代の嘘を彼女に捧げてみようか
「それでね。ウィリアムに。兄さんに。好きだって告白されたの。・・・・・・分かる?」
ああ、分かるとも。ガートルード。
二の腕を組んで愛しい名前を呟いていた。
シャンデリアが輝いている下で、赤い絨毯に座って彼女と向かい合っていた。
俺はいまだに悪夢のようなフラミンゴ柄のパジャマを着ている。
そしてガートルードは何故か黒いジャージを着て、重たそうなリュックサックを横に置いている。
(ああ。出来ることなら。お前とは会いたくなかった。一生)
あの温もりと人を慈しむ楽しさを。
(知らなければ。もっと楽しく生きれたのに。恨むよ、ガートルード。お前のことを)
初めて人を本気で好きになった。
(家族のことすらも。どうでも良かったのに。いや、家族なんて。ただのゴミの集まりでしかなかった)
それなのに、一体。
(どうしてだ? ・・・・・・どうして俺は。こんなにも傷付いている?)
あと十歳若かったら彼女と駆け落ちしていただろう。
でも俺は、十九歳の青臭い少年ではなく二十九歳のくたびれかけた大人である。
(ガートルード。ごめん。でもこれが・・・・・・これが)
一番お前の為になるし、これこそが本物の愛情だろう。
(出来ることなら。俺が大事にしたかった、彼女を)
そのことを考えると涙が滲んでくる。
(それでも俺は。手放すよ、ガートルード。お前の為にお前を騙して。傷付けて。楽にしてやるよ)
あのウィリアムとやらはきっと彼女のことを大事に愛してくれるだろう。
「そうだな。・・・・・・二人ならきっと、良い家庭が築けるんじゃないか?」
のろのろと、彼女がその顔を上げる。
その青白い顔に喚いて泣き出したくなった、胸の奥にがつんと衝撃が走った。
いつものように甘えて縋って、泣いてと出来たならと考えていた。
そんな激情は覆い隠して平然と、冷たい表情の詐欺師を装っていた。
(誰かを守る為に。嘘を吐くのは。これが初めてのこと、だ、な・・・・・・・・)
胸が痛い、引き裂かれてしまいそうだ。
それでもやらねばならないことがある。
(好きだよ、ガートルード。本当に本当に好きで大事なんだ)
だから全てを耐えよう、全てを飲み込んでどんなに虚ろになってもこの先の人生を生きて行こう。
(ああ、ガートルード。いつか俺は思い出すのかな? やっすい酒を飲んで働いて。泥のように眠りながら。どっかのボロアパートで、お前の銀髪を思い出すのかな?)
安月給で彼女とお揃いの高価なシャンプーを買ったりするのかな。
深く息を吸い込むと、また胸が痛んだ。
(子供のオモチャ売り場を通るたびに。お前のことを思い出すんだろうな、俺は)
たとえ一生「あの時駆け落ちしてれば良かった」と後悔して不幸になるのだとしても。
「お前には。幸せになって欲しいよ、俺。元々、そんなに好きじゃなかったし」
「嘘だ。・・・・・・嘘だ、そんなの。ルーカスさん」
そうだよ、全部嘘だ。
(でも。好きなんだ。好きなんだよ。だから嘘を吐こう、一世一代の)
生半可な嘘じゃ通用しない。
(だから。ありとあらゆる技を駆使して。お前を騙してみせるよ、ガートルード)
一世一代の嘘を吐いてみせるよ、ガートルード。
こんな愛し方しか出来ない男でごめんと、心の中だけで謝っておく。
ああ、ままならない。
(大事に。したかったのに)
泣かせたくなんてなかったのに、でも。
穏やかな微笑みを浮かべていた、それは相手の苦しみに寄り添う気がないという意思表示。
大事な話をしているのに穏やかな微笑みを浮かべて、相手の心を徹底的に傷付ける。
人は無関心さを最も嫌う。
「俺は。それでいいと思うよ、ガートルード。うん。別にいいんじゃないか? それで」
「結婚。・・・・・・したいと思ってるの。私だけですか、ルーカスさん?」
油断のならない青い瞳で射抜いてくる。
その激情が秘められた青い瞳に嬉しくなってしまった。
(こんなにも彼女に愛されてるって。救いようのない馬鹿だな、俺は)
困ったような微笑みを浮かべて、あえて彼女の銀髪頭を優しく撫でてやって。
幼い子供をあやすような触り方にガートルードが顔を顰めて、ばっとこちらの手を振り払う。
そしてぎりぎりと、女性らしい不穏さで睨みつけてくる。
「ああ、懐かしいな。そんな目。・・・・・・とっくの昔に見飽きたけど」
「っルーカスさん、私は」
「もう帰りなさい、ガートルード。お前のパパやママだって。心配しているだろう? なっ?」
あえて優しく優しく、困ったような微笑みで話しかける。
震える冷たい手を握り締めて、彼女が銀髪頭を下げて俯いていた。
胸の奥が痛い、助けて欲しい、この痛みから逃れたい。
(俺だって。俺だって大事にしたかったんだよ、ガートルード!)
血の滲むような叫び声を飲み干して穏やかな微笑みを維持する。
(どうかどうか。俺が最後まで彼女を騙せますように。どうか俺が泣いてしまわないように。泣いて縋って、彼女にごめんねと、そう、言いませんように)
上手く騙せますようにと、息を止めたまま何百回も唱えて願っていた。
(大丈夫、大丈夫。俺はやれる。俺はちゃんとやれる、今までもこうやって女を騙くらかしてきたんだ、やれる、やれる。大丈夫、俺はちゃんと上手くやれる)
胸の奥が痛い。息が出来ないほどに痛くて、蹲りたくなってしまう。
ガートルード、ガートルード。
(でも。全部諦めるよ。俺の幸せも欲も何もかもを諦めるよ、ガートルード)
全部全部、お前の為に諦めるよ。
(お前の為なら。どんな苦労だってしよう、ガートルード。どんなに虚しくとも、後悔しても)
それほど俺は彼女のことが好きだった。
思わず涙が浮かんできて、彼女の手を握り締めて平静を装って。
「な? ・・・・・・あんまり。我が儘を言って困らせるもんじゃない。なっ?」
「やだ。お願いだから。私の傍にいてよ、ルーカスさん・・・・・・・・」
いてあげたいよ、俺だって。
とうとう涙が抑えきれなくなって、彼女が俯いていることに感謝していた。
(駄目だ。涙なんか。浮かんでいたら。ばれてしまう。やめなくては)
目元をさり気なく拭って、気持ちを立て直して切り替えた。
(そうだ。俺は詐欺師だ。目の前の女をうまい餌だと思えばいい)
どこにでもいるつまらない女。
(自己肯定感が低くて。どこにも居場所が無くて。毎日を虚ろに過ごしている、どこにでもいるつまらない女)
その言葉でかちりと切り替わった。
(まだほんの少し、胸の奥が痛むけど。大丈夫だ、俺は。ちゃんと彼女を騙せる)
彼女の冷たい両手を握り締めてふと見れば、黒いジャージの肩が頼りなく震えている。
一瞬だけ愛おしさが過ぎった、彼女を抱き締めてやりたくなった。
「ガートルード、悪いが俺は・・・・・・今までのは全部嘘だったんだ」
「嘘だ! それこそ。絶対に嘘だ・・・・・・!!」
嘘だよ、初めて本気で誰かのことを好きになったんだ。
でも言わない、言ってあげない、本当に好きだから。
気持ちを立て直して彼女の手を優しく握ってやる。
幼い子供に言い聞かせるみたいに。
「でもな? こうでも言わないと。お前は納得しないだろう? なっ?」
「どっち? ・・・・・・私のこと。好きか、嫌いか。どっちなの?」
「勿論。好きだよ、ガートルード。だからこそウィリアム君と結婚して幸せになって欲しいって、」
そこでばっと、彼女が手を振り払う。
涙をぼろぼろと零して、信じられないとでも言いたげな表情で見つめてくる。
あえてたじろいで困ったように微笑んで、その涙を拭ってやる。
「ごめんな、ガートルード。・・・・・・・悪いが、俺は。そこまで本気にはなれないから」
「ルーカスさん。・・・・・・・ルーカスさん」
それなりに好きな振りでもしておこう、そうしよう。
(本当は。結婚したいぐらい。好きだけど。ああ、やめよう。こんなこと)
首筋がちりちりと熱くなって、体の中に苦しい熱が溜まってゆく。
(彼女を。幸せにしたかったのに。泣かせたくなかったのに!)
苦しい叫びに蓋をした。
(こうなるとは。よく分かっていたのに。惹かれてしまって。・・・・・・大事に、してしまって)
全部全部無駄だった。苦しい、どうしようもなく。
鼻の奥がつんとして涙が浮かんでくる。
穏やかな微笑みを浮かべて、顔を覆ってぐすぐすと泣いている彼女を見つめて。
「確かに。俺は。・・・・・・お前のことが好きだったよ? でも、そんなことを言われるとは思ってもみなかったんだ。結婚なんて、そんな。面倒臭いことを」
「だって、ルーカスさん。兄さんとも。パパとも浮気するから・・・・・・!!」
「してない! 根も葉もないことを言うのをやめろ!! ウィリアムはお前のことが好きなんだろうが!」
ああ、そうだ。
(あの馬鹿みたいに真っ直ぐで。分かりやすい少年と結婚した方がいいよ、お前は)
ああいうタイプの男は、意外と潔癖で浮気もしない。
「繊細な所もある少年だし。きっとお前にも優しくしてくれて、」
「っやだ! 私は! ルーカスさんにっ、優しくされたいの・・・・・・!!」
声を振り絞って、ぎゅうっとしがみついてくる。
思わず抱き締め返して、彼女の耳元で泣き出しそうになっていた。
(我慢だ。我慢・・・・・・!! 泣くな、泣くな、俺)
頼むから泣かないでくれよ、俺。
(泣いたら。全てが水の泡になる。なってしまうから。だから)
歯を食い縛って耐え忍んで、涙で顔を歪ませて、愛おしく抱き締めないように細心の注意を払って。
「ガートルードちゃん・・・・・・はーあ。ったく、もー。お前もなぁ、困るなぁ」
「お願い、ルーカスさん。そんなこと言わないで。・・・・・・私と、結婚して」
断られるのを覚悟している声だった。
(期待に、応えなくては。彼女の幸せの為にも)
あえてぎゅうっと強く抱き締めて、兄のように優しい声で語りかける。
「ガートルードちゃん? ほら。・・・・・・答えはもう、分かりきっているだろう? なっ?」
「でも、ルーカスさん。聞きたいの、ルーカスさんの口から・・・・・・・!!」
面倒臭そうに深い溜め息を吐くと、彼女が怯えたように体を揺らしていた。
そのまま抱き締めて、ちょっとだけ不機嫌そうな声を出して。
「分かった。なら言ってやるよ、ガートルードちゃん。俺は確かにお前のことが好きだった。でも結婚したいだとか。一生傍にいて大事にするだとか。そこまでを考えるほど好きじゃない」
「遊び。だった? それとも。軽い、気持ちだった?」
彼女がこちらから離れて、その虚ろな青い瞳を見て叫びたくなった。
「違うんだよ! ガートルード! 違うんだよ!!」と泣いて縋って、優しく優しくキスでもしてやりたいような、そんな激情に駆られながらも面倒臭そうな微笑みを浮かべていた。
「こうなるとは。・・・・・・思ってもみなかったんだ」
「私が。本気で惚れるって? そう?」
「ああ。お前はもう少し他の女とは違うと、そう思っていたんだ」
期待外れだったとでも言いたげに頭を掻いて、深く溜め息を吐いてくぁっと欠伸をする。
「さっ! そんじゃあ。気が済んだのなら帰ってくれるか?」
「ルーカスさん。私は、」
「何だ? お前な? 一体今何時だと思ってるんだよ? 俺は眠たいんだよ、さっきから」
彼女の絶望した表情を見て傷付いていた。
今すぐ嘘だよってそう、言ってあげたい。
赤い絨毯から立ち上がって、こちらを見上げてくる彼女を面倒臭そうに見下ろす。
「話なら。また明日でもいいだろ? もう少し色々。考えてくれないか?」
「分かりました。ルーカスさん、私。・・・・・・・帰ります」
帰らないでくれと、引き止めたくなった。彼女の腕を掴んで引き止めてしまいたい。
(やけにあっさりと。帰ってしまうんだな・・・・・・・・)
ガートルードがもそもそと、黒いリュックサックを背負って泣き腫らした目で見つめてくる。
「それじゃあ。また、明日。・・・・・・明日も来ます、ルーカスさん」
そこで深く溜め息を吐いて、疲れきった様子の彼女の頭を撫でてやる。
最後かもしれないと思うと美しい銀髪をいつまでも触っていたい気持ちとなって、優しく丁寧に梳かして、一生忘れないようにこの感触を指先に刻み込んでおく。
さらりと指の間で流れ落ちていった。
「もう来なくていいよ、ガートルード。面倒臭い。俺の首もかかってるし」
「まだ。・・・・・・お別れする。覚悟が、出来てないから。だから」
そこでぐすんと鼻を鳴らして目元を擦る。
「ああ。ほら? そんな風に擦っちゃ腫れ上がるだろう?」と言って拭い取りたくなって、ぐっと耐えて生唾を飲み込んだ。
苦しい、触れたい、彼女に触れたい。
「だから。それまでは。ここに来ます。でも、いつかは諦めます。ルーカスさんのことを」
「ああ。出来るだけ早く諦めてくれ。そんで俺を元の牢屋へ返してくれ」
そこでガートルードがやけに青く澄んだ瞳で見上げてくる。
こちらの嘘が看破されそうでたじろいでしまった。
「・・・・・・何だ? ガートルードちゃん? まだ他に何か言い足りないことでも?」
「いえ。・・・・・・本当に本心かなと、そう思いまして」
いつもとは違う口調にどきりとする。
(まさか。見破られている? そんな筈は無い。そんな筈は・・・・・・)
こちらの動揺を無視して、彼女が無表情で見上げてくる。
(ああ、前は。そんな顔をしなかったのに。・・・・・・俺の、せいだ)
出会った頃と同じ無表情に落ち込んでしまう。
(俺のせいだ、俺の・・・・・・・)
笑っていて欲しいのに上手くいかない。
首筋が熱いのか寒いのかよく分からなくなって、彼女がこちらの手を握り締める。
柔らかな温度に一瞬だけ心臓が跳ね上がった。
「どうした? ・・・・・何?」
「いえ、脈を取ろうかとそう思って。あっ」
その瞬間ばっと彼女の手を振り払って、ばくばくとする心臓を押さえて強く睨みつけて。
(やっべえ!! あっぶね~、やばいやばい、いきなり医学的なことを持ち出してくんなよ、こいつ!)
青ざめて睨みつけてやれば、彼女がにっこりと綺麗な微笑みを浮かべる。
「それじゃあ。また明日。ルーカスさん。ばいばい」
「あっ、ああ・・・・・・ばいばい」
がしゃんと、牢屋の扉が開いて。
煌く銀髪を揺らして、かつかつと規則正しい靴音を響かせてガートルードが去ってゆく。
壁に背を預けてそのままずるずると座り込んで、自分のやけにうるさい心臓を押さえていた。
顔が赤くなっているような気がする。
「大丈夫? 大丈夫だよな? ・・・・・・ちゃんと。騙せたよな!?」
分からない、でも。
(これが限界だった、これが。くそっ! さっきの手を振り払うんじゃなかった!!)
明らかに動揺していた、駄目だ。
茶髪頭を滅茶苦茶に掻いて床に座って、息を深く吸い込む。
「ガートルード。・・・・・・ごめん。好きだよ。愛しているんだ、お前のことを」
だからどうかどうか、ウィリアムと幸せになってくれ。お前はきっと何も納得しないんだろうけど。
「ガートルード・・・・・・・!!」
悲鳴のような声が出て暫くの間、みっともなく泣いていた。
こんなにも苦しい、諦めるのが。
「私ね? 今とっても機嫌が悪いの。二度は言わないわ、ユージーンを出して」
「っぐ! 何だ、お前・・・・・・!!」
その涼やかな声に思わず笑ってしまう。
(ああ。不思議だな、ここが分かるだなんて)
ルーカスの匂いを纏って、輝く銀髪を揺らして青い瞳が獣のように光っている。
真夜中のバーにて、彼女だけが美しく高貴な獣のようだった。
たとえ黒いジャージ上下を身に付けていたとしても。
「俺はここにいるよ、ガートルード。頼みたいことって一体なんだい?」
「凄いのね、ユージーン。もう分かるの?」
「分かるよ、君の言いたいことなら。何でもね」
涙の跡がついた白い頬を撫でると、彼女が不愉快そうに眉を顰めた。面白い。
酒の入ったグラスを傾けて揺らして、指先でふちをなぞっている。
「何かな? ルーカスのこと? 失恋しちゃったの?」
「まだ終わってないから。失恋じゃないわ、でもね」
俺が差し出した水を一気に呷る。どうも喉が渇いていたらしい。
涙で潤んだ青い瞳が仄暗い照明に照らされて、一番星のようにきらきらと輝いていた。
黒いカウンター席に座って彼女と並んでいる。
ご機嫌でテーブルの上のピーナッツを取った、噛み砕くと安っぽい塩の味がする。
「それで? どうするの、哀れなルーカス君を?」
「どうもしないわ、一生縛り付けておくだけ」
そこでひゅうっと口笛を吹いてやる。
目の前のバーテンダーが虚ろな瞳で煙草を吸っていた。その瞳は仄暗く、美しい彼女を見つめている。
「ふっ、駄目だよ。君みたいな女の子が、ここに来ちゃ」
「向かってくる男は全部殴り倒すから大丈夫」
「そうだね? その辺りのことについては。何も、心配がいらなさそうだ」
彼女の銀髪からぷんとルーカスの匂いが漂ってくる。
かすかに濁るような執着と涙の匂いに笑いが込み上げる。
「ふふっ、いいよ。手伝ってあげる。君の奴隷にもなってあげるよ? どう? 嬉しい?」
「酔っているのね、ユージーン。でもいいわ、こちらに手を伸ばしてこなきゃ」
美しい横顔を眺めていた。
まるで絵画の女性のようにあらぬ方向を見つめている、彼女の幼い心はルーカスに囚われたまんまで。
「つい。手助けしたくなっちゃうな? ・・・・・・俺がいいものあげちゃおうっか?」
「なぁに? いいものって」
恋人を抱き寄せるみたいに彼女を抱き寄せる、彼女が意外にも大人しくされるがままとなっている。
気を良くしてもたれかかって、その華奢な肩に腕を回していた。
「ルーカス君が。素直になるもの。手に入らないのなら。徹底的に犯して、穢して、嬲ってしまえばいい」
「それ」
彼女が獰猛に笑った。その声と笑みに恍惚としてしまう。
(ああ、彼女も。俺と同じ人間だ。分かるよ、ルーカス君は可愛いんだもん)
ついからかいたくなってしまう。
彼女が囁くような妖艶な声を出して。
「とっても。名案だと思うわ、ユージーン。手を貸してくれる? 私に」
「勿論、ガートルード。だって君と俺は。お友達だから」
滑らかな銀髪を梳かして楽しんでいると、ルーカスの悔しそうな顔が浮かんできそうで。
思わず笑みを浮かべて、ガートルードにもたれかかっていた。
「ああ。楽しいなぁ、ガートルードちゃん。きっと二人の子供なら。可愛いよ、抱かせてくれる?」
「いいわよ。ただし、赤子の時だけ限定」
「ははっ、つれないなぁ。いいよいいよ、それでも」
強い酒で舌を濡らして笑う。
ああ、彼の顔を見るのが楽しみだ。
俺の入れ知恵だって知ったら、彼は何て言うだろう?
ゆったりとした微笑みをエイドリアンは浮かべていた。
いつまでもずっと。




