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19.彼女の涙と詐欺師の未練

 

















「ねぇ、ルーカスさん? いつから私のことが好きだったの? ねぇ?」

「・・・・・・知らん! 言いたくもない」






 後悔していた。




(言うつもりなど。微塵も無かったというのに、俺は・・・・・・・)





 とんだ失敗だ。大失態だ。




(いくら俺が。彼女のことを好きだと言っても。何にもなりはしないというのになぁ)





 だから手放そうと思った。


 いつもみたいに女を騙して「あれは全部嘘だったんだよ」と、この牢屋から出るための嘘だったんだって、そう言えば済む話なのに俺と言う男は本当にまったく────────・・・・・・・・。






「ふふふっ、ルーカスさんの照れ屋さ~んっ」

「いや、もういいから。そういうのは・・・・・・・・」




 頬を突いてくる白い指を防いだ。俺はがっつりと彼女に膝枕をして貰って甘えていた。




 両思いだと分かってから随分とはしゃいでしまったのか、美しいフラワープリントのワンピースを着てきて、その銀髪は纏めてシニョン風にしてある。




 巻いてきたのか耳元の髪の毛がくるりんとしていて可愛い。



 盛大に褒めてやると照れ臭そうにしていたので、いつもとは違った表情に胸がきゅんとしてしまった。歯がゆい。





 そしてにこにこ笑顔でご機嫌な彼女は、朝早くから俺のためにわざわざジンジャークッキーを焼いて持ってきてくれて。




 それを食べて喋った後は、さも当然のような顔をして膝をぽんぽんと叩き「さっ! ルーカスさん? 膝枕をしてあげますよ、ルーカスさんの好きな膝枕をっ!」と言い出したので誘惑に抗いきれず。





 絶賛、彼女のお膝を堪能している最中である───────・・・・・・・・。





「ああ、俺は馬鹿だ。大馬鹿者なんだ、本当に。凄くつらい・・・・・・!!」

「自分の気持ちに素直になったほうが楽ですよ、ルーカスさん? ねぇ?」




 そこで彼女が俺の茶髪を優しく梳かして、頭上でにっこりと微笑む。




「私のこと。好きなんでしょう? 誰にも取られたくないんでしょう?」

「・・・・・・・それとこれは。また。別の話だから」

「一体、何が? も~、ルーカスさんってば~、素直じゃないんだから~、も~!」





 頬をふにふにと突かれて、強制的に口角が上がってしまう。



 不思議な高揚感に口元をもぞもぞと動かしていた。



 彼女の膝に頭を乗せながら、静かに目を閉じる。




「そういう。お前の方こそ。・・・・・・一体、いつから俺のことが好きだったんだ?」

「んーっとねぇ。ルーカスさんがミートソースを拭い取ってくれた時! あの時!」

「いや? どの時? それって? あんまり身に覚えがないんだけど・・・・・・・?」

「ん~?」

「いや。ん~? じゃなくって・・・・・・・」





 でもまぁ、いいか。




(両思いだと分かっただけで。いやいやいや・・・・・・・振るんだってば、だから。どーせあのおっさんも娘に何をするんだって言って、殴りかかってくるに決まってるじゃないか、もう)





 出来れば面倒事は避けたい。




(今までも。そうやって生きてきたんだ。それじゃあこれからもそうやって生きていけばいい。それで済む話だ。それなのに)





 そう思えば胸にぽっかりと穴が開いて、その虚脱感に拳を握り締める。





(ああ、どうにも。彼女の前では駄目だ)





 みっともなく泣いて縋ってしまいたくなる。




(彼女といれば。楽しいんだろうなぁ、毎日。休みの日とかも。ショッピングモールとか。水族館とかも。遊園地とかも。彼女と。ガートルードといれば、きっと)





 そこで虚しい妄想を切り上げる。




(どうせ無理だ。そんな未来は到底来ないし。職も無いし)




 前科が付いてしまった以上、ろくな場所で働けはしないだろう。




(そんなんで。彼女の父親が認める訳ない。無理だ。・・・・・・・俺だって、到底無理だ)




 彼女はどうやらお金持ちのお嬢様みたいだし。




(俺にはよく分からん親戚付き合いはできん。それに彼女の叔母さんだって。外交官の娘だの何だの言っていたし。彼女のいう、お祖父様とお祖母様とやらが、そんな、外交官だの何だので、本物の、上流階級の金持ちで・・・・・・・)





 そこまでを考えてから、ふとあることに気が付いた。




「いや。なんで俺。お前と結婚する前提で、考え事をしているんだよ・・・・・・?」

「私はルーカスさんと結婚したいですっ! 子供も沢山欲しいですっ」

「ちょっと待って? ガートルードちゃん? 今ってもしかして俺はさ?」

「口に出してましたよ? はっきりと! ふふふっ」

「えっ、マジでっ? 本当に?」

「本当に~! ふふっ」

「あ~、もうやだ。つらい、死にたい・・・・・・・!!」






 思わず両手で顔を覆ってしまう。


 そこで彼女が「えーっ? どうしてですかーっ?」と呑気な声を出して、俺の頭を撫でてくれる。





(もう。やっぱり。彼女を振って、楽になろう。そうしよう)





 まずは手始めに彼女の膝から離れなくては。



 そう考えた所で何とか頭を持ち上げてみようとしたのだが、ちっとも動かせない。




「俺の。頭が動かない・・・・・・!! 物凄くつらい!! どうしよう!? ガートルードちゃん!?」

「いいんですよ? 動かなくっても! ルーカスさんはずーっとずーっとこの私が牢屋で一生、飼ってあげますからね? 脱走防止と浮気防止で!」

「怖い怖い、やめて欲しいよ、ガチで・・・・・・・」






 どうにかしなくては。




(いや、そもそもの話。彼女から、この牢屋から逃げ出せるのか・・・・・・・?)




 彼女の膝に頭を置いたまま考える、この膝から離れなくてはいけないのに離れられない。




「何だろう? 俺。急にアレクサンダーさんやあいつに、ウィリアムに会いたくなってきたぞ?」

「むぁーっ!! 浮気ぃ! 浮気ーっ! このっ、浮気者ーっ!!」

「痛い痛い! 耳を引っ張るなって、このっ、痛い痛い・・・・・・!!」





 彼女に思いっきり耳を引っ張られたまま考えていた。




(彼女の。幸せとまともな将来を考えたら。これが一番なんだ、本当に)




 それでもこの胸はずきりと痛む。




(俺だって。ずっと一緒にいたいよ、ガートルード・・・・・・)





 情けない呟きに蓋をする、いくらどんなに願っても自分が虚しくなるだけだから。


 頭上でガートルードが不満そうに駄々をこねていた。




「むぉーっ! ルーカスさんは絶対に一生手放しませんからね!? 浮気も反対ですっ! ちょん切りますっ!」

「頼むからやめてくれよ!? そういうことは言うなって、もー!!」

「むぁっ、むぁっ、むぁっ!!」

「はいはい。落ち着けってもう・・・・・・ウィリアムともアレクサンダーさんとも。何もないから。なっ?」






 起き上がって不満そうな彼女の頭を撫でていると、何だか笑えてきてしまった。




「まぁ、いいや。・・・・・・期間限定だけど、これで」

「一生離しませんよ。私は。ルーカスさんのことを」




 暗い眼差しで彼女が呟いた。


 いつもの青い瞳は翳り、その女性らしい不穏さにぞっとしてしまう。




(何だ? これではまるで)




 俺の考えと選択が間違っているみたいな。


 そんな気持ちになって戸惑っていると、彼女が頭を押し付けてくる。




「絶対に。・・・・・・・絶対に離れませんからね? 私の母と、同じ轍は踏みたくありませんから」

「・・・・・・ガートルード、それは」




 死にそうな声が出た。




(そうだ、俺は。詐欺師じゃないか、彼女の母親を騙した)




 後悔なんて罪の意識なんてどこにも無いけど、でも。




「ガートルード・・・・・・やっぱり。やめておいた方がいいって、俺みたいな男は」

「いやだ。・・・・・・・ルーカスさんがいいの、ルーカスさんが」





 涙声でそう話している彼女が、とんでもなく愛おしく思えてくるのだから。




(俺も俺で大概。馬鹿な男だよなぁ~、本当に)




 疲れたように笑って彼女を抱き締めていた。




(近い内に。手放そう、この温もりを。一時の夢というか、思い出というか。そんな感じでいいだろう? もう・・・・・・・)































「絶対に駄目だ。ガートルード。それだけは絶対に許さん」








 偉そうな父親の声に眉を顰めた。




 ここは魔術の研究、及び持って帰ってきた仕事をこなすための書斎である。




 無駄なものを嫌い、伝統的なものを好む父親らしく部屋の内装は落ち着いている。




 赤茶色の絨毯に白い壁紙の書斎には、重厚な本棚が並べられ、窓際には小さなテーブルと肘掛け椅子が配置され、モスグリーンの上質なカーテンがかかっている。




 こちらを見つめてくるダークブルーの瞳は普段よりも険しく、緩やかな黒髪は白いシャツの胸元へと垂らされている。




 父親は執務机に座って白い両手を組んで、こちらを睨みつけていた。が。




 予想通りの反応だった。




 紺色パジャマ姿のガートルードは、きゅっと手を握り締める。





「そうよね? だってパパはルーカスさんのことが好きだもの! 私と彼とじゃあ、釣り合わないと思っているんでしょう? そうでしょうっ!?」

「どうしてそうなった? 我が娘よ。だが一理あるな」






 そこでぎっと椅子にもたれたので、じっとりとした目で睨みつけてやれば、困惑した表情で見返してきた。




「あのな? 確かにルーカス君は良い青年だと思う。お前のことを可愛いと言ってくれるし」

「でしょう? ルーカスさんは良い人なの。・・・・・・・あんなことも、もう。しないと思う」





 父親が「本当にそうかな」と呟いて、顔を伏せて苦しそうに両目を閉じる。




(やっぱり。結婚したいと言ったのは駄目だったかしら? でも。私だって。一人前に稼いでるのになぁ~)





 ルーカスさんに職が無くっても全然構わない。





「むしろ仕事先で浮気しそうだもの。だからあれでいいの、無職で」

「俺が気にかけているのはそこなんだ、ガードルード」





 水を得た魚のように指をぱちんと鳴らして、アレクサンダーが体を起こす。


 それに苛立って睨みつけてやるとまた、困ったような顔をする。


 しかし父親よりも好きな人である。


 むしろ邪魔な存在でしかない。




「普通に働いて浮気するような人間は。信用出来ない、結婚しても不幸になるだけだ。なっ?」

「でも。パパだって気に入っているでしょう? ルーカスさんのことを」

「・・・・・・・それは、まぁ」





「気に入ってはいるがな」ともごもごと呟いて、難しそうな顔をする。





(パパの浮気も。ルーカスさんの浮気も阻止するわ! あーっ、もーっ、大変! 私ってば大変! ウィリアム兄さんもライバルだし。ユージーンだってそう!! みんなっ、邪魔な存在だわ! 恋のライバルが多くって大変っ! もうっ! ルーカスさんってば! 手当たり次第に誘惑しちゃって! もうっ)






 そう考えてみると、ルーカスさんは。




「手当たり次第、誘惑したりして・・・・・・!! 私を蔑ろにして!! みんな! わらわらと! ルーカスさんに群がってはご飯をねだったりするの! 許すまじっ!!」

「いや。俺はご飯をねだったりなんか・・・・・・したな、そう言えば。アイスを作って貰った」

「むぁーっ!! 初耳ーっ! 初耳ーっ!!」

「言ったら。怒ると思って黙ってたんだ・・・・・・・・」





 その両手を広げて、真顔の無表情で告げてくる父親に死ぬほど腹が立ったので。




「後でルーカスさんに会いに行きます! 天罰っ、食らわせますっ!! アイス、アイス・・・・・・!!」

「中々にうまかったぞ、あれは。フリーズドライの苺もトッピングして貰ったんだ、苺も」

「むぁーっ!! パパのばかっ、嫌い!! だいっきらい!!」

「なっ!? ガートルードちゃん、それは・・・・・・・」





 慌てて立ち上がって、ふんふんと怒る私の頭を困ったように撫でる。




「分かった。今度スーパーで苺を買ってきてあげような? 何パックいる? 十パックぐらいか?」

「いらないーっ! ルーカスさんの作った苺が食べたいーっ!!」

「よし。それならそれで、今度。苺の栽培に必要なビニールハウスと農具でも購入して、」

「違うのっ! アイスが食べたいのっ! もーっ!! これだから話の通じない変人はっ! だからお母さんにも離婚されちゃうのよ? 分かる!?」





 がっくりと父親が落ち込んで、両手を突いて蹲っている隙に。




(もーっ! ルーカスさんに会いに行こう、そうしようっ!!)





 彼なら分かってくれるのに。




(どんな言葉だって。分かってくれるもの! 笑ったりなんかしないもの、私の言葉で!)




 私の話を聞いて人は嫌な笑い方をするのだ。




(でも。どう変えて良いのか。よく分からなかった。でも、ルーカスさんなら)




 可愛いって、そう言ってくれるのだ。


 そしてあの優しげな茶色い瞳で頭を撫でてくれて、ひたすらに優しく、美味しいご飯も作ってくれて────────・・・・・・・・・。




「わぁっ!? ガートルード、危ないだろ!? お前っ!」

「兄さんっ! ・・・・・・・裏切りものめっ」

「何で!? 一体、何の話!?」





 夜の廊下にて、義兄のウィリアムと遭遇していた。


 美しい彼は困ったようにこちらを見下ろして、両腕を支えている。


 すんと鼻を鳴らしてウィリアムから離れると、複雑そうな顔をした。




「ガートルード。・・・・・・今からどこに行くんだ? お前は」

「どうして。どこかへ行くって。そう思ったの?」

「だって、それ」




 そこでおそるおそる、ウィリアムが指を差す。


 ガートルードが背負ったリュックサックと黒いジャージ上下の姿を見て、顔を引き攣らせる。




「今からあいつと。何をしに行くんだ? なぁ? 登山か? ハイキングか?」

「ううん、駆け落ちをするの」

「その格好で!? リュックをぱんぱんにして!?」

「じゃあ、逆に聞くけど」




 何故か震えているウィリアムを下から睨みつけて、リュックサックの肩ベルトを握り締める。




「真夜中の駆け落ちに。相応しい服装ってあるのかしら? ねぇ?」

「いや・・・・・・無いと思うけど。ワンピースとか? 少なくともジャージ上下ではないと思う、俺は」




 その言葉にぴたりと黙り込んだ。


 が、すぐさま気を取り直す。




「でもね? これはね? ルーカスさんが抵抗した時に、服が汚れたり。その、破けちゃったりすると困るからっ! ねっ?」

「いや。ねっ? じゃなくてガートルード・・・・・・それは駆け落ちではなく誘拐だ、誘拐」

「むぁっ、むぁっ、ヴァ~・・・・・・!!」

「何、その鳴き声? って、お前!? 今一体何て言ったんだ!?」




 そこでがしっと、両肩を掴まれてしまう。



「駆け落ちだって!? あいつと駆け落ちだなんて一体全体、どうしてそうなったんだよ!? ガーティ!?」

「ルーカスさんがね? 私のことを好きって言ってくれたの。あとパパが鬱陶しいの。邪魔なの」

「あんまり。よく分からないような、分からないような・・・・・・? でも」




 そこで俯いてとても意外な言葉を口にする。





「好きなんだ、ガーティ。お前のことが。だからあんな詐欺師のことは諦めて、」

「ええええええーっ!? 知らなかった、何で!? えーっ!?」

「知らなかったのは。お前ぐらいなもんだよ。クラスでも、家でも、な・・・・・・・」





 どこかくたびれたように、ウィリアムが項垂れてしまう。


 両肩を握り締められたまま呆然としていた。





「そんな。まさか。気が付かなかったわ、そんな・・・・・・・」

「だろうな。お前のことだからな、ガーティ」

「じゃあ。わざわざ鍵を盗んで。ルーカスさんに会いに行ってたのも・・・・・・?」

「牽制だよ、お前を取られたくないから」





 がくりと膝から崩れ落ちてしまう。



 廊下の床に両手を突くと、スコップやロープ、ガムテープにジャックナイフと青いビニールシートが重たくのしかかってくる。





「お、おい? ガーティ? どうしたんだよ?」

「そ、そんな・・・・・・!! それじゃあ私にしつこく牢屋に行くなと言っていたのも!? ルーカスさんにクッキーを作って持っていくと言った時に嫌な顔をしていたのも!? 全部!?」

「っああ、そうだよ! 全部全部、お前のことが好きだったからだよ!!」





 何故か苛立った口調で、頭上から怒鳴りつけてくる。


 分かりにくいなと思いつつ、苦労して何とか床から起き上がる。





「兄さんはね? ちょっと分かりにくいと思うの。あれじゃあ誰だってルーカスさんのことが好きなんだわ! と、そう思っちゃうじゃないの、も~! 分かりづら~い!」

「えっ? 何で俺が、悪いみたいになってんの・・・・・・?」





 ふすんと息を吐いて、戸惑う彼をじっと見上げてみる。




「でもごめんなさい、ルーカスさんのことが好きなの。そしてルーカスさんも私のことが好きなの。分かる? ねぇ?」

「分からねぇよ、そんなこと。・・・・・・・分かりたくも無い。おい。ちょっと待てよ!?」






 そこでまたがしっと両肩を掴まれてしまう。痛い。





「好きだって!? あのおっさん! 好きだって言ったのか、お前に!? 本当に!? 嘘だろ!? ぼーっとしててよく分かんなかったけど! 嘘だろ!? なぁ!?」

「っ嘘じゃないもん、本当だもん! ルーカスさんが私のことを抱き締めて好きだって、」

「絶対に駄目だ! 行くな、ガートルード!!」

「わっ!? むぉっ、むぉ~・・・・・・!!」




 二の腕をつかまれて、そのままずるずると引き摺られてしまう。




「離して!? 兄さん、私は、ルーカスさんの所に・・・・・・!!」

「一体。何の騒ぎなの? こんな夜更けに」





 そこで優しくも厳しい声が響き渡る。


 後ろを振り返ってみると、部屋からネグリジェ姿のジゼルが出てきた。


 柔らかな栗色の髪はくしゃっとなっており、不機嫌そうに両腕を組んでいる。



「ウィリアム? 貴方、ルールーちゃんに一体何をしているの? まさか、」

「母さん、こいつが! ルーカスと駆け落ちするんだって・・・・・・・!!」

「むぁっ!? 兄さん、それは言っちゃだめ・・・・・・!!」





 慌てて口を塞ぐも遅い。



 義母のジゼルはくしゃりと可憐な顔立ちを歪ませて、つかつかとこちらへやって来る。


 そしてこちらの両肩をがしっと掴み、真剣な表情で覗き込んできた。




「本当に? 本当に好きなの? 駆け落ちしたいぐらいに? ルーカスさんは何て言ってるの?」

「やっ、やめろって言ってる。あと、現実的じゃないって。俺は嫌だって」





 そこでほっとしたように深い溜め息を吐く。





「流石は、ルールーちゃんが好きになった人ね? それを聞いて。ちょっと安心したわ、ママ」

「ま、ママ・・・・・・・あの。怒る? 怒っちゃう?」





 指を合わせて、驚いた表情の義母を見上げてみる。



 隣でそれを見守っていたウィリアムが「怒るに決まってんだろ、それは」と不貞腐れたように呟いて、そっぽを向いている息子に呆れたような微笑みを浮かべて。





「怒らないわ、ルールーちゃん。ちっとも。でもね? いい? よく聞いて?」

「母さん。まさか許す気じゃ、」

「いいから。あんたは黙ってなさい、ウィリー。話が進まないじゃないの、もう」





 鋭く舌打ちをしてウィリアムが黙り込む。


 義母のジゼルがふんわりと、花のような微笑みを浮かべていた。




「その男性にね? 私とパパが反対してるっていうことと。ウィリーが貴女のことを好きだってことを。しっかり伝えてみなさい。伝えた上でプロポーズしてみなさい。いいわね?」

「っ母さん! それは・・・・・・!!」

「いいからウィリー。私にもちゃんとした考えがあっての発言よ? 黙ってなさい、二度は言わないわ。二度は」






 厳しい声で諌められ、むっつりと黙り込む。


 言葉の真意を探り出そうとして、義母の優しい瞳をじっと見つめてみる。




「ねぇ? ママ? ・・・・・・本当に。いいの? このまま帰ってこなくても」

「別に良いわ、とっても淋しいけど。だからね?」





 そこでぎゅっと強く抱き締めてくれる。


 母親らしい温度にほっとして、突き放されたような淋しさと苦しさに目をつむっていた。




「ルーカスさんに、今夜。振られたら帰ってらっしゃい。それまで起きて待っててあげるから。ねっ?」

「母さん・・・・・・」

「ママ、私」




 ぐっと涙を飲んで告げる。


 今夜の結果が分かりきっているような気がして。



「じゃあ、行ってきます。・・・・・・起きて、待っててくれる? ウィリー、一緒に」

「ええ、待っているわ。ガートルードちゃん」

「ガーティ、お前・・・・・・」





 めそめそと泣きながら突っ立っていた、目元を擦ってぐしゅぐしゅと泣いて最適な言葉を選んでいて。




(分かりきっている、分かりきっているんだけど)





 もう今更引き下がれはしないのだ、それに。




「っここで。行って、駄目でも。ちゃんと言わないと。気が済まないの、兄さん」

「ガーティ、俺は、その」




 義母の目を気にしてかやけに丁寧な仕草でこちらの頬を撫でて、零れた涙を拭い取ってくれる。


 その仕草にルーカスさんが重なって、大声を上げて泣きたくなった。




「お前のことが好きだから。俺も母さんと一緒に起きて待ってるから。な?」

「っう、はい・・・・・・・うぐ」





 結果は分かりきっているのに、分かりきっているのにどうしてもプライドが許さない。


 ここまでしたからにはちゃんと、プロポーズしにいこうって。



 悲しげな笑顔の二人に手を振って、義母の言いつけに従って明るい大通りを歩いて、ルーカスさんがいた刑務所の近くへと辿り着いて、夜の公園を警戒しつつ歩いて、いつでも魔術が発動できる状態にしておいて。




 公衆トイレに入って、用具入れの扉に魔術仕掛けの鍵を差し込んだ。




「ルーカスさんに。会いに行こう、そうしよう」




 そして少女は足を踏み出した、公衆トイレの用具入れの中へと。



 ばたんと、白いペンキが剥がれ落ちた扉が閉まる。



 後に残るは真夜中の静けさだけだった。
























<その後の書斎にて>


「アレク?ルールーちゃんがね、今からね?って、まぁ!?どうしちゃったの!?アレク!?」

「俺が。そんな、変な男だから。浮気されて捨てられるんだって、ルールーちゃんが・・・・・」

「まぁ。そんなことを?あなた、アレク?ルーカスさんの悪口でも言っちゃったの?ねぇ?」

「いいや・・・・・良い青年だと言っていたんだ、俺は。結婚を反対したからこその、罵詈雑言だった・・・・・!!」

「可哀想に、アレク。でも大丈夫よ?私は初恋の人と結婚できて幸せだもの。ねっ?」

「ジゼル・・・・・!!良かった、君と再婚して!」




ウィリアムが今回告白していた理由は一生気が付いてもらえないと悟ったからです(振られるのは想定済み)


ガートルードの言動が変だから甘酸っぱい雰囲気にはならないだろうなーと考え、あっさりと緊張せずに告白しています。

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