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12.優しい手紙と愛情の形

 















 早く読んでしまいたかった。





(いや。でも、待てよ? これ、もうちょっと綺麗に、ぐっ、剥がせないもんかな・・・・・・?)







 この牢屋に鋏でもあれば良かったのだが。



 生憎と無い上に、どうしても父親に見られたくなかったのかガートルードは糊でべったりと封をしていた。







「あーっ! こんなもん、端っこをびりびり破いて、開けるしかないだろう・・・・・・・!?」






 どうしてもこの美しい手紙を破きたくはなかった。




 瑞々しい水彩画のような薔薇に百合、向日葵にマーガレットに、タンポポとクローバーの花の絵。




 それは淡い水色と薔薇色で構成されていて、彼女が選ぶものにしてはやたらと品が良い。




 が、しかし。







「あいつはなぁ~・・・・・・もう。もうちょっとこう、よく考えてから、俺に手紙を渡せよ。まったく」







 破きたくは無かった、それは一刻も早く読みたいという気持ちよりも更に。




 上質な手触りの手紙と格闘して何とか取り出してみると、封筒がすっかりよれよれになってしまった。






「あー、紙がよれよれになっちまった。まー。ここの辺りはどうにもなんねぇか・・・・・・・」






 手で皺を伸ばしながらも焦って開くと、その拍子に一枚のメモ用紙がひらりと落ちてゆく。





「あーっ! くそっ! 一体何なんだよ、本当に!? あー・・・・・・・これは」






 赤い絨毯へと落ちたそれを拾って、ぴたりと動きを止める。




 そこには“返信用の紙付随あり”と、ガートルードの文字でそう書かれていた。





「返信用の、紙・・・・・・? ああ。これか。へー。魔術仕掛けのやつね」






 ソファーへと座り直して、とある封筒と小さな鉛筆を取り出す。




 それは爽やかな青ストライプ柄の封筒で、どうやら彼女はこれを使って返事を書けと言いたいらしい。




 同封されていた白いメモ用紙には、この青い封筒の使い方が記されている。




 しかしあまりにも早く手紙が読みたかったので、それらは無視して急いで手紙を開く。そこにはこう書かれていた。








 淋しがり屋のルーカスさんへ



 どうですか? ちゃんとご飯を食べていますか?


 ルーカスさんのことだからきっと絶対に、私が淋しくていなくて、食事も喉に通らないことでしょう。









「随分と言い切ったもんだな、こいつは・・・・・・断言なのかよ」






 思わず笑って歪んだ文字を見つめて、涙が滲んでしまった。こんなことで情けない。






「こんなこと、口が裂けても絶対に言わないけど」






 指で文字をなぞって呟く、俺が彼女を大事にしたって何の意味も無いのに。





「そうだな。俺はお前がいないと食欲だって沸かないよ。絶対に絶対に、口が裂けてもお前なんかに。言ったりなんかしないけど」







 こんなこと言えるものか、恥ずかしい。


 気を取り直してまた読み始める。








 だから早く元気になりますね?


 大丈夫かな、ルーカスさん。


 もしかして私に捨てられたんじゃないかって、そう泣いてはいないかしら?


 淋しいよ、大丈夫。


 ルーカスさん、私も淋しいから大丈夫だよ。


 だから安心していてね?






「っくそ! なんっで、たかだか、こんな、こんな文章に俺は泣けてくるんだろ・・・・・・はーあ。しょうもな」







 続きが読めなくなって目を覆って涙ぐんでいた。


『大丈夫、私も淋しいよ』ってそう、彼女の甘い声が聞こえてくるみたいだ。







「あー、馬鹿馬鹿しい。たかだか風邪だろうに、こんな。・・・・・・こんな」






 それなのにどうしてこうも、自分は泣けてくるのか。








 私。やっぱりルーカスさんのことは手放せません。


 ルーカスさんは以前に、考えておけって。


 そう冷たく言っていたけど、私は。


 ずっとずっと一生、ルーカスさんと一緒にいたいです。


 だからごめんなさい、ルーカスさん。


 明日もまた、私と一緒に遊んでください








「お前。絶対に何も、分かっちゃいないだろ・・・・・・はーあ。まったく。しれっと明日、風邪が治る気でいるし」






 自分で自分の言葉に笑ってまた、酷くほっとしたような気持ちで読み進めていく。





 まだだ。まだこの時間は終わらない。


 終わらないでいて欲しいんだ。



 どうかもう少しだけこのままで、風変わりな彼女の傍にいて。



 その頭を撫でてやりたいんだ、でもこれもきっと。







「でもこれもきっと、俺の欲望なんだろうなぁ・・・・・・なぁ? ガートルードちゃん?」






 お前はきっと、俺がいなくったって生きていけるよ。



 お前の傍にいるのは別に俺じゃなくてもいい。



 お前に俺はきっと、必要が無いんだ。



 俺がいくらどんなにお前を必要としていても、きっと。



 お前にはあの風変わりな父親がいて、優しい義母だっていて。









「こんな牢屋に。もう。こなくてもいいだろう? なぁ? ガートルードちゃん?」






 彼女に俺は必要無いんだ。



 彼女にはもっとするべきことだってあるし、それはここで俺と遊ぶことじゃない。



 終わりはもう、考えたくない。



 そこで一旦思考を切り上げてまた、手紙を読み進めてゆく。






 それに、私の白血球はアマゾネス育ちなので絶対に強いと思います。


 それなので明日には、すっかりけろりんと良くなっていると思います。けろりん。








「いや。意味が分からないからな、それな。何なんだよ、アマゾネス育ちって。お前の母親か? だが生憎と俺はアマゾンの奥地に行ってまで、女を口説いた覚えは無いぞ?」






 やはり彼女はとんでもなく変わっている。


 そしてそんな文字の下には歪なカモメの絵があった。




「なんで、カモメ? ははっ・・・・・何でカモメなんだろう、本当に。はーあ」








 それなので明日には治るかと思います。いや、絶対に治します!!






「いや。無理しなくていいから、そんなに・・・・・・なんだ? また、俺のぽんぽこでも心配してくれるのか? なぁ?」







 穏やかに笑ってその文章を眺めて、部屋のソファーで寛いでいた。




 彼女と俺が揃えたお姫様家具と、頭上には豪華なシャンデリアが光り輝いている。






 こんなことを書いたら、心配性で綺麗好きで胃もぽんぽこも弱いルーカスさんは「絶対にやめろ!!」っていつもみたいに、ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すと思いますけど。






「こいつ・・・・・何で病床で必死に俺の悪口を書いているんだろう? 大人しく寝てろ、いいから大人しく!」






 そう呆れつつも、次の文章へと目を滑らせた瞬間。


 何故だか息が止まりそうになった。







 私が、淋しいんですルーカスさん。


 ルーカスさんに会えなくて淋しいよ、早く病気を治したいです。


 それでルーカスさんにまた、頭をよしよしって。沢山撫でて欲しいです。


 淋しいな、ルーカスさん。


 会いたいよ。







(こいつは。ほんとうに、何でどうして)






 熱い涙が滲み出てくる。


 鼻の奥がつんとして、ただひたすらに苦しく笑っていた。


 胸が狭苦しい、何をどうしたらいいのかちっともよく分からない。







「俺も淋しいよ、ガートルード。・・・・・・俺も淋しいんだ、お前がいなくて」






 そうだ、淋しい。



 彼女の傍にいてやれないことがこんなにも淋しい。



 傍にいてその手を握ってやって、寝台の傍でずっと見守ってやりたい。



 看病してやりたい。



 ごくりと唾を飲み込んで、しばし黙り込んで俯いていた。






『まるで君は自分が看病したかったみたいに言うんだな? そんなにジゼルが羨ましいか?』






 つい先程のアレクサンダーの声が蘇ってくる。



 ああそうだ、そうだともこの俺は。






「あーっ! 今すぐ行って看病してやりたい、その手を、握ってやれたら良いんだけど、なぁ~・・・・・・・・」







 でも到底無理だ、それに彼女の傍には優しい義母とやらもいる。






「あー・・・・・そのジゼルさんが、羨ましい。・・・・・ん? でも、待てよ?」






 これはひょっとするともしかして。







「母性、か!?母性なのか!?」






 その感情に酷く安心して、ルーカスは満面の笑顔となって紙を読み進めてゆく。





「何だ、何だ! 母性だったのか、これは! あーっ、良かった! ほっとした!」






 彼女が連れてきた男はきっちり検分しなくては。


 ここ最近の不可解な感情が母性だと判明してすっきりした、本当に良かった!






 それなので明日にはまた、お会いしましょうねルーカスさん。


 あとそれから返信用のお手紙と鉛筆を入れておいたので、お返事を下さい。


 ルーカスさんに会えなくて淋しいです、お返事を下さい。


 よろしくお願いします。







「何だ? この、無言の圧は・・・・・? はー。まぁ、いいや。可愛いな、ガートルードは。えーっと、何だっけか? 返信用の封筒、返信用の封筒・・・・・・これか」





 手を伸ばして青い手紙と鉛筆を持ち上げて、さらさらと書き始める。




 全ては自分に会いたいと思って泣いている、可愛いガートルードのために。




 それでも。




「それでも、ガートルード。お前はもうここへ来ちゃ駄目なんだ」






 誰にも聞こえない独り言を呟いて、真剣に文章を考える。





「必要が無いだろ、だって。お前には優しくてまともな家族もいる。何もこんな、ろくでもない詐欺師の俺と遊ぶ必要は、まったくないんだから・・・・・・・・」






 そこまでを書いているとふと、涙が溢れて止まらなくなった。




 ぽたぽたと、予期していなかった涙が手紙へと落ちて染み込んでいって。





「っああ、くそっ! 汚れるじゃないか、こんなの・・・・・大袈裟なんだよ、俺は。いちいち」






 不思議にぽろぽろと、涙が溢れ出て落ちて止まってはくれない。



 でもこうするのが一番いい。






「ガートルード、ごめん。でもお前はもう来ない方がいい、いいんだ。その方がきっと、お前にとって絶対にいい。所詮俺は詐欺師で、お前の傍にはいられないような男だから」








 本当は彼女の傍にいたい。それでもだ、それでも。




 この愛おしさと母性は封印するべきだろう、だって。




 彼女のためにはならない、彼女は幼くて世間知らずで何も知らない。



 だからもういっそのこと、自分からその手を離してしまおう。



 彼女が俺の傍じゃなくて、家族の傍にいれるように。



 彼女がようやく手に入れたまともな義母と、大好きな父親とそうやって幸せに生きていけばいい。





 そうするのが一番最善で最良なんだよ、ガートルード。






「ごめん、ガートルード。・・・・・でもいいんだよ、これで」






 いいんだ、これで。


 お前は全然理解してくれないんだろうけどきっと絶対に、これが一番なんだよ。







「あーっ、くそっ! 涙が止まんねぇな、はー、本当に。馬鹿馬鹿しい。こんな、ろくでもない俺がまさか・・・・・・はーあ」







 それでもそれは不快な涙じゃなかった。



 淋しくてさっぱりとしていて虚しくて、でもこれでいいんだ、とそう。



 胸を張って言えるような、清々しさに満ちた涙で。







(でも、ほんの少しだけ期待もしている。俺は)






 彼女が別れを告げるこの手紙を読んで、いつものように笑って「くだらない」と切り捨てて。




 本当に明日元気になって、俺の下へ来てくれないだろうか?




 そしてほっとしたように笑う、俺の明るい髪を撫でていつものように慈愛に満ちた微笑みで。




「大丈夫ですよ、ルーカスさん。私とずっとずっと、一緒にいましょうね?」と、そう呟いてくれないだろうか。





 いつものように彼女と遊んで飯が食いたい。




 そんな甘えた考えに、ふっと微笑んでしまう。






(自分も随分と、手懐けられたもんだよ。風変わりな、彼女になぁ~)






 その歪んだ文字を愛おしく撫でる。


 どこか大事に、保管できる所でもあればいいのだが。






「あー。あの、引き出しの中にでも仕舞っておくかぁ? いやぁ、でもな~。万が一虫にでも食われたら嫌だしなぁ~」







 俺がもしも魔術師だったら、手紙を永久保存出来たのに。




 その頭のおかしい発想にぞっとして、手紙の皺を伸ばすと封筒の中に仕舞いこんだ。



 そして先程書いた手紙を突っ込んで、青い封筒へと自分の魔力を流し込んで、ぼんっと浮かび上がってきた赤い封蝋へと息を吹きかける。





 どうやらこれでこの手紙が届くらしい。




 瞬く間に青い封筒がぼんやりと光って消えて“送信完了”の文字が、ぴこんと浮かび上がってきた。







「おおー・・・・・・これでガートルードが、あいつが読んでくれるといいんだけどなぁ」







 そしてこの手紙を読んで、彼女は何て言うのだろうか?




 神のみぞ知る、とルーカスは疲れたように笑って体を伸ばした。





「そんじゃあもう少し、何か食って眠るとするかぁ~・・・・・・あのおっさんがいたせいで何かと気が張って、生きた心地がしなかったからなぁ。あー、腹が減った」



























「ああ。来たようだぞ、ガートルード。手紙が」







 寝台の傍らに立った父が、黒い懐を探ってその手紙を渡してくれる。




 けほっと咳をして、眠たそうなガートルードは手紙を何とか受け取った。




 ここはガートルードの部屋で、寝台にはフリル付きの白いカバーがかけられ、上には青とオレンジのモザイクランプが吊り下がり、無垢床のフローリングには白黒シャギーの絨毯が敷き詰められている。





 照明を落とした部屋の中で、父のアレクサンダーがじっとこちらを見守っていた。




 その視線を鬱陶しく思いつつも、封筒から手紙を取り出して読み始める。




 そしてその手紙を読み始めて、ふふっと微笑んでしまった。




「どうだ? 何て書いてあったんだ? ガートルード?」

「別に。下らない内容よ、パパ」

「そうか。そんな手紙を書きそうな顔はしていたんだ」

「ふふっ、そうね。ルーカスさんはとんでもなく不器用で淋しいひとだから」







 本当にまったく。






(淋しいのなら淋しいと、素直にそう、書けばいいのに・・・・・・・本当に困ったひと)






 悲しく微笑んで、彼の手紙をもう一度読み直す。




 そこには意外と綺麗な文字で、馬鹿馬鹿しいことが記されていた。








 ガートルードへ



 俺に手紙を書いてくれてありがとう。


 だがこんなものを書くよりも、風邪を治すことに集中しなさい。







「余計なお世話だわ、この一文が! 特に!!」

「何て書いてあったんだ? パパが燃やしてあげようか?」

「パパはもういいから黙ってて! ママのところにでも行ってて」

「そっ、そうか・・・・・分かったよ、ガートルード。それじゃあ、辛くなったらいつでもパパかママに言いなさい。お前の枕元に俺を呼ぶ専用のベルを置いておくから、それを鳴らして使って呼んでくれれば、」

「パパ、うるさい。もう黙って出てって」

「わ、分かった・・・・・・ごめんね、おやすみ。ガートルード」





 すごすごと出てゆく父が最後にぼそっと「また明日な」と言ってきたので、流石に返事すべきだと判断をして苛立って「また明日。おやすみ」とだけ返す。本当にもう、そっとしておいて欲しいのに。




 悲しい気持ちで手紙を読み進める。






 でもお前に何も怪我がなくて良かった。


 お前が交通事故にでも遭っていて、入院しているのかと思った。







「大丈夫よ、私。丈夫だから。・・・・・・あー、でも」






 先程よりも一番悲しくなってしまって、鼻をふすんと鳴らした。






「どうしてルーカスさんは、こんな文章を書いたの? 私のこと、心配じゃないのかしら・・・・・・」







 その心配はさておき。


 ガートルード、お前はもう二度とここへは来るな。


 明日にでもお前の親父さんに言って、元の牢屋に帰してくれ。


 お前に振り回されるのも心配をするのも、何だかもう疲れた。







 その一文に息が止まりそうになる。


 それでも手紙には無数の涙の跡が付いている。






「変なの。ルーカスさん・・・・・・・変なの」






 この手紙は嘘かもしれない、でも胸がこんなにも痛い。




 ぶわわっと涙が溢れ出てきて、それが頬を伝って零れ落ちてゆく。




 風邪で苦しい時に、こんな文章なんて読みたくなかったのに。




 ルーカスさんならもう少し優しい言葉を書いてくれると思ったのに、励ましてくれると思っていたのに!




 それなのに彼は、私を傷付けるだけのお手紙を書いた。






「ずっとずっと一生傍にいたいって、そうきちんと書いたのに、ルーカスさんは、ひぐっ、やっぱりわたしの、私の傍にはいたくないんだぁー・・・・・・・・・」






 そこで堪らなく悲しくなって、えぐえぐと泣いてその手紙をびりびりに引き裂いた。




 何度も何度も泣きながら破って、その鋭い紙に指を痛めながらも破った。破き続けた。



 ぱらぱらと白い紙の欠片が散乱して、熱っぽい体で寝返りを打って枕を抱き締める。





「っ私の、心配をしているくせに。ルーカスさんの馬鹿。だいっきらい・・・・・・・!!」






 この私を遠ざけようとしているのか、彼は。



 そのことを考えると、胸の奥からふつふつとマグマのような熱い塊が湧き上がってきて。



 怒りとも憎しみとも哀しみとも、屈辱とも言えるような激しい感情に歯を食い縛る。






「絶対に治して。明日、会いに行ってやるんだから・・・・・・・・!!」






「ルーカスさんの馬鹿、大嫌い」と何度も呟いて泣いていた、あの大きな手のひらが恋しかった。



 いつも微笑んで撫でてくれるのに、それなのにこんなにも遠い。心も体も。






「初恋。なのに、早くも破れてしまいそうで、とっても悲しいよぅー・・・・・・・・」






 いつからかはよく分からない。



 彼が私をお膝に乗せて、抱えてくれて「ガートルードは可愛いなぁ」と。



 でろでろに溶けて本当に優しく微笑んで、美味しいおやつを沢山作ってくれるようになってから。






(・・・・・・でも。分からない。もしかすると、恋じゃないのかもしれない)






 それでも胸が苦しくなった。


 こんなにも私は傍にいたいのに、彼はそう思ってはいない。


 そこまでを考えるとまた、わんわんと泣き出したくなってしまった。





「るっ、ルーカスさんのばか~・・・・・・・・きっときっと、どーせ、私に言ってたことはぜんぶ、真っ赤な嘘だったんでしょう?」






 だって彼は女専門の詐欺師なのだ。






(今までのも全部嘘だったの? ルーカスさん)






 とりあえずは早く、この風邪を一刻も早く治さねば。






「ルーカスさんに女の人がいたら、殺そう。そうしよう・・・・・・・・・」






 だったらこれは紛れも無く恋だ。



 こんなにも彼を滅茶苦茶にしてやりたいと思っている。



 熱く煮え滾ってそれは、真っ赤なマグマのように怒りと愛情で苦しく渦巻いている。




 ガートルードはぎりぎりと歯を食い縛って、凄まじい形相で横たわっていた。






「絶対に絶対に許さない。あの、詐欺師め」







 絶対に絶対に、何が何でも手放してなどやるものか。


 彼はこのガートルードの物なのだ。





 息が荒くなって、心臓も戦闘中のように脈打って、どくどくと激しい鼓動を刻んでいる。



 その苦しさと憎しみのような愛おしさに喉の奥が詰まりそうになった。



 でも、それでもだ。





「何が何でも私は貴方の傍にいたいの。見てらっしゃい、ルーカスさん・・・・・・!!」







 あの手紙を書いたことを骨の髄まで後悔させてやろう。




 獰猛に笑って、ひとまずは大人しく両目を閉じた。







「恋も戦も元気が無いと出来ないもの。今夜のルーカスさんが、とびっきりの悪夢を見てくれますように・・・・・・・・」




























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