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piano

作者: 大熊 なこ

 ポロロン。ポロロン。


 聞こえてくるのは、指先から流れるメロディー。

 正確に言えば、指先から押し出された刺激が、電気によって作り出された波として私たちの耳に届いているのです。

 ここに、猫1匹と、おじいさん1人。

 おじいさんは、ここ最近、ピアノをひいてるようでした。死んだおばあさんが残した、少し大きな電子ピアノ。

 音は、綺麗なままでした。

 猫は大きなあくびをしながら、おじいさんの奏でる拙い音楽に耳をかたむけているようです。

 ピアノをひくどころか、音符すら読めないおじいさん。自分のできる限りの名のない曲を、思い思いにひいています。

 両手を使って、なんとなく。汚い和音になるときは、指をなんこか移動して綺麗な音になおします。


 そんなおじいさんにも、唯一ひける曲がありました。

 そう、「猫踏んじゃった」です。

 両手を使うからかっこよくみえる。腕クロスという技を決めることができる。そして何より、ひきやすい。この世には、こんなに完璧な曲があるのです。

 おじいさんは毎回最後にこの曲をひきました。

 最後くらいは、ちゃんとした曲で終わらせたかったのでしょう。


 それは、ある日のことでした。

 いつものように曲名のない音楽を、自分の思うままにひいた後。

「猫踏んじゃった」の「ネ、コ、」を奏でたそのときです。

 ピアノの上にいた猫が、突然動きだしました。

 鍵盤にのって、じゃらんじゃらん。音楽を奏ではじめたのです。

久しぶりの連弾に、おじいさんは泣きました。


 いつから自分は1人なのだと、思い始めてしまったのです。


 あぁ、愛しのおばあさん。あなたと2人で奏でた音楽。私はこの曲しかひけません。

 いつか、いつか、どこかであえたら……。





 またこの曲を一緒にひきましょう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵なラストですね!!! 穏やかな情景が目に浮かびます(*´∇`*) 面白くて優しくてあったかくなれる物語でした!
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