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うらみ・ます

自分がお姉様の魔法を破ったおかげで私のお兄ちゃんへの愛情が増したという嘘を信じたお兄ちゃんは、喜びながら深夜バスで東京へ帰っていった。

そんなお兄ちゃんに申し訳ない気持ちと、あんなにも喜んでいたお兄ちゃんが可愛く思えて・・・・・私は複雑な心境でお兄ちゃんを見送った。

お姉様は

「罪悪感を感じるのはいいが、特別に自分を悪人と感じる必要はない。人が生きていくうちに本音を言う事で不幸になることは何度かある。許してもらえる。笑って話せる日が来るまで黙っておかねばならんこともある。そう言ったことを経験するから人は他人の事情に優しくなれるのじゃ。これも人生の試練と思え。そして、他人がそう言った事情を抱えたことを知ったときに、あかり。お前がそやつに優しくしてやれるのなら、これも良い経験になるというものじゃ・・・。」と、励ましてくれる。

お姉様、ありがとうございます。一番、申し訳ない事をしたのはお姉様に対してだというのに、私は、「すみません」よりも「ありがとうございます」という気持ちの方が大きかった・・・。

だから、私は、成長しようと思う。いつか誰かに優しくできるように・・・・。


そんな経験を乗り越えながら、私の一学期は終わる。

夏休みまでの時間はあっという間に過ぎて、今日は一学期最終日。

ということは、これまで毎日のようにあっていた級友たちや隆盛りゅうせいはじめ美月みづきちゃんとも、会えない日が増えるという事。不知火先輩とは、これまで通り美術部で会えるのだけれども、同級生3人とは今日であまり会えなくなる。

クラスの男子たちが「あの巨乳を少しの間拝めなくなるなんて・・・・」なんて卑猥な事を小声で言っていて、若干イラっときたものの、隆盛に見せてあげられないのは、ちょっとかわいそうかなって思う。隆盛ってロリコンのくせに私の巨乳は割とガン見していることあるから、きっと私の胸が好きなんだと思う。好きな男子に見せてあげたいと思う気持ちは決して卑猥ではないと思う。自分を見てほしい、愛してほしいという願望の表れなのだから・・・。


でも、私は結局のところ、この1学期の間に誰が一番好きか答えを出せなかった。

いや、正確に言うと一度出した答えが揺らいでしまった。私が隆盛と不知火先輩に交際を断ってから、強引に交際続行を強要されてからの二人の攻め込み方が、二人の宣言通り半端なくて、私は、誰が一番好きか答えを出せなくなってしまっていた。

当然の話だけど、人間的には3人は申し分なく好き。

だから、隆盛と親友になっていたし、不知火先輩のことを尊敬しているし、お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんだし・・・・。3人とも大好き。

そんな中でも、やっぱり付き合いが一番深いお兄ちゃんのことを私が一番好きになってしまうことは当然のことだったのだけれども、隆盛と不知火先輩は、私に肉体的に迫ることで好感度を上げてきた。

隆盛の逞しい肉体は、私を虜にしたし、不知火先輩の中性的ながらも男らしさを感じさせる美貌は、私を虜にした。

そうして、私は誰が一番かなんて決められなくなってしまった。

これが、私の一学期における最大の反省点。そうこうするうちに繁殖期ラヴシーズンも終わってしまうし、この夏休みをどう過ごすかが、最大の夏休みの宿題になるだろうと私は、感じていた。


そうして、この夏休みが勝負どころになるであろうことを察しているのは、私だけでなく、隆盛と不知火先輩も同じことだった。

1学期の最終日に、そのまま帰ることを良しとせず、思い出作りにカラオケに行こうと言い出した。

男が好意を持つ女の子をカラオケに誘う場合、当然、歌によって恋心を伝えようとするもの。

そして、女の子もそれは同じだった。

「カラオケに行こう。」と言い出したのは隆盛で、その目論見に乗ったのが不知火先輩。二人の”歌で明を虜にしよう”という目論見を感じ取り、その作戦を阻止しようと乗り出したのが、はじめと美月ちゃんだった。

「「わたしもいくっ!!!」」と、誘われないわけがないのに、二人は勇んで同行する意思を手を上げながら表明する。

想像してみてください。ロリータとおっとり系巨乳娘の微笑ましいその姿を・・・。これを眼福と言わずして何と言うか・・・・・。

私はニヤニヤしながら、「もう、二人とも。一緒に行くに決まってるじゃないっ!」と笑いながら言うのだけれども、不知火先輩も隆盛も同じようにニヤついているのが気になる。

・・・・君たち。それは浮気ではないのかね?


学校帰りに皆で駅前のカラオケボックスに来た。フロントで会計して、ワンドリンクづつ注文してから、私達は部屋に入る。ジャンケンで順番を決めて、私が最後の歌順となった。

トップは隆盛だった。これはキツイ。

いくら女の子のハートを鷲掴みするためのカラオケであっても、しょっぱなからバラードを歌うわけにもいかない。やはり出だしはアップテンポでアゲアゲな歌で皆の気分を盛り上げてもらわないと困る。

しかし、そこは体育会系の隆盛のこと。心得たもので「「月に吠える」をカッコよく歌い上げる。

これには私達女子3人だけでなく不知火先輩も盛り上がっていた。

そうして気分が盛り上がったところで、皆がこのムードの波に乗ろうと、テンポの良い曲を選曲して歌い上げる。そうして、3巡して、全員が一杯目のドリンクを飲み干そうとしていた時間から、それぞれがしっとりとした歌を歌いだす。ここからが勝負というわけね・・・・。

初めにラブソングを歌いだしたのははじめだった。

はじめは「片思い」を選曲する。男の娘という特殊な事情があるはじめの立場でこの歌は切なすぎる。そして、その気持ちが本気なんだと伝わる切ない歌声が、隆盛に向けられている。そのことを誰もが感じていたし、隆盛も理解していて。「いきなり、ヘビーなのをぶっこんできたな。」と、冗談めかしたセリフを真顔で言っていたのが、印象的だった。その時の隆盛の心境がどういうものか私にはわからないのだけれども、決して軽い気持ちで聞いていたわけではないことだけは確かだと思う。

歌い終えたはじめの「えへっ・・・。」という照れ笑いが、とても愛らしくて私は思わずはじめをギューッと抱きしめてしまった。恋敵なのにね・・・・。はじめのその切なすぎる立場、事情を知る人なら、この歌をどれほどの気持ちで歌っていたのか痛いほどわかったから。


そして、はじめのこの歌は、皆に対して「自分のために歌ってもいい合図」にでもなったかのように、各々が勝負歌を予約に入れてくる。

ただ、一人。美月ちゃんの選曲だけは、BLのイメージソングと言う、それはそれはアレな選曲で、その場を凍り付かせる。隆盛と不知火先輩は「誰の歌? 聞いたことないけど何、この歌?」という気持ちを押さえ切れない微妙な表情で聞いていた。

カラオケボックス内に微妙な空気が充満している・・・。

駄目よ、明っ!! ここで流行のラヴソングなんかをしっとり歌ったら、美月ちゃんだけ取り残されちゃうっ!

私の脳裏には、美月ちゃんを一人にしないためにもぶっ飛んだ歌を入れるべきという謎の作戦が浮かぶ。

そんな私の次の選曲は・・・・・。

ママが好きな中島みゆきの持ち歌の中でも特別暗い「うらみ・ます」。

死にたくなるほど暗い曲を熱唱する私の歌声を背景にするようにカラオケボックスの中に異様な空気が流れ、誰もが下を向いて何とも言えない表情をしているっ!!

やった、成功だわっ!! これで美月ちゃんが浮かないで済むっ!! と、ガッツポーズを心の中で撮る私にお姉様が

「何が成功なものかっ!!

 どうするんじゃ、この陰惨なカラオケボックスの空気をっ!! 大惨事じゃぞっ!!

 どうやって持ち直すんじゃっ!! やりなおしじゃー--っ!!」

と、たまりかねて皆の記憶から今の私の歌の記憶を消して、もう一度私に歌わせるという荒業を使ってまで選曲のやり直しを要求してきた。

まぁ・・・。確かにちょっと、私も・・・・・やりすぎたと思う。

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