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一肌脱ぐ前から、一肌剝いでいたわっ!!

そっかー、不知火先輩くらいの美貌になると美月みづきちゃんみたいな百合娘のセンサーにもひっかかっちゃうのね。でも、流石に心配だなぁ。美月ちゃんも私と一緒で不知火先輩の好みの巨乳ちゃんだし、ライバルになるとしたら、結構強敵になるかもね・・・。

などと、私は当人達がいないところで、勝手に恋愛に危機感を持つ。

そんな悩みを持っていると、周りの人にも伝わってしまうのか、皆と別れて家に帰った時、リビングにいたお兄ちゃんが私の顔を見るなり、

「おかえり。どうした? 渋い顔して・・・? イベントで何かあったのか?」と聞いてきた。

私は、不知火先輩との恋愛で危機感を抱いているなんて事情を話すことも出来ないので、「ああ、大したことないの。つまらない考え事していただけ。」と、誤魔化す。

ふと見ると、お兄ちゃんはコーヒーを飲んでいた。

「いや。うちのコーヒー豆。贅沢に高いのを使ってるから、家に帰ってきたらどうしても飲みたくなってさ。」

なんて、ちょっとシケたことを言う。一人暮らしの新人声優さんの節約生活の一端を見た気がした。

「実際、親からのバックアップが無かったら、そうそう続けられないなぁ・・・。バイトのシフトとかさ、やっぱりオーディションとかと被った時に理解ある職場じゃないと休みにくい上に続けにくいから・・・・。」

なんて世知辛い事を言う。

でも、そういうのをちょっと大人の世界だなって、憧れもする。いや、そういう苦労はしたくないんだけどさ。

そう思っていると、お兄ちゃんの真似がしたくなってくる。

「ねぇ、それ。ブラックコーヒー?」

「ああ・・・・。飲みたいのか?」

「ん・・。なんか大人って感じがして、私も飲んでみようかなって・・・。」

私はお兄ちゃんの真似して、食器入れから自分のカップを出して、ポットの中のお兄ちゃんが作ったブラックコーヒーを注ぐ。その様子を見ながらお兄ちゃんが「あかりにとって大人ってブラックコーヒー飲むことなのかよ。単純だなぁ・・・。」って、意地悪な事を言う。

つーん。知らない。

お兄ちゃんのいじわるになんか付き合ってあげないんだからねっ!! 私は心の中でお兄ちゃんに文句を言いながら、ブラックコーヒーを飲む。

「うっわ・・・。にがっ!!」

これはたまらない。お兄ちゃんが作ったコーヒーは私が徹夜用に煎れるコーヒーよりも何倍も苦いんじゃないかと思うほど苦かった。

私は一口で諦めて、クリームと砂糖をドバドバ入れてコーヒーを浄化する。

「払いたまえ~、清めたまえ~・・・・。」と、冗談を言っていると、お兄ちゃんが「いや、悪霊じゃないからっ!・・・。」と笑う。

「・・・・・いつもこんな苦いコーヒー飲んでるの?」

「・・・・大人だから・・・・さ。」

む。私のさっきの言葉をあてこするようなこと言っちゃうんだ。

でも、ま。これが大人の味なのなら、私は一生子供のままでいいもん。と思ってしまう。

「でも、美味いんだぜ? うちのコーヒー。」

お兄ちゃんは自分のコーヒーカップを掲げながら、誇らしげに言う。

きっと、私が知らないような苦労をお兄ちゃんは働きながら経験しているんだろうなぁ。このブラックコーヒーみたいな苦い思いも・・・・・。

そう思うと、お兄ちゃんの姿がいつもの何割か増しにカッコいい大人の男性に見えてしまう。

私は今。繁殖期ラヴシーズンの終わりの影響を極力抑えるための魔法をお姉様にかけてもらっているのだけれども、それでもスイッチは入りやすいものらしい・・・・・。

私の胸は、お兄ちゃんに対して強くトキメキ始めていた・・・。


夕食後、スイッチが入ってしまった私は、今夜の深夜バスで東京に帰ってしまうお兄ちゃんの部屋を訪ねる。

きっと、その時の私は ”女の子の瞳”をしていたんだと思う。お兄ちゃんは、私の目を数秒見つめて固まっていたけれど、部屋に招いてくれた。

「座れよ・・・。」

と、お兄ちゃんにソファーに座るように言われた私は、従順に「はい・・。」と返事して座る。

私はお兄ちゃんの部屋に籠るお兄ちゃんの香りを嫌でも敏感に反応してしまう。

きっと、お兄ちゃんの個室で二人っきりになるという事は、繁殖期のメス蛇がオスのテリトリーに侵入することに等しいことなんだと思う。だって、私は今。必要以上にお兄ちゃんを男として意識してしまっているもの。

熱い胸の鼓動に呼応して私の心の中で、この場でお兄ちゃんと結ばれることへの期待が大きくなっていった。

だから、お兄ちゃんが私のそばに座るだけで、体がビクッとしてしまう。期待が大きすぎて、私のプレッシャーになってさえいた。

胸が苦しくなるほど鼓動が高まり、呼吸が浅くなっていくのを感じた。

お兄ちゃんはそんな私の気持ちを察したのか、無言で私を強く抱き寄せる。


「あっ・・・ん・。」

その先の展開まで期待した私のか細い声は、艶気を帯びていた。声を出した自分でも悩ましい声と思っうほどに。そうやって()()()声を上げながらも、私は自分から胸がお兄ちゃんの体にあたる様にワザと体を摺り寄せる。自分の好意をお兄ちゃんに伝えるために・・・・・。

大人の女性と多くの恋をしてきているお兄ちゃんには、これくらいの刺激と誘惑が無いと、ブラックコーヒーの味の分からない幼い妹である ”私の準備が出来ている” ことは伝わらない。私は心のどこかでそう確信でいた。

きっと、ここまですれば・・・。お兄ちゃんは私を奪ってくれるに違いないというエッチな期待を込めての行動に、スイッチの入ってしまった今の私は、嫌悪感を抱かなかった。

そして、私を抱き寄せたお兄ちゃんも、私を真っすぐに見つめたまま「そういう気分になってるのかと思って・・・・。」と、囁く。

・・・・お兄ちゃんは、私の気持ちを。今、私が求めているものを察してくれている!

・・・・・私が期待するものを、今、与えてもらえるっ!

私は瞳を潤ませながら歓喜に震える声で「はいっ・・・・。」と、頷く。

その返事が終わると同時にお兄ちゃんは、私をさらに強く抱きしめてくれた。

・・・・ああっ!! いよいよなのねっ!

お兄ちゃんが明を奪ってくれるっ!!

早く。お願いっ! お兄ちゃんっ! 私を奪ってっ!! 激しく、そして優しい愛の言葉をささやいてっ!

期待に身を震わせて、お兄ちゃんを待つ私だったけれど・・・・・お兄ちゃんは、抱き寄せた私の体を押し戻して「・・・・いや、まて。どうしたんだ? 今日は積極的すぎるじゃないか?」と、問いただしてきた。


「え・・・・?」

直ぐに私を奪ってくれると思っていた私は、意表を突かれた猫のように目をまん丸にして固まってしまった。

あかり・・・。やっぱり今日は何かあったんじゃないのか?

 正直、今、この場でお前を抱きたいよ。お前を激しく抱いて俺の物にしたい。

 でも、今のお前は正気じゃない。その瞳と厚い吐息が何よりの証拠だ。

 そんなまともじゃないお前を抱いても、俺は嬉しくないんだ。

 教えてくれ。何があったんだ?」

お兄ちゃんは私の両肩に手を置き、優しく私を慰めるかのように言った。

お兄ちゃんの優しい愛情がこもった言葉に私は、魔法が解けたように正気を取り戻す。


ああっ!! わ、私。また繁殖期ラヴシーズンの影響でっ!?

お姉様の魔法でも一度スイッチが入ってしまったら、私の生殖本能は抑えられないらしい。私は、いつの間にかお兄ちゃんの体を求めて、無意識のうちにお兄ちゃんを誘惑しようとしてしまっていた。

・・・・わ、私っ! なんてことをっ!!

自分がしたことに恥ずかしくなって泣きそうになりながらも、こうなったら、全てを話すべきかと、覚悟を決める。

でも、お姉様がそれに待ったをかけたの。


「やめよ、明。全てを話すじゃと? 男心の話も繫殖期ラヴシーズンの話もするのか?

 男はお前が思う以上に繊細な部分を持つ。淫乱なイメージのある繁殖期ラヴシーズンの話や、お前の心の中で男が戻ってきている話まですると、恋心が萎えてしまう可能性だってあるのじゃ。

 ここはな。ここは、妾が一肌脱ごう。たけるには、妾の魔法を受けてのことじゃと話せ。それで丸く収まる。」

そんなっ!! そんなの駄目ですっ!!

私のせいでお姉様が悪者になっちゃうっ!!

「・・・え~と。うん。妾、一肌脱ぐとも言ってなかったのに、お前に随分と悪者にされとるがの。

 事情を知らぬたけるたちは、妾のことを祟りでお前を女に変えた怖い神様ってイメージで塗りつぶされとる。妾、お前らが反省したら、男に戻してやるつもりだったのに・・・・・。」

あ・・・。

「もう手遅れじゃ。悪い事は言わん。ここは素直に妾の好意に甘えよ。」

お姉様の優しい声が、私の心にしみていく。


お姉様は私に「魔法のせいだといえ。さらにたけるがそれを見破ったおかげで、魔法は解けて愛が深まったと言え。それですべてが丸く収まる。なに、男は単純だ。手柄を与えてやれば有頂天になりおるわ。」とアドバイスをくれた。

私がその通りの言葉を伝えると、お兄ちゃんは、嬉しそうに「愛が深まった!?」と言って喜んだ。

これでどうにか事態を治めることが出来たけど・・・・・。

ごめんね。お兄ちゃん、お姉様・・・・。

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