新たな危機感
男の子から女の子になった私は、自分から女の子のままでいたいと決めた。男の子の頃の自分にそういう素質があったのかは、思い出せない。でも私が女の子のままでいたいと強引に言ったときのお姉様の反応を見ても意外な結果だったことがわかる。きっと、元々の私には素質なんかなかったのだろう。
女の子になった事で、私は目覚めたんだと思う。
そんな私にとって、女の子でいることは何よりも重要なことで、だから私は男心なんか邪魔なものだと思っている。
だというのに、私の体の女の子としての本能。 ー正確に言うと、本性である蛇の一族の生殖本能ー は私の足枷となり、それを抑え込むためにしたことが男心を活性化させる結果を産み出している。
女の子であることが、男を目覚めさせる原因になるなんて・・・・・。
私は、今。美月ちゃんや初を相手にしていて、彼女たちを ”女の子” として意識せずにはいられなかった。
そうして、美月ちゃんは私のそんな気持ちを知る由もないのに、私にとっての急所を責めてくる。
男の子が好きなもの。つまりは露出ね。
美月ちゃんは、その豊満な巨乳が目立つ服装をわざとしてきて、しかも私を誘うかのようにスキンシップを仕掛けてくる。・・・・それが、私にとってとても抗いがたい誘惑だった。
友情を確かめ合うかのようなハグも今の私にとっては性的衝突であるし、いろんな妄想を掻き立てられる。
美月ちゃんの柔らかそうな唇も。大きくて揉みごたえがありそうな乳房も。細い腰や手足も。
私にみだらな妄想をさせるのには十分だった。
私の脳裏には、妖しくその肢体を私に這うように絡めながら、私を虐めてくれる姿が浮かぶ。女の子同士だからこそわかる、女の子が求める攻め方、敏感なところを優しく、嫌らしく、時にじれったく攻めてくれるんだろうと、思うと女の子の部分の芯から熱くなってくる。
「明ちゃんは、ドМだから押せば何とかなる」と言われて、嬉しくなってしまう自分の性が悲しい。そうして、私が「はぁ~っ・・。」と、甘い吐息を漏らしてしまった時、初が慌ててストップをかけてくれた。
「ちょっ・・・。ちょっと!!
美月ちゃん、やりすぎだよぉ~。明ちゃん、スイッチ入っちゃってるよっ!!」
そう言いながら、私達を押し分ける。
「いやあ~んっ!」と、美月ちゃんが名残惜しそうに可愛い駄々をこねるけど、私にとって、これは救いだった。だって、このままだったら、私、美月ちゃんに落とされてたもん。
そう思う端から、私は私たちを強引に押し分けた初の力強さに男を感じていた。きっと、トリップしかけているから、スイッチも入りやすいのだろう。
私は細くて小さな初の体を見ていても、欲情せずにはいられなかった。
可愛い可愛い、女の子のように可愛い初。この子はどんな声を上げて鳴くのだろう? と、まるで男の子が女の子に対して妄想するようなことを考えてしまう。
BLで得た知識をフル活用して男の子の弱いところを刺激して鳴かせてみる姿を妄想する。
誘い受けの初なら、きっと、最初こそ私を虐めてくれるだろうけど、その内、自分を責めてと懇願して・・・懇願して・・・・。
あれ?・・・・あ。そうだった・・・。私達3人とも受け身側だから、これ以上進展しないんだった!!
あ~・・。良かったぁ‥。もうちょっとでこの二人に落とされるところだったわぁ。
ドМでよかったぁ~・・・・。
そんな風に安心する私にお姉様がそっと忠告してくれた。
「安心するのは早いぞ。明。
お前がドМになったのは、妾の眷属としての本性が目覚めたことが大きい。
男心が完全に復活したら、受け身側の女の本性よりも攻め側の男の本性が出てくる可能性が高いのじゃぞ。現にお前は、初を攻めたい願望が現れておったじゃろうが・・・・・。」
あっ・・・。
「つまりじゃな。女同士だからと油断して女体相手にみだらな妄想を繰り返しておったら、お前の中で目覚めかけている男としての本性が前面に出てくるようになるかもしれんという事じゃ。」
そ、そうなんですね・・・。あ、危なかったぁ~。やっぱり、この子たちと必要以上のスキンシップはやめるようにしないと。私、妄想で男を復活させて美月ちゃんと百合カップルになりかねないわ。
危機感を覚えた私は、クールダウンをするために二人をファミレスに誘う。
「ねぇ、イベント終わったし。このあと3人でドリンクバーでおしゃべりしない?」
「あ、いいね。いこうっ!」
と、話がまとまり、ファミレスでちょっとした女子会をすることなった。
女子会と言えば恋バナだけど、お腐れ様が揃っているとそれ以上に大切な話がある。
そう、今日。アニメショップで購入した戦利品の報告会だ。
3人が3人ともコミックスを購入していたけれど、それぞれが全く違う作者の本を購入していたので、内容が気になるところだった。
初は作中の登場人物を自分に重ね合わせるためか、女装物を購入している。
美月ちゃんは線の細い男子ばかり出てくる耽美な絵柄のもの。
私は、筋肉男子が出てくるもの。筋肉最高。エロ過ぎる。
私の選んだ本を見て美月ちゃんは
「明ちゃん。筋肉好きなの?」
って、ド直球な質問をしてくる。
「うん。大好き。 筋肉男子の絡み合い大好き。」
まぁ私もかなり力を込めたド直球な返事を返すんだけれどねっ! でも、それに異を唱える不心得者がいた。そう、初だ。
「え~? 筋肉キャラが受って、なんかキャラ崩壊に近くない? やっぱり筋肉は受けを攻める立場じゃないとっ!!」
そういってから、初は「だって・・・隆盛は絶対に私を激しく攻めてくれるはずだもんっ」と、自分の妄想を巻き散らかす。
ふふっ・・・。アナタ・・・・まだまだ、その程度なのね。
私なんか隆盛総受け本まで描こうとしていたくらいの領域に達しているのよっ! 明日からは、私のことをお姉様ってお呼びなさいッ!! アナタがまだ見ていない世界のお話をして目覚めさせてあげるからっ!!
などと、心の中で勝ち誇る。だって・・・隆盛総受け本作ろうとしてたなんて、言えるわけないもんね。
「明ちゃん。何か変な妄想してない? 何で勝ち誇ったみたいな顔してるのよ?」
む、アナタ鋭いわね。どうしてわかったの? いや、いい。聞きたくない。
どうせ、直ぐに顔に出るタイプだからとか凹むこと言われるに決まってるんだから・・・・。
「ふ~ん。じゃぁ、明ちゃんにとって、体だけなら川瀬君が一番好みなんだ・・・。」
これまた答えにくい質問を美月ちゃんは平気な顔をして言ってくる。まぁ、体だけなら隆盛はダントツに好みね。アナタたちも隆盛にハグされたらわかるわよ。一発で全部差し出したくなっちゃうもの。いや、それは繁殖期中の私だけか。
ただ、突っ込まれっぱなしも嫌なので、私も一応お返しで、「美月ちゃんは、耽美な子が好きなのね。不知火先輩みたいな人が好き?」と、尋ねると真っ赤な顔をして「・・・うん。」と答えるのだった・・・。
「だって、不知火先輩ってそんじょそこらの女の子よりも綺麗だもん。」と、美月ちゃんらしい答えを言う。でも、それって、つまり。私のライバルになりえるってことだよね?
美月ちゃんは元々、男の子の頃の私を好きでいてくれたことからもわかる様に女の子専門の完全な百合娘ってわけではない。となると、当然、不知火先輩みたいに中性的な美少年は、ターゲットになりえるわけで・・・・・。
私は冷静に美月ちゃんを女の子として分析する。大きな漆黒の瞳に長い黒髪。細くて弱弱しい肩幅に不似合いなほど大きなオッパイ。うん。間違いない。不知火先輩の好みの女の子象だわ、これ。特に以外とオッパイ星人なのよね。不知火先輩。私の胸もよく見てるし・・・・。
私の心の中で、美月ちゃんに対して新たに別の危機感を感じ始めていた。
彼女は私の恋のライバルになりえる可能性を秘めた美少女だったから‥‥。