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転校世が来るっ!?

「ああ。そういえば、2学期になったら、あかりのクラスに転校生が来るみたいだね。」

不知火先輩は、部活休憩中にお茶を飲みながら、思い出したように言う。

「えっ!? そ、そうなんですか?

 全然、聞いてないから知らなかった!!」

私のクラスのことなのに、私も知らないことを不知火先輩が話すので私は流石にびっくりして、「不知火先輩。そんなこと、どこで聞いたんですか?」と、反射的に思わず聞き返してしまった。

「そうか・・・。明。

 君は未だ知らされる立場にないんだね。」

・・・・なんですか、その海外ドラマみたいなセリフは。

しかも、なんか芝居がかっているし・・。やめてくださいよ、そのドヤ顔。

先輩みたいな美貌の持ち主がするドヤ顔って、女の子に向けてやったら駄目なんですからね。速攻で惚れちゃいますからね。

「どう? 今のきまってた?」

不知火先輩は、嬉しそうに聞いてきた。

もうっ、子供みたい。でも、悔しいけどカッコよすぎます。恋に落ちそうでした。

「ええ・・・。カッコよかったですよ。

 お兄ちゃんも初めて不知火先輩を見たときは、声優にならないかなって期待してたほど、不知火先輩はカッコいいですから・・・・。」

私がお兄ちゃんが不知火先輩のことを絶賛していたことを伝えると、流石の不知火先輩も「プロの人に褒められると照れるね・・・・。」と、頬を赤らめた。

「でもね・・・。僕って多分、役者さんにはなれないと思うんだよね。

 こう見えて意外とミーハーだから、海外ドラマ見て、カッコいいセリフを真似して楽しんでるけどさ、所詮、そこどまりなんだと思う。演者が生み出した世界を模倣することしかできなくて、自分では何かを作り出せる素質はないと思うんだ。」


意外なほどガチな回答が返ってきた。

私はもっと軽い気持ちで話したんだけど、不知火先輩は冷静に自分を分析して答えた。多分、一度本気で考えたことがあるんじゃないかな。声優さんの道を。それで、自己分析した結果、向いていないと判断したんだろうと思う。

「声優さんは、すごいよ。文章を読んで命を作り出すんだから。」

不知火先輩は、お茶をすすりながら感動するように語った。

「命を・・・作る?」

想像以上に重い言葉を聞いて、私は聞き返す。不知火先輩は自分の作品が眩しいのかのように目を細めながら見つめていた。

「そうさ。例えば僕の描いたこの絵の中には、あかりがいる。だから、僕の中では、絵の中のあかりが何か話しだすことを容易に想像できる。だって、明は現実に生きているんだもの。言いそうな言葉とか、仕草とか想像するのはたやすいことだ。すくなくとも明を見つめてきた僕にとっては、明を脳内再生させることなんて容易い事さ。でも、この絵の中に別の知らない少女が描かれていたら、何を言い出すかなんて想像できないんだ。その対象人物像に対する知識の蓄積が全くないからさ。

 でも、声優さんは文章から,それを可能にする。あったこともない人間の声のイントネーションとか作り出せるんだ。これって、命を作ってるってことなんだと思うよ?

 ・・・僕にはとてもできない真似さ。」

不知火先輩は、お兄ちゃんのお仕事をそう分析してくれた。

私は自分のことのように誇らしくなって、心の中で「そうだよ! 私のお兄ちゃん、凄いんだからっ!!」と、胸を張る。そして、同時に不知火先輩の絵も称賛する。


「不知火先輩も凄いですよ。

 だって、真っ白なキャンバスの上に命を作り出せるんですから。このキャンバスに描かれた私は、知らない人が見たら、「この美少女は何者なんだろう? どんな声をしているのかな? どんな性格しているのかな?」って、いろいろ想像して名々が、心の中に色んなあかりを想像してくれます。それは不知火先輩が生み出した命でもあるんですよ?

 だって、このキャンバスの中の私はこんなにも可愛いんですからっ!!」

不知火先輩は、私の話を呆気にとられたように聞いていたけど、やがて、「自分で美少女って言っちゃうんだっ!」と言って、笑った。続けて、「まぁ、本当にこの学校で一番、可愛いけどね。明は。」と言う。

・・・・・えへっ。い、いやぁ・・・それほどでも・・・・。いや、ちょっと自信は、あったんですけどねっ!! 改めて不知火先輩に言われると照れちゃいますっ!!

ようしっ! 気持ちが乗ってきたところで、私もキャンバスの中の不知火先輩を仕上げてみますかっ!!

私達は、お互いが同時に気力がみなぎっていることを悟りあい、どちらからという事もなく、立ち上がって筆を手に取る。

不知火先輩は、筆を手に取りながら、「僕の絵を褒めてくれて、ありがとうね。」と言って、不知火先輩のキャンバスの中に描かれた私を見つめる。

ああ・・・・。好き。

絵に向かって入る、その誇り高いその眼が・・・私は好き。


部活を終えて家に帰って、ご飯とお風呂を済ませた私は、ベッドに横たわり、今日、不知火先輩が言っていた「転校生」について、考えていた。

一体、どんな子がどんな事情で来るのかな?

男の子かな? 女の子かな?

・・・・友達になれるかなぁ?

転校生。それは学生にとっては一大イベント。誰もが新たな出会いに劇的な何かを求める。そして、存在しない転校生を勝手に思い描き、友達としてや、恋人として発展する姿を想像して、期待してしまう。

それは何故なんだろうか? 不思議ね。

私なんか小学生の頃から、夏休み明けには転校生が来ていて、新たな出会いが生まれるところを想像して期待していたもの。

お姉様は、それを「動物的な本能じゃ」と、答える。

「人間に限らず、動物は色んな遺伝子を求めて動くものじゃ。無意識のうちにな。

 それが好奇心に影響し、新たな出会いを求める。

 ただ平和に暮らしていけるのなら、不変の環境のままの方が良いに決まっておる。しかし、環境は変化するし、それによって新たな危険も発生する。それに耐えうる新たな強さを獲得するために生き物は色々な遺伝子をかけ合わせることを本能的に推奨するのじゃ。新たなる出会いは、それの裏付けじゃな。

 ほれ、古くはこの国でも「まれびと」と言って、旅人との出会いを求めて、新たな遺伝子を求める営みをする文化があったじゃろう? そう言った好奇心が、人間を生物として進化させ、文化も発展させてきた。だからな。明、お前の期待は、本能的なものじゃ。」

私は、お姉様の言葉を聞いて思い至るっ!!

そうだっ!! 発展っ!!

テスト勉強で中断してしまったけど、BLの続きを描かなきゃっ!!

「お・・おまえ、妾の話、ちゃんと聞いてた?

 妾、そういう話してなかったよね?」

好奇心ですよねっ!? 発展ですよねっ!!

わかってます、わかってますともっ!! 今から、私の好奇心をフルに活用して、この下書きに命を吹き込んで見せますっ!!

私は、漫画用原稿用紙を机におくと、Gペンを走らせる。そのペン先は何処までも繊細に、そして、時に大胆にっ!!

そうしてくっきりと浮かび上がってくる私たちがモデルのキャラクターたちの痴態・・・・。

細部までっ!! 細部までくっきりとっ!! それは元、男の子の私だからできること・・・・・あれ?

・・・・なんか、イメージがこの間よりもあやふやになってきてるわね。ちょっと描きづらい。

「まぁ、そうじゃろうなぁ・・・。今のお前は女子おなご。男の時の感覚や触感が失われて、イメージが消えかかっておるのじゃなぁ・・・・。」

が~んっ!! な、なんてことなのっ!

と、言う事は日に日に私のBLは精度を失ってしまうという事なのねっ!?

これは、一大事っ!

「いや、BLに男の精度なんか必要あるまいに。お前が思い描く美しい男性像を描けばよかろうっ!!」

いやですっ!! 私は、これでも絵描きの端くれっ!

精度が落ちるなんて嫌なんですっ!!

そうだっ!! お姉様、ちょっと脱いでご立派様を見せてくださいよっ!! それでイメージがつかめると思いますっ!

あと、ポーズとって下さい。モデル代わりにッ!! あとちょっと触らせてくださいっ!!

「な、なななな、何ちゅうことを神に頼むのじゃ、お前はっ!

 ダメに決まっておろうがっ!!」

ええ~~っ!?

「お前は神である妾に指示してポーズをとらせると言うておるのじゃぞっ!?

 そんなことをすれば、本来なら、心象世界に閉じ込めて現実世界5年分の快楽地獄に落として正気を失わさせる罰を受けなければならんほどの罪じゃぞっ!

 わかったら、さっさと想像で描けっ!!」

お姉様のお怒りを買った私は、「すみませんでした。」と謝罪してから絵を描く作業に戻る。

こうなったら、仕方ないわ。下書きしたときとあまりにもイメージがかけ離れちゃってるから、下書きからやり直さないといけないわ・・・・・。

少し、頭を抱えたけど、今日部活中に不知火先輩が言った「命を作る。」という言葉を私は思い出す。

そうだ。私は、今、命を作っているんだ。

そう気が付いたときに、私は自分の目指す方向を見つけて、再びペン入れをするのでした。

私の筆は、迷いなくすすむ。時に下描きを無視した隆線を描き、耽美な絵を完成させていく。

その様子にお姉様は「やはり、才能があるの。」と感心しながらも、「し、しかしのぅ・・・。兄妹そろってBL関係者かぁ・・・・・。」と、何とも言えない声で感想を述べるのでした。

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