悪女と呼ばれて
初をどうにか説得して、私は水着イベントを確保することに成功した。
これで夏休みの旅行はとりあえず満喫できる。
あとは、夏休みが来ることを待つのみ。
ただ、夏休みは羽目を外しすぎずにちゃんと勉強もしないといけないことを私は理解している。だって、皆には随分迷惑と心配をかけちゃったし、いつまでもこんなことを繰り返していたら、皆に呆れられちゃうし。
お姉様も「百年の恋も冷めるという言葉があってな。やっぱり、どれだけ明が可愛くても内面が酷かったら男は離れていくものじゃ。完璧になれとは言わぬが、せめて期待を裏切るような真似はするなよ?」と釘も刺されたし、頑張らなくっちゃ。「生きることをなまけちゃいけない。って歌詞は徳永英明の歌だったか。まさにその通りね。私は華の女子高生っ! しっかりとJKを満喫しないとねっ!!
JKを満喫するという私の決意は固い。
それは勿論、恋愛についてもです。
私は、お昼休みが始まると机を並べて私の対面に座る隆盛に尋ねた。
「さて、私は期末テストで十分な成果を上げましたっ!
つまり、これにより成績が上がるまでは私との隔週デートにするという取り決めは、解消されました。
だから、隆盛。
アナタは今週の土曜日に、私をどこに連れて行ってくれるのかしら?」
そのセリフに隆盛は思い出したように「おおっ!」と声を上げ、初はビックリして弁当を取り分けている手を止め、美月ちゃんは、「や~んっ・・・。」と可愛い声を上げて、突然の恋バナに赤面していた。
「そういや、あったな。そんな取り決めっ!!」
・・・・て、おいっ!
忘れてたのっ!? 明との大事な約束をっ!!
私は唇を尖らせて拗ねたふりをしながら、「じゃぁ、隆盛は一回パスね。女の子との約束を忘れるなんてサイテー」と、冗談で言ってやったら、その時の隆盛の情けない顔と言ったら、・・・ちょっと可愛いかも。
「明ちゃん。言っておくけど、勝負はついてないんだからねっ!
ご飯の時にそんな話をするなんてやめてもらえるかな?」
初は、弁当をドンと音を立てて、机に置くから私は怖くなって「ご、ごめんなさい・・・。」とすぐに降参する。
うわあ~、やっぱり小さくて可愛くても男の子ね。
怒ったら迫力が違うわね。・・・・怖い。
腕力では圧倒的に初の方が上だし、ここは大人しく引き下がろうか・・・。と、思っていた矢先、隆盛が「まぁまぁ・・・。」と仲裁に入る。
「初。今までは、当たり前のようにしていた話なんだし、態度を急変させたら明が可哀想だろ?」
と私をフォローしてくれる。ほうら、ごらんなさい。私は間違っていませんでしたよ? とばかりに私は初を見てにっこりと笑う。
「ぐぬぬぬぬ・・・。」
初が悔しそうに可愛い声を上げる。「ぐぬぬ」まで可愛いなんて、この子、本当にムカつくくらい私の女の子としてのプライドを殴りに来るわね・・・。
しかし、その様子は元いじめられっ子の美月ちゃんには刺激が強すぎたみたいで、目に一杯涙を浮かべて固まっていた・・・・。
「ああっ!! ご、ごめんね? 怖かった?
美月ちゃん。私達、別に喧嘩しているわけじゃないのよ。
こんなのじゃれあってるだけだから・・・。」と、言って私が取繕うと、美月ちゃんは安心してホッとため息をついた。
「シュ、修羅場かと思って・・・・・こわかったぁ~~~。」
「そ、そんなわけないじゃないっ! ね、初」
私が美月ちゃんを安心させるために初に振ると初はコクリと大きく首を縦に振って肯定する。それで、どうにかこの場を治めることが出来た。
でも、美月ちゃんに「本当に明ちゃんて色んな男の子とデートしてるんだね。・・・・悪女だね。」って言われてしまった。
違うのっ!! 私、迫られてる方だからっ!
それに一回、断ってるのに、壁ドンして続行要求されて折れただけだからっ!!
美月ちゃんは、重大な認識違いをしているけど、まぁ、はた目から見たら、私っていやな女の子かもね。
天才天才と呼ばれるイケメンキックボクサーの隆盛でしょ、
男女を狂わせるほどの美貌の持ち主の不知火先輩でしょ、
超絶エロボイスの声優のお兄ちゃんでしょ?
この3人と同時に付き合ってるから、悪女と思われても仕方ないかもしれない。
まぁ、そう思われても構わないくらい役得だけどね。こんな乙女ゲーのヒロインみたいなポジション、誰でも憧れるわよね。私、そのポジションを獲得してるのだから、女の子になって本当によかったわ。
女体化万歳ね。
放課後、美術室に行くと不知火先輩は既に到着していて、私が美術室に入ると先輩はいつも通り、その美貌をほころばせて「やぁ、明っ!」って声をかけてくれた。
やん。今日もカッコいいんだからっ・・・・。
私は自分が乙女ゲーのヒロインポジションだと実感させてくれる一番の存在は不知火先輩だと思っている。だって、本当に少女漫画から飛び出してきたのかと思うほど、美しいんだから。しかも、性格も真面目で優しい。むしろ欠点が見当たらないのが欠点とさえ言えちゃうのが不知火先輩。
その不知火先輩と出会えただけでもキセキなのに、まさか女の子になって恋人候補になるとはお釈迦様でも思うまい。
「そもそも釈迦は、そう言ったことに関与する神仏ではないからのぉ。
人同士の縁を取り持つのは、どっちかというと妾達の仕事ゆえな。
神無月の頃に日本の神々が出雲に集まって、縁組を決めるという話は知っておろう?」
はい・・・・。
というか、その場合、イレギュラーな私ってどうなるんですか?
「妾が直接説明するしかないわな。
まぁ、そこは妾がどうにかするが・・・・・つまりをいうとじゃ。
今、不知火をはじめ3人の男どもがお前に惚れ込んでおるのは運命でも何でもなく、奴らの男としての本能が、お前を極上の女と判断したことが原因じゃな。」
・・・・!!
ご、極上の女っ!? 私がですかっ!?
「うむ。お前は美しいし、体もいやらしい上にチョロくて優しくて、才能も有って・・・・。しかもドМじゃ。いう事なしの極上の女じゃ。」
・・・・最後の評価は、いりません。
「なんじゃと!? 妾、全否定。・・・・」
あ・・、お姉様凹んじゃった。
まぁ、良いか。少しの間、静かにしていただこうかな。
不知火先輩は、挨拶すると、カバンの中から一枚の紙を出してきて私に見せる。
夏休みの美術部の予定表だ。
本来、デザイン科の生徒は美術部に強制加入という時代があったので、美術部は極小規模の部活であるにもかかわらず、夏休みにかなりの日数が活動予定にされている。
「これ、22日もあるんだぁ・・・・。」
私は、文化部の夏休みの活動日数にしては多いことを改めて口にする。
「うん。 本来なら、コンクールとかに発表する作品を制作しないといけないからね。
でも、うちは、そういうのあまり計算していないというか。自分の描きたいものを描くことに注力している部活の方針だから、こんなにも日数を入れる必要ないかもしれないけど・・・・。絵、描きたいでしょ?」
不知火先輩はそう言って嬉しそうに笑った。
私はそんな美術を愛している不知火先輩のことが好き。男の子の頃から尊敬していた。
先輩の描く絵。表現の仕方。その絵に向かう姿勢。すべてが私にとって、崇敬の対象だった。
だから、私は不知火先輩の質問に笑顔で肯定する。
「はいっ! 私も絵を描きたいですっ!!」
不知火先輩はにっこりと笑うと、「じゃぁ、はじめようか?」といって、準備室の扉を開けてイーゼルを準備する。
それにつられて私も一緒に準備に動く。
不知火先輩は、そんな私を見ながら、「これが僕の一番の武器かもしれないね。他の2人もそこそこ美形だけど、僕には、それ以上に明と深い部分で繋がっているからね・・・。」と宣告する。
ええ。そうですよ? 不知火先輩。
私と先輩はアートで繋がっています。
でも、それは隆盛も同じ。彼は親友として私とつながっているし、お兄ちゃんはお兄ちゃんとして誰よりも深くつながっています。
だから・・・・ね? 不知火先輩。
次のデートも楽しくしてくれないと、私、他の子に移っちゃうかもしれませんよ? 油断しないでねっ!