神鳴り
皆が楽しい旅行へ行けるか行けないかは・・・・・私にかかっていた。
中間テストで下から数えて95位の私が上位80位以内に入るのは結構キツいかも。
半分以内ならわかるけど、80位以内ってもう中の上クラスじゃない・・・・・・。
私は、頭を抱えながらの学校帰り、ふと、あることを思いだした。
そうだ! 帰り道にお姉様が教えてくれた神社に行かないと・・・・。
「そうじゃ。神頼みしに行くのじゃろ?
妾は待ち遠しい。はよ行け。」
なんでお姉様がウキウキしているんですか?
何か怪しいなぁ・・・・・。
「怪しくはないぞ、行けばわかる。
ふふふふ・・・・。」
お姉様の意味深な笑いが気になりつつも、私はお姉様の言っていた神社まで来た。
そこはかなり小さな神社で境内に小さな子供が遊べる公園が付いているけど、公園で遊んでいる子供はいない。最近は老人が子供が遊ぶのを禁止するとか、訳の分からないことがまかり通っている。その老人たちも子供の頃は遊びまくっていただろうに、どうして禁止するのだろう? それこそテレビゲームが流行りだした時は、「子供が外で遊ばないのは健康に悪い」と問題視していたのに、今度は子供に遊ぶなというのだから、大人というものは全く勝手なものだ。私は間違っても、自分が安楽に暮らせるために子供に忍耐を強いるような薄情な老人にはなりたくないものね・・・・・・。などと、考えながら公園を通り過ぎて神社のお宮の前に立つ。
神社のお参りにの作法は、実は神社によって違う。でも、特に作法に指示がない場合は、鈴を鳴らして2礼2拍手1礼の作法でよいと聞いたので、私はその通りに行って、神前に深々と頭を下げながら、「期末試験でいい結果を残せますように・・・・」とお願いする。
すると、お姉様が「ちょっと待っとれ」といって、私の体から抜け出てきた・・・・・・。
その時、私は自分の体からお姉様の御零体がスルリと抜け出ていくのが見えた。現実世界でお姉様の姿を見るのは初めてだった・・・・・。
その時、私はお姉様が私の体から出ていく喪失感を感じる前に「キレイ・・・・。」と感じて思わず呟いた・・・・・。
柔らかみのある女性的な顔であり、男性的な彫りの深さも併せ持つ宝塚の男役のような中性的なお顔立ち。大きな瞳はエメラルド色で、唇はほおずきのように瑞々しい紅色。
短い髪は、サラリと伸びた緑の黒髪に変わり、後ろで束ねてある。
白雪のように白い肌に細く長い首筋は、舌先を這わせたくなるほど悩ましい。
狭い肩幅に薄い体に似合わぬ大きな乳房。首らた細い胴から大きな腰にかけての隆線美は、まるで古代ギリシャの大理石像を思わせる。
いつものお姉様も美しいけど、現界されたお姉様は、その数倍も神々しく、そして、清楚の権化のように貞淑なイメージを見るものに感じさせる女神だった。
私はその姿を観察してから、改めて「・・・・お姉様・・・キレイ…。」と、呟いた。
それは羨望であり、嫉妬でもある。
私はお姉様のように美しい女性になりたいし、同時に、それを持っていないことでお姉様の美しさにも嫉妬していた。
そんな私の気持ちを察するお姉様は「明は妾の眷属ゆえ、もう少し成長したら、美しい女性になるぞ。今は短いこの黒髪もじきに伸びてくるでな・・・。」
と、私の髪を撫でながら言ってくれた。
・・・・嬉しい・・・・・。
私に流れるお姉様の眷属の血のせいだろうか。私はお姉様にそう言っていただけただけで、とてつもない幸福感に包まれる・・・・。
ああ・・・・・お姉様は、やっぱり神様なのね・・・・。と、納得しながらお姉様を見つめる。
すると、お宮の奥から男性の声が聞こえてきた・・・・。
「おお、久しぶりじゃの。今日は何用じゃ?」
私が声をした方を覗こうとすると、お姉様は私の頭を押さえつけて
「みだりに神の姿を見るでない。魅入られて正気を失うぞ。
妾はこれでも随分、神威を落としてお前の前に姿を見せておる。だからお前は平気だったのじゃ。
じゃが、あのお方の姿を見ると大変なことになる。お前はそのままの姿勢で目を固く結んでおれ・・・・・。」
と命令する。
その声は、どこか魔法めいていて、私は自分でも自覚を失うほど忠実にお姉様の言葉に従っていた・・・・・。きっと、暗示のような効果のある言葉なのだろう。私はそれに逆らうことが出来なければ逆らいたいとも思わなかった。
「それで、よい。」
お姉様はそう言うと、声の主に向かってこう言った。
「大神、お久しぶりでございます。
実は、この度は、我が眷属であるこの者の学業の成績が上がる様にお知恵をお与え願いたくまかり越しました・・・。」
お姉様の言葉から、相手の神様がお姉様よりもはるかに上位の存在だとわかる。だって相手の名前を呼ばずに「大神」と呼んでいたから。
そして、声の主は、何やら思案しているかのように「ふ~む・・・。」と答える。きっと顎に手を当てて考えこんでいるのだろう・・・・。でも、一体何を?
「お前の願いだから聞いてやらんでもないが、こ奴は勉学よりも芸術に秀でた才能を持っておるようじゃ。そっちを伸ばしてやった方がよいと思うがの? この近くにはアマノウズメの社もあろう?」
「大神。ご忠告、ありがとうございまする。ですが、この度は、この者の恋愛を叶えるために学業成績を上げなくてはならぬ事情がございまして・・・・。」
「ふ~む。訳アリかぁ・・・・。」
お姉様が事情を説明してくれた。これは神々同士の会話。私には口を挟める余地はないのだけれども・・・・。この「大神」の仰ったことを参考にすると、私ってやっぱり芸術に向いているのね。パパが凄い賢かったのに、なんで私バカなんだろう・・って思ってたけど、才能の振り分けがパパと違ったのね。
「なるほどのぉ。しかしじゃ・・・。余にこれほどの願い事をする以上、それなりの礼はするのだろうなぁ?」
お姉様の説明を受けて納得した大神だったけれども、あからさまに見返りを要求してきた。
うっわぁ・・・と、思ったけれども、お賽銭がそれにあたるとお姉様が言っていたし、神様の世界ではそうなんだろうなぁ・・・。なにか犠牲を出して、その礼としてご利益を受けるのが、神様との契約というわけね・・・・。
でも、お姉様は何を見返りにお願いするのだろうと考えていたら・・・・。
「それでしたら、私の体でお支払いいたします・・・。」
と、驚くようなことを言う。
大神も少し呆れたように「・・・・そのボテ腹でかね?」と、問い返す。
すると、シュルシュルとか細い衣擦れの音と共に、お姉様が脱ぎ捨てたのであろう衣服が地面に落ちた・・・・。
「妊婦腹の女子は好きませぬか・・・・・?」
ゾッとするようなほど、怪しい声が私の耳に流れ込んでくる・・・。
ああっ!! だ、だめ・・・・この声を聴き続けたら、私はきっとお姉様に襲い掛かってしまう・・・。
男でも女でも、この声に魅了されて我を忘れて、お姉様の体を求めてしまうに違いない・・・・。
私の中の本能が、この声を聴き続けることが危険だと警鐘を鳴らしているのがわかる。それほど怪しい声でだった。
大神もその魅了する声に反応したのか、
「余を挑発するのか。愛い奴よのう。
よろしい・・・・・。お前の願いを叶えてやろう・・・・。」
「ただし、泣いて命乞いをするほどの快楽をお前に与えてやるので、覚悟し、後悔せよっ!!」
大神がそういうと、晴天だというのに、神社の境内に雷が落ちた。
凄まじい爆音とともに私は気を失ってしまった・・・・・・。
それから、どれくらいの時が経っただろうか・・・。私は「明・・・。明よ・・・。」というお姉様の声で目を覚ます。
ふと目を覚まして、神社を見ると落雷で地面が焼けこげていた。そして、不思議な事に私の周りだけが焼けこげておらず、まるでお祭りの時に巻く注連縄で出来た結界のように、私の周りだけ地面が焼けておらず、線で引いたような四角い地面が残っていた・・・・・。
「契約は終了じゃ。お前の学力も少しは上がろうというのもの。それでも、勉強はせねばならんぞ。忘れるな・・・・・。」
いつの間にかお姉様は私の心の中に戻っておられた。
「ああ~~~・・・・たまらぬのう・・・。この数日の間に大神の子種を授かるとは・・・。
この妾が何度も泣き叫んで命乞いをするほどの快楽を与えられるのは、やはりこれぐらい上位の神でないとなぁ・・・・・・。」
お姉様はうっとりとしたような声で大神との秘め事を反芻しているように言った。
ああ・・・・賄賂って、本当に体を差し出したんですか・・。それで済む相手も相手ですけど・・・・。
「ふふふ。そういうな。
どうして、神々は豊穣神の体を求めて豊穣神を押そうと思う?
それはの。妾達、豊穣神の体がそれほど「良い」からじゃ・・・・。報酬としては十分すぎる。」
お姉様は自信たっぷりに言った・・・・・。
「ほれ、あそこを見てみい。あそこは妾が大神の攻め苦のあまりに失神して粗相した場所じゃ。妾の失禁は、大地にとって栄養の塊よ。」
言われた場所を見ると、大地に映えた雑草は見る見るうちに伸び上がり、大地に落ちた木の実は根付いて見る見るうちに大木に成長した・・・・・。
うっわ・・・・。神様。スケールが違う。これ、絶対に今日のニュースになっちゃう。
て、いうか・・・・。お姉様が失神するほどの快楽って・・・・。
「何度も何度もな・・・・・。ほれ、ほんの僅かじゃが見せてやろう・・・・・。
お姉様がそういうと私の心の中に走馬灯のように一瞬で大神とお姉様の痴態が流れすぎる。
その走馬灯の中で、お姉様は何度も失神しては、起こされて行為を続けられていた。
それでも最初の内はお姉様も「もっと、可愛がってくださいませ・・・・。」なんて余裕もあったけど、後半になると失神から目覚めるたびに「お許しを・・・お許しくださいませ。これ以上は死んでしまいまするっ!」と、泣きながら何度も命乞いをしていた・・・・。それでもどこかうっとりとしたように大神を求めているのだから豊穣神は恐ろしい・・・・。
「これは、あの落雷の一瞬のうちに起きたことじゃぞ・・・・。」
お姉様はさらりと言った。
え?・・・・うそでしょ? 私が見たのはほんの一部だというけど、それだって3日3晩くらいの時間は襲われてたと思うけど・・・・これがあの一瞬のうちに起きたというの・・・・。
私は神様のスケールの大きさに困惑する。
そういえば、雷は「神鳴り」という。天の大神が天より降り下って地母神に与える子種だと何かの本で読んだことがある。
神鳴りが落ちたところが豊作になるというのはそれが理由だという。
お姉様は、「うふふふ・・・・。今回も搾り取られ、搾り取った。今年は大豊作の年になるぞ‥‥」と、大きなお腹をさすりながら、誇らしげに言うのでした・・・・。