明っ! 頑張るっ!!
隆盛は私を真っすぐに見つめてとんでもない事を口にしたのです・・・・。
「夏休みになったら、泊りで旅行に行かないか?」と。
私は、突然の爆弾発言に返事どころかまともに反応できずに呆然としてしまった。
すぐに反応したのは初だった。
「そんなの婚前旅行じゃないっ!
だめよっ!! そんなの・・・・・・だめー--っ!!」
急に大きな声を上げるから、クラス中がビックリして私たちを見る。
「ちょ、ちょっと・・・初ちゃん・・・。」
注目されることに慣れていない美月ちゃんが、慌てて止めに入るけど、私もこれには初に賛成っ!!
「隆盛っ! 私、そんな軽い女だと思ってるの?
言っとくけど、そんな簡単にエッチなんかさせてあげないんだからねっ!?」
お兄ちゃんも不知火先輩も隆盛も一応交際を前提に・・・というかお兄ちゃんは結婚前提だけど・・・・とにかく交際前提に付き合ってるから私の彼氏気取りはいいけどさ。だからって、泊りの旅行に誘うなんてどういうつもり?
言っておくけど、私、隆盛みたいな美味しそうな体に二人旅で押し倒されたら、すぐに受け入れちゃうんだからねっ!! その手には乗らないんだからっ!!
「いや、受け入れるんかいっ!!
・・・・まぁ、受け入れるか。妾の眷属じゃもんなぁ・・・・。産めよ増やせよは妾の教えじゃ。仕方ないか。」
そうです。お姉様。私の体にはお姉様の眷属らしく、ドМの血が流れているんですからねっ!! こんなにカッコよくて優しい隆盛に迫られたら、無理やりされてもちょっと嬉しくなっちゃうかもしれませんっ!
だから、予防線を先に張ってないといけないんですっ!!
「ううむ。若干引っかかる物言いじゃが、その通りじゃ。
妾はドМじゃが、人間の乙女には守らなければならない貞操というものがある。
年端も行かぬ明がセックスに走るのは流石に止める立場じゃ。
じゃから、許そう。そして認めよう!! 偉いぞ、明。よくぞ自分の欲望に逆らって婚前旅行をはねのけたっ!!」
よ・・・欲望なんて・・・・。私、隆盛に夜の海岸で強引に奪われる妄想なんか全然してないんだからねっ!!
「おおっ。ドМのツンデレとは、中々斬新な。
いや、妾。お前の心読めるからの? お前が隆盛の分厚い胸板に抱かれる妄想を一瞬して、ときめいていたことぐらい知っとるからの?」
し・・・してないもんっ!! 私、隆盛の上腕二頭筋の方が好きだもんっ!! あと、やっぱり、胸鎖乳突筋は外せませんっ!! ・・・・・って、ああっ!! じ、自爆してるっ!!
「語るに落ちるとはまさにこの事。欲望に素直すぎる性格とはなんとも難儀なものよ・・。
しかし、安心せい。明よ。隆盛は、ちゃんと恋愛してから彼氏を選びたいという、お前の乙女心もしっかり理解しておる。よくよく話を聞いてやることじゃ。」
・・・え?。
お姉様の言葉に私は我に返るように隆盛を見つめると、隆盛は困ったような顔をして私たちを見ながら「スケベな誤解すんな。」と言った。
「婚前旅行って、お前らな。
俺たちみんなで旅行しようって言ってるに決まってるだろ。」
その言葉に私たちは、自分たちの早とちりに気が付いて、恥ずかしくなった。
「・・・でも、だって・・・。あんなに私だけを見つめて言うから・・・私だけを誘ってるって勘違いしても仕方ないじゃないっ!!」
全く、紛らわしい。私は、エッチな誤解をしたことへの弁解と恥ずかしさを誤魔化す為に、少し強めの口調で隆盛を攻める。交渉事は弱みを見せたらダメ。常に相手側に主導権を握らせないために優位を取らないといけないの。”謝罪は弱さの表れ”って海外ドラマの捜査官が言ってたし、ここは隆盛に自分が悪いと認めさせて私たちが隆盛に謝らせる必要がある。そうしないと、私達が直ぐにエッチな妄想に結び付けちゃう欲求不満の女の子みたいに思われちゃうものっ!
初の顔を見ると私に目配せしてくる。どうやら意見は一致しているみたい。
でも、私達の作戦はあっさり見破られる。
「勇ましいな。海外ドラマのキャラクターみたいだ。
でも、俺は謝罪を美学とする日本文化が好きだ。人の話を最後まで聞かずに勝手に誤解して俺を責めた事をちゃんと謝れない子は嫌いだな・・・。」
「「やっ・・・やん。ご、ごめんなさいっ!! 嫌いにならないでぇ~!!!」」
私と初は、嫌いになると言われて、アッサリ陥落する。情けない声を上げて、隆盛に謝る。
「全く・・・。」
私達が謝罪する姿を見て、隆盛はちょっと嬉しそうにしながらも、困ったように笑う。
「大体だぞ。婚前旅行なんて俺は良くても、お前たちの親が許さねぇだろ。
ここは、保護者の明のお兄ちゃんにも来てもらう。それなら行けると思わないか?」
あっ・・。そ、そうだね。親がまず許さないよね・・・。あ、あははは・・。
あ~・・・・焦った。焦りすぎて私も初も理性的に判断できなかったわ。
でも、保護者ってお兄ちゃんかぁ・・・・。
「ねぇ、隆盛。お兄ちゃんも一応、私の許嫁で保護者というよりも恋人候補なんだけど? 大丈夫かな?」
隆盛は、お兄ちゃんが手にしている許嫁という優位を聞いて少し不機嫌そうな顔をしたけど、「そんなの俺たちの両親に言わなきゃバレないだろう?」と、冷静な判断をする。
「それにお前のお兄ちゃんは、声優という立場がある。
両親もまさか、芸能人がそんなリスクを冒すとは思わんだろう。
夏休みをつぶしてまで妹の保護者としてついてくる、妹想いの有名人としか思わないはずさ。」
確かに・・・・。事情を知らない親なら、そういうこともあり得るか・・・・・。
しかし、ここで一つ疑問がある。
その疑問は猫みたいに勘のいい初が早々に気が付いて尋ねた。
「ね、隆盛。旅行に行くったって、どこに行くの?
私達、学生だからそんなにお金ないよ? お化粧代もお洋服代だって、毎月かかるんだし・・・。」
そう。その通り。
私達は、それぞれの理由で一般的な高校生よりはお金持ってるけど、それでもそんなに湯水のようにお金使えるわけじゃないんだから、あんまり高い旅行は困るなぁ・・・。
しかし、そこは私たちと違ってプロ格闘家として働いている隆盛のこと。お金のシビアさについては十分認識している。だから、旅行先については、こう言った。
「学生の合宿に使われている格安のキャンプ場があるんだ。近くに温泉もあるし、コテージには個室のシャワーもある。いいところだし、俺の顔で安くつく。どうだ?」
どうだって言われても・・・・まずは、お値段いくらってところからですよね?
「そうだなぁ。料理無しの素泊まりで、1泊一人につき2500円ってところかな? ご飯は家から具材を持ってきて皆で飯盒すればいいし、どうかな?」
えっ!? 2500円っ!?
男女3人ずつだから、コテージ1棟一泊する料金が7500円ってこと? 普通の半額ぐらいじゃない? それ。
うう~ん。でも、2泊3日で一人5000円かかるのかぁ・・・。
「それに、移動にもお金かかるよね?」
初も頭の中でソロバンをはじいているのか、お金のことを考えている。
「じゃぁ、2泊3日なら、もろもろで一人総額で1万円近くはかかるってことね。」
美月ちゃんも予算を心配して考え込む。
う~ん。一万円って、高校生なら大金よね・・・・。凄く魅力的な話だけど、やっぱり両親に相談しないと無理かなぁ・・・・・。
私達の反応を見て隆盛は「・・・ああ~。そっかぁ・・・・。」と、少しがっかりしていた。多分、私達の反応から、望み薄って気が付いたんだと思う・・・・。
折角、話を持ち掛けてくれたのに・・・・ごめんね。
ところが、放課後・・・・。意外なことに不知火先輩が解決策を持っていた。
「ああ。それなら、うちの別荘を使えばいいよ。」
と、何でもないことのように言った。
べ、別荘ですと? ブルジョアジーな響き・・。いや、うちも持ってるけど。
でも、そんなの高校生に使わせてくれるんですか?と、尋ねたら、「ああ。いいんだ。どうせ、家族では何年も使ってなかったし。部屋の掃除をするからってことにすれば、交渉成立すると思うよ。去年も僕はそうしたし。」と、実績があることを説明してくれた。
「山の上にそこだけポツンと建っている一軒家でね。元々は山林業の人たちの家だったらしいんだけど、売りに出されているのを10年ほど前に両親が買ってね。最初の頃こそ家族で楽しく行ってたんだけど、母が途中で自然にうんざりして、もう数年、僕だけが使っているんだ。」
これなら、宿泊代はかからずに、旅費だけでいける!!
とりあえず、今日家に帰ったら、ご両親に相談してみるよと不知火先輩は言った。
「もしかしたら、両親も来るって言いだすかも・・・・・。」とは、いうものの、高校生が旅行するのに保護者がいるのは普通の事。特に問題はないから、私はお願いしますと頼んだ。
不知火先輩は快諾してくれたけど、「ただし・・・」という。
「明の期末試験の結果次第では、旅行どころかデートもダメだからねっ!」
不知火先輩は、爽やかな笑顔で言った。
が、がががが、頑張るっ!!
明っ!! 次の期末試験ではクラスの真ん中にはいますっ!!
「学年の上位80人以内ね。」
ああ~~~~~っ!!!
未だ、確定の旅行じゃないけど、それが実現可能かどうかは私の期末試験にかかっている。
皆が楽しい旅行へ行けるか行けないかは・・・・・私にかかっていた。