攻略キャラ
翌日学校へ行くと、いつものように初が「おはようっ! 明ちゃんっ!」と、いつも通り満面の笑顔で迎えてくれる。その笑顔を見て思い知らされる。
・・・強いなぁ・・・・この子、と。つくづく思い知らされる。
私だったら耐えられないような環境だと思う。女性ホルモンにまで手を出して、学校にお山で呼び出されてカミングアウトさせられて・・・・。なのに初は辛そうな仕草を一つも見せていない。本当に強い子だと思う。
「おはようっ! 初。」
だから、私も負けじと笑顔で爽やかに挨拶してあげるの。昨日までのことを気遣ったり、心配したら初のこの空元気を踏みにじってしまう気がしたから。
そう、これはきっと空元気。初だって傷ついてるはずだし、悲しいし、恥ずかしいはず。それでも元気に振舞っているのだとしたら、それは空元気以外の何物でもない。その空元気で頑張る初をそのまま受け入れてあげることが親友だと思う。だから、私は、そのままの初を受け入れるの。
ただ、次に出た初の言葉は衝撃的だった。
「期末試験まで2週間切ったね。明ちゃんっ、今回は大丈夫?」
ああああああ~~っ!!
期末っ!! 試験っ!!! ああああああああ~~~っ!!
そんなっ! 忘れてたのにっ!!
忘れてたのにっ!! 知りたくなかったっ! そんな事実っ!!
なんてことっ!? 初。あなた、私が気を遣ってあげたのに、貴方は裏切るのっ!?
私は顔では平静を装いながらもショックで心の中で初を非難する。
だって、そうでしょっ!? 私、初を気を遣ってあげたんだよ? なのに、初は私を虐めるのっ!?
「忘れとったから、思い出させてくれたんんじゃろうがっ! ・・・・なにが裏切り者じゃ。
2週間前から準備しておったら、いくらバカな明でもなんとかなるじゃろうっ?」
ああ~っ! お姉様、バカって言ったぁ!!
「お前が今朝、散々、自分で自分のことをバカって言ったんじゃろうがっ!」
ううっ・・。そう、そうだけど。自分で言うのと他人に言われるのではダメージが違うもん。
「全く。それでも学力を上げて大学に行かねばならんのじゃから、頑張るしかないぞっ!」
お姉様はいつも正論ばかり言う。ここは初に助けてもらおう。
「ああ~。実は、あんまり勉強してないんだよねぇ・・・・。」
私は初の質問にありのまま答えた。親友のありのままの姿を受け入れることこそが親友のあるべき姿勢っ! 私は初を信じて正直に言った。
なのに、初は、呆れた顔で「・・・明ちゃん。バカなの?」って、答える。
そうですよっ!! 明、バカだもんっ!! お勉強なんかしてないもんっ!?
それが何? いけないことなのかしらっ!?
って、開き直れたらどれだけいいか・・・。初は、とどめとばかりに「私と不知火先輩が、勉強見てあげてるの、無駄にしないでね・・・。」と、胸に刺さる一言を言う・・。
はい。すみません・・。今日から死ぬほど頑張って結果出します。
「明ちゃん、テストの点数が下がるとまたデート少なくなっちゃうからね?」
うん・・・。
あ、そうだ。初は、今でも隆盛とデートしてるの?と、尋ねると、初は珍しく真っ赤になって口ごもり、小さく「・・・うん。」とだけ答える。
よっぽど嬉しいんだなぁ・・。愛い奴よ。
などと考えていたら、当事者の隆盛がやってきた。
「おはようっ!」
と、元気のよい挨拶と相変わらずの肉体美を披露してくれる。カバンを担いで曲げた右腕から見える、太い腕の象徴でもある上腕二頭筋の盛り上がりが素晴らしい。思わず生唾ものです。
「お前も、つくづくマニアックよなぁ・・・。まぁ、妾も同じことを考えていたが・・。」
やっぱり、お姉様も好きですねぇ。筋肉。
「うむ。あれこそが男の象徴ともいえるでな。
昔ゴリゴリマッチョの闘神にレイプされた時は、犯されている感じが半端なくて最高じゃったわ。
どれだけ抵抗してもねじ伏せられて・・・・・。ああっ・・・思い出しただけで滾るわ・・・。」
・・・・ドМの私でも流石にそれは理解できないって言うか、豊穣神ならではの感覚ですよね。
普通に引きます。変態でも喜びませんよ、レイプなんか。
「ふふふ・・・・。まぁ、そうじゃろうな。
これこそドМの頂点の感覚。明もドМとはいえ、理解できまい。
これは人の身では到底到達できぬ領域よ。」
・・・・とんでもない事をめっちゃ自慢されちゃった。
変態の話は置いといても、隆盛の肉体って、やっぱりステキ・・・・。
あの体に抱きしめられたら、いっぺんに全てを差し出したくなったもの・・。あとイケメンだし。
「イケメン。確かに重要じゃな。
手練手管なしに第一印象から良いからのぅ。そこは外せぬ。」
隆盛は性格もいいしねぇ・・・・。あ、でも。他の生徒からは恐れられてるから、それはどうなんだろう?
私と初は、最初から優しくしてもらえたけど・・・・・。
・・・・・・。そう思うと、少なからず初に対して嫉妬してしまう私だった。
昼食の時間になると、美月ちゃんもやってきて、皆でお昼ご飯を頂く。
ふと気が付いたのだけれど・・・。
「ね、今、思うと。隆盛って凄いハーレム主人公じゃないの?」
私の何気ない一言に3人とも固まってしまった。
「・・・・明ちゃん・・・。いきなりなんてこと言うの?」
「そ、そうだぞ・・・。それにお前が言えた義理か。」
隆盛と初は呆れて返答したけれど、美月ちゃんだけ、「・・・・わ、私・・。別に隆盛君が目当てで来てるわけじゃないもん・・・」と、恥ずかしそうに答えた。
まぁ、そうなんだろうけど・・・。でも、他の男子からしたら、すっごい羨ましい状況なんじゃないの?
「う~ん。なんで、こうなったかと言えば・・・・。最初は、明が女だってわかったところが始まりで、
次は、初の弁当が理由だろ? 美月はお前が連れてきたんだし・・・・。」
と、隆盛は、思い出すようにして答える。
て、いうか。いつの間にか美月ちゃんまで呼び捨てにされてるし・・・。隆盛も距離の詰め方えげつないな。それこそ、美月ちゃんとデートしたら、美月ちゃんでも簡単に落とされちゃうかも・・・・。
「それにハーレム物って、主人公に集まってくる女が全部が全部、攻略キャラってわけでもないだろ?
友達ってことで・・・。」
隆盛は、この状況をさほど気にしてはいないらしい。流石、初を最初から女の子として扱っている懐の深さ・・・。大人物だなぁ・・・・。
美月ちゃんも「ほえ~・・。」と、感心したように声を漏らす。その眼は、隆盛の凄さに惹かれているようにさえ思えた。百合娘の美月ちゃんでさえ、魅了するその逞しさ。隆盛なら、本当に美月ちゃんを攻略できるかも・・・・?
そう思った矢先、ちょっと不機嫌そうな初が、「で? どうなの? 美月ちゃんは攻略キャラなの?」と、尋ねた。流石、初。心は女の子になって行っているだけあって、女の勘が働いている。きっと美月ちゃんがちょっと隆盛に惹かれていると感じたのだろう・・・・。
隆盛はまるで浮気を咎められた旦那のように「いや、そういう話じゃないだろう?」と、狼狽えるし、美月ちゃんも「こ、攻略とか・・・・恋愛はゲームじゃないのよ・・・・」と慌てていた。
・・・あれ? もしかしたらワンチャン、美月ちゃんも攻略されちゃう?
うう~む。隆盛もやっぱりハーレム主人公だなぁ・・・。
もういっそのこと私達、3人ともお嫁さんにもらっちゃう? 私達、3人とも百合も行けるから、円満な夫婦生活になると思うよ?
なんてバカなことを思っていたら、隆盛が「攻略と言えば・・・・だ。」と、切り出した。
私を真っすぐに見つめてとんでもない事を口にしたのです・・・・。
「夏休みになったら、泊りで旅行に行かないか?」