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家族の団欒。

一心不乱で駆け抜けた夜。気だるい体を癒すように朝の眠りについた私をママが9時に起こす。

あかりっ!! いつまで寝ているの?

 日曜日だからって、だらけ過ぎよっ!」

ううっ。ママぁ~。私、夜勤明けなんだからもうちょっと寝かせてよぉ~・・・・

という私の抗議は「何馬鹿なこと言ってるのよっ! 夜更かししてただけでしょっ!!」というママの一喝で却下された。

私は眠たい頭に手を当てて、寝不足からくる頭痛と戦いながらリビングに入ると、ママが「朝食を早く食べなさいっ!」といってテーブルを指差した。

今日の朝食はトーストとベーコンエッグ、オレンジジュース、サラダというメニュー。寝不足の体にはボリュームがあるけど優しいメニューだった。特にサラダとオレンジジュースが有難い。

私は、トーストを手に取るとクランベリージャムをたっぷり塗って、オレンジジュースと一緒に食べる。

ベーコンエッグのお供にはサラダが合う。カリカリのベーコンに塩コショウが効いた完熟目玉焼きとサラダはよく合う。サラダには青じそドレッシング。ノンオイルドレッシングが朝食には向いている。青じその爽やかな感じが寝不足の体の救いとなる。

私は無言で作業のようにご飯を食べていたけれども、サラダを食べ終わるころには、体はすっかり元気になっていた。

ああ、やっぱり人間の体には、ビタミンと塩とタンパク質と炭水化物が必要なのね・・・・。そう実感していると、お姉様は「大地の恵みじゃ。有難く頂いたかえ?」と尋ねてきた。

もちろんです。

私は食べ物の有難みを実感して感謝の気持ちを覚える。

「飽食のこの国のものにはわからないかもしれないが、食べ物があるという事は幸せな事なのじゃぞ?

 動物はすべて、草食にしろ雑食にしろ、他の命をいただいて生きておる。

 感謝の念を忘れてはならぬ・・・・。」

豊穣神らしいお姉様のお言葉の深みに私は素直に納得する。


それにしても夜通し漫画を描いて疲れてしまって日曜日をつぶすというのは、勿体ない。

食事を終えて、暫くリビングの椅子に座ってママとテレビを見ていた私は、ふと思った。

テレビでは、芸能人が園芸をしていた。ママも趣味で庭いじりをしているので、真剣に番組を見ながらメモを取る。その姿を見て、自分も何かしないとね・・・・と、思った次第。

そんな私の耳に、いやらしい声が爽やかに響いてきた。

「おはようっ! お寝坊さん。今頃起きたのか?」

ランニングを終えたお兄ちゃんが帰ってきた。昨日はラジオの収録があったのに元気な事・・・。

私はお兄ちゃんのバイタリティと生真面目さに感心しながら、「おはよう、お兄ちゃん」と挨拶を返すのでした。

お兄ちゃんは、オレンジジュースをコップに注ぐと「・・・まだ、お兄ちゃんから戻してくれないのか?」と、拗ねたように言う。その姿をちょっと可愛いと思ってしまう私でした。


「うーん。一度、戻しちゃうと、なんかハードル上がっちゃったなぁ・・・。」

と、私が素直な感想を述べると、お兄ちゃんは、オレンジジュースを飲み干してから「まぁ、また言わせて見せるさ。」と不敵に笑った。

・・・・・ちょっと、カッコいい・・・・。日曜日の朝から、私の胸は少しときめいていた。

繁殖期ラヴシーズンが終わったら、こんな気持ちが起きにくくなるなんてにわかには信じがたいけど、事実なんだろうかと疑うほど、私の胸は甘酸っぱい気持ちで一杯になる。

そして、脳内に呼び起こされる昨夜の妄想・・・・。

あの声で、あの腕で、あの胸に抱かれて可愛がられる私の姿を思い描いてしまう・・・・・。

このままとてもお兄ちゃんと一緒にはいられない。とてもエッチな気持ちを止められそうにないから・・・。

自分の自制心の限界を感じた時、お兄ちゃんは「シャワー浴びてくるから・・・。」といって、リビングから出ていく。

「もうっ!! 洗濯物を無駄に増やして~~っ!」と、テレビを見ていたママが愚痴を言う。

もし、私とお兄ちゃんが結婚したら、いつか私がお兄ちゃんの服を洗ってあげる日が来るのだろうか?

今のママみたいに日曜日の朝に無駄に増やされた洗濯物に愚痴を言いながらもきれいに洗ってあげる日が・・・。

その姿を想像してみたら、意外なほど、私は幸せそうに洗濯をしていた。これが愛なのだろうか?

そんな風に思うと、文句を言いながらもお兄ちゃんの服を洗ってあげているママも、実は幸せを感じているのかもしれない。母親としての幸せを・・・・・。

私も女の子になったからだろうか? その姿に憧れを抱かずにいられない・・・。

私はママをじっと見ながら「ママ。今、幸せ?」と尋ねてみた。


「全然っ!! 面倒ったらないわよっ!!

 夫も長期単身赴任だし、もう、私の幸せはあかりが綺麗なお嫁さんになってくれることだけね。」

と、冗談交じりに言う。

何それっ! と、笑いながらも、私は幸せを感じていた。

ああ・・・。いいなぁ。

私、今。とっても幸せな家族生活をしている・・・・。

女の子になった事でママとも、より距離が縮まったのを感じられているし、私は、お姉様のおかげで随分幸せになれたと思うのでした・・・・。


暫くするとお兄ちゃんがシャワーから出てきて、もう一杯オレンジジュースを飲む。

「あ、空になっちゃった・・・・。」

お兄ちゃんは、残念そうにそう言うと、オレンジジュースの入っていた紙パックをリサイクルできるように流しで洗う。

たける。後でいいから、買い足しに行ってくれない?」

買い物に行くのが面倒だとばかりにママがお兄ちゃんにお願いすると、飲み干した罪悪感か、お兄ちゃんは「しかたないなぁ・・。」と言って承諾する。

これが運の尽き。

ママは「ついでに晩御飯のおかずの具材も買ってきてほしいの」と、付け足す。

お兄ちゃんは苦笑いしながらも、「今晩、何をする?」と、尋ねるので、私は急に閃いた。


「ねぇ、3人で道の駅に買い出しに行かない? 家族でっ!」

その言葉を聞いてママがびっくりしたように・・・・それでも嬉しそうに「・・・え? ママも一緒に行っていいの?」と尋ねる。

ママが遠慮していることを感じたお兄ちゃんは、すかさず「当たり前だろ。家族なんだしっ!」と明るく答えるので、ママは嬉しそうに「じゃぁ、久しぶりに家族でドライブしようっか!」と答えた。


お兄ちゃんの洗濯物が終わると、ママの車に乗って3人でドライブ。

湾岸通りに出て、海岸線を楽しみながら、他県にまで出てドライブする。

途中、小休止で入った道の駅から望む海を楽しみながら、レストランで食事をして、お土産コーナーで物色する。

「ナマモノはダメよ、ママ。この先の道の駅で買った方がおいしいんだからっ!」

「ええ~? このタコ、おいしそうなのにぃ~・・・・」

「ああ。ママ、あかりの言うとおりだよ。それにタコもこの先の方が良い。あっちのほうがいい漁港と提携してるのか、物が大きい。タコも絶対向こうで買うべきだよ。」

などと、わいわい騒いでから道の駅を出て、車に乗ってさらに湾岸線を進んで、別の道の駅に到着する。その道の駅で今晩のメインのおかずを探す。

ママは嬉しそうに魚を物色しながら、

「ああっ!! ステキっ!! こんなにいろんなお魚があったら、何にするか迷っちゃうわっ!!」と、大はしゃぎ。

ママの嬉しそうな姿を見れて、私もお兄ちゃんも、幸せな気分になった。

「そうだっ!! 今日は、色々と小さなお魚を買ってブイヤベースにしましょうっ!!」

ママは、沢山の魚を見て献立を思いついたようで、嬉しそうに白身魚の小さなお魚を数種類選んで買った。

そして、食材が悪くなるといけないので、その日はその後、すぐに家に帰ることに・・・。

 

今夜の晩御飯は、ブイヤベース。

フランス料理で、この料理の起源にはこんな伝説がある。

戦争から息子が帰って来ると知った母親が漁港に出ると、魚は全て売り切れてしまっていた。

母親は「息子が戦争から帰って来るのに、迎え入れてあげる料理が出来ないなんて・・・。」と、泣いていると、事情を知った町の人たちが「おばあさん、これを使いなよ・・・・。」と、売り物にはならないだろうけど、味に深みのある雑魚をたくさん譲ってくれた・・・。母親は感謝の気持ちを述べてから、家にかえって、息子のために雑魚をたくさん煮込んで料理を作ってあげた・・・・。

雑魚は大味にならずにむしろ、深みのある出汁を出すことが多い。

果たして出来上がったスープも極上の魚料理であった・・・・。

そして、母親は息子を歓迎するにふさわしい料理を提供することが出来たのだという・・・・。

母親の愛と、漁師町の人々の優しさが産んだのがブイヤベース。


その晩、ママの愛情がこもったブイヤベースを口にしながら、私は家族の幸せを味わっていた・・・・・。

そして、こう思うのでした。

いつか、誰かのお嫁さんになった時、私もこんなブイヤベースを囲める家族を作りたい。

子供を産んで、幸せな家庭を築きたい・・・・・・。

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