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地獄の始まり

「ああ。あかり、お前は本当に女にするのが惜しい男じゃった。」

お姉様は、私の頭を撫でながら、私との秘め事の余韻を楽しむ様に言った。

「お姉様も、攻めてるときは怖いけど、攻められてるときは、すっごく可愛いんですね。」

と、私が言うと、お姉様は誇らしげに

「当たり前じゃ、男を喜ばす振る舞いなら、妾の右に出るものはおらぬ。

 真似るなら、必ずお前の意中の男を昂らせることが出来ることを約束しよう。」というのでした。 

確かに・・・確かに、私に攻められた時のお姉様の仕草は、私の男心をかなり刺激していた・・・・。


あのまま続けていたら、私、心が完全に男に戻っていたかもしれない・・・。

まぁ、お姉様のことだから、その前にストップはかけてくれると思うのだけれども。

「と、言う事は、この期に及んでもやはりお前は、女でありたいというわけじゃな?」

もちろんです。もう、男の子には戻りたくありません。

「なるほどな。

 まぁ、前にも言ったが、お前はもともと繁殖期に性別が変わる蛇の一族じゃ。

 お前の魂的にも今回のことはさして違和感がない事なのじゃ。だから、男に戻ろうと思わなくてもおかしい話ではないの。」

お姉様は、そう言って何度も頷いてから、それでもいう。

「じゃあ、美月みづきはどうするのじゃ?」

・・・・告白されてもごめんなさいするしかありませんね。

「とはいえ、お前は美月に押し倒されても同じことが言えるか?

 襲われて、そのまま受け入れてしまわない自信があるか?」

全くありません。

「・・・・いやっ、即答かえっ!!」

だって~・・・・。私もお姉様と同じドМの血が流れてるもん。

「もんっ! って、お前な・・・・。まぁ、気持ちはわかるがな。」

でも、どうしようかな?

言っちゃ悪いけど、今の美月ちゃんはハッキリ言って、私と不知火先輩達の関係にとっては、お邪魔虫になりつつある・・・・。

「邪魔って、お前な。・・・・まぁ、そうなんじゃが。」

ねぇ、お姉様。どうしたらいいのかな?

「知らぬ、妾なら、全部食う・・・。」

キャー、お姉様ったら、卑猥~・・・。胎教はどうしたんですか?


「はっ!!

 わ、わすれておったわっ!!

 つい、数百年ぶりに大神と交わったせいで、精神状態が不安定になっていたわっ!!

 わ、妾は、母なのじゃから、こんな淫乱娘の話をいつまでも聞いておるわけにはおられんっ!」

随分と酷い言い方をされた・・・。

しかも、お姉様はそのあとに「自分のことは自分で考えよっ!!」と言って、私を心象世界から追い出すように現実世界に戻したの。酷いっ!!

私は、結局。お姉様をスッキリさせるために呼び込まれたようなものね。


「はぁ~~~~っ・・・・・」


そんなことを考えてしまうと、現実世界に戻ったばかりなのに、私は大きなため息をついてしまう。

そのため息を聞いて、私が不機嫌になったと思ったのか、はじめとイチャイチャしていた隆盛りゅうせいの顔がこわばった。

「そ、そんなに怒るなよ・・・・。俺は未だ、お前を諦めたわけじゃないんだから・・。」

と、フォローを入れるものの、その言い分はちょっと苦しい。

明らかにこの水着デート中にはじめと隆盛は進展している。だから、私を諦めるというよりは、私とはじめを天秤にかけてどちらにするか決めかねているというのが、正しいと思う。

まぁ、これに関して言えば、今現在進行形で男性3人を天秤にかけている私が批判する資格はないのだけれども。

ただし、誠実さにおいては、隆盛は不知火先輩やお兄ちゃんに差を付けられるのは仕方がない事だと覚悟しておいてほしい!!


さて、レストランに入って、こんな痴話げんかみたいな構図を続けるわけにはいかない。事態を進展させるためにも、私は早急にメニューを決めようと思う。

そう思ってメニューを見ていると、私の目に美味しそうな2種のパスタが目に入る。

「ほうれん草とベーコンのクリームパスタ」と「卵たっぷりナポリタン」。どちらも少しエキサイトした後の空腹を満たしてくれそうなメニューだった。

「どっちにしょうかなぁ・・・。」と、ポツリと呟いた私に、美月ちゃんが食いついた。


「じゃぁ! 二つとも頼んで、私とシェアしようよ!」

・・・・ああっ!! これこそ、女友達っ!

アニメで見たことがある、キャッハ、ウフフなゆるい百合の関係っ!!

これを体験せずしてJKを語れるかっ!! せっかく女の子になったんだから、私は、ちゃんとJKライフを満喫しなければっ!

「いいの? じゃあ、半分こしようねっ!?」と、快諾する私に美月ちゃんは嬉しそうに「うんっ!!」と、元気一杯に返事した。ちょっと大人しめの美月ちゃんにしては、珍しい反応だ。よっぽど嬉しかったのね・・・。だとしたら、これは成功かも。美月ちゃんも百合百合するだけでなく、ちゃんと女の子同士を楽しまないとねっ!

そう思っているのは私だけではないらしく、はじめも仲間に加わりたそうに「え~・・・・いいなぁ・・・。仲良し・・。」というので、じゃぁ、3人でシェアねっ!! と、言う事になった・・・・。


その時、私は知らなかった。

この一言が地獄の始まりだという事を・・・・・。


私達女子の会話を聞いていた男子一同は、このチャンスを生かそうとしないわけがなかった。

「おいおい。今日はデートだぜ?」

「そうだよ、あかり。ちゃんと、僕達ともシャアしてくれよ。」

「うん、家でもよく俺とご飯のおかずは交換するだろ? 今日は、男を優先してくれないとな。」

と、食事のやり方に食いついてきた。

まぁ、それくらいいいか。

私一人で美味しいものを種類豊富に食べられるわけだからっ!

私は、「ようしっ!! じゃぁ、皆私が面倒見てあげるから、覚悟しなさいよっ!?」なんて、冗談を言いながら、私は快諾する。


メニューは、皆バラバラなので、食事が来るタイミングは、バラバラ・・・・。

まず、最初に隆盛が注文した「濃厚デミグラスソースハンバーグ定食」が運ばれてきた・・・・。

「冷めちまう前に俺達、先にいただいていいですか?」

などと、隆盛は謙虚に敬語で尋ねてはいるけど、明らかに一番を撮れたことに対する自慢が含まれていた。それでもお兄ちゃんたちは、料理が覚めてもいいから「待ってろ」とは言えないので、ため息交じりに「どうぞ・・・。」と了承する。


隆盛は、濃厚デミグラスハンバーグを小さく切り分けると、その一片をフォークに突き刺して

「はい。あ~んっ!」

と、言ってきたっ!!

な、ななな、なんですとっ!!?

そ、そんなイチャラブな展開、メチャクチャ嬉しいんですけどっ!!

私は、震える心を押さえて、唇を開けると隆盛が差し出したハンバーグに口を付ける・・・。


「あー---っ! 良いなぁっ!! 良いなぁッ!!

 ズルいっ! ズルい、明ちゃんっ!!

 私もそれ、やりたいっ!」

はじめが、興奮して大きな声を上げるのだけれども、私は気にしない。

だって、こんなにロマンチックなシチュエーションを楽しまずして、何が乙女かっ!

私は、目を閉じたまま、口の中でとろける濃厚デミグラスソースハンバーグを堪能する。

なんか。こういうの・・・。本当の恋人同士みたいで、ステキ。


「美味しい‥‥。」

私は2重の意味でつぶやいた。

2重の意味とは、つまり。単純な料理の美味しさと、このステキなシチュエーションが美味しい展開だってこと・・・。

私は、はじめの恨みがましい視線を受けながら、隆盛に微笑みかけてやるのだった・・・。

ごめんね、はじめ・・。私、まだ誰にするか決めてないから、そう易々と隆盛を譲るつもりはないからね?

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