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魔性の声

土曜日の早朝に5時にお兄ちゃんは東京から帰ってきた。一応、深夜バスの中で寝ているとはいうものの、やはり熟睡するのは難しいので、帰ってきてから更に4時間ほど睡眠をとってから私を車に乗せて出発する予定。やっぱり、車の運転をするのに睡眠不足のままでは危ない。お兄ちゃんの睡眠時間はちゃんと確保しないといけないの。

だから9時に家を出ることになる。それから水着を買う必要がある私をお店に連れて行ってくれる。私の買い物が終わるまでの時間が40分だとして、隣のテーマパークまではそこからさらに一時間以上かかる。

つまり、到着は11時前後になると、急遽今朝、皆に連絡を入れたのだけれでも、急な遅刻の報告にも拘らず全員、それならその時間に集合しようって話になった。

皆には申し訳ないけれど、あの痴女衣装でテーマパークで遊ぶ根性は私にはない。だから、皆の行為に甘えて私は遠慮なく、買い物を済ませてからテーマパークへ向かうことにした。幸いなことに1から水着のデザインを選ぶ必要もない。私はお姉様に見立ててもらったサイズの水着を買ってすぐにお兄ちゃんの待つ車に戻ることが出来た。

「お、早かったな。

 いいの、あったか?」

車に乗り込むとき、お兄ちゃんが優しく聞いてくれた。

お兄ちゃんは、深夜バスで帰ってきた人間とは思えないほど、元気だった。家に戻ってからベッドの上で十分熟睡出来た証拠だ。そして、タフなのね。

「うん。まぁ、前と同じデザインのを買うだけだからっ!」

といって水着が入っているバッグを見せると、「そうか。・・・・ビキニか?」と尋ねてくるので、私は答えずに「エッチ」とだけ言ってやった!!

男の人ってビキニ好きよねぇ・・・。私、体のラインがくっきり出ちゃうワンピースも十分エッチだと思うけどなぁ・・・。

私の疑問にお姉様は

「まぁ、男は割烹着姿ででも欲情しおるからな。三角巾を被ってうなじ見せただけでも、欲情する。

 ワンピースでもビキニでも、好きな女の着る服なら喜んで欲情する生き物じゃから、ある程度の好みに合わせておけば、あとは好きなものを着ればいい。大体喜ぶ。男はな。」

と、身もふたもない事を言う。

お姉様、男の人に偏見ないですか?って尋ねると、私の心の中で「あかりは可愛いのう・・・・。」と、クスクス笑うお姉様。もう、いっつも子ども扱いしてっ!!

私はいつの間にかふくれっ面になっていたらしく、それに気が付いたお兄ちゃんが「あの女神に何か言われたか? でも、今日は俺と楽しいデートなんだから、笑顔でいてくれよ・・・・。」なんてカッコいい事を言ってくれる・・・・。

・・・・・・おかげで今、大分、キュンときた・・・・。

キュンと来て油断したから、その声にちょっと恥骨がやられてしまう私でしたが、そんなことを頼りに「よかった・・・。今、私女の子の方が大分、勝っている証拠だ・・・。」と、安心してもいた。

でも、車の中で変な気持ちにさせないでっ!! お兄ちゃんっ!!


私が悶々とした心持で助手席に座っているとは思いもしないお兄ちゃんは、気持ちよさそうに車を走らせる。

これが初夏でよかった。だって、日差しのおかげで体が火照っていることがバレずに済むもの。

テーマパークに到着し、中へ入っていくと、入門ゲートの内側で皆がもう、待っていた。

「ご、ごめ~んっ! ちょ、ちょっと水着に不具合があって、買いなおしてたから・・・。」と、私が遅刻の理由を話すと、皆が「気にしないで」とフォローしてくれる。ああ、いい友達を持って私は幸せだなぁ・・・・。

「あの・・・・そっちの人が・・・・明ちゃんの?」と、お兄ちゃんと初対面となるブラウスとスカート姿の美月みづきちゃんが尋ねてきた。

「ああ、そっかぁ・・・・。美月ちゃん。お兄ちゃんとは初めてだったよね。」私はその事に気が付いて、改めて紹介しあう。

「お兄ちゃん、こちらが前に話した沢口 美月ちゃん。

 で、美月ちゃん。こっちが私のお兄ちゃんのたけるお兄ちゃんだよっ!」

と、私が紹介するとお互いが挨拶するのだけれども、美月ちゃんは、お兄ちゃんの「初めまして、美月ちゃん。」という声を聴いて・・・・・やっぱり恥骨をやられてしまったっ!!

「ふにゃああん・・・。」と、情けない声を上げながら、美月ちゃんはうずくまるようにしながらフラフラと数歩後ずさる。

ああ・・・。お兄ちゃんの声は、はじめみたいな男の娘にも効くだけでなく、百合娘の美月ちゃんにも効いちゃうのか・・・・。と、思っていたら、美月ちゃんはおもむろに頭を上げると嬉しそうに笑顔で


「もしかして・・・やっぱりっ!!

 声優のさかき たけるさんですよねっ!?」

と、尋ねてきた。

・・・・ああ、そうだっ!! 百合娘だから忘れていたけど、彼女。BL大好きのお腐れ様だったわ!!

だったら、当然、お兄ちゃんのことを知っていてもおかしくないかっ!!

新人声優のお兄ちゃんは思わぬところでファンと巡り会えたので嬉しそうに「ああ。僕のファンの子かな? 嬉しいよ。サイン欲しい?」と、頼まれてもいないサインを自ら進んで聞いた。よっぽど嬉しかったんだなぁ・・・・・。

だが、その一言が白の可愛いワンピース姿のはじめと美月ちゃんの恥骨に激しいボディーブローを打ち込むかのように直撃するっ!!

「「ふにゃあああん・・・・・。」」

そう言って、二人ともうずくまってしまった・・・・。

男子二人は何が起きたのかわからずに、呆然とその様子を見ている。

「だ、・・・・だめ。生声、ヤバすぎ・・・。」

「あ、明ちゃんのお兄ちゃん。攻撃力強すぎると思ったら声優さんだったのね・・・・。」

二人はうずくまってしまった・・・・。

まぁ、二人とも耳のフィルターなしに生声聞いちゃったからね・・・・。と、私が納得していると、お姉様は

「いかぬな。声の力が暴走しておる・・・・。

 このままだとテーマパーク内でおなごの水難事故が連発しかねん。」

と、かなり深刻そうな声で言う。

ええっ!? 水難事故って・・・・?

「馬鹿垂れ、水を甘く見るな。人間は、いくつかの条件が揃ったら用水路でも溺死するのじゃぞっ!?

 このままでは、いかぬ。ちょっと妾がたけるにこの美声の恩寵を与えた神と話を付けてくるでな、しばし待っておれっ!!」

と、言うが早いか私を心象世界に引き込むのが早いか、お姉様はパパッと私を心象世界に閉じ込めると、どこかに消えてしまった・・・・。

ああっ! お姉様、なんて頼もしいっ! さすが、女神さまっ!!

カッコいい・・・・・・

・・・・て、あれ? お、お姉様?

やだ・・・やだやだあっ!! お姉様っ!私を一人にしないでぇっ~~~~~!!

私はお姉様の頼もしい姿に誤魔化されてお姉様が私の心から消えたことに一瞬、気が付いていなかった。

そして、フト。お姉様が私の心から消えたことを自覚すると、寂しさと恐怖で泣きじゃくって絶叫してしまった。きっと、お姉様は私がこうなってしまうのを予期して、まず私を現実世界の時の流れから切り離された私の心の中に作られた心象世界に私を引き込んでから出て行ったのね・・・・・。

私は、ずっと側にいて私を支えてくれたお姉様が心の中から消える恐怖を克服することなど出来るはずもなく、現実世界でいえば30分ほどの間、ひたすら泣き喚いてお姉様を呼び続けた・・・・。

人間の心の中に神様がいるという幸福感と、それが心の中から神様がいなくなることの恐怖と喪失感を理解してもらうことは難しいと思うのだけれども、ともすれば精神崩壊を起こしてもおかしくないほどの精神状態になってしまう。それが私を襲ったのだから、私がこうなってしまうことが仕方ない事を理解してほしい。


ただ、泣きに泣いて30分ほどの事、お姉様は突如として戻ってこられた・・・・・。

ああっ!! お姉様っ!! 

おかえりなさいませっ!! 私のお姉様っ!!

もう、絶対にどこにもいかないでっ!!

・・・・と、抱きついて声をかけようと思った私は、あることに気が付いた。

なんと、お姉様のお腹が妊婦さんのお腹のようにぷっくりと膨れ上がっていたから・・・・・。


お、お姉様・・・・どこにも行かないでどころか・・・・・

どこ行ってきたんですか・・・・?

ってか、一体なにがあったのよ~~~~~~~っ!!

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