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百合娘

「私のあかりちゃんに・・・・・エッチなことしないでっ!!!」

その一言で、その場にいた全員が固まってしまった・・。

・・・・え? 美月みづきちゃんって、そっちの人?・・・・その場にいた全員がそう思ったはずだ。

そして、全員がそう感じていた空気は、美月ちゃんにも伝わったようで、いささか興奮気味であった美月ちゃんは、その気配に気づくと一瞬間をおいてから、ハッと我にかえって「ああああっ!! ち、ちちち、違うんですっ!! 私の友達にエッチなことしないでって意味でっ・・・・」と、必死に弁明する。

なーんだ、そうだったのか・・・・ああ。怖かった・・・・・とは、ならない・・・・。流石に苦しい言い訳に聞こえてしまう・・・・。

だってはじめの方がよっぽどエッチな目にあってたもん・・・・。

私は、その疑問に答えてもらわないと流石に落ち着かないので、私に抱き着いたまま離れようとしない美月ちゃんに「はじめは・・・いいの?」と、尋ねる。

その質問をされた美月ちゃんは、キョトンとした表情で私の質問の意図に気が付いていない。

いや・・・。だから、はじめも私も美月ちゃんの友達でしょ? なのに、私よりももっとエッチな目にあっていたはじめを守らずに私を守ったのは、なぜ? って話でね・・・。

美月ちゃんは、私の質問を聞いて、しばらく顎に当てた右手をそわそわ動かしながら、考え込んでいたけれども、その目線の動きから、今、美月ちゃんは何か良い言い訳を探している最中であることがバレバレだった。

それでも思いついた一言が中々秀逸だった。


「だって、はじめちゃんは、自分から誘っていたもん・・・。明ちゃんは、やられていた方だから・・・。」


明ちゃんは、やられていた方・・・・。これほど甘美な響きがあるだろうか。

そうです。私、メチャクチャやられていました。もう、すっごく攻められていました・・・・。

ああ、やだ。そう思うと、メチャクチャ興奮してきちゃう・・・・。

「う~む。明よ・・・お前もわかってきたのう・・・・・。」

と、満足そうに呟くお姉様・・・。

いや、わかってきたもなにも、これって絶対お姉様の洗脳ですよね?

日がな一日ずっと”男に襲われたい” ”乱暴に躾けられたい” ”たけるに一晩中、ののしられたい・・・・”と、呟いているお姉様の影響を受けただけですよ?

私は、そう心の中のお姉様に抗議しながらも、不知火先輩にやられていたという響きに首筋がゾクゾクするのを止められなあった・・。不知火先輩に攻められているときの自分の姿を想像するだけで、体の芯がうずき始める・・・・・。

ああ・・・・。なんて厄介な性癖をお姉様に植え付けられてしまったのだろうか?

まぁ、もちろん。それもお姉様みたいに相手が誰だっていいわけではない。

少なくとも私は、お姉様。お兄ちゃん。隆盛りゅうせい。不知火先輩。はじめ。美月ちゃん。以外の人に攻められたいとは思わ・・・・・・

って!!! 攻め役候補の半分が女性じゃんっ!! マズいぞ、私、ドンドン何でもいけるようになってない? そのうち、お姉様みたいになんでもよくなっちゃうんじゃないのっ!?


しかし・・・です。

実際、お姉様は神様だから、人間の私が魅了されるのは仕方ないとしてはじめみたいな男の娘に攻められて興奮できるのかなぁ・・・・・。試しに私は想像してみた。


「あれぇ~? 明ちゃん、虐められて喜ぶエッチな子なんだぁ・・・。

 そんなエッチな子はお仕置きしちゃうねっ!!」

と、小悪魔チックな笑みを浮かべたはじめが、緊縛された私を可愛がってくれる姿を・・・・・。

うっわ。めっちゃ良い・・・・。

私は普段、はじめに対してお姉さん面して偉そうにしてはいるものの、腕力じゃはじめには到底かなわない。はじめにレイプされそうになったあの日もそうだったように、小っちゃいとはいえ男の子のはじめは、やはり私よりも肉体的に有利で、攻め役としては及第点だ。いや、自分よりも小っちゃいはじめに屈服させられるというシチュエーションは・・・・・むしろ、アリだっ!!!!!

そもそもはじめは、男の子のシンボルがかなりのご立派様だった。私があの子に対していつまでたっても男の子という認識を捨てられない要素は、そこにあるといっても過言ではないっ!!


「うむ。わかるぞ、明よ。

 あれほどのご立派様を見せつけらてしまっては、心うずかぬ女子おなごがどこにいようか?

 あの器量に似合わぬご立派様がどんな風に妾を虐めてくれるのか想像するだけで、心躍るものがある。」


そうですよねっ!? お姉様ッ。 私、悪くないですよねっ!?

「うむ。しかしの、明や。男はサイズではないぞ。むしろその前にどれだけ可愛がってくれるかという方が女の幸せにつながるというものじゃ。

 そういう点でも、エロエロ娘の上にあの天真爛漫なはじめのことじゃ。きっと妾達も想像できぬ攻め手を思いつくかもしれぬぞっ!! はじめは、攻め役としての可能性を秘めているっ!!」

はじめの攻め・・・はっ!!

そ、そうかっ!! 薄い本の展開の新たなシチュエーションが思い浮かびましたっ!!

「ムムムっ・・・・!! 明っ! 

 その話っ!! 是非とも聞きたいところじゃがっ、今はそれどころじゃあるまいっ!」

と、お姉様に言われて、私は妄想から帰ってくることに成功したっ!!

そうだっ! 今はそれどころじゃないっ!!

え~っと、なんだっけ?

ああ、そうそう・・・・。私、美月ちゃんに「はじめは誘った方だけど、私は攻められていたから助けた」と言われたんだった・・・。そのあと、ちょっとトリップしちゃって話を忘れてしまっていたわ!


「あ、あのね・・。違うの美月ちゃん・・・。私たちの関係なら仕方ないって言うか・・・・。駆け引きみたいなもので・・・・その、問題ないからっ!!」

と、苦し言い訳を美月ちゃんにする。美月ちゃんは、当然、腑に落ちないようで何度も小首をかしげながら、「そうなの?」と、問い返すのを無理やり作った笑顔で「そうなのっ!!」と、押し切る私・・・・。

その勢いに全員飲まれたかのように、一同、納得して再び、無言でケーキを作り始める。

無言で・・・・しかも、めいめいがそれぞれ別々の妄想をしながら、ケーキを作っていただろう・・・。

不知火先輩はさっきの美月ちゃんの発言が気になっていると思うし、隆盛は暴走しすぎてはじめに本気になっていたことを後悔しているように見せる。逆にはじめはご満悦の顔だ・・・・・。

私と言えば、それぞれの男女から攻められる私の妄想が、脳内で物凄い高速に浮かんでは消えていくのを我慢するので一杯一杯。

そして、私達の中で、今何を考えているのか一番わからないのが美月ちゃん・・・・。

今、どんな心境で私と一緒にケーキを焼いているのだろう?

そもそも「私の明ちゃん」。この言葉の真意はなんだろうか?

もしかして、美月ちゃんは百合娘なの? それで私を狙っているのっ!?

そう思うと、興奮・・・・じゃなかった、どうしたらいいのか、本当にわからないわっ!!


そうやってめいめいが色々な思いを抱えた少し変な空気になったものの、どうにかこうにかシフォンケーキとザッハトルテが完成した。

シフォンケーキは、生地に紅茶を入れてあり、付け添えの生クリームにはたっぷりとグラニュー糖が使われていて、とても美味しそう。私の作ったザッハトルテも自信作。チョコレートのコーティングもかなり上手くいった!!

でも表面のチョコレートは、よく切れる包丁でないと綺麗には切れないし、2層構造にしたので、なおのこと切りにくくなってしまったのは失敗だった。包丁を入れた時にコーティングが砕けるように割れたのは、とても残念だった。

でも、味は保証するっ!

そんなわけで私たちは、それぞれ切り分けた二つのケーキを一片づついただく。

「おおっ!! 明っ! 美味しいよっ!! これっ!」

と、不知火先輩はご要望のザッハトルテの味に大満足してくれた。作った側としては、これ以上、嬉しい言葉はない。勿論、隆盛も大喜びで私のザッハトルテを食べてくれた・・・・それもほぼ二口で・・・・。

・・・・もっと、味わって食べてくれたまへ・・・。

私は若干の苛立ちを覚えながら、毎日、この勢いで食事されるのに手の込んだお弁当を用意するはじめを尊敬する。

・・・・・愛のなせる業だ・・・・。

そう考えながらザッハトルテを食べ終わると、美月ちゃんが「もう食べちゃったの? お腹すいてたのかな?」と、言いながら自分の食べさしのザッハトルテをスプーンで切り落とすと・・・・・・


「はい。・・・・あ~ん・・・・。」


と、私に差し出す。

普通の男女なら間接キスで燃え上がるシーンではあるものの、美月ちゃんと私は女の子同士・・・・。

なのに私は、その誘惑に逆らえなかった。

今の私は百合もイケるかもしれないけれど・・・・・それ以上に、私は、ある意味この強制させられるシチュエーションに抗える忍耐を持ち合わせてはいなかった・・・・・・・。

差し出されたスプーンに口を付ける。それは、まるで神父にホスチアを口渡される信者のように、私は従順に美月ちゃんのケーキを口にするのでした・・・・。

そして、その様子を見ていささか顔を赤らめている美月ちゃんと・・・男子二人・・・。


こらっ!! 気づいてるわよっ!!

絶対、今、私達でエッチな妄想してるでしょっ!!!

 

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