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甘い罠・・・・。

「美味し~いっ!

 はじめちゃん。本当にお料理上手だよね。」

と、昼食の時間に美月ちゃんがおすそわけで貰ったはじめのお弁当の唐揚げをほおばりながら、感動の声を上げる。

漆黒の大きな瞳をパチパチさせて興奮気味だ。

美月ちゃんの感想に隆盛りゅうせいが同意して首を縦に二回振る。

「うんうん。マジでさ、美味いんだよね。

 この唐揚げもショウガが効いててさ、なんていうか家庭的な味付けなのに普通じゃないって感じがするほど洗練されてるよな。」

隆盛は箸でつまんだ唐揚げを見つめながら感想を言う。

その感想は正しい。はじめの料理は基本に忠実な手順で作られていて奇抜さはないのだと思う。ただ、料理の下ごしらえが丁寧なので洗練されている気がする。

使っている鶏肉も特別な鶏肉ではなくて、きっとスーパーのものを買ってきているのだろうと思う。

それでもこんなに美味しいのは、下ごしらえのおかげ。きっと前日から鶏肉をタレに付け込んでいるのだろう。それでこんなにもしっかりとした味が付いている。上げ方も丁寧に2度あげしている。それなのにちょうどいい火加減で、揚げすぎた焦げ目などない。それでいて隅々までしっかりと熱が入っているから、肉にはほんの少しも赤みが残っていない。なのに十分に脂が落ちているから、脂っこさもない。

本当にはじめは、お料理上手だと思う・・・。

私は、はじめからもらった唐揚げをいただきながら、はじめの料理の腕前にしみじみと思う。私も花嫁修業の最中でママの指導を受けているものの、お料理の基礎能力ははじめには及ばないことを唐揚げから思い知らされた気分だ。

まぁ、もっとも。将来は洋食店を開きたいと言っているはじめに料理で対抗するのは、ちょっと無理なんだけどね。意気込みが違う。

きっと、小学生の頃からずっとお料理してきたんだろうなぁ・・・・・。

などと、私が考えていたら、美月ちゃんが「いいなぁ、お料理上手で。私もケーキとか焼けるようになりたいなぁ・・・。」とポツリとつぶやいた。

その一言に食いついたのが、はじめだった。


「あ、じゃあさ。今度のデートの時用に、3人でケーキ焼かない?」


唐突だな、この娘は。

いや、案としてはいいけどね。ケーキを焼くのはいいよ? でもそれどうするの? いつ食べるのよ?

ピクニックに行くんじゃないんだからね。 テーマパークにお弁当やケーキ持参で行くつもり?

私がそう突っ込みを入れるとはじめは、少しシュンと落ち込んでしまったけど、隆盛は、「まぁ、別に今度のデート用じゃなくてもいいんじゃないか? もしくは沢口さんの料理の練習ってことでも。」と助け船を出す。

おおう。なに、君。王子様なの?

ヒロインが困ったらすぐさま助け舟出しちゃってさ。

でもね、言っておくけど君にとってのヒロイン第一候補は私だってことを忘れないでくれたまへよ。

しかし、隆盛の意見はもっともだよね。別に今度のデートと関係なしに、女子3人で(?)お料理するのも悪くないわね。

私はそれに同意した。

「そうね。・・・私も美月ちゃんやはじめと一緒にお料理を楽しみたいわね。」

私が言ったその言葉が決め手となった。美月ちゃんもはじめも嬉しそうに同意した。

「ね? じゃぁ、いつどこで何のケーキを焼く?」

私の問いかけに隆盛が何故か「俺はシフォンケーキがいいっ!! 生クリームをたっぷりつけ添えてくれよっ!」と、即答する。

いや、君が決めることじゃないでしょ? 別に君のためにケーキを焼くわけじゃないんだからね・・・・。と、突っ込みを入れている最中にはじめが嬉しそうに「うんっ!! 隆盛が食べたいなら、作ってあげるねっ!!」と、返事する。隆盛はその言葉に上機嫌で「マジか!楽しみにしてるぜっ!。」と、期待のこもった目ではじめを見つめるものだから、はじめは照れて真っ赤な顔して、下を向いてしまった・・・・。

いやいやいや・・・・。二人だけの世界を作らないでくれたまへ・・・・。

暴走する二人に「ここはまず、美月ちゃんの意見を聞いてだね・・・。」と、私が突っ込みを入れつつ美月ちゃんを流し目で見ると、美月ちゃんは感激に身を震わせながら「・・・リアルBLだ。」と口にすると、ポケットからメモ帳を出してガシガシと何かを描いている。

ああ~・・・。多分、人に見せられない妄想をそのまま描いているんだろうなぁ・・・・。

うんうん。わかるよ。そうしたい気持ち。私もお腐れだからね。

特にこの二人は美形同士だからね。絵になるよね~。

でも・・・・落ち着いてね、美月ちゃん。「ここは学校だから・・・」と、私は冷静に諭す。私の言葉で我に返った美月ちゃんは顔を真っ赤にして、ポケットにメモ帳をしまう。

「何、描いてたんだ?」

と、隆盛が何気なく聞くのを「聞くな。乙女の秘密よ!」と、警告を入れてやると隆盛は腑に落ちない顔をしながらもそれ以上聞かなかった。偉い子ね。


とにかく、今聞くべきは、美月ちゃんが何を作りたいかという事。

美月ちゃんは、恥ずかしそうに「うーん。私ははじめちゃんの希望通りでもいいの。」と、いうのだった。

そうとなれば、焼きますかっ! 皆で、シフォンケーキをっ!

焼くものは決まった、次は場所と時間を決めないといけない。と、思ったら美月ちゃんは実は本校のお料理同好会の会員だという。もっとも、会員は美月ちゃん以外は、同好会を残すために先生に頼まれて名義貸しをしている先輩二人だけ。この二人は在籍しているだけで、今まで一度もあったことが無いというのだから、実質的に美月ちゃん一人だけの会となる。だから、調理実習室で私たちが何をするのも自由らしい。

美月ちゃんとしては、せっかく、同好会に入ったのにお料理を指導してくれる人もいなければ、活動実績がない同好会で料理が作れるのは願ったり叶ったりだと言って喜んだ。

そうとなれば、善は急げとばかりに急遽、明日の放課後にケーキを焼くことになった。

しかも放課後、その話を聞いた不知火先輩が「僕も食べたいっ!!」言って、騒ぎだしたので、当日は女子3人と男子2名が調理実習室に集まることになった。

その上、不知火先輩は「川瀬の要望だけ聞くのは不公平だ。協定違反だ。僕はザッハトルテが食べたいっ!!」とか、無茶を言うものだから、ケーキの型は二つ。材料も二つ用意する羽目になった・・・・。

私は面倒くさいと思いつつも、男の子に料理をせがまれることの快感に胸を躍らせてもいた。


しかし、私はここで気が付いていなかった・・・・。これが、不知火先輩の罠だという事に・・・。


翌日の放課後、調理実習室に集まった面々は、2班に分かれてケーキを焼くことになった。つまり、シフォンケーキを焼く班とザッハトルテを作る班。シフォンケーキははじめがメインでザッハトルテは私がメインで作る。美月ちゃんは交互に参加して、男子2名は、それぞれの要望するケーキの班に振り分けられた・・・・。


「あっ・・・・」

と、その時、隆盛が不知火先輩の策略に気が付いた。そう、自動的にケーキを焼く間、不知火先輩は私と二人っきりになる時間があるのだった。しかも、隆盛は自分に好意を寄せてくれているはじめがいる手前、これに対して不平不満をいえない・・・。

不知火先輩は、セミロングの毛足をバサッとかきあげると、まるで勝利宣言をする勝者のように不敵な笑みを浮かべて隆盛を見つめる。

隆盛は悔しそうにしていたけれども、そのうち何か妙案を思いついたのか、ニヤリと笑いながら私を見る。

「いいぜ・・・・。嫉妬するのはどっちかわからないけどな。」

と、挑戦的なことを言う。・・・・・どういう意味かしら?と、小首をかしげつつもお料理の時間は限られているから、すぐに手を動かさなければいけない。

私は、不知火先輩に料理の手順を描いたメモを見せて、説明をする。

「じゃぁ、まずは薄力粉と強力粉をふるいにかけましょうか。」

私があらかじめ家で用意した分量通りの小麦粉をふるいにかける。すると、不知火先輩が「僕にもやらせてよ。」と、言って私の手を握る。

あっ・・・・。

不知火先輩は、ごくごく自然にふるいにかけるためのザルを私から受け取るふりをして、ボディタッチを仕掛けて来てたのだっ!!

ああっ!! こ、これが不知火先輩の狙いっ!?

気が付いたときにはもう遅い。 不知火先輩は右手に私の手を。そして左手で私の腰を掴むと耳元で「一緒にやろうよ・・・。」と甘く囁くのでした。

抱き寄せる優しい左手と耳元で囁かれる快楽に私はゾクゾクする。

ああっ・・・・・。み、皆が見ている前なのに・・・・。そう思いつつも私は少女漫画のヒーローのように美しい不知火先輩に抱き寄せられる快感を振りほどけない・・・・。

「ほら、もっと優しく手を動かさないと・・・ね?」

「ダメだよ、明・・・・そんなに興奮したら・・・・」と、耳元で囁かれるたびに、私の心臓は破裂しそうなほど高鳴るっ!

やだ、やだっ・・・み、皆が見てる前でこんなことしないでっ!!

男の子に抱き寄せられて弱弱しく言いなりになっているところなんて、見られたくないっ!!

と、思いつつも私は、不知火先輩のぬくもりと意地悪なご指導のささやきを求めていた・・。


「んきゃあああああっ!! なんって!最高のシチュエーションなんじゃっ!! 愛する男と肌寄せながらお料理じゃと!? しかも、しかも。こんな優しく意地悪言われるとかっ!!

 なんちゅう、ご褒美なのじゃっ!!」


お姉様が心の中で発狂しているけど、そんなんことが気にならないほど、私は恍惚としていた。

この状況がもっと長く続いてほしい・・・・。

私は不知火先輩の甘い罠にかかった獲物のように、もはや、不知火先輩の思うままにされてしまうのでした・・・・・。

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