私は腐っている
「ええっ!? もしかして川瀬君と明ちゃんって、付き合ってるのっ!?」
と、新たに私たちの昼食仲間に加わった天然娘の美月ちゃんが、私達が今度する水着デートの話の途中にビックリして大きな声を上げた。
その言葉にクラスの全員の視線が一瞬でこちらに集中する。
その時の緊張感と言ったら無い・・・・。私は、慌てて大きな声で訂正する。
「ち、違うの違うのっ!!
今はまだ、友達だからっ!!」
そして、初も私に加わって「違うもんっ!! 二人は、まだ、付き合ってないもんっ!」と、全否定する。
二人から必死に否定されて、若干微妙な心境であろう隆盛は、苦笑いしながら、「まぁ、そうだな・・・。”まだ”、友達関係だな。」と、美月ちゃんに説明する。
とはいえ、その言葉には、「いずれ俺がモノにして見せるさ!」という野心があることは言うまでもない。
でも、美月ちゃんは私達の必死の説明を聞いても、小首をかしげて「でも、デートしてるんだよね?」と不思議そうにしていた。
そんな美月ちゃんに、天真爛漫な性格の初が「ねぇっ! 美月ちゃんも一緒に来ないっ!?」と、いきなり誘う。
昨日、今日出会った仲の相手をいきなり誘うのはどうなんだと思って、私が中止しようとした時、美月ちゃんは「本当!? 私も行っていいの?」と、嬉しそうに喜んだ。
ああ・・・。そうか、この子は・・・。と思ってから、それ以上考えるのはやめた。
美月ちゃんの過去がどうであろうと、今、私たちと遊ぶことで幸せになっているのなら、それに越したことはないから・・・。
でも、その前に一つ確認しておくことがある。
「美月ちゃん。水着はあるの?」
その言葉に美月ちゃんは我に返ったようにハッとしてから、シュンと落ち込んだ。
「な、ないです・・・。買いに行かないと・・・。」
その落ち込みようを見て、「予算は大丈夫?」と尋ねると、美月ちゃんは「お母さんに相談してみるね。」と、だけ答えた。
う~ん。そうだよねぇ・・・。早々水着なんか買えないよねぇ・・・・。
気まずい空気になる前に「まぁ、駄目だったら、また別の機会に一緒に遊ぼうよ」と、だけ私は伝えた。
それだけでも幾分か救いになったのか、美月ちゃんは優しく微笑み返して頷いてくれた。
ただ、翌朝。美月ちゃんが嬉しそうに私の教室を訪ねてきてくれて、お母さんから許可が下りたと嬉しそうに報告してくれた。
ようし、じゃぁ。今日の帰りに一緒に水着を買いに行こうよ!と話がまとまった。
昼食の時間になると、初と私と美月ちゃんは、どんな水着にするか、あれやこれやと相談する。
一人だけ男の子の隆盛は、居心地が悪いのか、初が作ってくれたお弁当をバクバク平らげた後、そそくさと席を立つ。
「もうっ! せっかく作ったんだから、ちゃんと味わってよねっ!」と、初が当然の非難をする。
そうだよ、隆盛。これだけの量のお弁当・・・しかも下ごしらえまでしっかりした初のお弁当は凄い手間がかかっているんだから、ちゃんと味わってあげないと可哀そうだよっ!
私もそう思ってジト目で隆盛を睨みつけるんだけど、隆盛は気にも留めない様子で初の髪を撫でると、「ごちそうさま。今日も美味かったよ。」と、まるで亭主のようにふるまうだけだった。でも、その言葉だけで初は幸せなのか「えへへ・・・。」と、頬を赤らめて喜んだ・・・。
「BLだ・・・。」と美月ちゃんは、改めて驚きながら、その様子を見て呟いた・・・・。
まぁ、そりゃそうだろうね。
普通こんなことには、ならないわよね。いくら女装したときの初が可愛いからって、年頃の男の子は、こういうの本気で嫌うから・・・・。
と、考えてから、私は固まる。
いや・・・・だって。女装した初は、確かに完璧に可愛い。初めて4対1のデートをしたときなんか、3人とも私よりも初に見惚れていたもんね・・・。
しかも、隆盛好みのロリータ系だし・・・。もしかしたら、初には、ワンチャンあるのかもしれない。
そして、放課後になると私は美月ちゃんと一緒に水着を買いに出かける。初と接触の少ない美月ちゃんは流石に今回、初と一緒に買いに行くのは恥ずかしいというので、私と二人になった。
水着コーナーに行くと、美月ちゃんは、「どういうのがいいのかわからないの・・・・。」と戸惑っていたので、「じゃぁ、色々と試してみましょうよ」と私は明るく誘ってみた。
店員さんも今年に入って私が何度も水着を買いに来ているので、お得意さん扱いで笑顔で対応してくれる。
美月ちゃんは、数着の水着を選ぶ。そのうち何着か試着するので、見てほしいというので私が試着室の前で待っていると美月ちゃんが着替えが終わった。
私がドアから試着室を覗くと・・・・そこには男性を虜にするような凄い肉付きの美少女が立っていた・・・。
青いビキニには、窮屈そうに豊満な胸が押し込まれていた。細くくびれた腰と大きなお尻にかけての稜線美が見るものを虜にする。そして、気恥ずかしそうにはにかむ美月ちゃんの可愛い瞳。
・・・・ああ・・・・。
ああ・・いけない・・・。
私は、見てはいけない。
この美少女をこれ以上見てはいけない・・・・。私は直感的にそう感じていた。
彼女は私に男を思い出させてしまう。
「ど・・・どうかな・・・?」
美月ちゃんは、恥ずかしそうにそう尋ねる。私は「キレイだよ・・・・。」と本心を答えた。
そう・・・・それは本心だった。
でも、それはいけないこと・・・・・。
私はこんなエッチな目で友達を見てはいけないんだ・・・・。
そうわかってはいるものの、私の目は、美月ちゃんの体を網膜に焼き付けるほど見つめてしまっていた・・・・・。
やだ・・・・。
いやだ・・・・・。
こんなの嫌だよっ・・・・。
家に帰ってから、私は美月ちゃんに性的な興奮を覚えたことに対しての自己嫌悪に苛まれてしまう。
だというのに・・・・・だというのに・・・。私の頭の片隅に美月ちゃんの姿がちらついている。
あの美少女の肉体が、私を誘惑しているような気がしている。
どうしよう・・・。どうしよう・・。
心が女の子じゃなくなっちゃうなんて嫌だ。私が好きになった男の子たちへの思いを捨てるようなこと嫌だ・・・・。
でも、これから先、美月ちゃんと私はずっと会う。そうなったら、私・・・・・
私・・・。美月ちゃんを好きになっちゃうのかな?
ああ・・。なんでこんなことになっちゃったんだろう?
そう思いながら、本棚を見ると、いつの間にやら大分増えたBLコミックスが目に入る。
どうなんだろうか? 美月ちゃんにこれだけ興奮した私は、今でも男の子の裸に興味が持てるのだろうか?
もしかしたら・・・もう、BLを見ても気持ち悪いと思うんじゃないだろうか? そこまで男心が復活しているんじゃないだろうか?
私は、自分が今どうなっているのか確かめるために、一番男性らしい描写が多い筋肉男子がいっぱい出てくるコミックスを選んで手にすると、恐る恐るペラペラとページをめくった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・オッケー!! 大丈夫っ!!
メチャクチャおかずにできましたっ!
これだけマッスルに欲情できるんだから、私が女の子になってから得た性癖は無くなっていないっ!!
いけるっ!!
この興奮度なら、私は美月ちゃんの水着姿と3人の男子の水着姿なら、圧倒的に男子のマッスルに興奮するはずっ!!
特に腹直筋から内転筋にかけての複雑な稜線美にっ!! あ、でも男子が競泳パンツ履いてくるとは限らないか。どっちかというとトランクスを履いてくる可能性の方が高いかな?
そうなると内転筋はトランクスの布地に阻まれて、見ることが出来ないっ!
ああっ!! なんてことなのっ!? 今からリクエストしておくべきかしら?
「男子、全員。競泳水着で集合っ!!」って・・・・。
ねぇ、お姉様? どうしよう?
「アホかっ!! 己はっ!!
そんなもん、男が女にビキニ着て来いと指定してくるのと同じで、エロエロ目的なのがバレバレになるじゃろうがっ!
じゃが、安心せよっ!! ここ最近、妾があ奴らに競泳パンツ姿のあ奴らを見て胸をときめかせている明が出てくる夢を見せておるでなっ!!
必ず、奴らは、競泳パンツで来るっ!! てか、妾も見たいっ!!」
流石、お姉様っ! すでに手をまわしておられましたかっ!!
やはり頼りになるお方ですっ!!
私は見くびっていました。美月ちゃんの水着姿に心を奪われて、どうにかなってしまうかと心配していたけど、そんなもんじゃどうにもならないくらいに腐っている私の前では、美月ちゃんの裸体なんか、恐るるに足らずっ!! 絶対に当日はそれどころじゃなくなっているっ! だって、競泳水着だもんっ!!
あのエロエロマッチョの隆盛がっ!!
・・・・はっ!! そう言えば、隆盛だっ!! 私、続きを描かなきゃっ!!
「そうじゃっ!! 何を女子にうつつを抜かしとるっ!
それよりも早く、隆盛が初の性技に屈服させられるシーンを描かぬかっ!」
そうでした、そうでしたっ!! でも、今日のことで一つ、展開を思いつきましたっ!!
「わかるぞっ!! 競泳パンツでの絡みじゃなっ!!」
「もちろんですっ、お姉様ッ」
私達はすっかり意気投合して、今夜も眠れぬ夜を過ごすのでした・・・。




