新たなる出会い
美術部の部活を終えた私は、帰る道すがら、駅前のアニメショップに立ちより、少女漫画とBLコミックスを物色する。
それは、これから描く薄い本の参考にするためであり、習作をするための見本にするためでもある。
習作とは、絵を見て絵を描くこと。描きたい作家さんの漫画をそのまま真似ることにより、その作家さんの表現方法を学ぶ。
歴史上の多くの芸術家が習作から始めて、独自の表現方法に至った。
「学ぶ」とは「真似る」ことからくるというのは言いえて妙な意見だと思う。
私もこれからBLを描くにあたって、参考にしたい作家さんの本を物色して、少しの間、習作を作ろうかと思う。
その為にも、私の恥骨に優しくない漫画を描いてくれる作家さんを探す。
とはいえ表紙だけでは中身はわからないのだけれども、一応、表紙を見ればある程度、デッサン力もわかるし、私は、結構面食いなので、イケメンだけで幸せになれちゃうところもあるから、表紙のイケメン具合だけでも全然、判断材料にはなるのです。
そういえば、私に言い寄ってきてくれる男の子って、全員イケメンでよかったなぁ・・・・特に不知火先輩。
あの人の顔は、本当に少女漫画のヒーローみたい・・・・・。見つめられただけで恋に落ちちゃいそうになる。
なんて、絶世の美少年である不知火先輩を思い出していると、すっごい美少年とイケメンが表紙のコミックスが目に入ったっ!! 帯文を見ると、どうやら借金の肩に金持ちのイケメンに売られてしまった美少年の話のようだ。
・・・・・・・・・うーん・・。これは・・・・。
めっちゃ良い感じに来るわね。
「うむ。わかるぞ・・・。これはめっちゃ良本じゃっ!!
特に、このイケメンの暴力的野性的な視線・・・。ああっ!! わ、妾・・・・めっちゃ虐められたいのっ!!」
わかりました。わかりましたから、いくら私の心の中だからって、私はショップの中にいるんですから、一人で始めて甘ったるい声を上げないでくださいっ!!
これはちゃんと買って帰りますから、お家つくまで我慢してくださいっ!!
「やあああんっ!!
じらしプレイとかっ!! 良すぎるっ!!」
もう、お姉様ったら・・・・・。
私は若干、トリップしかけたお姉様に呆れながら、コミックスに手を伸ばすと・・・・同時に手を出した別の誰かの手にあたる・・・。
「「あ・・っ・・・。」」
手が触れ合った瞬間、同時に声を上げる。慌てて手を引っ込めながら、お互いを見あうと、そこには私と同じセーラー服を着た美少女が立っていた・・・・。
長い黒髪。瞼の上までかかった前髪の奥から、自信が無さそうな気弱な瞳が光っていた。その瞳は漆黒のように真っ黒で見る人を惹きつける。日本人の大半が瞳の色はブラウンだけれども、彼女の瞳は、完全な黒だった・・・・。
そのまん丸ぱっちりとした大きな黒の瞳が、彼女が美少女であることを証明している。
その気弱そうな瞳も小さな口元も、か細い肩も大きな胸も、男の子が大好きな美少女像を現実化したかのようだった・・・・。
あれ・・・? こんな美少女。うちの学校にいたのかしら?
そう私が思っていたら、相手の少女は、お先にどうぞとばかりに手を差し伸べてきた。
私は一礼すると本を手に取り、「ありがとうございます。・・・あなた。もしかして、私と同じ学校の人ですか?」と、尋ねた。
美少女は、頭がもげちゃうんじゃないかと思うような勢いでブンブン首を縦に振って肯定する。
「わ、わわわ・・・・わたしっ!! 4組の沢口 美月って言いますっ!
榊 明さんですよねっ?」
と、やや興奮気味に話しかけてきた。
いや、その姿の可愛い事。女の子同士なのにちょっと抱きしめたくなっちゃう。
それに・・・4組の沢口 美月ちゃんね・・・?
いたっけ、そんな子・・・・。
ああ・・・。でも、この気弱そうな感じ、絶対にクラスで目立たないように苦労している感じするわね。だから、違うクラスの私には、知られてないのかもね・・・。
私は、少し合点が行ってから、ふと沢口さんの抱きかかえているBLコミックスに目がいった。そして、改めて自分の手にした本を見て、
「あ・・・・あはははっ・・・・。」
と、照れくさそうに笑うと、沢口さんも自覚して顔を真っ赤にした。
「あの・・・・。お好きなんですか? ・・・・BL。」
沢口さんは聞きにくい事をズバリと聞いてきたけど、これは同族を見つけた喜びが原因なのは明らかだ。だって、私も嬉しいもの・・・。
「うん。私、この作者さんのこと知らないけど、表紙見ただけで、ビビッときちゃって・・・・。
これは絶対に来るものがあると思うのっ!」
私がそう答えると、沢口さんは嬉しそうに笑った。
私は店内の時計を見て、あと30分くらいなら全然時間があるから、一緒に隣のファミレスに入らないって誘ってみた。沢口さんは、少し躊躇していたけど、「本買ってお金が無くなっちゃうから・・・。」という理由でお断りしてきた。
まぁ、お小遣いの問題なら仕方ないよね。
私は、「気にしないで、また学校で。」と、返事を返すと、沢口さんは嬉しそうに笑って小さく「はい」と答えるのだった。
ああ・・・この守ってあげたくなる感じ・・・・。絶対に男の子はこういう子。好きだよねぇ‥‥。と、思ってしまうのでした。
沢口さんとはお買い物が終わってから、店の外で10分ほど、とりとめのない事を話し合ってからお別れしたのだけれども、この先もちょっとお付き合いしたかなぁ・・・・・。
あのお淑やかな感じ・・・・。私もちょっと見習わないと・・・・・。
その後。買い物を終えて帰宅した私は、ふと、あることに気が付く。
ああ、もうちょっとしたら、皆の前で水着姿を披露することになってしまうんだなぁ・・・と。
正直言うと、自分の体には結構自信がある。同級生の女子からも羨望の眼差しと嫉妬の眼差しの両方を向けられる私は、かなりの美少女だと思う。
・・・・ただ、やっぱり恥ずかしいのね。
普通に考えたら、他の女の子って子供の頃から女性用水着を着て、男の子の目に晒される経験がある。
でも、私は生まれて初めての水着姿を晒すわけだから、免疫がない。
今から想像しただけで、ちょっと足がすくむ・・・・。
「情けない事を言うのう。
心配するな。お前は妾でも食ってしまいたくなるくらい可愛い子じゃ。
男どもは、お前を見て、お前の痴態を想像するだけで、お前にガッカリすることはない。」
なんて、お姉様は的外れなことを言う。
違うの、お姉様。私、恥ずかしいだけ。
だって、私も結構、美少女じゃないですか? 私のビキニ姿を見てがっかりするような男の人って絶対にホモでしょ?
「お、言うのう。
まぁ、実際。お前の体操服姿、セーラー服姿だけでも、相当な数の男子がおかずにしておるくらい、お前は可愛いからのぅ・・・・。」
えへへ・・・。
いや。よく考えたら全然嬉しくないな。
私正直、今のところおかずにされて嬉しいのって隆盛、不知火先輩、初、お兄ちゃんだけだし。他の男子にエッチな妄想されるのって、やっぱり怖いなぁ・・・。
だって、やっぱりどうしても女の子って受け身の存在じゃないですか?
そういう男子がこじらせて迫ってくるかもしれないと思ったら・・・・・。
「まぁ、その時は妾に任せよ。
初がトチ狂った時のように妾が成敗してくれるわ。
明は、妾の可愛い眷属じゃ。妾の娘同然と言ってよい。安心してよいぞ?」
・・・・・ありがとうございます。
娘同然って言われちゃった・・・・。ちょっと・・いや、大分嬉しいかも・・・・。
私は自分が一気に赤面するのを感じながら、昨日の続きを描くことにした・・・・。
数分描いてから、参考のために買っためっちゃ良い感じのBL本をめくる。カット割りや描写角度を参考にするためだけれども、その一瞬の集中力の跡切れが、ふと私の脳裏に一人の美少女の姿を思い起こさせる。
あ、そういえば今日、ショップであった娘。
確か「沢口 美月」ちゃんだっけ?
可愛かったなぁ・・・・。髪も長いしオッパイも大きいし、ちょっと気弱な感じとか・・・。男の子ってああいうちょっと弱い子好きよね。
・・・・あんな子、学校にいたんだぁ・・・・・。
私は、新たなる出会いに少し胸が躍るのを感じていた。