二人に対して、誠実に!・・・ね。
そうなんだ。
男心が目覚めてしまった私は、今は女体にまで性的対象として見てしまう。
このままではいけない。
水泳の授業が始まってしまう前に私は、完全に女の子に戻らなくてはいけない。
それにはどうすればいいか?
答えは一つ。男の子に徹底的に興奮すればいい。女体ではなく男体に興奮するように努力すればいい。
だけれども、お兄ちゃんのBLドラマは聞けば聞くほど、私とお姉様はトリップしやすくなってしまうから、その手は使えない。
いや、実際。お兄ちゃんの声は魔性だ。お姉様もついこないだまでは「んきゃああああっ!!」って、身悶えしまくっていたから・・・・・。私も毎晩毎晩、あの声を聴いて悶えまくっていたし。
ああいう生活を続けていてはダメね。そりゃ、トリップもするよね。
ただ、厄介なことにお兄ちゃんの声は神様の恩寵。大抵の女の子は虜にされちゃう。それこそ美少年の初でさえも恥骨をやられちゃうんだから、始末に悪い。
隆盛の鍛え上げられた肉体も、不知火先輩の中性的な美貌も確かに涎が出るほど美味しそうな肉体をしているけれども、そこにお兄ちゃんの声ほど中毒性はない。私たちが同時にトリップすることはない。
つまり、これから私は比較的無害な二人の肉体で女性としての心を完全にすればいいと思うの。
そう。だから、今日から私は隆盛や不知火先輩の肉体を徹底的に見ることにするっ!!
そう決めた矢先のことだった・・・。
お昼にお弁当下げて甲斐甲斐しく通う初が、見かねて言う。
「明ちゃん・・・・。見過ぎだから・・・・。」と、私の耳元で呆れたように告げる。
えっ!? もしかしてバレてた?
「・・・多分。隆盛も気が付いてるよ。さっきから胸と二頭筋ばっかり見てるじゃない。
もうっ! 明ちゃんのエッチっ!」
初はまるで我が事のように顔を真っ赤にして恥じらうものだから、私は改めて自分が隆盛の体をガン見していたことが恥ずかしくなってしまった。
ちらりと隆盛の顔を見上げると、目があった。
その時、隆盛が嬉しそうに腕の筋肉を見せつけてくるから・・・これはやっぱりバレていたんだろうなぁ・・・・。
ああ・・・どうしよう。隆盛にエッチな子って思われちゃったかな?
違うの・・・・。これには深いわけがあってねって、口に出して弁明できたらどれほどいいか。
「口に出して弁明? 何を言うとるのじゃお前は。
明よ。お前は隆盛に何というつもりじゃ?
”これから女心を完璧にするために隆盛の体をおかずにさせてもらうけど、気を悪くしないでね?”とでもいうつもりか?
それこそ、ドン引きされるだけじゃ。」
言い方っ!!
そんな言い方したら、誰だってドン引きするもんっ!!
そこはちゃんと濁して言うもんっ!! 大体、お姉様だって、隆盛のあの腕に抱きしめられた時の私の感触を体感してて、ちょっとは興奮したでしょ?
「・・・・うむ。
あれはかなり来るものがあった。勿論、お前自身が隆盛のことを悪く思っておらぬのが原因でもあるが、隆盛の肉体はかなりいい。
叶うものならば、妾は、あの肉体に一晩中ずっと暴力的に奪われたいと思う。」
・・・・・・本当にドMですよね・・・。
私はあの包容力と力強さと優しさに胸が熱くなるんですけど・・・・・・。
「明は、乙女よのう・・・・。しかし、お前もあの肉体に支配される喜びを覚えてしまったら・・・・・
多分、もう他の男では満足できぬ体になってしまうぞ?」
・・・・・エッチなこと言わないでくださいっ!! 男女ってそれだけじゃないと思うんですけどっ!?
「・・・・ふふふ。可愛い事を言うのぅ。明は・・・・。
妾と一緒にいても。妾と同じ属性を引き継いでいる眷属だというのに、純情さは失われない。
そこがお前の女としての最大の魅力かもしれぬなぁ・・・・。」
・・・・・そ、そうかな?
純情な子ってやっぱり男の子は好き?
「もちろんじゃ。特に隆盛のようなロリコンはな。
大好きじゃぞ? お前のように隙だらけの純情娘は。」
・・・・え? 私って隙だらけですか?
「隙だらけじゃよ。 純情な癖に色香に惑わされやすい・・・。
お前は本当にかわいい子じゃ。」
・・・・・。
お姉様にそう言われると照れちゃうなぁ・・・・・。
そっかぁ・・・。隆盛は私の純情な部分が好きなのかあ・・・・。
それって、ちょっと嬉しいかな。だって、他の男子みたいに私の体目当てって感じじゃないの。最高。
そう考えると、いくら男心を封じ気めるためとはいえ、隆盛の体ばかり見ていたら、隆盛に対して失礼だよね。これからは、今まで通りに過ごしながら、隆盛を思う様にしようっと・・・・。
そう決めてから、私は普段通りに過ごすことにする。
ただ、私が急変したのを察した隆盛が寂しくなったのか、やたらと筋肉アピールをしてくるのが、ちょっとウザい・・・・。そして、そんな隆盛の筋肉に興奮気味に「うわぁ!! 凄い。ね、触らせて触らせてっ!!」と、ごく自然にスキンシップしてる初の純真さが羨ましい・・・・。
放課後になると、美術部の部活がある。
でも、私には一つの懸念があった・・・・。
それはつまり・・・・。
私は、あの女性的な美しさを秘めた不知火先輩の美貌を前にしたとき、
男性の魅力に引っ張られるのか? 女性らしい魅力に引っ張られるのか? はたまた、その両方か?
自分の心の変化を確かめるのが自分でも怖かった。
そんな私の歩みは遅く、美術部に着いたときには、既に先輩は画の準備をしていた。
イーゼルを出して画の準備をしていた不知火先輩は、私の顔を見ると嬉しそうに
「やぁ! 明。今日も一緒に頑張ろうねっ!?」と、とびっきりの笑顔で迎えてくれる・・・・。
・・
・・・・・・・はうっ!! めっちゃささるっ!!
その笑顔っ! 私の胸にめっちゃ刺さるっ!
美しすぎる不知火先輩は笑顔一つで男も女も簡単に落とせる。実際に、女の子だけでなく、多くの男子生徒が道を誤って告白してきたという伝説は伊達じゃないっ!!
そして・・・・・私は・・・・
そんな不知火先輩の美貌を前にして、・・・・・ちゃんと男性としての魅力を感じていた。
隆盛と違って細身のしなやかな筋肉は、私にとってはごちそうにしか見えない。
また、その事を不知火先輩も先刻承知とばかりに、肌を露出させて誘惑してくるものだから、嫌でも意識してみてしまうっ!!
・・・ああ・・・。でもホッとしたな。
私、ちゃんと不知火先輩の前では女の子になれてる・・・・・。そう思うと、改めて私は不知火先輩のことも好きなんだって自覚させられてしまうのでした・・・・。
そして、その思いは美貌に対してだけではない。同じ絵を描く者としての憧れも私が不知火先輩を好きな理由・・・。
ずっと私を守ってくれたお兄ちゃんと、心を許せる親友としての絆を築いてきた隆盛・・・・。
3人が3人とも違う理由で私を好きにさせてくれている・・・・・。
ああ。私って幸せなんだなぁ・・・・。
そう思うと、私は今日も頑張って絵を描こうと思う。私が大好きな不知火先輩の事をもっと好きになるためには、もっともっと、不知火先輩と一緒に美術を頑張らないとっ!
そして、私達はお互い向き合って、今日もスケッチをする。絵のモチーフがそれぞれお互いだから・・・。
5分ごとにモデルを交代してクロッキーを重ねる。何枚も何枚も絵を描くのだけれど、休憩時間にお互いの絵を見せ合うときに、不知火先輩が顔をしかめながら「明。見方がエッチすぎないか?」と言ってきた。
あううっ!! ば、バレてるっ! 真面目にクロッキーするつもりなのに、ついつい、不知火先輩の首元周りとか前腕の筋肉とかに力が入ってしまっていることが、バレているっ!!!
「そりゃ、これだけ熱の入れようが他の部位と違えば、不知火になら悟られるわ。
お前、わかっとるのか? 今、この絵をさらすことで不知火は確実にお前の性癖を見抜かれたということを・・・・」
ああっ!!
そ、そうだっ!! これは・・・この絵は、私の性癖が詰まりすぎているっ!!
は、恥ずかしい・・・。
私は自分の性癖をさらした恥ずかしさに耐えながら、不知火先輩が描いた私を見る・・・・。
「・・・・ちょっと、・・・・先輩ぃ~?・・・・・」
私は思わず、ジト目で不知火先輩を見つめる。不知火先輩も私が言いたいことがわかるようで必死に言い訳する。
「いやいや・・・・。これは、他意はないよっ!? 僕は、明。君を見たまま描いただけだ。
胸もこれぐらい立派なんだから、多少エッチな絵に見えても仕方ないよ。」
ふ~ん。エッチな絵に見える点はごまかさないんだぁ・・・・。不知火先輩って私のことをこんな風に見えてるんですねっ!!
私は思わず抗議する。
「もうっ! 何言ってるんですかっ!! 胸に入れている熱量が違うって話ですよっ!
それに大体、私、こんなにお尻は大きくありませんっ!!」
「いや、これは見たままを描いて・・・。」
ああー---っ!! 違うもんっ!!!
そんなわけで今日の部活は最悪の一日になったのでした。