サービスシーン
月曜日。
私が登校すると、いつものように元気よく初が朝の挨拶で出迎えてくれる。
「おはようっ!!明ちゃんっ!!」
初が元気よく廊下の遠く向こうから走ってくる・・・。
しかもっ!! またもや男子のくせにペンギン走りですってっ!!?
愛らしい笑顔を振りまきながら、カッターシャツ姿の初がペンギン走りで走ってくる。
初のまわりに綺麗な花びらが散り舞っているように見えるのは、私の気のせいだろうか? いや、そんなはずはない。だって、初は滅茶苦茶可愛いもの。これだけ可愛いんだから実際に花が舞っていないとおかしい・・・・・。
初のロリータ的可愛らしさは、天下一品で周りの男子生徒たちも微笑ましい目で見ている。
中には同性という事で嫌悪感を示している者もいるにはいるのだけれども、それでも表立って初をいじめる者はいない・・・・。それは初が隆盛とつるんでいるから。この学校の誰も隆盛を敵に回したくはないから。だから、初は堂々と学校でも女子力を振りまける。
私や隆盛とつるむ前の初は違った。自分の女装趣味を周りに知られるのを恐れて、(もっとも、これは本人が知らなかっただけで、ネット上で彼は既に身バレしていたのだが)学校では友達を作ろうとしなかった。周りと距離を置くようにして、大人しくしていた。
それが変わったのは、女の子になったばかりの私が初を脅して女装の仕方を教えてくれるように頼んだのがきっかけなんだから、世の中ってどうなるかわからないものね・・・。
そして学校で隠すことなく、思う存分に愛嬌を振りまけるようになった初は、学校のちょっとしたアイドルになりつつある。初はそれくらい可愛く成長している。
そう、この私がムラムラしてくるくらい可愛い・・・。
男の子のくせに女子の平均以下の小さい背丈。細い腰。細い四肢。透けるように白い肌にまん丸大きな瞳がキラキラと輝いている。妖艶な女性のような魅力のある不知火先輩とはまた別の方向で初は綺麗。
その男性らしからぬ細い腰と薄い胸板を見ていると、どうしようもなく抱きしめたくなる・・・・・。
・・・・・
・・・・・・・・・・・ってっ!! 何考えてるんだっ!! 私っ!!
しっかりしろっ!! 最近復活しようと動き出した私の男心をそのままにするなっ!!
だって、私、女の子だもんっ!! 初の可愛らしさに惑わされるなんて・・・・そんなの・・・そんなのレズじゃんっ!!
初の可愛らしさは、あっさりと私の理性を奪ってくる。
「奴は危険だっ!!」と、私の本能が告げている。
これからは男心が落ち着くまで、初とのコンタクトは控えた方が・・・・・って、そんなわけにはいかないよね?
私は初にとって初めてできた学校の友達。私の都合で初を邪険に扱うことなんて出来ないっ!!
私は、元気いっぱいの朝の挨拶で迎えてくれた初を最高の笑顔でお返しする。
「おはようっ!! 初。今日も元気一杯だねっ!」
すると、初は、私の挨拶に対してリアクションするどころか、少しボーっと私を見つめていた。
・・・ありゃ? ちょっと最高の笑顔を見せすぎて、不自然だったかな?
と、私がちょっと心配になるほど初は固まっていたけれど、暫くすると大きく目を見開いてこういった。
「やっぱり、明ちゃんて、可愛いね。
私も自分の容姿には、かなり自信があるんだけど、やっぱり本物の美少女には敵わないね。
最っ高の笑顔だったよっ!」
・・・・・・嬉しいっ!! お世辞かもしれないけれども、初みたいな美少年にそう言ってもらえるのって、やっぱりうれしいっ!
初から思わぬお褒めの言葉を頂き、私がちょっと喜んだ瞬間、初は、私の腰に抱きついてきた。
「ちょっ!! ・・・えええええええっ!?」
私が慌てて大きな声を上げると、初は、「明ちゃんっ!! 可愛いっ!!」なんて嬉しそうに言う。
でも、やっぱり男子にハグされるのって、私も誰でもいいわけではないから、やっぱり、こういうの困るのよね。それに可愛いと言ってもやっぱり男の子。私よりもかなり力強い。
私が必死に振りほどこうとしてもほどけないっ!!
「や、・・・・やんっ!・・・・ふりほどけないっ!
もうっ!! 初っ!! そんなに強く抱っこしたら痛いってばっ!!!」
私が冗談交じりにそういう苦情を言うのだが、初は「あははっ! 明ちゃん。よわ~いっ!!」って、面白そうに言う。
うう~んっ!! と、頑張ってみても初は振りほどけそうにない・・・・。
「もう~・・・いい加減にしてってばっ!! 歩けないじゃないの・・・・ 」
私はちょっと困ってしまった。
初は、じゃれているつもりかもしれないけれど、やっぱり私。女の子だからねぇ・・・。周りの目もあって、こういうの本当に困る。
そんな風に私が困っていると、そこに助け船が入る。
「こらっ・・・。 俺の女に何してるんだ、お前は。」
そういって、初の頭を手刀でポカリと叩くのは、隆盛。
並の男子よりも背が高くて筋肉質な大男。しかもイケメン。それが隆盛。
隆盛のカッターシャツ越しでもわかる太い二の腕と分厚い胸板をみて、ときめいてしまう私がいた。
・・・よかった。初の可愛らしさに惑わされそうになったけれども、私の心の中はまだまだ、女の子としての領分が大半を占めている。
私は自分の女性を再確認して安堵している。
しかし、それでは収まりがつかないのが、初だった。
「もうっ!! 女の子の頭に何するのよっ!!
それに、誰が「俺の女」よっ!! まだ、勝負はついてないんだからねっ!!」
初はそう言いながら、私から離れると叩かれた箇所をさすりながら、隆盛に抗議する。
それは、その通りだ。
「そうだよっ!! 隆盛。皆が誤解するようなことを言わないでよねっ!!
私は未だ、誰のものでもないんだからっ!!」
隆盛は私たちの抗議を聞いてもニヤリと笑うだけで、何も言い返してこない。
う~ん。憎たらしいほどカッコいいなぁ・・・。くそう・・・。
私が恋人候補の二人から抗議されても動じない隆盛の人間としての大きさに、少し胸をときめかせた瞬間。初の女の勘が働いたのか、今度は隆盛の腰わらいに抱き着くと
「明ちゃんっ!! 私、負けないんだからねっ!!」
と、お決まりの宣戦布告をする。その時のふくれっ面が可愛いのなんの・・・・。
本当にこの子って天然の小悪魔的可愛らしさに恵まれているわね。
ああ。そうだ・・・。
あれだ。私、男心に染まっちゃったら、この子と恋愛すればいいんだ。
そうすれば見た目はレズに見えるかもしれないけれども、ちゃんと異性同士のカップルだし。有りだよね。
なんて、ちょっと不謹慎なことを考えていると、呆れたようにお姉様が言う。
「無しに決まっておろうがっ!! そもそも初は、今はもう男にしか性的興奮を覚えんほど精神的に女性化しておる。いまさらお前のような巨乳巨尻のエロ娘に興味を持つものかっ!」
ちょっと!! お尻のことは言わないでって言ってるでしょっ!!
それに、私。エロ娘じゃないもんっ!!
服装だって男の子の目を避けるために極力、露出の少ない服にしてるもんっ!!
「お前・・・のう・・・・
男心がわからんのも大概にせいよ? そもそもお前は元々は、男だったんじゃろうが。
その時の記憶を思い出してみいっ! 男は露出が多い女だけを見ていたか?」
・・・・・・・そういえば、そんなことなかったな。
フレアスカートとかでも、その清楚な感じを喜んでいる子が大半だったような・・・・。
「男は胸の大きい女の胸だけ見て、胸の薄い女の胸は見なんだか?」
そんなことなかった・・・・気がする。
それこそ、小学生の女子のプニッとしたふくらみにさえ、目線を動かしていた気がする。
「そうじゃろうが。それが男よ。
肌を露出させない衣服を着ていようが、胸が小さかろうが男は見てしまうし、それを見て性的興奮を覚えるものじゃ。
しかし、今の初にはそれがない。エロの塊のような体つきをしたお前に抱き着いても一切、興奮しておらぬわ。それどころか隆盛の胸板と太い腕に興味津々じゃ。栗の香りが匂ってきそうなほどなっ!」
お姉様は、さらに私に忠告する。
「おかしいのはむしろ、お前の方じゃ。
初は女体に興味を示さぬが、お前は初の中に女性を見出して、興奮しておったろうがっ!
初のロリータ少女のような薄い胸と細い腰を見て、お前は何と思った?
いよいよ、お前は男に惚れこまんと、そのうち同級生の女子全員がお前の性の対象になりかねんぞっ!!」
・・・・・っ!!
お姉様に言われて私はハッとするっ!! そうだった・・・。私は今、初よりも精神的に男の子よりの考え方になってしまっているかもしれないっ!!
・・・しかも・・・・同級生の女の子を性の対象にしてしまう可能性があるなんてっ!
・・・・・そんなことになってしまったら、これからの体育の着替えの時とか、水着に着替える時とか、最大の危機じゃないのっ!
そんなの・・・・
「そんなのっ!! ちょっとエッチな少年漫画にありがちなただのサービスシーンじゃないっ!!」
お姉様は、私の心の中の絶叫をついて、深いため息をつきながら・・・・
「お前、本当にいい性格しとるのぉ・・・・」と呆れるのでした・・。
いや、違うからっ!! そういう意味じゃないからっ!! 私、喜んでないもんっ!
私、昔からああいう覗きみたいな卑劣な行為に嫌悪感があったのっ!!
だから、そういう事になるのだけは嫌っ!!
ああんっ!! もうっ!! 何でこんなことで悩まなきゃいけないのよっ!
3人とも誰でもいいから私を早く惚れさせて完全な女の子にしてよっ!!