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お兄ちゃん?

「ねぇっ! お兄ちゃんっ!!

 SM要素のないめっちゃいい感じでエッチなBLドラマCD作品知らないっ?」


突如、とんでもない事を言い出した妹にお兄ちゃんは軽いめまいを覚えたのか、暫くハンドルにのしかかるようにしながら運転していたのだけれども、あることに気が付いたかのようで、す~っと、体を起こすと横目で私を見ながら


「あ~・・・・おい。バカ女神。ちょっとこい。」


と、いうのだった。

お兄ちゃんはさっきの言動がお姉様の仕業と思ったのかもしれないけど、それはまずいよ。

今のお姉様は半日前のお姉様とは違う・・・。

もう、お兄ちゃんの声の魅了には掛かっていない。豊穣神としての威厳を取り戻している。

そこを「バカ女神」呼ばわりしたら、どんな罰を受けるか・・・・・・。

私は慌てて「違うんです、お姉様。お兄ちゃんはお姉様の変化に気が付いていないんです。こういえば喜んでもらえると思って・・・・!!」と、お姉様に弁明する。

でも、お姉様の怒りは収まらなかった。


「おのれっ!! 人間風情がいつまでもいい気になるなよっ!!」

そう言って、髪を逆立てて怒るお姉様は正に鬼神の様相だった。私は怖くて震えが止まらなくなったというのに、事情を知らないお兄ちゃんは更に続けて言う。


「早くしろ。誰がお前の主人か忘れてしまったのか? 

 それともその淫乱なお前の体が誰のものか教えるように躾られたくて、わざと惚けて俺を誘っているのか? いやらしい子だ。」


・・・・・はうっ!! い、今の一言は・・・・流石に恥骨に来たわっ!!

・・・・すっごいのきたっ!!。

お、お姉様。わ、私、ちょっとお兄ちゃんのエロボイスが刺さる様になりましたっ!

やっぱり、私。お姉様の眷属だけあってM属性強いのかなぁ・・・・?

私が嬉しそうにお姉様に報告したとき・・・・・お姉様も相当刺さっていたようでうずくまって悶えていた。

「はあぁぁぁんっ!! な、何ちゅうエロボイスじゃ・・・・。

 豊穣神である妾の恥骨を直撃するっ!

 こ、これは流石にたまらぬっ!! あかり、今の内だけ妾と代わってもらうぞっ!!」

・・え? か、変わるって? お姉様っ? 

・・・・・あのっ!!

と、私が言ったときのには、すでに私の体はお姉様に乗っ取られていた。

以前と同じようにお姉様に乗っ取られている間の私は意識を失っているので、何が起きたのかわからない。

ただ、目を覚ました時、心象世界に戻ってきたお姉様は衣服を乱して悶えながら、()()()になられていたので、何が起きたのから容易に察することが出来る。

て、いうか、あのテンションのお姉様がやることなど容易に察することが出来る。

きっと、お兄ちゃんに「こういうシチュのセリフを言ってくれっ!!」「もっと嬲ってくれっ!!」とか、酷いお願いをしたんだろうなぁ・・・・。

・・・仕方ないとはいえ、これでお兄ちゃんがお姉様の怒りを買うことが無いのなら、それはそれでいい事なのかもしれないなぁ・・・・・。

私は、お姉様の滾りが収まるまで待つ。暫くするとお姉様が顔を真っ赤にさせながら、「見苦しいところを見せた・・・・。」と、行って、衣服を直す。

いえいえいえ。お互い様ですよ。

もう、私達。晒しあった仲ですから、お気遣いなく。

「すまぬのうぅ・・・・・。妾も罪な神性を持ったものじゃ・・・。

 まぁ、察しはつくと思うが、妾は現実世界でたけるに散々罵ってもらえて今はご機嫌じゃ。

 現実世界に戻してやるから、兄弟水入らずで楽しんでこい・・。」

はい・・・・。

そんな訳の分からない状況から、現実世界に戻った時。車のハンドルを握るお兄ちゃんは、ちょっとやつれていた・・・・。


「大丈夫?」と私が声をかけると、お兄ちゃんは「ああ・・・・。」と、気の抜けたような返事をしてから、「初めてお前にとりついている女神の姿を見た・・・。」という。

どうやら、お姉様は私の体を乗っ取ったばかりか、私の体を媒体として、自分の容姿を投影してお兄ちゃんに自分の姿を見せたそうだ。それは、スクリーンに映る映像のようなものなのだけれども、神様のすることだから、かなり鮮明な画像で、お兄ちゃんにとっては肉体が現界したかのように錯覚したらしい。

その上で、お兄ちゃんはこういうのだった。


「あんな美しい女性は見たことがない・・・・。」と。

豊穣神は、「生」すなわち「性」をつかさどる神でもあるから、往々にして美の女神としても崇められることが多い。お姉様も例外なくとても美しい容姿をしている。

その姿は、匂い立つような美形の男子のようでもあり、ボーイッシュで可憐な美女のようでもある。まるで宝塚だ。その美貌で男の神を誘惑したり、女の神をかどわかして恋愛関係を作ってしまうほどの美貌の持ち主。もっとも、本人的には女性としての自我があるので、女性よりも男性と結ばれることを好む。

だから、お兄ちゃんの前では、少しでも気を引けるように黒髪の長髪姿で現れたそうだ。異性に対しては必要以上に美しく見られたい。それも女心というもの。

そして、まるでアニメや漫画の卑弥呼のような姿をしてお兄ちゃんの目の前に現れたお姉様は、一撃でお兄ちゃんを虜にした。

「凄い・・・・。確かにあれは神だった。

 あんな美しい存在はどれだけ整形しても人間では成れないだろう・・・・。」

お兄ちゃんは、お姉様の顔も体も大いに気に入ったようで、何度も綺麗だ綺麗だと呟くのだった。

そう、お姉様は美しい。

私の自慢のご主人様・・・・。でもね・・・一応妹とはいえ、仮にも自分のお嫁さん候補の女の子の前で、他の女の子の容姿をほめ過ぎじゃないっ!?

私の心の中にお姉様に対する嫉妬心が芽生える。

それを目ざとく察知したお姉様が、

「すまぬのぅ・・・。妾が美しすぎるばかりに。

 お前も気を引き締めてたけるに恋をしないと、うかうかしておるとたけるは妾の虜になって、お前のことなど忘れて、妾だけを愛するようになるぞ。 

 前から言うておるように妾は恋愛の神としての一側面もある。その妾に惚れ切ってしまったら、人間の身であるお前が再びたけるを自分に振る向かせることなど至難の業じゃ。」

お姉様は自信満々で自分に落ちた男は、もう二度と他の女性に振り向かないと宣言する。

そりゃ、そうでしょうとも。なんといっても、お姉様は神様。

私が逆立ちしたって、勝てないでしょうね。


・・・・ん? でも・・・・・それって・・・

私がようやくお姉様が意図したことを察したとき、お姉様は改めて宣言するのでした。


「つまりの、あかり。 これから先、妾はお前の恋のライバルにもなるということじゃ。

 妾は、お前が他の男と結ばれるのなら、喜んでたけるを伴侶にして迎えるでな・・・。」


これは脅しではない。これがお姉様の神性でもあることは先刻承知。恋多き女神のお姉様は数多くの人間や神と子供をなしてきた。だから、お兄ちゃんがその標的になっても不思議でも何でもない。

そして厄介なのが、その状況はお兄ちゃんにとって決して悪い事態にはならないという事。

声の神の恩寵を受けたお兄ちゃんが、恋愛の神でもあるお姉様の恩寵を授かるというのなら、声優業としてこれ以上ないくらいに恵まれた環境になるという事。


私はどうしたいのだろう?

男の心が復活しつつある私は、お兄ちゃんをお姉様から奪い返したいと思うほど恋愛感情を抱けるだろうか?

それに、私には他にも隆盛りゅうせいと不知火先輩という存在もいる。

必ずしもお兄ちゃんを選ぶとは限らない・・・。


自宅についてから、一度着替えるために自室に入った私はベッドに倒れ込むと、これからどうしたのか考える。

私は未だ、3人のことが好きだし、男心なんか取り戻したくはない。

その証拠に3人それぞれから、抱きしめられたところを想像するだけで胸がときめいている。

だったら、だったら、やっぱり私がやるべきことは一つ。

今日から全力で3人を好きになって、完全に女の子になることっ!!


でも、その決意の奥に、お姉様にお兄ちゃんを取られたくないという思いがかなり強いことを感じている。私の心は本当は既に決まっているのかもしれない・・・・・・

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