お兄ちゃん。パワーアップ!!
「水着!? 明。お前、水着買ったのか?」
電話口でお兄ちゃんが嬉しそうに大きな声を上げている。
来週の土曜日に水着デートする話になっているので、お兄ちゃんの仕事の都合を聞こうと思ったら、その話になる前にお兄ちゃんは興奮気味に私に水着のことを聞いてきた。
「ビキニを買ったのか?
何色だ?」
などと、根掘り葉掘り聞いてくる。あまり考えたくないけど、水着はお兄ちゃんのフェチズムを刺激するアイテムなのかもしれない。
私は、お兄ちゃんに気を持たせるためにあえて「内緒!」と答えてから、お兄ちゃんの仕事の都合を尋ねると、来週の土曜日はラジオ番組の会議がある都合で14時までは大丈夫らしい。少し早いけど、まぁ、プールって意外なほど体力つかうし、体力のない私や初にとっては、丁度いい時間かもしれない。それで、来週の土曜日の水着デートの約束が決まった。
しかし、お兄ちゃんはよほど水着に何か感じるものがあるらしく、今週の土曜日に帰省すると、私の顔を見るなり、「水着を見せてくれ!!」と、頼み込んでくるのでした・・・・。
私は、その言葉に何故だかドキッとした。そして何故かその言葉に逆らえない気がして、素直に従ってしまう。
本当は他の2人には、まだ水着姿を見せていないのだから、フェアじゃないのだけれども、どういうわけかお兄ちゃんのお願いに従って、部屋で水着に着替えてお兄ちゃんにお披露目することになった。
水着に着替える私の胸は何故か、高鳴っている。
・・・・あれ、私。もしかして、今、興奮しているの?
自分でも自分の反応が不思議だ。
何故だか私はお兄ちゃんに半裸に近い水着姿を見せたいと深層心理では感じているらしく、服を脱ぎ、下着を脱ぐ間に、気持ちが高揚して肌が熱っぽくなっていくのを感じている。
姿見の鏡の前に全裸になって立ち、お兄ちゃんを思って熱い吐息を溢しながら、自分の体をまさぐる様にしながら、水着を装着していく・・・・。
鏡に映る潤んだ自分の瞳がいやらしく光っているのを感じながらも、私は、自分の心を押さえることが出来なかった。
そして、水着に着替え終わると熱気に溺れておぼつかない足どりでお兄ちゃんの部屋を訪ねる・・・・。
まるで自分の体じゃないかのように、体がフワフワしているかの錯覚を覚えている。かなり気持ちが浮ついている証拠だった・・・・。
何故だかわからないけれども、私は、お兄ちゃんに自分の水着姿を見てほしいと思っている。それも、かなりいやらしい姿で。
あれだけ可愛いフリルとスカートがセットの水着を選んで買ったというのに、私はスカートを履かなかった・・・・。
どうしてなんだろう? その時の私はコンプレックスだったはずの大きなお尻もお兄ちゃんに見せたかった。頭の中でお姉様が以前に言った「男は大きなお尻が好き」というキーワードが響いていた・・・。
そして、お兄ちゃんの部屋の前にたどり着いた私は部屋の扉をノックする。
お兄ちゃんは自分の部屋の扉を開けた瞬間、水着姿の私を見て「おおっ・・・・!!」と、嬉しそうな声を上げてから、舐めるようなねっとりとした視線で私を見つめる・・・・。
ああっ・・・・・!!
もっと、見て!! お兄ちゃん私を見てっ!!
いやらしい私の体を見て欲情してっ!!
私の頭の中で、ものすごい勢いで欲望が生まれてくる。お兄ちゃんを私という存在全てで虜にしたい感情であふれていた・・・・。
そして、私は私の体を見てポーっとするお兄ちゃんに抱き着くと激しくキスをしてから、押し倒してお兄ちゃんに馬乗りに・・・・・・。
・・・・・・あれ? 私って、こんなキャラだっけ?
そりゃ、お兄ちゃんと結ばれることに何の不満もない。だけど、こういうのってなんか違う。
だって、私ってもっと少女漫画みたいな展開で恋愛を発展させてほしいって思ってるタイプなのに・・・・なんでこんなことになってんの?
・・・と、思った瞬間に、私は白昼夢から覚める。
私が目覚めた時、私はお姉様が急遽、引きんでくれた心象世界の中だった・・・・。
・・・・あれ? なんでこんなことになってんの?
私は、呆然とした様子でお姉様に尋ねると、お姉様は汗びっしょりかいた状態で、息を荒げていた。
「あ、危ないところじゃったぁ‥‥。
良いか、よく聞け! 今お前が見たのは現実であり、お前の願望でもある。」
どういうこと? さっきのは現実じゃないってこと?
「半分現実じゃ。
良いか、心して聴け。
武様の声がさらにヤバくなっている。耳のフィルターがほとんど機能しておらぬ。つまり、恥骨直撃の声を防げていないという事じゃ。
それで、明。お前は帰省した武様に「水着を見せて」と頼まれた瞬間にトリップして、さっきの妄想に溺れてしまっておる。
現実世界では、今さっきお前は武様に「水着を見せて」と頼まれたシーンで止まっておる。
そこから先、お前が見たものは全てお前の妄想じゃ。妾がこの心象世界に引き込んでおらねば、恐らく、今頃、武様を押し倒して結ばれておる頃かもしれん。」
え・・・・
えええええええ~~~~っ!!?
なんで? それって、大分、ヤバくないですかっ!?
「うむ。正直、大分ヤバい。
こんなことになった理由は二つ。
一つは武様の役者としての技量が上がって、声力が増しておる。
ほれ、前回、東京に帰る前の出来事を思い出してみいっ! 武様は役に没頭しておったじゃろう? あの成果が出ておるのじゃ。」
へ~・・・お兄ちゃん。声優さんとしての実力が上がったってことだよね!?
それって凄くない!? お兄ちゃん、やったんだ!!
「うむ。全てを役者に捧げて東京に出たことはある。その執念にあの神の恩寵を授かった天触の才が加わるのじゃから、そりゃ、恐ろしいことになるわ、」
・・・・・・ふ~ん。
で、もう一つの理由は?
私がそう尋ねると、お姉様は、ものすごく恥ずかしそうにモジモジしながらこう言った。
「・・・・・その。耳のフィルターの役目をせねばならぬ妾までお前の感情に引きずられて武様の声に飲み込まれてしまったのが原因じゃ・・・・・・。」
・・・それは、つまり・・・・
・・・え?
・・・・・・ど、どういうこと?
「あ~~っ!!
よ、要するにじゃな! 心の扉を開ける権利があるのは、明、お前じゃ!!
そのお前が自分から扉を開けたくなるほど、武様を好いておったら、ちょっとしたエロボイスでも、イチコロになってしまうというわけじゃ・・・・。
そうなるとマズいぞ。ただでさえ武様は恥骨直撃のエロボイスの持ち主じゃ。そのエロボイスを自ら招き入れてしまったら、それはもう、一撃必殺じゃ。
妾もお前の心の中に住んでいる以上、全くお前の心情に影響を受けないというわけにはいかぬ。お前が心の扉をいきなり全開にしてしまったがために、妾もあのエロボイスを直撃でされてしまったがために、一瞬、トリップしかけたのじゃ・・・・すんでのことで正気を保って、こうしてお前を心象世界に引きずり込めることが出来たから、良かったものの・・・。あのまま明、お前と一緒に妾もエロボイスを受け入れていたら、どうなっていたかわからぬぞ!?」
お姉様は、焦りからか、一気にまくしたてた。
要するに・・・私のお兄ちゃんへの気持ちがMAX振り切っているから、耳のフィルターが機能しなかったってこと?
「お前だけのせいではないがの。妾も毎日毎日、お前と一緒に武様のBLドラマを聞き過ぎて、相当、おかしくなっとるからの。
そもそも、なんで人間に「様」付けして、呼んどるんじゃ・・・妾は・・・・?」
いや、それは知らんし・・・。
・・・・というか、それって、お姉様もかなり本気でお兄ちゃんのことを好きになっているから、お兄ちゃんのエロボイスを防げてないってことじゃないの?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・面目ない。」
お姉様は長っい沈黙ののちに、そう白状した。
真っ赤な顔して俯いたまま、恥ずかしそうにモジモジ体をゆするお姉様は、正直とても可愛らしい。
お姉様にもこういう一面があるんだなぁ・・・・。
「当たり前じゃっ!
お前は妾を何じゃと思っておるかっ!
妾だって、女じゃぞ!? それも豊穣神じゃ!!
それなのにお前の心の中に入って、男日照りで体が夜泣きする思いで困っておるというのに、毎日毎日、色男どもに告白されとる映像を見続けておるのじゃぞ? お前の心の中でっ!?
こんなざんない話があるか!!」
うう~ん。流石、お姉様。こんなところでも艶話になっちゃうか・・・・。
「お前が人のことを言えるかっ!!
隆盛に抱かれたら、全てを捧げてしまおうと思ってしまうし、不知火の美貌を見ては即落ちしてしまう。武様の声を聴いたら、恥骨直撃でのたうち回るお前が、どの口で言うのじゃ!?」
あうっ!! そ、それはいいっこなしにしましょうよっ!!
正論過ぎる正論で反撃を食らった私が苦し紛れに休戦を持ちかけると、お姉様は勝ち誇ったように腕組して、胸を張る。
そして、あらためて事態の危険性を警告するのでした・・・・・。
「それにしても・・・・
これから、どうする?」
「いつまでもこのままというわけにもいかんぞ?
明、先ほども言うたが、武様の声力は増しておる。もはや、お前の気持ち次第でどうにでも転がってしまう状態じゃ。」
「このまま武様を受け入れて、結ばれてしまうか、お前が理性を振り絞って耐え抜くか・・・・。
すべてはお前の気持ち次第じゃ・・・・・」
その言葉に改めて私は事態の深刻さを思い知らされる・・・・・・。