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番外編「隆盛と初の話Ⅳ」

再び男の娘がメインになる番外編です。拒否感がある方にはお勧めしません。

明日から、本編に戻ります。

初が主役となる番外編は、かなーり先の話になりますが、残り一話を予定しています。

隆盛りゅせいあかりがテーマパークでデートをした次の月曜日。あかりは、はじめに元気よく挨拶されても、どこか上の空だったし、隆盛と向き合うと赤面して恥ずかしそうに、その場を立ち去ってしまった。

その様子にはじめは土曜日のデートで何かあったことを完全に悟って、隆盛に詰め寄った。


「明ちゃんばっかりズルいっ!!

 私もデートに連れて行って!!」


ごく当然の権利のように学ランを着た絶世の美少年は、隆盛にそういって抗議する。

さしもの隆盛も困惑して「は、はぁ?」っと、呆れたような声を上げる。

隆盛の驚きは当然のものだった。明は隆盛に嘆願されてデートに付き合ってくれている存在で、ズルいも何もない。むしろ、目の前で自身に詰め寄るはじめは、別に交際を誓い合ったわけでもない。

それどころか、いくら可愛くてもれっきとした男子高校生だ。隆盛がデートに誘わなくてはいけない道理がない。

隆盛は、逆に問う。

「・・・・・・・どうして、俺がお前をデートに誘わないといけないんだ?」

そうハッキリ言われて、はじめは一瞬、悲しそうな顔をするが、それでも懸命に食い下がる。

「だって・・・・・だって、休日の私は女の子だもんっ!!

 ・・・・それに・・・・・お弁当だって作ってあげているもんっ!!」

はじめは必死で理屈に合わない理屈を言った。

(・・・・・そう言われてもな。)

隆盛は、サラに困惑した。

それははじめに詰め寄られただけではない。はじめが必死になって泣きそうな顔で自分に懇願する姿を見て、「バカなこと言ってるんじゃねぇよ」と、簡単に断ることが出来ない自分に困惑していたのだ・・・。

(・・・どうして自分は、直ぐに断れないのだろうか?)

隆盛は、自分の気持ちを整理できないことを自分でも不思議に思った・・・。そして、その理由を自分も知りたいとさえ、考えてしまっていた。そんな思考になること自体がありえないことだった。

普通、男子生徒に「デートに連れて行ってくれ」と頼まれて、誰が困惑するだろうか?

しかし、隆盛の脳裏には、これまで見たはじめの女装した姿がチラチラよぎる。美術館での合同デートの時、あの場にいた3人の男子全員が、ゴスロリ姿のはじめに見惚れてしまった。そしてSNSでも、多くの男性を魅了するはじめの女になった姿は、もう一度見る価値があるかもしれないとさえ思えてきた。

隆盛は、懇願する表情で隆盛を見つめるはじめを前にして、腕を組んでしばらく考え込んでいたが、やがて「わかった・・・。」と返事するのだった。

その返事を聞いてはじめが涙目で「本当っ?」と、嬉しそうに叫んだ。隆盛はそんなはじめの様子を不思議そうに見ていたが、やがて二人で教室に向かって歩き出した・・・・。

教室につくとはじめあかりに向かって「負けないから」と言いている言葉が聞こえてきた。

その言葉に隆盛はどこか後ろめたさを覚えていた。そんな様子はあかりにも伝わるのか、あかりに「デートに連れて行くの?」と、問い詰められてしまうのだった。隆盛はその場は言葉を濁らしたが、デートに連れて行くことは、誰の目にも明らかだった・・・・。

隆盛自身もそんなことを了承してしまった自分が理解できずにいた。

それでも(あんな思いつめた瞳で見つめられながら頼まれて、誰が断れるんだ?)と、自分がはじめの思いつめた瞳に同情しているのだと理解し、納得した。

(今回は、同情して押し切られてしまったが、次からは断ろう・・・)

隆盛はそう心に誓うのだった。


そして、土曜日が来た。

あれからはじめにどこに行きたいかリクエストを求めると、はじめが、前に隆盛が明を連れて行った展望台に行きたい、と答えるので、展望台へ向かうことになった。

隆盛は当然、そこがカップルがよくいく場所であることは知っていたし、その上でのデートだから隆盛には、はじめがどうして、そこへ行きたがっているのかわかっていた。

それだけに同情して押し切られてしまった自分の優柔不断さに後ろめたさを感じるのだった。

その後ろめたさは、待ち合わせ場所に来たはじめの気合いの入った可愛らしい服装を見て、さらに強くなる。

レースのフリルがあしらってあるキャミワンピに茶色のブーツ。そして、化粧をばっちり決めてきたはじめは、まるでアイドルのようだった。周りのものが思わず見てしまうほど、はじめは可愛らしかった。何度か女装姿を見ている隆盛すら「可愛い」と呟いてしまうほど、はじめは完璧だった。

「じゃぁ、今日は、ちゃんとエスコートしてねっ!」

そう言って、嬉しそうにはじめは小さな右手を隆盛に差し出した。隆盛は若干、躊躇ったのち、その小さな右手を手に取ってやる。そして、その右手の感触に驚いた。

(・・・・やわらかい・・・・)

(これが男の手か?・・・・)

隆盛は、自分の思い描いているイメージよりもはるかに女性的なはじめの肉体に驚きを隠せない。

それでも、隆盛はかりにしたように優しくエスコートしてやるのだった。


展望台につくまで、はじめは、ごく自然だった。自然な会話をしていた。

今度の弁当のおかずのリクエストを聞いたり、展望台に向かうまでの景色を楽しんだり、転びそうになったりすれば、嬉しそうにはしゃいだり、学校の先生の特徴を話して隆盛と笑いあった。

そんなはじめであったが、地元のカップルが必ず訪れるというその展望台に入った時は、いささか緊張の面持ちで、赤面したままうつむいてしまう。

そんなはじめに対しても、椅子を引いてやったり、メニューを聞いてやったりする。隆盛は何処までもレディに接する紳士のようにふるまうのだった・・・・。

そんな隆盛の態度にたまらなくなったのか、ついにはじめは、食べかけのパフェを持つスプーンを置いて、泣き出してしまった。

その涙に隆盛は慌てて、「どうした?」と、尋ねるのだった。

はじめは、止まらない涙を拭き拭き、「ごめんね。ごめんね」と何度も謝って自分を落ち着かせるのだった。

そうして、ようやく涙が落ち着きだしたころ、自分の気持ちを語りだすのだった・・・・・。


「・・・泣いたりして、ごめんね? 隆盛。嬉しくなって、つい・・・・。

 ・・・・・・ねぇ、隆盛。

 どうして、今日のデートを許してくれたの?

 どうして、私に優しくしてくれるの?

 どうして、私を女の子扱いしてくれるの?・・・・」

「あのね。私、嬉しかったんだよ? ずっと。

 お弁当も食べてくれたり、女の子として扱ってくれるのが・・・・。


隆盛は、ゆっくりではあるけれども、一度に質問されて返事をするタイミングを失っていた。それでも真剣な面持ちで、はじめの話を真剣な顔で聴くのだった。

そうして、はじめが次に言う言葉を聞いて、自分が何をしているのか、改めて悟るのだった。


「ねぇ、隆盛。女の子がね、男の子にそんなに優しくされたら、どういう気持ちになるのか、わかる?」


はじめは、そういって、まだ涙で潤む瞳で熱く隆盛を見つめるのだった。

隆盛は思う。

(ああ・・・俺は何と罪なことをしてしまったのだろう。明という好きな女がいるというのに、はじめに気を持たせてしまった・・・・)

そんな自分を心の中で責めずにはおれない隆盛であったが、それでも今は、まず目の前のはじめにハッキリと言ってあげないといけない言葉があった。


はじめ。知っていると思うが・・・・俺は明のことが好きなんだ・・・。だから、お前の気持ちに応えられない・・・。」


隆盛は、既に誰もが承知している隆盛の気持ちを語り、きっぱりとはじめの気持ちを断ち切る告白をする。わかり切っていることとはいえ、改めてハッキリと事実を言い渡されたはじめの目が一瞬、深く傷ついたように沈むのを隆盛は直視できずに思わず目を伏せてしまった。

隆盛には、今のはじめの気持ちが痛いほどわかるのだった。

今の状況は、一度、明がきっぱりと「お兄ちゃんが好き」と告白した状況にあまりにも似ているからだった。その時のことがあるからこそ、隆盛には、はじめの気持ちが痛いほどわかり、それだけに直視できなかったのだ・・・・・。

だから、隆盛がはじめから目をそらしている間に、はじめの頬を伝う大粒の涙を隆盛はすぐに気づかずにいた。隆盛がはじめの涙に気が付いたのは、はじめが改めて自分の気持ちを話した時だった。


「・・・・うん。知ってるよ。・・・・・隆盛が明ちゃんのことを好きだってこと。

 でも、隆盛は、私をこうしてデートに連れてきてくれた。

 それはどうして・・・・? 男の子とデートってあり得ないでしょ?・・・・」

そう言いながら、大粒の涙を流すはじめを見て隆盛は胸が酷く痛んだが、それ以上に今、はじめが傷ついていることはわかり切っている。だから、隆盛は自分の気持ちを偽ることなく、正直に答えてやるのだった。

「俺が、お前を・・・男のお前をデートに連れてきたのは、お前が・・・・お前のことを女にしか思えないからだ。初めてお前の女装を見た時にも言ったと思うけど、お前は本当にどこから見ても女子だよ。

 だから、俺はお前を女の子としてしか、扱えない。

 最近なんか学ラン着ているときもそうだぜ。お前は自分が学校で身バレしているのを知ってから、学校でも女子してるだろ?」

「そして、俺がお前の願いを断れずにデートに連れてきてしまったのは、やっぱり、明を思う自分の境遇と、はじめの境遇が似ている気がしてな・・・・・どうしても邪険に扱えなかったんだ・・・・・。」

そこまで言うと、隆盛は一息吸ってから、深々と頭を下げて


「だから、ごめん・・・・。」


と、ハッキリと宣言するのだった。

その様子をはじめは、不思議な事に小さな微笑みを浮かべて聞いていた。

隆盛はそんなはじめの姿を怪訝に思いながらも自分の気持ちを素直に話して、頭を下げて、はじめの言葉を待った。

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・しばらくすると、ようやくはじめが口を開いた。


「そんなこと、知ってるよ。

 ・・・・でもね。明ちゃんは、隆盛を好きになるとは限らない。

 だから、それまでに私が隆盛を振り向かせる可能性がまだあるもの・・・・・。」


そんなはじめの言葉に驚いて、隆盛が顔を上げた時・・・・・はじめは大粒の涙を目に湛えたまま、隆盛を優しく見つめていた。 

「あ・・・。」

その姿に言葉を失った隆盛は一声漏らすのが限界だった。

見惚れてしまったのだ・・・・・その時のはじめの、偽りのない気持ちを伝える美しい姿に見惚れてしまったのだ。

はじめは、暫くの間は我慢して隆盛と目を合わせていたけれども、やがてこらえきれなくなって、頭を俯けて下を向きながら、すすり泣くように言うのだった。


「デートに連れてきてくれたのが、私を女の子として見てくれているって証拠なら、私にもチャンスがあるってことでしょ・・・・

 だから・・・・夢を見させてくれていい・・・・・?」




「貴方の事・・・・好きになってもいい?・・・・」」



その全身全霊の告白に隆盛は、言葉を失ったが・・・・・それでも、いつまでも女の子を泣かせたままにできるほど、隆盛は朴念仁ではない。

はじめの髪をポンポンと優しく撫でてやりながら


「わかった・・・・。わかったよ・・・・。」

と、答えてやるのだった。

はじめは、震える肩を抱きしめながら、一世一代の告白を受け入れてもらったことに感動の涙が止まらなかった・・・・。


・・・・・ああ、この人だ。

やっぱり、この人は私を女の子として受け入れてくれる。

私にはこの人しかいない。

全身全霊をもって、これからこの人を愛するの・・・・・

いつか悲しい結果が待っていたとしても・・・・後になってから後悔しないように、誰よりも深く好きになろう・・・・


私にはこの人しかいないのだから・・・・・・・


はじめは、すすり泣きながらも、隆盛に受け入れてもらえたことの歓びに心が熱くなるのを感じていた・・・・・。


男の娘がメインの回は、ごっそりPVも下がるし、ブックマークが外れることもしばしば。

まぁ、それでもここまで書けて良かったと思います。

番外編は残り一話を予定しています。最後までお付き合いいただければ幸いです。

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