それでも進む
とうとう、嫌な日が訪れたっ!!
「じゃぁ、明ちゃん。わからないところがあったら教えてねっ!?」
教室に残って初に勉強を教えてもらうのです。
初は、ここ2週間の勉強範囲を紙に箇条書きにして、私が苦手なところがあったら、教えてというのだ。
そのメモ書きが凄い几帳面でわかりやすく整理されていて、私は凄くびっくりした。
「初。凄いね? こういうのまとめるの得意なの?」って尋ねたら、「料理のレシピや作る作業手順をまとめたり、種類分けとかもファイリングして作っていたら、自然とこういうの得意になっちゃった」と、はにかみながら答えた。その様子の可愛い事。学ラン着てて、すっぴんでもこれだけ可愛いってどうなのよ。
初、君、本当に生まれてくる性別間違ってるわ。
ま、そんなことは、さておき。
私のためにこれだけ手間をかけてくれた友人の好意を無駄にするわけにはいかない。私は、初に色々と質問を投げかけてみる。初は、すらすらと答えてくれる。割とわかりやすいので、何度も説明を受けていれば、私の頭でも理解する前にオウム返しのように記憶することが出来る。これが数学にとっては、実は都合がいいのだと、初はいう。難しく考えるとドツボにはまる。理解できなくてもそういうものだと、納得して覚えた方が悩む時間が無いから、問題を解く時間が早くなるのだとか。そうやっていれば、自然と頭の中で問題自体の整理がついて内容を理解できるようになるはずだと言う。これは頭の悪い私にとってはあっている勉強法だった。私って解き方教えてもらっても大体「なんで、そうなるの?」って、気になって先に進めなくなるから・・・・。
初は、数分、私に説明しただけで私のそういう部分をすぐに見抜いて、勉強の方法を変えてみたらどうかとアドバイスしてこうなったのだから、実は初は観察眼があって、人を指導することに向いているタイプかもしれない。
「ね。初は教えるの上手だね。将来、学校の先生になったら?」と、私が問うと
「私は将来、洋食店を開きたいの」という。
ああ、じゃあ、高校卒業したら調理師学校にでも行くの?かと思えば、意外なことに美大に行きたいのだという。
「美大?私と同じじゃない。なんで美術部に入らなかったの?」
私は驚いて、まだ誰にも話したことがない将来の夢について話してしまった。多分、もうそれだけ初と私は打ち解けているという事なのだろう・・・・・。
いや、それにしても洋食店を開きたいのに何で、美大?
「私、料理には自信があるの。あとは、もっと自分を綺麗にする美的感覚を磨きたいというか・・・・。」
その言葉から、実は初にとってもまだ将来の見通しはぼんやりしているのだろうと思う。
まぁ、私も絵を続けたいから美大に行きたいだけで、その先のことは何にも考えていないんだけどね。
漫画家やイラストレーターを目指しているわけでもない私の絵は、きっと商売には向いていないと思う。それも大人になったら、変わっていくのかもしれないのだけれども、それでも今は。今はまだ自分が好きなことをやりたい。私はそう思う。
そして、初にとって、美大はそのやりたいことへの通過点にしかないのだろう。自分を磨くために美大に入る。でも、学科は何にするのだろう?きっと、そこまでは何も考えてないかな。
「ね?初は絵を描くの?」
私がそう尋ねると、照れくさそうにノートを開いて、とてもファンシーなキャラクターの絵をたくさん見せてくれた。
・・・・うーん。これは、美大よりもそっち系の専門学校へ行った方がよいのでは?と、思わなくもないけれど、芸術の世界は何が影響をあたえるかわからないから、下手なことは言えない。
ただ、一つ言えることは、外形線がとても正確で綺麗だから、きっと初は、イラストレーター向きの性格なのだろう。私みたいにガシガシ書いていくタイプは油絵が向いているのだけれども、初はCGアートが向いているんだろうなって思う。その事は伝えた。絵は性格が出るから‥‥。
そんな風に勉強を教えてもらいながら、雑談しながら1時間以上たったと思う。そろそろ帰らないといけないって時間になって、私は二人きりなのをいいことに、ごく最近気になっていた話を切り出した。
「ねぇ、初は隆盛のどこが好きなの?いつの間に好きになったの?」
私は、ジェラシーなどの敵意がない事を示すために、努めて明るい感じで尋ねるのだった。
そりゃ、ジェラシーが全く無いわけではないけれども、それでも初は、私の大切な友達。この関係を壊したくはなかった。
その気持ちは初にも伝わるのだろう。始めは、驚いて目をパチクリしていたけど、やがて「ごめんね」と言って、事情を説明しだした。
「あのね。あいつ、私を・・・・・ちゃんと女の子として扱ってくれるの。
とっても優しくて、紳士的。
あいつのまえだと、私ドンドン女の子になっちゃうって言うか・・・・・・もう、一方的に好きになっちゃたの。
だから・・・・・ごめんね。明ちゃん。間に割ってはいって・・・・。」
初は、謝りながらも照れながら、素直に話してくれた。きっと、私が初に対して怒る気がない事を察してくれたのだろう。それは私にとっても都合がよかった。だから気持ちよく話の続きを聞けた。
「で?、きっかけは何時だったの?」
「あのね。明ちゃんと服屋でバッタリ会った時の事、覚えてる?
あの時にね、あいつ。私が女の子だからって。自分が男だからってお金払ってくれたの。
もうね。その時のアイツの振る舞いがすっごくカッコよくてさ。胸がときめいて止まらなかったの。
私ずっと、女の子の方が好きだと思っていたのに・・・・・思い込んでいたのに、あの時、自分が女の子なんだって、思い知らされちゃった。・・・・・だから・・・。」
・・・・ああ。うらやましいなぁ・・・。初は私よりもずっとプラトニックに恋愛をしている。私はどこぞの淫乱女神の影響ですぐエッチなこと考えちゃうのに・・・。
「誰が淫乱女神じゃっ!!殺すぞっ!
大体、お前がそうなっているのは、元はと言えば、あ奴らがそういう手段で迫ってきておるからじゃろうがっ!!
あんな手段つかわれたら、そ奴だってすぐさま、ベッドインしておるわっ!」
お姉様。前から思っていましたけど、お姉様、極端すぎませんか?もうちょっと段階を踏むってものがあると思うのですけれど?
「そんなものはその時のムードと男の手腕よ。
女が男に惚れておれば、百戦錬磨の男ならば、手練手管にかけてウマウマと頂いてしまうわ。」
え~・・・?
「武様なんか、止めたことがないって言っておったろうが。」
そ、そういえば・・・・お兄ちゃんてプレイボーイなのよね。
どうしよう・・・・・。
「・・・・心配になったか? なぁに、安心せいっ! 武様は手が早いが浮気をするタイプではないわ! うらやましい話じゃのうっ!!
ああっ!! 妾・・・・また、前みたいに武様に罵られたいっ!!」
はぁ。誰が淫乱女神じゃないですって?
私はそういうのだけじゃなくって、ちゃんと恋愛したいんですっ!!
それに比べて、いいなぁ・・・・初は。ちゃんと恋愛してるって感じ。
でも、・・・・なんていうか、女の子だって思い知らされるって気持ちはわかる。
お兄ちゃんにキスを迫られた時も
隆盛に後ろからハグされた時も
不知火先輩に慰めてもらった時も・・・・私、自分が女の子だって、つくづく思い知らされたもの。
自分が男だったことなんて、もう思い出せない過去の事・・・。
私はあの三人に女にさせられちゃった・・・・。だから・・・
「うん。わかるわよ、その気持ち。男の子せいで女の子にさせられちゃうのって、ちょっと快感よね?」
私の言葉に初は顔を真っ赤にして「明ちゃん。ちょっとエッチになったね・・・・。」なんて返す。
そういう君は初心になったね。本当の恋を知って、女の子として新たに歩みだして・・・・君は更にかわいくなった!!
私たちは、時間が来たので、そのまま家に帰ることにした。
別れ際に初がいった。
「私も明ちゃんみたいにデートの回数は守るから。フェアな勝負だよ?」
ほほう。とうとう正式に交戦規定を結ぼうってわけね。
「初。私が他の人を選ぶのか。隆盛を選ぶのかわからない。
あなたは、そんな私に気を使う必要はないんじゃないの?」
すると初はとびっきり可愛い仕草で私に宣言する。
「ううんっ!!だって、明ちゃんは、私の友達だからっ!!」
その可愛らしさに、私も思わず「うんっ!」と、元気よく返事をしてしまうのでした・・・・。
でも、初は、私と違って男の子。たとえ隆盛が女の子として接してくれたからといって、
女の子として恋愛対象に見てくれるかは、決まっていない・・・・・・。
悲しい結果が待っているかもしれない。
それでも・・・・・・それでもきっと、初は進み続けるだろう。
あの子は見かけよりもずっと、ずっと強い子なのだから・・・・。