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自分の気持ちと体の気持ち

隆盛りゅうせいとのデートが終わり、家に帰る電車の中も私たちはずっと手を繋いでいた。

駅について二人が別れるその瞬間まで、ずっと・・・・・。

だから、別れてそれぞれの家路につくまでの道のり、ずっと私の右手は隆盛のぬくもりを失ったことの喪失感に耐えなくてはならなかった。

・・・・・まさか、隆盛相手にこんな気持ちになるなんて・・・想像もつかなかった。

私は私自身の心境の変化に戸惑っていた。

それでも家に帰れば私を迎えてくれるお兄ちゃんがいる。私はお兄ちゃんに会ってしまうとそれまでの気持ちを忘れてしまうのかもと、思っていた。

でも、そうはならなかった。

「おかえりっ!あかり」と、私の帰りを待ってくれていたお兄ちゃんに挨拶されても、私はどこか上の空で、部屋に戻ると自分のベッドに突っ伏してしまう。

そして、隆盛のぬくもりをまだ覚えている右手で、私は自分の体を抱きしめるように落ち着かせるのだった。

体は、既に燃え上がり、私の芯は溶鉱炉のように熱く滾る。私は心の中で何度も隆盛の名前を叫んで求めるのだった。

声が決して漏れないようにシーツを咥えて、何度も何度も燃え上がる自分の思いを慰めた。

そうして、私はやっと夢から覚めたように落ち着いて・・・・・隆盛と離れ離れになっている自分が悲しくて泣いた・・・・・。


「やれやれ・・・・今日は随分と感情の起伏が激しいのぅ・・・・。」

お姉様は、私を慰めるように言いながら、「ま、それが繫殖期ラヴシーズンのメスの体じゃ。難儀な事よ。」と言って同情してくれた。

・・・・・そう。

私もそれは感づいてはいる。これは精神的な求めよりも肉体的な渇きからくる愛慾なのだと。

それでも、そう言った思いが愛情に変わるのが生きとし生けるものの定め。恋が精神的なものだけとは限らない。

私の体は、逞しい隆盛の体を切なくなるほど求めていた・・・・・・。

「来週から、どんな顔をして隆盛と会えばいいの・・・・?」

そんな事を考えると、私は自分の顔が火照ってしまって、どうしようもなかった。

そして、しばらく考えてから、お姉様に今の自分の気持ちがどうなっているのか、尋ねた。

これが一刻の肉の欲求ならば、私は立ち直れる。

でも・・・・・・そうでないのなら・・・。いつの間にか私が隆盛を精神的にも求めているのだとしたら、私の気持ちは大きく変わっているはず・・・・・。それを確かめたかった。

お姉様は私の求めに応じて、数値化した私の心を見せてくれた。

「隆盛が18

 不知火が15

 たける様が20じゃな。今日一日で随分、隆盛の評価が上がったな。」

お姉様は、特に驚いた様子もなく結果を語る。

・・・・・もしかして、お姉様にはこうなることがわかっていたのですか?

「まぁな。ある程度はこうなるだろうなと予測はしておったわ。

 隆盛とお前は男の頃からの親友。いわば、誰よりも心の許せる関係だったわけじゃからな。

 その親友の壁が崩れた男女であるならば、恋が燃え上がるのは予測できたことじゃ」

お姉様は目をつむって腕組すると、そう説明して頷いた。


そっかぁ・・・そういえば、そうなのかも。

親友だった隆盛は誰よりも私に近しい存在だった。

絵描きとしての憧れの存在の不知火先輩よりも、ずっと私を支えてくれていたお兄ちゃんよりも、私と対等に親友として付き合ってきた隆盛は、確かに私にとって誰よりも心を許せる相手だったのかもしれない・・・・・。

でも・・・・。

それでもやっぱり、私は悲しい。

逞しい隆盛の肉体や美しい不知火先輩の顔。女性自身を跪かせてしまう声のお兄ちゃん。

私はそれぞれに恋心を抱いてしまっていることが悲しい。

求められてしまうと、直ぐに受け入れてしまいそうな自分が嫌。

お姉様。私はどうすればいいのでしょうか?

私の問いかけにお姉様は「そんなことを一々気にするな。」と、私の悩みをバッサリと切り捨てる。

「ええかえ?あかりよ。

 確かにな、お前には妾の眷属としての属性が魂にも、その女体にも刻まれておるわ。

 しかしな。そんな問題を差っ引いても、お前の立場に立ったら誰だって恋多き女になってしまうわ。」

そ、そうかな?誰でもこうなっちゃうかな?

「当たり前じゃ。お前、自分がどんだけのパラダイスに放り込まれているのかわかっておるのかえ?

 右を見ても左を見ても前を見ても、女が憧れて慕うイケメンに言い寄られておるのじゃぞ。

 一人一人が、5分もあったら女を落とせるような美男子じゃ。賭けても良い。あ奴らはそれほどの男どもじゃ。

 そんな状況じゃからの。

 明。お前はそんなに自分を責めるでないぞ?

 これが逆の立場だったら、どうなるか想像してみい。男どもなど妾みたいな美女に囲まれておったら、どうなると思う?そりゃ、直ぐに自分に言い寄ってくる全員と関係を持つじゃろ?、それを思ったら明、お前はよくよく自制しておると思うぞ?・・・・。」

・・・・・そうかなぁ・・・・

そうなのかなぁ・・・・・

私が自分を信じられなくなりそうだった。しかし、お姉様は私の全てを肯定して、慰めてくれる。

私、お姉様のお嫁さんになれたら良かったのに・・・

「妾が女を抱くのは特別な時じゃ。ま、嫌いではないがの・・・・。」

そういって、愉快そうに笑うお姉様は、どこまでも頼りがいがあった。


私はお姉様のおかげで、立ち直ることが出来た。

こんなことで挫けていちゃいけない。だって、相手はよくよく考えたら、私をそうさせるために攻め込んできてるんだからっ!!

必然と言えば必然の状況っ!!

私は自分にそう言い聞かせると、服を着替えて、水を飲みに台所へ向かった。

台所のドアを開けると、ママが「なあに?晩御飯ならあと30分は出来ないわよ」と、呆れるように言った。

「ううん。水を飲みに来ただけだから・・・・。」

そう言って私がグラスに水を注いでから、飲み干すまでの間、ママは料理の手を止めて私を見つめていた。

そして、私がグラスを洗って食器乾燥機の中にしまうのをまってから、「ママはね。たけると貴方が一緒になってくれたらうれしい。でも。自分の恋には正直に生きていいのよ。結果的に貴方が誰を選ぼうともパパとママは、貴方の気持ちを尊重するからね・・・・。」と言ってくれた。

もしかして・・・私が家に帰ってきたときの様子を見て、ママはこういったのかもしれない。

その優しい気遣いが嬉しかった。

いつか、私はママの言う様に誰かを選ばなければいけない。ママはそういう時にどう思ったのだろう?

「・・・・・・そういえば、ママはどうしてパパを選んだの?」

よくよく考えて見たら初めての質問だった。再婚のママは私とは血のつながりはない。だから、子供心には、あまり聞きたくない質問だったからだ。私の血のつながったママはもう亡くなった。そのママとパパの馴れ初めには興味があったけど、後妻のママについては尋ねにくい質問だった。

でも、今の私とママは、本当の親子になれていると私は確信している。だから、聞いてみたいと今、思った。


ママは料理の手を止めたまま、天井を仰いで、昔を懐かしむ様に言った。

「ママとパパはね。お見合いなの。

 二人とも周りが独身でいることを許さなかったって言うか・・・・子連れだったからね。

 それで、それぞれの家の仲人が私たちを引き合わせたの。

 正直、私はその時、乗り気ではなかったのだけれども、断り切れない縁談だったので、仕方なく参加したの。そうしたらね、貴方のパパは、遅刻してきたのよ?信じられる?」

遅刻っ!?あの生真面目なパパがっ!!?

「そう。おかしいわよね。

 でも、あとで聞いたら、それがあの人の作戦だったの。ワザと遅刻して私を怒らせて様子を見たかったらしいの・・・・・。ふざけた話よねぇ。

 それで私、パパが席に着くと同時に「私たちはそれぞれの子供のためにも縁談を組まされています。なのにあなたは子供のために時間を守ることも出来ないんですか?そんな人と結婚することなんてありえませんっ!!」って、きっぱり断って、怒って縁談の席を立ったの。」

ええええっ!?・・・・すっごいっ!!

ママ、カッコいいっ!!

「でしょ?でもね、敵もさるものっていうか・・・・・あなたのお父さんは頭がおかしいって言うか・・・・」

・・・・ん?その時、パパは何かやらかしたの?

「やらかしたもなにも、縁談の席として用意された割烹料理店を私が出ていこうと靴を履き替えていたら、まだ靴も履き切っていない私を後ろから抱え上げて、誘拐するみたいに自分の車に乗せて連れ去ったのっ!」

は・・・はあああああああっ~~~!!!?

なにしてんの?なにしてんの?うちのパパっ!!

「おろしてって私が何度言っても、あの人ったら「おろさないよ。君は素晴らしい女性だ。今日一日で俺のことを好きにさせて見せる。だから、君は今日、車を降りる必要はないんだ」って言ってね。それから、もう3時間くらいドライブして、その間中、私口説かれちゃって・・・・・・

 そうしているうちに・・・・・女って駄目ね。ああ・・・こんなに私を求めてくれる人なら、きっと私を幸せにしてくれるかもしれないって・・・なんだか急に燃え上がってきちゃって・・・・それで結婚を決めたの・・・。」

・・・・・

・・・・・・・・・そんな誘拐婚みたいな展開だったの?

「あら?まるで映画のヒロインみたいにスリリングだったわよ?

 あんなにドラマチックに攻められてごらんなさい?女は誰だってイチコロなんだから?

 あなただって・・・きっとね?」

そう言って悪戯っぽい笑顔を浮かべてから、ママはお料理を再開する・・・・・。

ああ、そうなんだ・・・・。

いま、私もママみたいな恋愛を体験しているんだわ・・・・・

王子様3人から言い寄られるようなドラマチックな恋愛を・・・・


私は肩の力が少し抜けて楽になったので、「ママ、私も手伝うわっ!!」って、元気よく声を出せるようになった。

ありがとうっ!!ママ。

そんなつもりじゃなかったかもしれないけど、私とっても元気になったわっ!!

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