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お兄ちゃん・・・・・

私が不知火先輩とのデートから家に戻ってくると、お兄ちゃんが忙しそうにスマホをいじっていた。

どうやら日曜日の深夜に仕事が入ったらしく、深夜バスの予約を入れているみたいだ。

「う~ん。流石にどこも空いてないなぁ・・・・・。」

格安の深夜バスは座席も狭く休憩時間があったとしてもとても窮屈で休憩にならないから使いたくないと前に言っていたお兄ちゃんは格安深夜バスも探しながら、「ああ。ダメだ・・・。」と、絶望のため息をついた。

ママは「こんな時は仕方ないわよ。嫌かもしれないけど親を頼ってよ・・・・。」と新幹線代として2万円をお兄ちゃんに差し出した。

「いや、いくらなんでも多すぎるよ?」

お兄ちゃんは必要以上のお金を押し付けるママに半ば抗議じみた口調で、新幹線代として渡された代金を返そうとしたけど、ママは

「いい?これは投資よ?

 ママは、貴方がヒットすることを信じて投資するのよ?

 だからしっかり働いてきなさい。そして、私の老後を安泰なものにしてきてねっ!?」

と、ウィンクしながら言うのだった。

・・・・ママ。その投資は絶対に成功するよ。

ママは実の母親だから平気かもしれないけど、お兄ちゃんのエロボイスは、妹の私はおろか、男の娘のはじめの恥骨も直撃する、それはそれは恐ろしいほどのエロボイスなのよっ!!

私とお姉様は心の中で腕組して、先見の明があるママに同意して頷くのだった。

たける様の声ならば、必ず成功するであろう・・・・。妾の恥骨が保証しようっ!!」

うん。わかる。

私の恥骨も保証するわっ!!ママっ!

私の心の中でお姉様と私の謎の団結が行われるのだった。


新幹線代を手にしたお兄ちゃんは今夜はゆっくり休み、明日の朝には帰ってしまうのでした。

私が土曜日の夜にせめてお話ししようかと、部屋を訪ねた時にも

「ごめん・・・・。明日の演技の練習に集中したいんだ。」と言って断ってしまった。

きっと、今頃、お兄ちゃんはパパが就職祝いのプレゼントだといって設置してあげた自室の隅にある防音室でセリフの練習をしているのだろう・・・・・。

お仕事だから仕方ないかもしれないけど・・・・・なんか、お兄ちゃんも不知火先輩も・・・・

自分の野心に集中しちゃったら、私の事なんかどうでもいいみたい・・・・・。

「それが男よ。責めてやるな。それを許すのが女の甲斐性という者よ。」

女の・・・・・甲斐性?

「前にも言ったが、男は基本的に女が持ち上げてやらねばな。支えたり癒したりしてやらねば大成せんぞ?

 男は仕事や野心で精神も肉体もすり減らして家に帰ってきておる。

 家に帰ってきて女に求めるのは、嫉妬や構ってちゃんではない。安らぎじゃ・・・・。

 それは温かい料理であったり、愚痴を聞いてくれる優しい妻であったり、メチャクチャエッチな体であったり・・・・・・」

お姉様っ!!卑猥な話はやめてっていつも言ってるでしょっ!!

「大事な話じゃ。それにの、そうやって夫を癒せる体をキープすることは、すなわち自分の美貌を保つことに繋がり、win―winの関係を築けたりもするのじゃ。」

・・・・・・おおっ!!

「特にお前は気を付けろ。

 その乳は、妾と違って気を抜くと何年か後に垂れて大変じゃぞ。」

いやあああああああー----っ!!!

お、お姉様っ!!怖い話しないでっ!!

「それにその尻も太りだしたら大変じゃ。すぐにスカートもオシャレなデニムパンツも入らなくなって、ワンピースを着ていたら、電車で妊婦さんと間違えられて席を譲られることになるぞっ!!」

いやあああああああー----っ!!!

わ、わわわわ、私、今もお尻は大きくないもんっ!!

「じゃが、肉体をキープせねば、そうなる。

 それでも愛する旦那様に綺麗に見られたいならば、必ず綺麗になる。

 夫婦円満の秘訣は、夫婦という安泰を求めるのではなく、どちらも永遠に恋人同士でいたいと願うことと知れっ!」

ううっ!!そ、そうかもっ!!

て、いうか永遠の恋人同士ってちょっと憧れるかもっ!!


・・・・でもね?恋人同士って言うなら、もうちょっと構ってくれてもよさそうなのに・・・・。

私が拗ねているとお姉様はため息を一つついてから言う。


「今日は耳のフィルターを緩めてやるから、それでBLCDきいてみいっ!

 悩みは全て吹き飛ぶわっ!!」


え・・・・

ええええええっ!!そ、そんなことしたら、わ、私壊れちゃうかもっ!!

「その割に嬉しそうじゃがな・・・・・。ま、今宵はあかり。お前の好きな作品を聞けばいい。許すっ!!」

その誘惑に勝てるほど、私は乙女ではなかったらしい・・・・。

お気に入りだったCDをセットすると下着をズラしてから、耳に集中する。

耳の中に甘美な鬼いちゃの声が聞こえてくる。それだけで私は身震いが止まらない・・・・・。

「お兄ちゃんっ!!お兄ちゃんっ!!・・・・・」

と、思わず切ない声を上げて叫んでしまいそうな自分をこらえるためにシーツを口にくわえながら、お兄ちゃんの声という甘露の湖に身を沈めてしまうのでした・・・・・・。



翌朝、お兄ちゃんは普通通りに朝食をとってから、やはり台本を片手にリビングで新幹線の時間まで演技の稽古をしていた。声は出さないままの稽古だけど、真剣な表情で台本を読むお兄ちゃんは、大人の男性そのもので、とてもカッコよくて・・・・・・私は、やっぱりお兄ちゃんが好きなことを自覚させられてしまう・・・・。

あかり。恋する女の顔になってるわよ・・・。」

ママが嬉しそうに私にコソッと耳打ちしてきた。

うん・・・・・だって、仕方ないじゃない。

私、・・・・・・お兄ちゃんが一番好き・・・・・・。

だから、私はママが運転するお見送りの車に同乗して、駅までついていった。

「じゃぁ、いってくるよっ!!」

「はい。頑張ってらっしゃいっ!!無理はしないでね?」

お兄ちゃんとママが挨拶を済ませると、お兄ちゃんは私を見つめて「行ってくるよ。明・・・・」といってくれた・・・。

その時、私の胸にあることが思いついたが、それを実行できないでいた・・・・。

お姉様は「じれったい奴じゃのう・・・・唇じゃなくてほっぺに行ってらっしゃのキスをしてやるだけじゃろうが・・・・。」と、せかすのだけれど臆病な私には「行ってらっしゃい。早く帰ってきてね・・・・」というのが、精一杯だった。

別れを済ませて、去り行くお兄ちゃんの背中を見送る私の脳裏に、ずっと私を守ってくれていたお兄ちゃんとの思い出がよぎった。

・・・・・ずっと、私を支えて守ってくれたお兄ちゃん。

そのお兄ちゃんの声優業を支えるのは、私でないといけない・・・・。

私はそう決めて、ママを見て言う。

「ママ、お料理教えてっ!!

 次にお兄ちゃんが帰ってきたときにお兄ちゃんが大好きな料理を食べさせてあげたいのっ!」

ママは嬉しそうに

「それは、まだまだママのお仕事よ。娘が親の歓びを奪うんじゃないわよ。あかりは、私のお手伝いっ!」なんて言うのだった。

う~、ママの意地悪っ!!




 


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