番外編「隆盛と初の話Ⅲ」
(※)注意!!すでにタイトルでお気づきかと思いますが、今回は男の娘がメインとなる話です。
拒否感が強い方は、お読みにならないことをお勧めします。
明日以降、通常のストーリーに戻ります。
放課後、初は、慌てるようにして明と隆盛の教室へとやってきた。
多分、隣のクラスで帰る前の伝達事項を行うホームルームが終了した直後に初はやってきたのだろう。教室に来たのがあまりに早かったので、明も隆盛も少し戸惑う様に「どうした?」と尋ねてしまうほどだった。
初は、何事かと見つめる明に向かって「ごめん。隆盛とお話させてもらえない?」と、何やら相談事がある様に、話し相手を指定してきたので、明は、「ああ。そう、じゃぁまた明日ね。」と、軽い挨拶だけして教室を出ると部室兼活動場所である美術室の方へ歩いていった。その気遣いが初(初)には有り難かった。
一方、残された隆盛の方は事情が分からないので再び「どうした?」と尋ねるのだった。初は、直ぐに相談するわけではなく、周りをキョロキョロと確認すると教室に残った生徒の数が減ったのを確認する。その様子にただ事ではないと感じた隆盛に若干、緊張感が走った時、初が背伸びして、隆盛の耳元でコショコショとあることを告白する、
「私、・・・・・誰かに狙われているみたいなの・・・・・。」
誰かに狙われているみたい。
穏やかではない内容の相談事と察した隆盛は、スマホを取り出すと自身が所属する空手部の顧問に電話をかけて「今日、友人から悩みごとの相談を受けて、ちゃんと話し合うべきだと考えています。そんなわけで、今日だけは特別に部活を休みます。」と連絡した。
”部活を休みます”。休ませてください、ではなくて”休みます。”という相手の認証を求めない言い分から、部活動での隆盛の立場がうかがい知れる。顧問の教師がそれを唯々諾々と受け入れてしまうのも無理からぬ事。この少年、川瀬隆盛は実家が空手流儀の代表を務める一族で、ハッキリ言って空手家としては、顧問の教師よりもはるかに格上だったからだ。そんな隆盛だからこそ、初は安心して身の危険を相談できるのだった。
隆盛は電話を終えると、初を学校の多目的ホールの中にあるコミュニケーションルームに連れていき、初のために備品の机を広げてから椅子を用意すると、座るように促した。
「・・・・・・ありがとう・・・・。」
まるでレディに対するように隆盛が振舞ってくれるので、初は、顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに礼を言う。
隆盛は初のそんな乙女心を知ってか知らずか、当たり前のことのように初の対面に椅子を用意して座ると、「狙われているって、どういうことなんだ?具体的に聞かせてくれ。」と真剣な面持ちで尋ねるのだった。その様子から隆盛が真剣に相談に乗ってくれることを察した初は、カバンの中からスマホを取り出して起動させながら、隆盛に相談を切り出した。
「あのね。隆盛。前に私が身バレしてるって言ってたじゃない?」
初は、前ふりから語りだした。心当たりがある隆盛は、「ああ・・・。割と有名になってるぞ、お前。」と、初の告白が校内で周知のことであると答えた。
初は、その言葉を聞いてから、スマホを見せながら隆盛にいう。
「それが原因だと思うのだけれども、私の私生活が隠し撮りされてるの・・・。」
初のスマホには大手SNSで初の私服姿や学ラン姿の隠し撮りが何十枚も表示されていて隆盛は息をのんだ。
「うええっ・・。これ、マジもんのストーカーの仕業じゃないか・・・・・。初、お前、ヤバいぞ。コイツ・・・・・。」
隆盛の感想は当然の事。画像を投稿した主のタイムラインには、ひっきりなしに初の写真がアップロードされている上に、その一つ一つに過剰なまでの愛の告白と自身の性的欲求をぶつける文言が書かれていた。
「ルーシーちゃん。かわいい・・・・・。」
「ルーシーちゃんのスカートの中に顔をうずめて、おパンチュの香りクンクンしたい・・・・とか書いてあるぞこれ・・・・。」
ルーシーとは、初のハンドルネーム。隆盛はそのルーシーに当てられたストーカーからの告白文を寸劇しながら朗読した。その寸劇があまりに気色悪かったので、初は身震いしながら、怒る。
「声を変えて読まないでっ!!・・・・マジで怖いんだからっ!!
おまけにね。最近は、私の自宅までアップロードしてるの・・・・。」
初は、スマホの画面を指でスクロールさせて該当するツイートを表示させて見せた。
隆盛は、確認すると「・・・・これは通報しないとだめだ。」と顔をしかめて言う。初は、そんなことをして、ストーカーの怒りを買わないか恐れていることを告白するのだったが、隆盛は「これではご家族にまで迷惑がかかるぞ。サイトと警察に俺が通報してやる。手遅れになってからじゃヤバいんだ。」と言うと、初のスマホを取り上げて、さっさとSNSの運営に通報する。
「すぐに対応してくれるってさ・・・・・。」
隆盛は運営会社のサポートとの会話記録が残っているページを初に見せて安心させると、「じゃぁ、今から一緒に警察に行こう。」と促した。
隆盛の突然の申し出に初は、ビックリして「一緒に行ってくれるのっ!?男の娘のストーカー被害だよ?隆盛まで警察に変な目で見られちゃうっ!!」と声を上げた。
しかし、隆盛は「何言ってるんだ。友達だろう?これぐらいやって当たり前だよ。それにな、ストーカー被害ってのは、対応が遅れるとストーカー自身は勝手に”通報しないのは自分に気があるからだ”と誤解して突き進むんだ。安全上の問題を考えても、ここは毅然とした態度をとった方が良い。」と説得するのだった・・・・。
しかし、初の懸念していることは、そこではなかった。体をモジモジさせながら言いにくそうに隆盛が気が付いていないことについて語った。
「でも・・・・私と一緒に行ったら、隆盛が私の彼氏だって警察に思われちゃうかも・・・・・とか・・・。」
その言葉を聞いた隆盛は、初が何について躊躇しているのかを悟ったようにハッとした顔をする、
それからしばらく、顎に手を当てながら、初のスマホを見つめながら何事か考えているようだったが、やがてニッコリ笑って初の画像が映るページを指差しながら
「まぁ、仕方ねぇかな。でも、これだけ可愛い女の子と付き合ってると誤解されるのは、そう悪い気はしねえよ。」と、嬉しそうに答えるのだった・・・・。
その言葉を聞いて初は、こぼれ落ちる涙を隆盛に悟られないように俯くと「・・・・・バカっ・・・・・。」と小さく呟くのだった。
隆盛は肩を震わせる初の涙を見ないように顔を背けながら、その頭をヨシヨシと撫でてやるのだった。それがどれだけ重い事かもわからないまま・・・・。
それから警察に相談に行った隆盛の働きのおかげでストーカーは無事に逮捕された。その時に隆盛があまりの剣幕でストーカーを恫喝したので、ストーカーは恐怖のあまり泣き出してしまう始末。しかし、警察は「あの分だったら、もう何もしてこないだろう・・・・。」と言うのだった。
警察からの帰り道、改めて初は隆盛に深々と頭を下げて礼を言う。
「ありがとうっ!隆盛。貴方がいなかったら、どうなっていたかわからないわ。本当に感謝しているのっ!!」
その美少女のように眩しい笑顔に流石の隆盛も照れながら「おうっ・・。」と、答えるのが精一杯だった。それから、隆盛は初を家まで送ってやるのだが、初は家まで送ってくれた隆盛が、今度は自分の家に帰り行く姿を家に入ることなくずっと見つめていた。
「ありがとう・・・・。大好きよ。隆盛・・・・。」
その言葉が決して隆盛の耳に届かない距離になってから、初は勇気をもって、小さく愛の告白を呟いた。その言葉は隆盛には決して届かないのに、その言葉を発することは初にとって、とても勇気がいることだった。
その言葉を呟くことがどれほど彼女にとって重い事だったか。今、彼女の胸には当事者にしかわからないであろう複雑な様々な思いが、まるで海の潮目で激流同士がぶつかって出来る渦のように激しくうねりを起こして初の心をかき乱した。
初の心の中で起こった激流の渦は彼女の自律神経までもかき乱し、熱い涙が初の頬を伝う。その涙が、すでに遠く小さくなって見えにくくなった隆盛の背中をぼやけさせるのが・・・・・
とてもさみしくなって、彼女は再び泣くのだった・・・・・。
この隆盛と初の番外編は後、何話挿入するかは、今のところ未定ですが、初と隆盛の話を完成させるのには、最低でもあと2話は必要です。お付き合いいただければ幸いです。
また、逆に話数を増やしてほしいなどは、告知を行っていますTwitterにでも書き込んでいただければ・・・・対応したいと思います。
Twitterアカウント 黒神譚 @kokushintanまで。