美しい男
この作品もTS願望がある人の欲望の一つであるお姫様になりたいという欲望を夢見ていただきたいと考えて作っています。
こういったTS作品を書く前に実際のTS娘と言ってもいいニューハーフさんに会いに行って聞き取り取材をしたり、ネット上で女装者に色々質問したりして、そう言った人の想いを参考に書いています。
残念ながら、私にはTS願望とか無いものですから、聞き取り取材するしかないわけですね。
今、こうしてこの作品のPVが地味に伸びて行って、私としては初の1万越えを達成しているのは、そういった取材を参考にして書いているから共感してもらえる部分が多いのかなと思います。また逆に聞いたままでは私のオリジナリティがないので、色々と私らしいアレンジも加えて書いていますが、そう言ったものが受け入れられているのかと思うと嬉しく思います。
これからも頑張って書きますので、お付き合いいただけたら幸いです。
また、本作を気に入っていただいた方の中で前作の「俺の赤ちゃん、産んでくれ!!」を未読の方はぜひ、こちらも読んでくださいね。TS娘の三角関係です!!
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お兄ちゃんが私にキスをしようとして、私の顎にその手を当てた時・・・・・
「あ・・やだ・・・。」
反射的に小さく抵抗してしまった私。その言葉を聞いて、お兄ちゃんが一瞬、ビクッと強張るのが分かった。
「・・・・あ・・・・ち、ちがうの。お兄ちゃんが嫌いって意味じゃなくて・・・・私、まだ子供なのかも・・・怖くて・・・・。」
そう言って弁解するものの、お兄ちゃんは何も答えてはくれなかった。
暫く気まずい沈黙が流れたかと思うと、ママの「ご飯よぉ~」っと、キッチンから呼ぶ声で我に返った私たち。
お兄ちゃんは、気まずそうな私の頭を撫でると「・・・・行こうか?・・・ごめんな。俺、もうちょっと我慢しないとだめだよな。つい、大人のペースで迫っちまったよ。」と、謝るのだった。
あ、謝る必要ないよ。私が幼すぎるだけだから・・・・・。
でも、どうして?・・・・・これで2度目だ。私はどうしてお兄ちゃんのキスを止めてしまったんだろう?
そうして、どうして今、ママの声で中断されたことにホッとしているかもしれない・・・・・。
お兄ちゃんは何も言わないまま台所へ向かう。その背中を見つめたとき、私は幼いころに自分の前を歩いて守ってくれていたお兄ちゃんの姿を思いだした・・・・・。
その時、抱いたお兄ちゃんへの憧れの気持ちは今でも私の心に焼き付いている。
「もしかして、私。心の奥底で、まだお兄ちゃんのことを「お兄ちゃん」って思ってるのかも・・・・。」
その言葉を聞いて、お兄ちゃんは私の方を振り向いたかとおもうと、私の両肩を抱いて、顔が触れ合うかと思うほどの距離に近づいたっ!!
ああっ・・・・だめ・・・・。今度こそ、キスしちゃう・・・・
・・・・・
・・
私がそう、覚悟を決めかけた時、お兄ちゃんは
「ほら、いま。お前は女の子の顔をしているよ。妹が兄貴に見つめられてそんな風になったりするものか。俺にはわかる。お前は、もう俺を受け入れようとしているってな。」
と、自信満々に言うのだった。
それだけいうと踵を返して再び歩き出したお兄ちゃんの背中を見ながら、私はヘナヘナとその場に座り込んでしまうのでした・・・・。
カッコいい・・・・・・。
そう思わずにはいられない私でした・・・・・。
食事の間も胸がドキドキして顔が真っ赤な私はお兄ちゃんの顔もみれない。
ママはその様子を見て「武、明はまだ高校生なんだから、無茶したらダメよ。」と水を差す。
お兄ちゃんは笑って「キスもしてないさ・・・・。」なんてサラッに言う。
嘘ばっかり!!・・・・・未遂に終わっただけじゃない。
どうして、私ばっかりドキドキしないといけないの?不公平じゃない?
私がお兄ちゃんに心の中で恨みごとを言うと、お姉様は「そう言ってやるな。武様も随分、、我慢しておるぞ。男にとっては生殺し状態じゃ。」と言った。
生殺し・・・・・。
「男とはそういう生き物じゃ。もうお前には思い出せぬかもしれぬがな。」
・・・・・うん。
食事が済むと、お兄ちゃんは仕事の為に東京へ帰ってしまう。
部屋で帰り支度をするお兄ちゃんの背中は少し寂しそうだった。
「ごめんね。お兄ちゃん、・・・こんな妹になっちゃって。」
私は自分でもわからないままお兄ちゃんに謝ってしまう。
そんな理由もわからないまま謝ってしまう様子はお兄ちゃんにも伝わるのか、「・・・・自分の気持ちに整理をつけるのは難しい事さ。今だって、なんで謝っているのか自分でもわからないって顔してるぞ。明」と、私の頭を撫でながら慰めてくれた。
うん。ごめんね。お兄ちゃん・・・・私・・・・
自分でも自分がわからないの・・・・・・・・。
お兄ちゃんが東京へ帰った翌日、初は、土曜日にあんなことがあったのに、普通に弁当を持参して私のクラスにやってきた。
「初・・・・。」
どうしてやってきたの?って聞きかけて、私は思いとどまった。
だって、初は土曜日に言ったもの。私にずっと一緒にいてほしい。たとえ友達同士だとしても・・・・・と。
初は、いつも通り隆盛の分用にお弁当を分けながら私を見て「えへっ」と笑うのだった。
・・・・・
・・・・・・・いや、この子。本当に何なの?
学ラン着て、化粧をしてなくても、そんじょそこらの女の子より可愛いなんて反則じゃないの?
おまけに料理上手裁縫上手と女子力も高い。甲斐甲斐しくお弁当をよそって渡すとか、あんたは隆盛のお嫁さんかっ!!
私は、初の女子力の高さに改めて嫉妬してしまうのでした。
初は私の気持ちなんか理解していない様子で「そういえば、今週は不知火先輩の番だね。どこに連れて行ってもらうの?」と、声をかける。
その言葉を聞いて途端に隆盛が不機嫌そうに弁当を乱暴にガツガツむさぼる。その様子を見て初は、思わず「もうっ!!せっかく作ったんだから、味わって食べてよ」と、隆盛の頭をポカリと叩いた。
・・・・・・・・・な、・・・・なんちゅう恐ろしい事を・・・・。
親友だった私だって、隆盛の頭に手を上げるなんてしたことないのに・・・・・。
一瞬にして冷たい空気が教室中に流れる。
それはそうだろう・・・・・相手は、あの武闘派の隆盛だ。でも、初は当たり前のように隆盛を睨みつけている。
そして、私が恐る恐る隆盛の顔を見ると、隆盛も呆然としながら初を見ていた。きっと、隆盛も同級生の男子に頭を叩かれるところなんか想像もしていなかったことなのだろう。理解が追い付いていないように見える。
今なら間に合うかもしれない。私は呆然としているうちに隆盛をなだめようと声をかける。
「あ、あのね隆盛っ!初は、軽い突込みのつもりで・・・っ!」と、私が言いかけたと同時に隆盛は「はははははっ!」と、声を上げて笑った。
「この弁当に免じて許してつかわすっ!!というか、悪かったな。確かにお前の言うとおりだ。
弁当は作ってくれた人への感謝をこめて味わって食わないといけないな。」
隆盛が・・・・・笑って済ませた・・・・・・・・?しかも、初は隆盛の謝罪を当然のこととして受け入れたのか、腕組をして「よしっ!」と答えるのだった・・・・・。
いや、本当になんなの・・・・この子・・・・・。
信じられないものを見てしまった私は、すっかり気力を削がれてしまい、放課後、美術室で不知火先輩に出会うまで今週は不知火先輩とデートなことをすっかり忘れてしまっていた。
美術室の前の人気のない廊下で美術室の鍵を開けようとする不知火先輩とバッタリ再開した私は、その事を急に思い出して、挨拶をすることも忘れて「ああっ!!!し、不知火先輩とデートだっ!!」って、声を上げてしまうのだった。不知火先輩は私を見て「何それ。明ってやっぱり可愛いねっ・・・。」って、挨拶もしていないうちからあんなことを言った無礼な後輩を優しく笑って許してくれた。
それから、不知火先輩は美術室の扉を開けて「お先にどうぞ、お姫さま。」とレディーファーストをする。
うっ!!・・・・こ、こんな王子様にそんなことをされたら、一発で舞い上がってしまうじゃないですかっ!!
ううっ!!どうしよう。序盤でこんなに私の気持ちを盛り上げてどうするつもりですかっ!!不知火先輩っ!!
そんなんされたら、私、・・・・部活の終わりにはキュン死にしてしまいますやんかっ!!
「明よ。興奮したら時々入る、お前の怪しい関西弁はなんなんじゃ?
関西人が聞いたら、怒るで、しかしっ!!」
やっさんの物真似とか古いな君はっ!!って、お姉様、変な突込みやめてくださいっ!!つられて返しちゃうでしょっ!!
「いや、これ楽しいな。妾もこれからちょくちょくさせてもらうで、しかしっ!」
・・・・・本当にやめてください。神様のなさることではありませんから。
私のマジ突込みにお姉様は「あ・・・はい。」と答えて、それから二度と関西弁を使わなかった。多分、お姉様にとっても勝負に出た感じだったんだろうなぁ・・・・。それを真っ向から否定されて恥ずかしくて・・・・
「わ、妾の話はもう良いっ!!そ、そそそ、それよりっ!!ほれっ!!部活の準備をせんかっ!!不知火はとっくにイーゼルを広げておるぞっ!!」
あっ!!
いけないいけないっ!!
私は慌てて自分の絵の準備をする。未だ書きあがりの見えない油絵を・・・。
だと、言うのに、不知火先輩は私と自分の絵を見比べながら「やっぱり、もう一度、モデルになってくれないか?」と頼むのでした・・・・・。
「明、君は日々成長しているよ。僕はその全てを絵に残したい。君の全てをね。
この絵のデッサンしたときよりも君は綺麗になっている。でも、来月にはもっと綺麗になっているかもしれない。
僕は写真でなくて、自分の絵で君を残したいんだ・・・・・。」
私をじっと見つめる不知火先輩の瞳は女性的であるのに、その瞳には映る男性らしい情熱の炎が燃え盛っているように見えて、私は・・・・・その思いを受け止めたくて黙って頷いた。
前回の絵と同様に私は椅子に座って不知火先輩の前にいる。
不知火先輩の美貌に見つめられて、何も感じない女の子はいない。ずっと胸がドキドキしている。
長いまつ毛に大きな瞳。白い肌・・・・・まるで少女漫画から飛び出してきたかのような不知火先輩の美貌が私を見つめている・・・・・・。
その美しさに耐えられなくなった私は窓ガラスに目を向ける。窓ガラスには、普通通りにシャツを着た不知火先輩が尋常じゃない集中力で私を見ていた。
美術部の時間を使って私を悩殺しようとしていた不知火先輩が今はいない。
一人の芸術家として、全てを私にぶつけてくれている・・・・・・・。
同じ絵を描く者として、不知火先輩の本気が・・・・・その情熱の全てが私に向けられていることを私は感じている。
尊敬する美しい男・・・・・。
ああっ・・・。私は、今、言いようもない幸福感に包まれていた。