女同士の友情
昼休みになると初が弁当箱をもって、うちのクラスに来るのが当たり前になった。
男子高校生が同級生の男の子の分も弁当を作って持ってくるのだから、かなり異常な光景だと思うのだけど、当の本人である隆盛が初に対して、特別な感情を抱いているようには見えず、ただ、豪快に弁当を平らげるだけだし、隆盛は明らかに私狙いだったので特に問題にはなっていなかった。
しかし、初がうちのクラスの来る目的は当然、弁当を隆盛におごることではないのだから、そろそろ聞かねばならないことがある。
「ねぇ、初。初は私をどこに連れて行ってくれるの?」
そう尋ねられた初は、暫くキョトンとして「・・・・つれていく?」とキョトンとしていたが、隆盛に「次のデートはお前の番だろうが」と突っ込まれて、初めて思い出したように「ああっ!!」と声を上げた。
・・・・私は何のついでなんだ?
しばらくジト目で初を睨んでいると、初はバツが悪そうに「じゃぁ、コスイベ行ってみる?」と聞いてきた。
・・・・はい?
「だから、コスプレイベントっ!!」
・・・
・・・・・いや、私。コスプレはしないからね?
「え~?なんでぇ~?私、明ちゃんスタイルいいし、メチャクチャエッチなキャラクターの衣装似合うと思うんだけどなぁ・・・・・。」
初がそう言った瞬間、隆盛が期待のまなざしで私を見つめる。
・・・
・・・・・誰がするかっ!!
なんで、私が人前でエッチな服なんか・・・・・・・あ、・・・
「でも、男装はしてみたいかな。もう、着なくなったけど、私、学ラン好きだったし・・・・・。」
私がそう言うと、隆盛はしんみりと「男装かぁ・・・・そういやそういう事になるんだよなぁ・・・・。」って呟くのだった。
そうだよ。私、もう女の子なんだし、男の子の格好はもう、男装になるの。
私の心の中で一連のやり取りを聞いていたお姉様はいい事を思いついたように明るい声で話しかけてきた。
「男装するのか?明っ!!
妾、やってほしいコスがあるっ!ほれ、あのメス堕ちする教師の・・・・・」
・・・・・お姉様。
・・・・天っ才!!!
そっかぁ、あれさえやれば、ドラマCDを聞いている最中にトリップしやすいかもっ!!
「お前も、とことん中毒じゃな。まぁ、妾の影響じゃが・・・・。」
・・・・・・・お姉様の影響?
「そりゃ、年中、繁殖期の妾の陰気を受けていたら、嫌でも淫乱になるわ」
・・・・・・っ!!
私、淫乱じゃないもんっ!!
「うむ。お前はよく我慢しておるぞ。大抵の女は、直ぐに妾に抱いてくれとすがってくるのじゃが、明は、そういう気にはならんらしいな。
まぁ、妾も両性具有とはいえ、本性は女じゃ。やっぱり言い寄られるなら女よりも男の方が良い。
助かる。」
ふーん。
そういえば、私、お姉様の男の部分ってみたことがないけど、本当についてるの?
「・・・ついとるというよりも、作り出せるという感じじゃな。普段は付けておらぬ。妾は女じゃでな。
・・・・・・・・・・みせようか?」
いえ、結構です・・・・。
なんか、豊穣神の男の子の部分って凶悪そうだから。
「・・・・・・一応、言うておくが妾は女じゃから、そういうことを言われると傷つくからの?」
あ・・・・・ごめんなさい。
「よい。
ただ、あんまり無礼な態度をとると、これで泣くまで可愛がってやるから、口の利き方には気を付けるんじゃぞ?」
そう言ってお姉様は前帯をほどいて、そそり立つエッフェル塔を見せるのでした・・・・。
いやあああああ~っ!!
ごめんなさい、ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!!
「わかればよい。これを食らったら、もう3日は正気を失うと思った方がええからの?」
3日正気を失うってっ!!怖すぎるんですけどっ!!!
て、言うか、乙女になんてもの見せるんですかっ!!!
私の猛抗議をお姉様はケラケラと笑って流す。
もうっ!!昼間っから、最悪すぎるんですけどーーーっ!!
・・・・それはともかくとして、私は初の提案に乗るのでした。
そして、放課後に初と古着屋に行って私でも着れるようなサイズのスーツを買いに行く。
私が着たい服のイメージを伝えるためにBL画像を初に見せると、「ふ~ん・・・・明ちゃんってそうなんだぁ・・・」ってめちゃくちゃ嫌な笑みを浮かべる。
「なによぉ・・・初だって知ってるってことは、好きなんでしょ?」
「まぁね。まだこの漫画は読んだことがないけど・・・・。」
初は、興味深そうに私の見せた画像を見てた。
「やっぱり、初もこういう漫画を見て、受けの男の人と自分を思い重ねたりするの?」
私は、ついお姉様と話すようなテンションで、ごく当たり前にハレンチなことを聞いてしまった。
初は真っ赤な顔をして、「そ、そんなことしないもんっ!!」って必死に言い訳してた。
ん?意外と可愛いところあるな、こいつ・・・・。
私は面白くなって
「でも、初は、男の人よりも女の人の方が好きなんだよね?」
と、茶化してみた・・・・・。
すると、初は、少し戸惑ったような顔をしてから、私を見つめて「・・・・・・・ちがうよ。」と答えるのだった。
・・・・・あれ?初は、以前、女の子の方が好きとか、女装レズがいいとか、男よりも女の子の方が好きってアピールしてたよね。実際、女装した私にも襲い掛かってきたくらいだし・・・・・。
最近、趣味が変わったのかな?
て、いうかさ・・・・・。
「ぶっちゃけ。初って、女装とかニューハーフとかと経験はあるんじゃないの?」
私が初に襲われそうになったあの時、あの時の記憶は、お姉様の手によって、初の記憶から消されている。だから、私が予想だけで初の経験を言い当てたのかと勘違いして、ビックリしてた。
「ええええっ!!!?なんで?明ちゃんっ!!なんでわかったの?
どうしてっ?私、そんなに淫乱そうに見えるっ?」
初は、もう泣きだしそうな顔をしていた。私は、初の個人的な部分に土足に踏み込んでしまったと、反省しながら「じょ、冗談で言っただけなのに?・・・・本当だったの?」と、取り繕って見せた。初は、それを聞いて安心したのか、「は~・・・・」と深いため息をついて、道路だというのに、その場にしゃがみこんでしまった。
あれれ・・・・?あの時は結構イケイケで来たくせに、随分、可愛くなっちゃって・・・なにがあったんだろう。
初は頭を自分の両ひざに当てながら、事情を話してくれた。
始まりは、自分に女装を教えてくれたニューハーフが、自分を女の子らしくする一環として教えてくれたことだったという。その後、数人の同じ境遇の子たちとゲイの集まる店でイチャイチャ楽しくじゃれあう程度の女装レズを楽しんでいたらしいけど、その内、怖い人たちが店に来るようになって、初は怖くなって、もう店にはいってないらしい。だから、実際に経験があるのは、自分を女の子にしてくれたニューハーフだけで、それ以外とはなれ合いのプレイレベルだというのだった。
まぁ、それでも私からすると凄い話なんだけどね・・・・・。
ただ、初は、力無く「・・・・・・隆盛には言わないで。軽蔑されちゃう・・。」と、呟くのだった。
「ばかね、そんな話するわけないじゃない。二人だけの秘密。」
そう言うと泣きそうな顔で「本当・・・・?」と私を見つめるのだった。
「ばかね。女同士の友情を信じなさいよっ!!」
私は、初を慰めるように髪の毛をわしゃわしゃ撫でながら言うのだった。
「女同士の・・・・・・・友情・・・・・。」
初は、真っ赤な瞳で何度もそう呟いた後、私に縋り付いて泣いた。
・・・・やれやれ・・・・
仕方のない子。今日はお買い物は中止して、そこのファミレスで女子会にしましょうかっ!!