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私、今。女の子なんだからっ!

「肉じゃがっ!?」

放課後、部活に出た私は、不知火先輩の分も肉じゃがを作ってきていたので、タッパーが入った手提げごと不知火先輩に手渡した。

不知火先輩は、私の肉じゃがを見て「川瀬かわせは昼休みに食べたんだな?じゃぁ、僕も今すぐもらうっ!!」って、対抗意識燃やして、美術室の机にタッパーを広げて水筒のお茶を片手にあっという間に肉じゃがを食べてしまった。

「美味しいっ!!すごいじゃないか、あかりっ!美味いよ、この肉じゃが!!

 肉のうまみがジャガイモに沁み込んでいる。男爵イモを使ったからだね。クズグズに身が潰れちゃっているけど、その分、味がよくしみ込んでて、美味しいよ、これはっ!!」

と、大絶賛してくれた。

作り方を聞かれたけど、それは教えてあげなかった。だって、これはママの家の秘密の味。

「いずれ私の旦那様になる人だけが食べたいときに味わえる味なのですっ!!」と、だけ伝えた。

「じゃぁ、この肉じゃがの味は、僕がもらうさっ!!」

不知火先輩は、さわやかに答えるのだった。

中性的な美しさを秘めた不知火先輩の笑顔に抗える女の子は少ない。それは、私も同じ。

その整った綺麗な顔に胸が高鳴るたびに、不知火先輩が好きになっていることに気が付く。

でも、不知火先輩は、そんな私の気持ちに気が付かないようで・・・・トキメク女子を見過ぎたのかな?・・・・テキパキと描いている最中の油絵を準備する。

しかも・・・いつものようにシャツをはだけさせて、ニッコリと笑う。

「・・・僕、体にも結構自信あるんだよね・・・・。」

なんて、自信たっぷりに言う。

確かに。確かにきれいな体してますっ!!女の子の私がうらやむような、おいしそうな体してますっ!!

だから・・・・

だから・・・そんなエッチな誘惑はやめてほしいんですけどっ!!

私が出来るだけ先輩のエロボディを見ないように頑張っていると、先輩はキャンバスと私を見比べて「あれっ!?」っと、声を上げる。

「ど、どうしました?先輩。」

不意を突かれた私が思わず先輩の方を見ると、先輩もこっちを見ていた。

開いたシャツから男性らしい筋張った体が覗いていた・・・・。

ううっ!!・・・・や、やられたっ!!

「あれっ!?」なんて大きな声を上げるから釣られて見ちゃったっ!!

でも、先輩は私が自分の不用心を後悔していることなど、気にも留めない感じでキャンバスと私を見比べていた・・・・・。

しかも・・・・私が怪訝に感じて再び「先輩、どうしました?」と、尋ねた時。不知火先輩の口から、意外な言葉がっ!!



あかり。たった数日でメチャクチャ胸が大きくなってないか?これ・・・・・・」


「せ、先輩っ!!どこを見てるんですかっ!!どこをっ!!」

私は、あまりにストレートすぎる先輩のセクハラ発言に猛抗議する。

先輩は狼狽えながら必死に言い訳をする。

「いや!!だって、僕は明をモデルに絵をかいてるわけだしっ・・・・・!!。」

「先輩の・・・・・エッチーーーっ!!ばかーっ!!」

私は恥ずかしくなって、思わず、先輩に暴言を吐く。

しかし、女の子から暴言を吐かれた経験がない先輩は、「ははっ!!こんなこと言われるのは初めてだっ!!」って、そりゃ、楽しそうに喜んでいた。

うー--っ!!

せ、先輩もやっぱり、男の子かっ!!

私の胸に注目しちゃうかっ!!

・・・・・でも、よかった。お尻が大きくなっていることに気が付いてなくて・・・・。

「気が付いておるに決まっておろう・・・・。あいつは服の上からでも、女体を見分けられるんじゃぞ?お前の大きな尻のことぐらい・・・・」

私、お姉様と違って、お尻は大きくないもんっ!!!!


・・・・こんな感じで・・・・

すっかり、不知火先輩のペースで部活の時間は終わってしまった。

でも、今日はママから教えてもらった肉じゃがが皆に喜んでもらえてよかったなっ!!

見たかっ!!

私の女子力をっ!!

「・・・・・ほとんど、母親の手柄じゃろうが・・・。お前はほとんどそばで見てたに近い。」

・・・・次はやれますから、これで大丈夫なんですっ!!



そう思っていたら、あっという間に土曜日は近づくわけで・・・・。

結局、私はお料理の腕が上がらないまま、手ぶらで待ち合わせ場所に向かった。せめてもの罪滅ぼしに隆盛が好きそうな清楚で可愛い感じのボウタイフリルの付いたブラウスとベルトの付いたスティッチスカート。そして厚底のブーツを履いてみた。

長身の隆盛は、私がヒールの高い厚底ブーツをはいても、まだ目線が肩のラインだから、安心してこういう靴が履ける。

この組み合わせは隆盛のハートを鷲掴みにしたようで、顔をほころばせて、「似合ってるぞっ!!可愛い可愛いっ!!」って、喜んでくれた。


「今日は何処に連れてってくれるの?」

と、私が尋ねると、地元では有名な見晴らしのいい展望台がある海辺の植物園だと言ってくれた。

「あっ!!有名なデートスポット!!」

私が嬉しそうに言うと、隆盛は「安直だったかな?」と、気まずそうに言う。

ううんっ!!すっごくうれしいっ!!

女の子だったら、一度は連れて行ってほしいところだもんっ!!

私も女の子になってから、最近は、クラスの女子とそういう話をよくするようになって、皆からそこの話は聞かされていたから、ちょっと憧れていたのよね~。

隆盛は私がご満悦な様子なのをホッとした様子で眺めていたけど、私に手を差し出して「いこうか?」って言いてくれた。

・・・あ。手を引いてくれるんだ・・・・・。

隆盛の大きな掌に私の掌はすっぽりと収まってしまう。

「・・・・小さくて、細くて・・・・本当、すっかり女だな。」

と、隆盛はしみじみ言う。

そーだよ?今頃気が付いた?

私、今、立派に女の子なんだからっ!!


そして、隆盛は優しく私の手を引いて、待ち合わせ場所からすぐ近くのバス停に案内してくれる。

その時、隆盛は私の足幅に合わせてゆっくりと、それでいて半歩前を歩いてくれる。

きっと、私を安心させるために前を歩いていてくれる。隆盛はそういう男だった。

バスを降りて植物園の中に入っても、隆盛の歩みは変わらない。ずっと私に優しいペースで歩いてくれる。

女の子になってから、私の男の子を見る目は変わった。

男の子の時から、逞しい隆盛の体はカッコいいと思っていたけれど、分厚い胸板、外に大きく張った肩回りの筋肉が服の上からでもわかってしまうほど逞しくて、私の心を惹きつける。不知火先輩にはない、男らしい野性的な魅力が隆盛にはあった。私の手を引く分厚く大きな掌にも私は、少しドキッとしてしまう。

・・・・ああ。私って、今。女の子なんだなっ・・・・・って、自覚させられてしまう。

隆盛はそういう男の子だった。

展望台に着くと、海の絶景が見えるレストランがあって、そこでしばしの休憩。

「うわぁ、すっごくきれいだねっ!!」

私が海を指差すのに、隆盛は「そうだな」って言いながらも私しか見ていないから、恥ずかしいやら寂しいやらで・・・・嬉しかった。

「ちょっと歩いたから、喉が渇いたろ?何か冷たいものでも飲むか?それともアイスにするか?」

隆盛は、さりげなくメニューを出すと、私に注文するように促すのだった。

「遠慮するなよ。こうみえてもプロのキックボクサーだぜ?」

と、隆盛は誇らしげに語る。

うーん。悔しいけど、この男の甲斐性は、カッコいいわね・・・。

私はちょっと大人な雰囲気が感じられる隆盛をいいなって思いながら、チョコパフェを選ぶ。

「・・・・チョコパフェ・・・・・いいかな?」

ちょっと遠慮するようにメニューで半分顔を隠しながら、隆盛に頼むと、隆盛は軽く頷いてから、店員さんを呼んで、チョコパフェとコーヒーとサンドウィッチを頼む。


注文を待っている間、前から隆盛に聞きたかったことを尋ねてみた。

「ねぇ、なんで私なの?」

実際、不思議だった。隆盛は顔はカッコいいし、背も高いし、女の子には優しくて、スポーツでもすでに有名人の域に達しつつある。だから、女子に人気がある子だった。

なのに、急に女の子になった私をどうして選んだの?ずっと疑問だった。

隆盛は、展望台から見える海を眺めながら、話し出した。

「中学生の時さ、写生大会で市の動物園に行ったのを覚えてるか?あの時、お前と最初に会ったんだけどよ。」

うん。覚えてるよ。皆がキリンとかペンギンを描いてたのに、私がありふれた動物のタヌキを描いているのを見て、「何かいてるんだよ?」って、話しかけてくれたの。

「そう、あの時さ。俺は何気なく覗いたお前の絵が滅茶苦茶上手だったから、なんか対抗意識燃やして俺もタヌキを描いたんだけど、全然下手なのよ。それで、お前にどうやったらそんなに上手に描けるんだ?って尋ねたんだ。

 そうしたら、お前は、ごく自然にさ「簡単だよっ!!タヌキを好きになればいいんだっ!!ほら、タヌキってこんなに可愛いじゃん。」って言ってさ。

 その時、ああ、敵わないなって思ったのさ。ただ好きなだけで求道するのって意外とできないことでさ。大体が出世欲だとか、有名になりたいだとかの野心が先立つ。まぁ、俺もその口なんだけどさ。

 だけどお前は、好きってだけの純粋さだけで追い求めてた。なかなかできねぇことだからさ。それからお前と親友になりたいと思った。俺にはないものをお前は持っていたから。」

そんな話を初めて聞いた。

そんな風に私のことをリスペクトしてくれてたんだ。だから、同級生にため口も聞かせない隆盛が私には対等で接してくれてたんだ・・・。

意外なエピソードを聞いて、私は胸がポカポカとぬくもっていくのを感じていた。

そして、隆盛は私の手を取って言う。

「あの時、俺は親友になってくれってあかりの手を取ったけど。・・・・・今とは全然違うだろ?」

・・・・うん、違う。

だって、私、すごくドキドキしているもん。

隆盛と私は、いま、中学生の時とは違う男女の性に分かれていることを感じざるを得なかった。

そうやって、手を握り合っているところへ、恥ずかしそうに店員さんが注文の品を持ってきてくれた。




・・・・・顔から火が出るほど恥ずかしかった。

私は慌てて、隆盛の手を離して、テーブルの上に置かれたチョコパフェを見る。

もう。すっごく甘そうな綺麗なパフェに私は思わず両手を合わせて「うわぁ、すっごく美味しそうっ!」って、喜んで見せた。

すると隆盛は、すこし驚いた顔をして「女はやっぱりそうなるんだな」って意味深に呟いた。

・・・・誰の話をしてるのかな?

ちょっと、気になりはしたけど、私を見つめる隆盛の目には邪な感じがしなかったので、信用することにするけど・・・・私とのデートの時にそういうのって、ないわよねっ!!って、心の中で呟くと、お姉様は「つくづく女じゃなぁ‥‥明は・・・。」って笑ってた。


当たり前でしょっ!!私、今、女の子なんだからっ!!




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