私の女子力なめんなよっ!!
「次の土曜日は俺の番だなっ!!」
不知火先輩と初と隆盛が取り決めをした翌朝、隆盛は出会ってすぐに私の席の前に立って嬉しそうに宣言する。
・・・・なんか男だった時に親友だった隆盛とデートするってピンとこないなぁ・・・・
「・・・・・どこに連れてってくれるの?」
私は、席に座ったまま自分の机に前のめりになって、体を傾斜させることで、隆盛への目線を見上げるように操作する。
この顔を覗き込むような体勢なら、隆盛はまるで自分が試されているかのような印象を受けるはず。
しかし、隆盛は意外なことに、顔を真っ赤にして目を背けてしまった。
・・・・・あらら、意外とウブな感じ?
と、思っていたら、チラチラとこちらを盗み見るようにみてくる・・・・
あっ!!こいつ。私が両腕にのっけたオッパイを見てるなっ!!?
私は慌てて体を起こすと、両掌で胸元を隠しながら隆盛を非難する。
「どこ見てるのよっ!スケベっ!!!」
私の抗議に隆盛は慌てて反論した。
「しょ、しょうがねぇだろっ!!そんないやらしいポーズとったお前が悪いっ!
だ、大体、お前もそういう男心くらいわかるだろ?」
・・・なにそれ?
なによそれっ!!
男心がわかるだろうって、何それ!!それって、私のことを本当の意味で女の子扱いしてないってこと?
「・・・結局、隆盛は私のこと今でも、心のどこかで女の子じゃなくて、親友扱いしてるってことっ!?
そんな人とは、デートしてあげないっ!!嫌いっ!!」
私がそういうと、初は両腕組んで首をコクコク縦に振って「本当だよ。今のは隆盛が悪い。サイテー。」と同意してくれた。
・・・いや、君何でいるのさ。隣のクラスでしょ?
しかも、隆盛も初にそう言われて、反論できずにスゴスゴと自分の席に戻っちゃうし・・・・・本当に変なことになってるなぁ・・・この二人・・・。
朝の予鈴と共に初は自分のクラスに戻っていった・・・・。
それから、私はお昼休みまで隆盛と口をきいてあげなかったけど、昼食に初と隆盛が強引に私の席に机を寄せてくるものだから、私もさすがに会話しないわけにはいかない。
「・・・・・反省した?もう二度と私を男友達扱いしないって誓える?」
私がちょっと拗ねたように聞くと、隆盛は「しないしないっ!」と、二つ返事で誓った。
強面の隆盛がちょっと情けない顔してるし、まぁ、許してあげるかな・・・・。
「じゃぁ、許してあげるっ!!」
その言葉を聞いてホッとした顔を見せる隆盛は、ちょっと可愛いかもしれない。
そういえば、初めて会った時から隆盛は、私には心を開いて対等に扱ってくれたのよね・・・・。
前に私のいいところを教えてやるって、言ってたけど・・・・今度のデートの時に聞いてみるかな。
などと考えていたら、初がその小さな体には不似合いなほど大きな弁当箱を広げる。
「えっ?初って、そんな大きなお弁当、食べるの?」
「ううん。半分以上は隆盛の分だよ?」
・・・・・はい?
私がキョトンとしていると、初は小さなタッパーに3分の1ほどの量を取り分けると、大きい方の弁当箱を隆盛に差し出す。
「はいっ!運動部だから、お腹すくよね?」
と、至極当然のように・・・・。しかも、その弁当を隆盛は「おおっ!やっぱ、お前料理上手だなっ!!」と、大喜びで受け取ると唐揚げ一つ頬張って、「美味い美味い」といいながら初の頭を撫でる。撫でられた初は、「えへへへ・・・・。」と、ご満悦。
・・・・おーい。君たち。君たちの彼女候補は、目の前の私じゃないのかね?
どうなってんのさ?
「いや~。こないだの美術館でさ。お前ら初の弁当食わずに、行っちまっただろう?あの後、俺は弁当食わせてもらったんだが、これが美味いのなんの・・・・・。また食わせてくれって頼んだら、本当に作ってきてくれてさっ!!」
・・・・あっ!!
そ、そうだったっ!!!私たち、せっかく初がお弁当作ってきてくれたのに、忘れて浮世絵展の方へ移動しちゃったんだっ!!
「ご、ごめんね。初。折角お弁当を用意してくれてたのに、私たち、美術品に気がとられちゃってさっ!・・・本っ当にごめんなさいっ!!」
両手を合わせて頭を下げる私を見て、初は笑って許してくれた。・・・・・でも・・・・
「恋人になるんだったら、これぐらいのお弁当くらい作れるよね?」
なんて、嫌味なことを言ってきた。
お?
何で挑発的なこと言うの?
しかし、初の挑発はそれでは終わらなかった。
「まさか、彼氏になるかもしれない子より、女子力低いとか言わないよね?」
お?
おおっ?
なに?戦争しようっての?
いいじゃん、受けて立つわよ。
こっちだって女の子なんだから、お料理ぐらいできるもんっ!!
「じゃぁ、明日は私がお弁当作ってきてあげるから、隆盛、食べてねっ!!」
挑発に乗ってしまった私は、そう言って無理やり約束を取り付けながら、初の唐揚げをひょいと掴んで口に入れた。・・・・・継母より美味しかった。
初の女子力の高さを改めて思い知った私の心を見透かすように、初は二へッと嫌な笑みを浮かべるのだった。
・・・うそ・・・・・・悔しいけれど・・・・・
私、勝ち目あるの?これ・・・。
「そもそも、つい最近まで男じゃったお前になんぼほどの料理の腕があるんじゃ?」
と、安い挑発に乗ってしまった私に呆れるようにお姉様が心の中で語り掛けてきた・・・。
ううっ!!さすが、お姉様、鋭い指摘っ!!
「鋭くないわっ!!」
こうしてはいられない。
私は放課後、大急ぎで家に帰ると継母に泣きついた。
「どうしようっ!!継母っ!!私、お料理できないっ!?」
必死で泣きつくと、継母は、「あらあら・・・大丈夫よ」、私の頭を撫でながら、冷凍食品を差し出す。
「これで明ちゃんでも、大丈夫っ!!!」
んきゃああああ~~~っ!!!
バカにし過ぎだからぁ~~~~~~~っ!!
「継母っ!!私、ちゃんとしたお弁当作りたいのっ!!お料理教えてっ!!」
私があんまり必死に頼むので、継母は、少し困った顔をしていたのだけれども、やがて「良いお料理があるわよっ!」と言ってほほ笑むのだった。
継母が教えてくれたのは、肉じゃがだった。
「男の胃袋を掴むのは、昔から肉じゃがって言うけれども、本当は男の人って、そこまで肉じゃがが好きってわけでもないのよ。今は、美味しい料理が他にいっぱいあるからね・・・・。
でもね?明。そうやって母は娘に料理を教えて、女心を育てさせるの。
そうやってね受け継がれている女心は、男の人に必ず伝わるはずよ?
今から教えるのは、私の家の肉じゃがの作り方。貴女のパパの胃袋を鷲掴みにした我が家秘伝の肉じゃがなんだから、必ず男の人は、喜んでくれるわっ・・・・。」
そういって継母が私に教えてくれたのは、長い時間、牛脂と煮込んだジャガイモをふんだんに使ったとっても甘めの肉じゃがだった・・・・。
これが、継母の家の味・・・・・。
「ねぇ、ママ。私、いま・・・・ママの娘なんだよね。こうやって、ママから娘の私に家の味を引き継いでるんだもん・・・・。」
そういうとママは、私の肩を抱いて「そうよ。そうよ」と言って泣いた。
この肉じゃがは、そういう味。だから、初にも負けないんだからっ!!
次の日、甘く煮込んだジャガイモたっぷり入った肉じゃがを味見する初は、「美味い美味い」といって、大喜びで肉じゃがを食べる隆盛を恨めしそうに見た後で、「明ちゃん。私、負けないんだからっ!!」と、私に言う。
いや、君。どこに対抗心を燃やしているのよ。
でもね・・・。
「ありがとう。私、初のおかげで、もっと女子力磨く気になったからっ!」
と感謝の言葉を述べる。
初は、びっくりした顔をしてたけど、やがて、「じゃぁ、次のデートは、私と女子力を上げる感じのやつにしようねっ!!」って、嬉しそうに答えてくれた。
ようしっ!!
これから、頑張るぞっ!!
と、心に誓って拳を握る私に隆盛が「いや。次、俺とデートだから・・・」と、呟いた。
あ・・・・・。