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番外編「隆盛と初の話Ⅱ」

(※)注意。

今回の番外編も男の娘がメインとなる回です。拒否感がある方には、お勧めしません。

次回から、再び本編に戻ります。


隣の市で浮世絵展があるというので、不知火とあかりは、明の兄であるたけるの車で出かけてしまった。

取り残された隆盛りゅせいはじめは、しばらく美術館の出口付近にあった椅子にポツンと座っていたが、やがて、隆盛が立ち上がり「・・・・・帰るか?」と、声をかけた。

隆盛ははじめの返答を待つことなく、まるでそのまま帰ることが規定事実のように美術館の出口に向かおうと歩き出した。

しかし、はじめは慌てて、そんな隆盛の後ろ袖を掴んで言うのだった。

「まって・・・・・・・。」

隆盛は、何故、この状況で自分が引き止められるのかわからなかったので、気だるそうに後ろを振り返りながら「・・・・なんだよ?」と、問うのだった。

はじめは、そんな隆盛の冷たい態度に少し傷ついたような顔を見せたのだが、黙って返答を待ってくれている隆盛に”別に怒っているわけではなさそう”と判断したのか、黙って手提げかばんを隆盛に見えるように上に差し上げると、紅潮した顔で「お弁当・・・・・余っちゃうから一緒に食べてくれない・・・・?」と、問うのだった。

はじめはその時、決して隆盛と目を合わせなかった。気まずさもあるが、目を見られると自分の本心を悟られそうで怖かったのだ。できるだけ隆盛と目を合わせないように目線を斜め45度下を向き、ただ、拗ねる子供のような口調で隆盛に弁当を一緒に食べてくれと頼むのだった。

隆盛は、差し上げられた手提げを見て、

「・・・・ああ。そういや、皆の分、弁当作ってきてくれたって言ってたな・・・・・。」と、はじめが自分を止めた理由に納得した。

そして、不知火とあかりたけしが、去っていく方向を見て、「3人とも行っちまったしな・・・・。かと言って、今から引き留めるのも3人に悪いし・・・・。」と呟いた。

隆盛はしばらく黙って考え込んでいた。

その間、はじめは、ずっと下を向いたまま肌を紅潮させていたので、隆盛もさすがにはじめを気の毒に思ったのか、「しゃあねえな。俺達だけで食うかっ!!」と、にっこりと笑って見せた。

隆盛の返事と笑顔があまりにも爽やかだったので、はじめもホッとしたような表情を見せて、気兼ねなく「おねがいっ!!」と満面の笑みを浮かべて頼むのだった。



美術館から10分ほど歩いた先にある川沿いの緑地公園に二人は向かう。そして、公園の中にある藤棚ふじだなの下にあるテーブルと椅子に弁当を広げて座るのだった。

「花が咲く季節だったら、綺麗だったろうにね・・・・・。」

はじめは、弁当を広げながら、ふと天井の藤の木を見て言う。確かに花の咲く季節なら、このテーブル席は、四方を支柱に支えられた格子状の天井に乗る藤の枝から枝垂れ咲く藤の花を眺めながら食事がとれる最高の席だった。

隆盛は、軽く頷いて同意するものの、すぐにはじめの用意した弁当に気を取られるのだった。

「おおっ、すげえっ!!美味そうっ!!」

隆盛の言葉にはじめは、恥ずかしそうに笑った。

「どうぞ、召し上がれっ・・・・。」

はじめは、両手を弁当の前に差し出して言う。鶏の唐揚げや卵焼き、ソーセージ。そして、サンドウィッチなどが一杯入っている。男子の胃袋を鷲掴みにするようなピクニックの弁当だった。

隆盛は、「ありがとうっ!いただくよ!」と嬉しそうに言うと鶏の唐揚げに箸を伸ばす。

「おおっ!!美味いっ!!スゲェな、お前。うまいよ、この唐揚げっ!!

 3人とも、損したな。こんなうまい飯が食えたのにっ!!」

はじめは、その言葉を聞いてそれはもう嬉しそうに「本当っ!?いっぱい食べてねっ!」と答えるので、隆盛は遠慮なく弁当をパクつく。

その様子を見ながら、はじめは、少し興奮気味に「美味しい?・・・ね、私って女子力高いでしょ?」と、尋ねるのだった。

隆盛もその言葉に同意するように言うのだった。


「ああっ!!どの料理もすげぇ美味いよ、お前。いいお嫁さんになれるぜっ!!」

と、当たり前のようにいう。

その言葉がどれほどはじめの心に響くのか、恐らく隆盛は知らない。

隆盛の言葉にはじめの心がどれだけ震えているのか、隆盛は知らぬまま、はじめの料理を美味そうに頬張るのだった。

はじめはそんな隆盛の姿を幸せそうに見ながら、自分もサンドウィッチを口にする。


ああ・・・・・この人は本当に私のことを女の子として扱ってくれる。

公園への移動中、ずっと手提げを持ってくれてた。

あかりちゃんの手を握った時も私を怒りつつも女の子相手だからと、手加減して怒ってくれていた・・・・。

どこまでも、自然に私のことを女の子扱いしてくれる

なんて・・・・・・・・・・なんて、幸せな気分にさせてくれる人なんだろう・・・・・・



はじめは感動のあまり、潤む瞳を隆盛に見せないように下を向くと、小さく息を吸って小さく息を吐いた。

その小さな呼吸の中に、隆盛に聞こえないような小さな声で・・・・いや、もしかしたら自分にさえも聞こえないほど小さな声でつぶやいた・・・・。


「・・・・・・・・・・好きっ・・・・。」

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