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潔い男

いよいよ残すところあと2話です。

最終回の前に初の話を一話入れます。

明日は初がメイン。男の娘がメインの話になるので、苦手な人は読まないことをお勧めします。

お姉様との会話の翌日、幼馴染の京ちゃんが、路上ライブの許可が下りたので見に来てほしいと誘いがあった。

勿論、私は二つ返事で見に行かせてもらうと言ったんだけれども、京ちゃんが「俺の歌を聞いて必ず惚れさせてやるぜ!」と、乗り気だったのが、申し訳ないと思ってしまう。

何故なら、既に私の心は、お兄ちゃんか不知火先輩の二択になっているから。

ここで京ちゃんが巻き返すのは難しいと思う。

それでも、京ちゃんは京ちゃんで勝負に出てきているのだから、それを受け止めるのが私の役目だとお姉様は言う。

「ええか? 求婚と言うものはな、男にとっても女にとっても一大事じゃ。

 決して軽々しく考えてはいかん。

 ここで誠実さを欠くものは、幸せには成れんと思って、誠実に対応するのじゃぞ。」

お姉様の言葉に間違いはない。私もそれは自覚している。

だからこそ、京ちゃんには申し訳ないと思うの・・・。


路上ライブには友達も誘っていいと言うので、私は、いつも通り朝、勉強会に来た美月みづきちゃんを誘って京ちゃんの路上ライブを見に行く。

するとそこには、帰国して間なしだというのにそこそこの人数が足を止めて京ちゃんのライブを待っていた。

後で知った話なんだけど、京ちゃんは帰国前から動画投稿サイトを通じて音楽仲間とセッションを行っていて、それで知人が多いのだとか。

その中には小学生の時の私達の同級生もいた。

「ええええっ!? 

 お前、さかきかっ!? なんで? どうしてそんなに可愛くなっちゃったん?」

なんて驚かれたけど、事情を説明すると、「事実は小説よりも奇なり」とより驚かれてしまった・・・・。

しかも、さらに。京ちゃんがライブ開始前に

「今日は俺の帰国一発目のライブにして、告白タイムでもある。

 あかりっ!! 

 俺はアメリカにいたから、他の恋敵たちよりも出遅れていることは百も承知だ!!

 でも、今日のライブで必ず俺に振り向かせて見せるぜっ!! 」

なんて、宣言するから、小学生の時の同級生は目を見張って驚いていた。

と、言うか、私も驚いたわよっ!

歌で私を振り向かせて見せるだなんて、どんだけ自信過剰なのよっ!?


しかし、いざ演奏が始まってみるとその場にいた誰もが言葉をなくし、手拍子すらできずに聞き入ってしまう。ミュージシャンの母親仕込みのギターのテクニックは、底知れない。

一発目は意外に静かな出だしのバラードだったけど、ギターの演奏技術に私達だけでなく、通り過ぎるはずの通行人まで足を止めて京ちゃんを見ていた。

「だれ?」

「プロの人?」

たまに通行人がそう呟くほど、京ちゃんの演奏はレベルが高い。

私はその演奏を聴きながら ”ギター一本でこんなに何重奏もあるかのように聞こえさせることが出来るんだ‥‥。” と、感動していた。

それは、周りの人たちも同じで、1曲目が終わると同時に、一斉に拍手を送る。

演奏したのは私じゃないのに、私は得意になってしまう。

「彼、私の幼馴染なんですっ!」

なんて、言ってあげたくなるほどね。彼の幼馴染であることを誇りに思ってしまったの。


それぐらい、私は京ちゃんの演奏に感動した。

なのに・・・・・・。

演奏が終わった後、多くの人たちと一緒に私は京ちゃんを祝福しようと近づいた。

でも、京ちゃんは「これからみんなと打ち上げがあるから。」と、私を断ったの・・・・・。

私も美月ちゃんも突然の塩対応に呆気に取られてしまった。

どういうことなの・・・・?

私も美月ちゃんも頭を悩ませながら、家路につく。

その道中に京ちゃんから連絡が来た。


~ 今日は来てくれてありがとう!

 俺の演奏を聞いてくれてありがとう。本当にうれしかったし、全力を出せた。

 君が俺の演奏に聞きほれていてくれたのは知ってる。

 でも、それは感動であって、愛じゃないことを俺は、もう知っているよ。

 演奏する俺を見る目は、芸術を見る目だった。男を見る目じゃなかったのを俺は知っているんだ。

 だから、せめて君の前で涙を流さずに済む様に今日は帰ってくれ。

 今日は、皆とはしゃいで、全てを忘れたいんだ。 ~


「詩人じゃのう・・・・。」

お姉様はメールを読みながら、ぽつりとつぶやいた。

そして、京ちゃんの心境を語る。

「詩人と同時に男じゃのう。

 実に潔い。

 京志郎にとって、このライブは一世一代の賭けじゃったのだろうなぁ・・・・。」


一世一代の賭け・・・。

その言葉の重みに私は腑に落ちないものがあった。

何故なら、私と京ちゃんは再会してほんの数日の事で、そこまで深く愛される理由が無かったのだから・・・。

ねぇ、お姉様。私よくわからないの。

どうして? どうして京ちゃんは、そこまで私のことを好きになったんですか?

そのきっかけに私は全く心当たりがなかった・・・・。

その質問にお姉様は「答えはない。」と答える。


「ええか? 明よ。恋愛に答えはないんじゃよ。

 一目惚れと言うものがあるじゃろう?

 今までにとても好いた相手がいたとしよう。それでもじゃ。

 それでもたった一瞥しただけで深い愛に落ちることがある。

 今まであれほど好いた相手が見えなくなるほど、一目で心奪われる恋もある。

 それを不誠実と軽蔑するか?

 ・・・・・しかしな、答えはないんじゃよ・・・。」


お姉様の声のトーンから、私の疑問はそれ以上、聞いてはいけないものだと察した。

そう。

恋愛に答えなんてないんだ。皆、自分が感じるままに、自分の気持ちを信じて答えを決めるしかないんだ・・・・・。

京ちゃんの覚悟は、私にそれを教えてくれた・・・・。

美月ちゃんは、京ちゃんのことを知って、深く感じるものがあったのか、涙をこぼして「カッコいいね。磯貝君。」と言ってくれた。

ありがとう・・・・。美月ちゃん。

私は、自分でも理由はわからないけれども、美月ちゃんに感謝していた・・・。


しかし・・・・。こうなると嫌も応もなく本当に二人を選ぶしかなくなった。

お兄ちゃんと不知火先輩・・・。

私はどちらかを選ばないといけなくなった・・・・・。


そして、その夜。

突然、不知火先輩から電話が来る。

あかり? 今、時間良いかな?」

突然の電話に開口一番、「どうしたんですか? 先輩っ!?」と尋ねてしまう。

その驚く声が不知火先輩に刺さったようで、暫くクスクスと笑ったのちに「やっぱり、明は可愛いなぁ・・・・。」なんて言ってくれた。幸せっ!

でも、その電話の内容は思いの外、重たかった。


「磯貝のことは聞いたよ。潔いい男だな・・・・・。

 僕達も、そうするべきかなって思うんだ。

 たけるさんに言ってもらえるかな? そろそろ勝負を決めようじゃないかって・・・・。」

私はカレンダーを見る。

夏休みはもうそんなに残されていない。なのに、今、急ぐ理由は一つ。

不知火先輩にとって京ちゃんの判断は、心に来るものがあったのだろう。だから、自分もそうするべきだと考えたのだと思う。

でも、それは京ちゃんの身の処し方であって、不知火先輩が真似する必要はないと思うの。

私は不知火先輩には不知火先輩らしい考えをやり方をやってほしかった。

ただ・・・・。

ただ・・・・。それを私に言う資格があるのだろうか?

京ちゃんが至った答えと同じ答えを出そうとしている私に・・・・。


私は、お兄ちゃんに不知火先輩の連絡先を伝えるから、二人で話し合って、告白の仕方を決めてほしいと告げた・・・・。

そして、それは波乱に満ちた私の恋模様の終わりを告げていた・・・・。

全ての答えは既に私の胸の中にある。今はその決断をする勇気が必要なだけ・・・・。

勇気が・・・・・欲しい・・・・。

考えるだけでこぼれ落ちる涙が止まらない。お姉様はそんな私に恋の決断が出来るようにと、勇気を与える歌を歌ってくれる。

ガラスのように透き通るお姉様の高音が、私の心を洗い流す。

悩みも迷いも悲しみも恐れも・・・・。

お姉様が全部洗い流してくれるのでした・・・・・。


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