私が一番、可愛い女の子だもんっ!!
「そうかぁ・・・。川瀬がなぁ・・・。」
事情を知った電話越しに不知火先輩が感慨深そうに呟く。
そして、「まぁ、川瀬なら八也を幸せにしてやれるだろう」と付け足した。
ただ、
「まぁ、あの子なら明よりいい奥さんになるだろうしね。」
なんて意地悪な冗談を言う。
ふーん。先輩・・・・。先輩、私が選ぶ立場だって知ってますよね?
「おいおい・・・。冗談だって。
おい・・・・。明?」
私はそこで電話を切ってやった。
意地悪な先輩に明が怒ったら怖いところを教えてあげるんだからっ!!
暫くすると不知火先輩から、謝罪のメッセージが届く。
ふふふ。明だって、怒るときは怒るんですからねっ!!
・・とはいえ。尊敬する不知火先輩を邪険にする真似も出来ず、私はすぐに「冗談ですよ! べーっだ!!」って、メッセージを返しておいた。
こんな調子で私はお兄ちゃんと京ちゃんにも連絡を入れた。
お兄ちゃんも不知火先輩も隆盛とは付き合いが深くなっていたから、強力な恋のライバルの退場を素直に喜べずに、複雑な心境のようだった・・・。
不知火先輩とは逆に京ちゃんは、同性愛に対して不快感を示しながらも、ライバルが減ったことを喜んでいた。
その態度は私にとって印象が良くないものではあるものの、隆盛と初とあったのも2,3回だけの他人の意見と思えば当然のことだった。
でも、そうだよね。私だって美月ちゃんが百合とはいえ、バイセクシャルなら男の人とくっついた方が社会的に幸福になりやすいし、そうなってほしいと願ってるものね。
「美月はお前を諦めた後、誰を求めるのじゃろうなぁ?」
お姉様にそう言われると、私は途端に不安になる。
不知火先輩を美月ちゃんにとられないかなって・・・・。ちょっと心配。
だって、そんなことになって不知火先輩と私の仲が離れていくのなんて我慢できないもんっ!!
もう一緒にお絵描き出来ないとか考えただけで、私・・・・。涙出ちゃいそうだもんっ!!
「では、武が美月と付き合ったら、どう思うんじゃ?」
ぜえええええったい、いや~~~~~~っ!!!
お兄ちゃんは私のものだもんっ!! お兄ちゃんは私のものだもんっ!!
お兄ちゃんはっ!! 私のっ!! ものだもんっ!!
自室で思わず大声でそんな危険な発言をする私をお姉様は間一髪のところで心象世界に引きずり込む。
「は~~っ!!
は~~~っ!!・・・・・お、お前はアホウかっ!!!
自宅でなんてことを叫ぶんじゃっ!! 近隣の者が聞いたら何と思うんじゃっ!」
お姉様、汗びっしょりです。
「この・・・アホウドリがっ!!
完全に油断しておったわっ!! なんちゅうヒステリーを起こすんじゃっ!!
あ~・・びっくりしたわぁ・・・。」
お姉様は油汗をぬぐいながら、私を睨むと、「で? つまるところお前は不知火と武の両方を手放したくないというのか?」と詰問する。
や・・・やん。お、お姉様・・・。そんなに睨まないでください。
ね? 明、何でも言う事聞くから、怒らないでください・・・。こ、怖いよぉ~~・・・・・。
「ああっ!! もうっ!!
泣くでないっ、泣くでない。
このぐらいのことで怒るなら、お前なんかとっくに殺しておるわ。」
・・・・
・・・・・・殺すって・・・言った・・・。
こわ・・・・。
「お前こそ、今、何でもするって言ったな?」
ひっ!!
「では、今からせいぜい、サービスしてもらうからなっ!」
そういって警戒にバッ!!と服を剥ぎ取ってお姉様は全裸になる。
え~~っ? そ、そうきますか・・・。
・・・って!!
わ、私を風俗嬢みたいに言わないでくださいっ!!
お姉様にたっぷりご奉仕して、若干、疲れた体を休めながら、私は今後の事を考える。
幸い、お姉様は今は余韻に浸って歓んでいる最中だから、集中できそうだ。
私には今、3人の王子様候補がいる。
ただ、正直言って京ちゃんは、まだ日も浅く、不知火先輩やお兄ちゃんのように恋人として認識できない。二人とはきずなが違う。
勿論、私も京ちゃんに対して好意は抱いているわけだから、いきなりハグされたり言葉攻めされたら即落ちしてしまうかもしれないけれど・・・・。
いや、我がことながら、改めて考えると、私の体質って本当にヤバいわね・・・・。
押し倒されたら受け入れてしまう豊穣神から引き継いだ属性は本当に危険だわ。
それでも自分が好意を抱いている男性に限定した属性って部分があるのは、せめてもの救いだけれども・・・・。
まぁ、流石の京ちゃんも、これまでの幼馴染関係からスキンシップに行動を変えるほど非常識じゃないだろうから、危険視する必要もない・・・・か。
だから、当然、ターゲットはお兄ちゃんと不知火先輩に絞られる。
私は、残り数日でどちらを受け入れたらいいのかしら?
むしろ、選ばなかったあと、どうなるのかな? 私。
だって・・・・ね? 相手を思う気持ちの重さがほぼ同じなら、その後の生活を見据えて判断するしかないものね・・・・。
私は、すでに不知火先輩と別れた後のことを考えた。
だから・・・。お兄ちゃんを恋人に選らばなったのちのことを考えると・・・。
・・・
・・・・あ、そうか。恋人同士にならなくても、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから、これまで通りの家族関係ってところは変わらないわけねっ!!
つまり、これで一件落着ってことじゃないっ!!
私は不知火先輩と結婚して、お兄ちゃんと不知火先輩と一緒に幸せに暮らすのっ!!
・・・
・・・・・・あれ? なんかおかしくない?
「ふふふ。そこに気が付くとは、明よ、お前はやはり天才か。」
えへっ・・・!!
「などと、言うと思ったかっ!! この〇〇の淫乱〇〇〇娘の××奴隷がっ!!」
ああんっ!! もっと言ってくださいっ!!
・・・・じゃ、ありませんよっ!! そんな滅茶苦茶言いすぎですっ!
もっと言ってほしいけど・・・・さ、さささ、流石にそこまで言われたら、明だって、悲しいんですからねっ!!
「欲情しながら何を言うておるかっ!!
お前、今、自分がどんな表情しておるか、鏡を見てみぃっ!!」
ひっ!!
やだやだ、そんなのみたくありませんっ!! 明は、清楚な美少女キャラですからっ!!
「もっと客観的に自分を見れんのかっ!」
私、清楚だもんっ!! お姉様にエッチな事されなかったら、全然、清楚だもんっ!
「・・・・・・・・。
おまえ、それ・・・・・マジか?」
明、清楚ですっ!!。
お姉様は「ふ~~っ」と深いため息をつきながら、ヘナヘナとその場に座り込む。
「そもそも、明よ。ちゃんと考えておるか?
お前が武を選ばなかった場合は、武は、他の女と結婚するということを」
・・・え?
な、何言ってるんですか? お兄ちゃんは、私と一緒に暮らすんです。
「武にも嫁を貰う権利はあるし、元々、プレイボーイじゃ。
今はお前一筋じゃが、お前が選ばなかった場合は、他の女に乗り換えるぞ。」
・・・・。大丈夫ですっ!!
だって、お兄ちゃんにとって私より可愛い女の子なんか、この世に存在するわけないもんっ!
私と一緒に暮らす方がお兄ちゃんにとっても絶対に幸せだもん。
なんだったら、私、不知火先輩とお兄ちゃんの赤ちゃん、産んであげますっ!!
「・・・ふーむ。
いかんの。隆盛のことが相当、堪えていると見えるな。
大分、壊れておる。今日はもう、ゆっくりと休め。」
・・・・やだ・・・。
「休めと言うに。お前の精神は疲労困憊じゃ。
休まねば本当に壊れるぞ。」
・・やだ・・・・。
「明・・・・・。」
やです・・・・。だって・・・・だって・・・・眠ったら明日が来て、私が決断しないといけない日が、また近づくんだもんっ!!
絶対、絶対っ! 絶対、やすまないもんっ!
このまま、お姉様と一緒にここに住むんだもんっ!! そうすれば、明日は来ないもんっ!!
「そうすれば、あの二人とはもう会えんという事じゃぞ。」
お姉様の言葉に現実に引き戻される。
そう、このままお姉様の作った心象世界にいれば、時間は経たない。でも、その代わり、お兄ちゃんにも、不知火先輩にも会えなくなる・・・・。
そんなの・・・
そんなのやだぁ~~~~~~~。
私は大声を上げて、その場に泣き崩れる。
わかってる。こんなわがままな希望を抱く私が悪い子だってことくらい。
これだけ男の子たちに気を持たせておいて、選択できないとか、酷い話よね。
でもね・・・・。私にこうなるように仕向けたのは、男の子たちじゃないっ!! だから、だから、明が皆のことを好きになっても仕方ないじゃないっ!!
皆と一緒に、これからも一緒にいてほしいだけなのにっ!!
身勝手すぎる言い分を散々喚き散らした後、私は、何も考えられなくなって、その場に泣き崩れたまま動けなくなってしまった。
お姉様は、そんな私の体を抱き寄せて、ヨシヨシしてくれながら、こういった。
「明・・・・。お前は、悠長なことを言うておるぞ。
武にとってお前ほど、可愛い女がおらんから、自分と不知火と一緒に暮らした方が武は幸せじゃと?
それは思い上がりじゃ。武は、お前が自分を選ばなければ、お前よりも可愛い子を求めて動くだけじゃ。
じゃから、辛くともしっかりと選ばねばならん。そうでないと、武を他の女に奪われてしまうからの?」
・・・・・。いないもんっ!
お兄ちゃんにとって私より可愛い、女の子なんかいないもんっ!
どうして、そんな酷い事を言うんですかっ!? 傷ついた私を慰めるどころか追い詰めるようなこと言わないでくださいっ!!
今だけは・・・今だけは夢見たっていいじゃないですか~~~~~っ!!
私は、もう本能的にお姉様の胸をドンドン叩きながら、反論する。
そんな私をお姉様は慈しむ様に抱きしめながら、さらに私を追い詰めるようなことを言う。
「ダメじゃ。現実逃避は、お前をさらに苦しめるだけじゃ。
苦しむ時間が長くなるだけじゃ。後悔の無いようにしっかりと選ぶのじゃ。」
いじわるっ!! お姉様の意地悪っ!
大体、お兄ちゃんにとって、私よりも可愛い女の子なんているわけないじゃないですかっ!
私は、もう半狂乱になって抗議する。
いるわけないもんっ! お兄ちゃんは誰にも渡さないんだからっ!
そう言う考えが私を支配する。きっと今の私は独占欲に狂った醜い女・・・。それでも・・・それでも、他の女の子にお兄ちゃんを取られたくないもんっ!!
でも、お姉様は、そんな私に衝撃的な事を言うのでした。
「武にとって、お前より可愛い女の子じゃと?
おるよ・・・。現に今もな・・・・。」
・・・・うそ・・・・。
そんなの・・嘘っ!!
誰よっ!!その女。
そんなの絶対に許さないんだからっ!!!
「それはの・・・・・。
妾じゃ。」
お姉様は、透き通る様に綺麗な笑顔でそう言った・・・・。