戦争は始まっていた
「も、もう~~っ。仕方のない子ね・・・・。
今日だけだからね~~っ!?」
女の子になってから、初の体力に押され気味の私が久しぶりに優位に立つことが出来た。そして上機嫌になってちょっと優越感に浸って初を許してしまう。それが初の策略と知りつつも抗うことが出来なかった。・・・・我ながら、チョロい女ね。私・・・・。
それにしても既に時間も過ぎていることだし、このままダラダラ過ごすわけにはいかない。ちゃんとデートの場所を決めないと・・・・・。
でも、そういうのって、普通、男の子の仕事? それとも女の子の方から「ここに行きたい」って言った方が良いの? どうしたらいいのかなぁ・・・。あんまり駄々こねて隆盛に ”面倒くさい” とか、嫌われちゃったらどうしよう・・・・。
こういう時って男の子の頃なら、わかったんだろうけど、今の私は女の子。男の気持ちって全然、わからないのよねぇ・・・。どうするのが正解なのかしら・・・・。
そんな私の気持ちも知らない初は
「ねぇ、 隆盛。
私、映画館がいい~~っ!!」
と、突然、甘ったれた声を出してリクエストをする。
あれやこれやと悩む私の考えがバカバカしくなるほど、初は遠慮もなくリクエストする。
しかも、この子は男の子のくせにkawaiiとは何か、よく理解している。男の子の弱いところをくすぐるのが実にうまい。
そのハニートラップにまんまとかかった隆盛は頬を緩めて「明は、どうしたいっ!?」なんて私に聞く。その聞き方されて、断れると思ってるのかしら?
「・・・・・べつに。初が行きたいって言ってるのなら、そうしたら?」
私はせめて不貞腐れた態度をとって、隆盛に私が初に嫉妬している事と、自分よりも初の意見をまず取り入れようとしていることに対して怒っていることを隆盛に伝える。
でも、隆盛は私のそんな思惑に気が付かないらしく、当たり前のように初のリクエストを叶える。
「じゃぁ、映画館にしようっか!」
なんて上機嫌に言う。
はぁ・・・。隆盛ってイケメンなのに頭が悪いのが玉にきずなんだよねぇ・・・・・。
なんで、明の切ない乙女心に気付いてくれないんだろう・・・・・・。
不貞腐れた私は、隆盛の手をほどくと、半歩後ろを歩く。
これにはさすがの隆盛も感づいたようで、「悪かったって。次いくところは、明のリクエストを聞くから機嫌直してくれよ!」などと低姿勢で謝ってきたので、この度は許してつかわす。と申し付けてから、隆盛に改めて手を差しだす。隆盛は私の白い手を嬉しそうに取ると「じゃぁ、行こうか。二人ともっ!!」と言って歩き出した。
道行く人たちが、私達一行を見て振り返る。
目を疑ってるのだろうか? それとも私の美しさに驚いているのだろうか?
その答えは簡単。
長身美形のマッチョが両脇に美少女を連れて歩いているんだから、それは衆目を引くよね。
でも、道行く人たちよ。どうか、驚かずに聞いてほしい。
このマッスルマンが連れている美少女二人は、一人が元男で、もう一人が本当に男の子なのっ!!
何を言ってるかわからないと思うけど、事実よ。
この超絶ナイスバディの美少女もほんの数か月前は男だったし、もう一人の年齢詐欺ロリータは、現在進行形で男なのっ!!
あっ・・・。そういえば・・・・。
道行く人たちをよく見ると、私の方を見ている可能性が高いっ!!
これは勝利っ!! 大勝利よっ!
あのネットのアイドル初よりも私の方が見られているという事は、女子として私の方が初よりも魅力的な証拠っ!! つまり私の方が美少女ってことですっ!!
「いや・・・。皆、お前の犯罪的な乳のサイズにビックリしているだけだと思うぞ・・・。
というか、明よ。
お前、男の初に勝って嬉しいか?」
折角の勝利気分に水を差すお姉様は、きっと悪いお姉様だっ!!
ええ。嬉しいですよ? 初は確かに男の子だけど、そんじょそこらの美少女じゃ勝ち目がないくらい可愛いんですから・・・・・って、誰が犯罪的なオッパイですって?
「それだけ、たゆんたゆん揺れてたら十分、犯罪的じゃ。
見ろ。あそこの幼子なんか、お前を指をさして”おっぱいっ!! おっぱいっ!”って、連呼しておるぞ。」
見ると、母子連れが確かに私を指差していた・・・・。
「うにゃああああ~~~っ!!」
私は急に恥ずかしくなって、隆盛の手を振り払ってバッグで胸を隠す。
私の急変に隆盛は狼狽えて「おい、どうしたんだ?」と空気を読まずに聞いてくるし、初は聞かずと知れているようで、ジト目で私を睨む。
「さぁ。明ちゃんは、大きすぎるお荷物が恥ずかしいらしいわよ。
なにそれ、自慢なの?
言っとくけど、私だってすぐにそれくらいになって見せるんだからねっ!!」
いや、それはやめておいた方が良いわよ。
オッパイなんか大きくてもCカップくらいにしていた方が良いわ。だって、コレ。重いのよ?
と、言うのは流石に性格が悪いと言われてしまうのでグッと我慢するものの、重いだけでなく、このいらぬ視線を受けることが・・・ね。結構嫌なのよ。
男のいやらしい視線も嫌だけど、女の子からの嫉妬の目線も嫌。一応、ネットで活躍するほどの美少女である初も、そういった視線と近いものを浴びる機会が多いので、ある程度は理解をしてくれているようだったけれど・・・。
て、いうか・・・・。
なんで、明がこんなことで気を遣わないといけないのよっ!!
私は、少し理不尽さに腹を立てて、隆盛達を追い越して一人、映画館へ向かう。
一刻も早く、人目を気にしなくてもいい映画館に行きたいのっ!
・・・でも、私の早足は5分が限界。すぐに体力の限界が来てしまってヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「も~っ・・・。明ちゃん。
バカみたいに体力ないくせにバカみたいにペース考えずに歩くから、バカみたいにすぐへばっちゃうのよ?
それじゃ、まるで本当にバカみたいじゃない。」
ちょっ・・・・・。
「隆盛っ!! 初がいじめるっ!」
私が涙目になって抗議すると、隆盛は初のおでこを指ツンして「こらっ!」と言った。
・・・・・・え?
終り? それで、終わり?
君の彼女候補である明が虐められたのに、それで終わりなのっ!?
恨みがましい目で隆盛を睨みつけると、隆盛は眉を下げて困った表情を見せる。それが何となくかわいく思えた私は、喫茶店を指差して「ソーダおごってくれたら、許してあげるっ!」と、要求するのでした。
その喫茶店は、クーラーがよく効いてて過ごしやすかったし、なによりもご飯が美味しそうっ!!
メニュー表を見たときに初も私も両手を合わせて、豪華で美味しそうな料理に感動する。
「ねっ!! 隆盛。
ここでお昼にしようよっ!!」
と、テーブルに手を置いてピョコンピョコン跳ね上がって提案する初は確かに可愛い。
こんな可愛い子におねだりされたら、男の子はイチコロになるんじゃないかなぁって、思うまでもなく、隆盛はイチコロだった。
「し、しかたねぇなぁ・・・・。」
などと、嬉しそうに言うのだった。
くっそー。この娘、本気であざといわっ!! そりゃ、男の子は夢中になるわけね・・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・。あっ・・・・そっか・・・・・・
私はその時、閃いた。これは戦いだっ!!
多分、初は最初から仕掛けている。隆盛のハートをつかむ競争だったんだ。隆盛争奪戦。通りで、圧倒的に優位な癖に私に媚びを売るわけね。
でも、そこまでわかったのなら、受けて立つわよっ!!
このデート時間中は、隆盛のハートを鷲掴みにするか否かの戦いなのだと。
そして、私がそう判断した時から、この戦争は始まってしまったのだ‥‥。