この期に及んで?
翌日。お兄ちゃんに言われた通り隆盛と不知火先輩を呼び出して、京ちゃんと引き合わせることになった。
熱くなりだす前、9時に呼び出したのだけれど、既に日差しは強く、熱い。暑いじゃなくて、道路がもう熱い。私は日傘を用意して出かけたのだけれどもそれでも熱い。不知火先輩も隆盛も京ちゃんもよくTシャツ一枚で出てこれるわね。
そして、何故か一緒に来た初と美月ちゃんも暑さにうんざりしながら、私の日傘の中に入って来る。
ええいっ!! 暑苦しいでしょ~~~っ!!
「というか。なんで美月ちゃんと初も来たの?」
私は、暑苦しい二人を押しのけながら、質問する。
美月ちゃんは「私もこれに参加する資格はあると思う。」と、未だ百合チャンスにかけていることを告げる。
初は「何となく面白そうだから。」とふざけたことを答える。
ようし、決めた。こいつから先に日傘から追い出してやる。
ふぬぬぬぬう~~~っ!! う、うごかない~~っ!!
「あはは。明ちゃん。
いい加減に諦めたら? 力じゃ私に勝てないよ、絶対っ!」
ふにゅううううううう~~~~っ!! ま。負けないもんっ!!
バカにされたままでは終われないっ!! と、思って必死に押してるんだけれど、いくら押しても女の子になって非力な私では、初には腕力では勝てない。
ただ、その様子は男子3人にとってポイントを押さえていたようで、嬉しそうにニマニマして非力な私を見ている。
もうっ!! 何がそんなに嬉しいのよっ!!
ちっちゃい男の娘の初にさえ勝てない私を可愛いと思ってくれるのは、有難迷惑。だって、今。私、負けたくないもんっ!! これは負けられない女の戦いなのっ!!
うにゅうううううう~~~っ!!!
全身の力を振り絞って更に押すと、とうとう初は、動いた。そして私は、そのまま初を日傘の外へ押し出すことに成功するっ!!
やったっ!! 勝ったっ!!
お姉様っ!! 私、やりました~~~~~っ!!
私は、息切れする肩を揺らしながら、勝利を喜ぶ。
だが、初は
「いや~~ん。明ちゃん。力強~い・・・・。」
なんて、弱い子アピールをする。おい、ちょっとまて。それじゃ、私が力強いみたいに思われちゃうでしょっ!!
そう、初は男子の視線に気が付き、あざとくも非力アピールする。ずるいぞっ!!
お姉様、こいつ。殺してくださいっ!!
「やめんかっ!! 妾を何だと思っておるのじゃ。
それにな、好いた男の前でか弱い女を演じたい気持ちくらい、お前にもわかるだろう。見逃してやれ。」
お姉様はとりあってもくれなかった。
「ところで・・・・。その女の子たちは、なに?」
京ちゃんは、私達を見てニヤニヤしながらも、疑問を口にする。それは当然の疑問だった。だって、私、彼氏候補を紹介するって言ったのに、男女2名づつ来たのだから・・・・。
「あ~・・・・。この二人はガン無視オッケー。昨日言ってた人たちはこっち。」
私は掌を天に向けたポーズで隆盛と不知火先輩を紹介する。
「え~と。こっちが私の同級生で親友かつ恋人候補の川瀬 隆盛君。プロのキックボクサーでもあるのよ。強いのよ。」
まず、隆盛を紹介すると京ちゃんは、筋骨隆々の隆盛の体を見て「強いのは見たらわかるよ。」と苦笑い。長身の京ちゃんと並んでいても、隆盛の方がちょっと大きいみたい。加えて、この美味しそうな体だもの。まぁ、男の子同士なら、圧倒されるわよね。
続いて私は不知火先輩を紹介する。
「で、こちらが美術部の先輩で不知火 忠保さん。」
京ちゃんは、目を白黒させながら「・・・・嘘だろ? 男なのか?」と、不知火先輩の美貌に混乱が隠せない。面白いから初も紹介する。
「このあざとい子も男だよ?」
と、紹介する私に初が「うう~~っ!!」と、うまみがましい抗議の唸り声を上げる。
そして、京ちゃんは混乱するばかり。
「うそだろ・・・。こっちも男なのかよ。
俺がいない間に日本どうなったんだっ!!!?」
京ちゃんは、それっきり、しばらく絶句していた。
「・・・・で? そいつ誰だよ。明。」
そんな私と京ちゃんのやり取りにしびれを切らした隆盛が不快感をあらわにした声で聴いてきた。
その迫力ある声は、親友でもある私だって聞いたことが無い声だったので、思わず身がすくんだ。
それでも私は隆盛に愛されていることを知っているので、危機感はない。だからせめて、隆盛の機嫌を損ねないように京ちゃんを紹介する。
「ああ。ごめんね、隆盛。
こっちは、磯貝・ジェームス・京志郎。私の幼馴染で、小学4年生の時にお母さんの母国であるアメリカに移住したのだけれども、この度、事情があって帰国してきたの。」
私がそう説明すると、隆盛は説明を飲み込んで理解するかのように一度瞳を閉じてから、「で? お前に交際を申し込んできたと?」と京ちゃんを睨みつけながら言う。その迫力の凄まじい事。この近隣で隆盛に逆らう奴はいない。その意味を身をもって改めて知った気がした。京ちゃんも恐怖で顔が引きつっている。それでも・・・・。
「俺は明の幼馴染だ。俺にもこの取り決めに参加する権利がある。」と、言い返す気概を見せる。
でも、それを聞いた隆盛の鋭い目は輝きが和らぐことはない。それどころか「夏休みの終わりまでの俺たちを差し置いて明の心を掴めると思ってんのか?」と、明確に不快感を示す。苛立った口調と鋭い眼光から隆盛が本気で怒っているのがわかる。
その迫力に気圧されながらも京ちゃんは態度を崩さない。
「明の兄貴さんに聞いた通り。いや、聞きしに勝る色男二人だな。
でも・・・俺は勝つさ。」
その態度は隆盛の怒りの炎に油を注ぐようなもの。「この野郎…。」と隆盛が一歩詰め寄ったところで、初が泣き出した。
「け、喧嘩はやめてよぉ・・・・。こわいよぉ・・・・。」
その泣き声に狼狽えた隆盛は、慌てて初に近づいて「わるかった。わるかった。喧嘩はしない。」と言いながら、頭を撫でた。
はーい!! 隆盛君っ!!
明も!! 明も怖かったでーすっ!!
と、アピールしてやりたいけど、それは流石に野暮で、黙って二人を見まもるしかない。
その様子を怪訝な表情で見守る京ちゃんの顔には「こいつら・・・どういう関係なんだ?」という文字が書いてあるかのよう。
そんな3人のやり取りに呆れたように不知火先輩がため息をつきながら「磯貝。君はあと10日ほどのチャンスしかないが、やるんだね?」と、再度確認する。
問われた京ちゃんは、今度は不知火先輩にむかって怪訝な顔をしてから、何かを思い出してハッとした顔になる。
「そうか・・・・。あんた・・・親父の言っていた不知火家のひとかっ・・・・!」
と、何やら意味深長なセリフを言った。言われた不知火先輩も意味深長な笑みを浮かべて「その・・・・不知火家だ。」と答えるのでした・・・・。ああ・・・そっかぁ・・・・。
「それで不知火先輩は転校生が来ることを知っていたんですね?」
色々な情報を統合すると不知火先輩の家と京ちゃんの家は何か関係があって、その関係から不知火先輩は転校生の存在を知っていたんだと推測できる。
私の予想は当たっていて、不知火先輩は「ま、そういう事だよ。」と、笑顔を浮かべる。
続けて不知火先輩は言う。
「いいだろう。僕達と勝負したいというなら、明が欲しいというのなら相手になろう。
でもね。君にも取り決めは守ってもらうよ。僕達は一日交替で明とデートする。そして、最終日に明のする決断を受け入れる。わかったね?」
京ちゃんが深く頷いたことにより、この取り決めに新たな彼氏候補の王子様が乱入が認められてしまった。
土壇場で、なんてことなの?