割って入る者同士
磯貝・ジェームズ・京志郎。私の幼馴染。
近所に住んでいた彼は、お母さんがアメリカ人のハーフでとてもきれいな少年だった。両親が画家と音楽家のアーティストという事もあって、本人も芸術家思考が高く、そういう部分が私と意識があったのか、何故か気の合う親友になった。
小学4年生の時、お母さんの母国であるアメリカに移住。それから音信が無かった彼が、突如日本に帰ってきた。理由はご両親の離婚で京志郎、つまり京ちゃんは、お父さんについて日本に帰ってきたそうだ。
数年ぶりの帰国、そして私を訪ねて来た彼は、再開して間なしだというのに、私に交際を申し出てきたのだった。
「明っ!! ハッキリ言って、お前。メチャクチャ好みだぜっ!!
恋人がいないのなら、俺と付き合わないかっ!?」
京ちゃんにそう言われて私は面食らうばかり。
「ちょ・・・ちょっと。いきなり何を言い出すの? 京ちゃんっ!!」
私の言葉は当然のことだと思う。だって、本当に私と京ちゃんは再開して5分経つか経たないかと言うところでの告白だったから。
でも、京ちゃんは、恋をはぐくむ時間もないのに告白するのはおかしいと文句を言う私に向かって平気な顔してこう言うの。
「時間が経てば、愛が成立するのか?
時間が経たなければ愛が成立しないのか?
そうじゃないだろう? 愛はインスピレーションだ。己の魂が震えた時から愛は始まるものさ。従って俺がお前・・・・君と恋に落ちるのは、おかしくも何でもないってわけさ。
明。君はとても魅力的な女性になった。
アメリカの女性が失った女性らしさ、お淑やかさに包まれている。それは君の心の美しさを映し出しているよ、それに、メチャクチャ可愛い。幼いころもとても整った顔をした可愛い少年だったけれど、こうして成長した君は・・・・・・本当に可愛い。可愛いよっ!!
俺が君に恋をするのに何の障害があるって言うのさ?」
・・・・はい?
信じられないような熱量とオーバーなジェスチャーと共に一気にまくしたてられて、私は面食らう。
ああ・・・。そっかぁ・・・。この直感で動く感じ、アメリカ人なのかなぁ。そう思わずにはいられなかったけど、京ちゃん。いくら何でもそれだけで女の子を口説くのっておかしくない?
「あの・・・ね。京ちゃん。
そんな理由で告白される女の子の気持ち考えたことある?
出会っていきなりそんなことを言われたら、面食らうの通り越してちょっと怖いよ。」
私は出来るだけ京ちゃんを傷つけないように優しい口調で諭す。
それでも京ちゃんが引き下がらないので、とうとうお兄ちゃんが割って入ってきた。
「ちょっと、君。待ちなさい。
明には、いま、交際を申し込まれている相手が既にいてね。君の出る幕じゃないよ。」
そう言って私と京ちゃんの間に立ちはだかる様にしてお兄ちゃんは割って入ってきて、私を守ってくれた。長身の京ちゃんはお兄ちゃんと並んでも5センチ以上、大きくて威圧感があるのだけれど一応、お兄ちゃんの事も昔から知っているので、京ちゃんもお兄ちゃんに対して横柄な態度はとらなかった。
「いや・・・。ちょっと待ってくださいよ。
交際を申し込まれている相手がいるって、おかしくないですか? それって、まだ特定の恋人が決まっているってわけじゃないってことですよね?」
横柄な態度はとらないけど‥‥決して引き下がらないのでした。
ねぇ、お姉様。男の子ってこういう感じになったりするのが普通なの? 出会っていきなり、告白する?
「いや・・・・。その。そればっかりは個人差じゃろう?
でも、こ奴の心に嘘はないぞ? 本気でお前のことが好きになっておる。どうにも直情的な男よのう。」
そういいつつもお姉様にしては、歯切れの悪い言い方。どうもお姉様にとっても京ちゃんのこの感じは戸惑いを隠せないようだった。ただ・・・・・「妾なんか、大抵こうやって言い寄られて、断っても奪われてきたから、妾なら結構、盛り上がるイベントじゃな。こういうの・・・・・。」と、豊穣神ならではの感想を述べる。いや・・・そんなことで盛り上がらないでくださいよと、言うのは野暮。この女神、真正のドМ。こうやって断りながらも強引にモノにされる妄想で気持ちよくなっちゃってる。
ああ。明も気をつけないと、いつかこういう風になり果てちゃうかもしれない。
「なり果てるとはなんという言い草じゃっ!! むしろドМとしてレベルアップしたと言わんかいっ!!」
そういうのレベルアップって言うのっ!? むしろよりチョロくなって、攻略しやすいキャラになってませんかっ!?
なんてお姉様とわけのわからない問答をしているうちにお兄ちゃんは、京ちゃんに私と男の子たちの取り決めの話までしている。京ちゃんは、それを聞いて引き下がるような男の子じゃないというのに。
「だったら・・・。俺もそれに参加する権利があるっ!! だろ? 明っ!」
だろ? って言われてもね・・・。
「あのな。京志郎君。俺の話を・・・・ちゃんと聞いていたのか?
明は、夏休みが終わるまでに誰と付き合うのか決める。君は、これから10日ほどの事で明をモノにできると思っているのかい?」
お兄ちゃんもさすがに辟易としている。そして、同時に身の程知らずだと笑った。
それを聞いて京ちゃんは、少し興奮気味に言う。
「どれほどのライバルが俺の前に立ちはだかっているのか知らないけれど、俺は勝ちますっ!!」
と言ってのけた。
うんざりするぐらいの積極性だった。お兄ちゃんもさすがにこれ以上相手にしていられないとばかりに、
「悪いが京志郎君。これから僕たち家族は、久しぶりの一家団欒の食事に行く。これ以上君に関わっている時間はない。
後日、君のライバルたちに会って身の程を知るがいいさ。」
といって、私に隆盛たちを招聘させて合わせるように指示してきた。
何でそんなことしなくちゃいけないのかしら? と、思いつつもこれ以上、話し合ても埒が明かないことは、私も感じていたので、一応、京ちゃんと連絡先を交換して、一旦別れることにした。
別れ際、お兄ちゃんはジト目で京ちゃんを睨みながら
「悪いけど‥‥。俺も明も許嫁だってことを知っておいてほしい。」
と言った。
「えええええええええええええ~~~~~っ!! お、お兄さんが、許嫁ぇ~~~~~っ!?」
久しぶりの帰国で私の家庭事情についての記憶があいまいになっている京ちゃんのビックリする叫び声が近隣に響き渡った。
ああ・・・・。なるよね~・・・・。
その後、私たち家族は何事もなかったように食事に行く。この訳の分からない珍騒動を目をしていながら、動じない私たちの両親の腹の座りよう。流石だ。
パパなんか焼肉屋さんについてから詳しい事情を聴いても動じない。それどころか
「何を言っているんだ。明。
パパなんか、ママと会った即日に誘拐婚同然にママを連れ去って結婚を約束させたんだぞ。それに比べて最近の若い奴らは、覇気が足りない。」
なんて言う。流石のママも呆れ気味に「あんな事されて、アナタを受け入れた私もどうかしていたわ。」と、笑う。
それを聞いて、パパは「でも、君は俺を受け入れてくれた。あの夜の君は生娘のように綺麗だった…。」と言いかけて、ママに肘打ちされる。ママの顔が見る見るうちに真っ赤になる様子から、何がその時に興ったのかお察しできるけど・・・・息子と娘にはいささかディープすぎるないようで、楽しい焼き肉のはずが、その後、暫く無言の時間が起きるのでした。
「全く。榊家はどいつもこいつもキャラクターが濃い。
見ていて飽きぬわっ!!!」
お姉様にそう言って愉快そうに笑うけれど、反論の余地もない。うちの家族。本当にキャラが濃いいわ・・・・・。