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波紋

今日、私達は家に帰る。

その前に先祖のお墓に手を合わせてご挨拶する。家族そろってこうするのはいつぶりだろうか?

元々は私の女体化を報告するための帰省だったけれど、今回の事でずっと榊一族になじめなかったお兄ちゃんが榊一族に仲間入りできた。

そう思うと恋愛的にはなんの進展もなかった帰省がかなり意味のあるものだった気になるから不思議。

後は、夏休みの終わりまで、私が他の男の子に誘惑に負けなければいい。いや、別に悪い事ではないけれど、なんとなくふらりふらりと思い人がその都度変わってしまうことに嫌気がさしていた私は、そんな気がしてしまう。

二人には罪が無いのにね。


そして、我が家に帰る間にもう一人、罪のない男の子ときちんとお別れしないといけない。

本家を出ていく前に優一ゆういち君は、諦めずに最後のアタックをしてきたのだった。人知れず、さり気なく私の手を引いて人気のない裏に来ると、告白してきた。

あかりっ・・・。俺、野球で有名になるから、甲子園に行くから。

 その時、俺と付き合ってくれないか?」

謎の告白。

いや、甲子園に行きたいのは君の目標でしょ。それが出来たからってなんで私が君と付き合わないといけないの? そんなこと言われてもね・・・・。

などと考えながらも、真剣なまなざしで私を見る優一君の思いを無碍にするわけにもいかない。

だから、私はきっぱりと優一君を振る。

「ごめんね。私の彼氏候補たちとの約束で、この夏休みが終わる時に彼氏を決めることになっているの。 それには、優一君はちょっと間に合わないかな。」

そう言われるた優一君は急にあふれ出しそうになる涙をグッとこらえて、「そうか。もうちょっと前に田舎に戻ってきてくれていたら、俺もそこに混ざることが出来たかな。」と、潔く諦めて、無言でその場を立ち去っていった・・・・・。その背中は震えていたけれども、その背中に慰めの言葉をかけるなんていけないことだと思ったから、私は何も言うことが出来なかった。

この夏休みが終わる時、私は少なくともあと二人の男性を振ることになる。そう考えるだけで胸が苦しくなる。優一君は ”俺も混ざることが出来たかな” って言ったけれど、私の立場だとまるで逆のことを考えてしまう。つまり、どうしてこんなことになったのかなって・・・・・。


ただ、普通に運命の誰かと出会って、その人と結ばれる。

そんな恋愛がして見たかった・・・・・。


それがこの帰省での最後の思い出になった。

私達はその後、来た時と同じようにパパの車に乗って家路につく。帰り道に皆で話す内容は同じ。やっぱりお兄ちゃんが榊一族に馴染めたこと。その時、さり気なくお兄ちゃんもパパもお互いのことを「たける」と「お父さん」になっていた。その事がママも私も嬉しくて、胸が一杯だった。特にママは溢れそうになっている涙を悟られぬように必死だった。その姿にも私は深く感動していた。

そんな最高の盆休みも終わり、パパとお兄ちゃんは今夜にもそれぞれの仕事場に帰ってしまう。その前に家族で外に食事に行こうかと話し合って、一度、旅行の荷物を家に置いてから出かけようという事になった。

ところが・・・・。私たちが実家に戻った時、家の前には見知らぬ金髪の少年が立っていた。

”誰だろう? 年齢的には私のお客って感じだけれど・・・・・”

少し、考えてみるのだけれども、全く見知らぬ顔だった。

長身に高い鼻筋、大きな丸い瞳から察するに、きっとハーフかクオーターなんだと思う。

そんな人に知り合いはいないから、私は声をかけていいものかどうかわからない。車の中で戸惑う私にお兄ちゃんが「知り合いじゃないのか?」と尋ねた。

「全然、知らない人。多分、私に用事の人だと思うんだけど‥‥」

私が不安そうにそう言うと、お兄ちゃんは「俺が聞いてきてやるから、お前は車で待っていろ。」と、言ってくれた。頼もしい。

女の子になった私に知らない男の子に声をかけるのは、少し怖い。こういうことはパパかお兄ちゃんにお任せしないと‥‥ね。

お兄ちゃんは、パパたちと車を降りると、家に荷物を運ぶパパとママと別れて見知らぬ金髪の少年に声をかけた。


ところが・・・。お兄ちゃんは金髪の少年に声をかけて2,3言葉を交わしただけで、嬉しそうに大声を上げていた。

・・・え? 知り合い?・・・・。

その馴れ馴れしさから、なんとなく察しがついた。さらにお兄ちゃんが ”車から出て来い” とばかりに手招きするので、どうやら、やはり知り合いのようだった。

え・・・誰だろう・・・?

その疑問は一瞬でとけた。

車から降りて近づいてきた私にお兄ちゃんが嬉しそうに、その金髪の少年を紹介してくれたから。

「おい、明。この子、昔。家の近所に住んでいた「磯貝いそがい・ジェームズ・京志郎きょうしろう」君だって。

 ほら、お前が京ちゃん、京ちゃん言って親しげにしていた、あの子だよっ!!」

・・・・!!

覚えてるっ!! 小学4年生の時に母親の母国アメリカに移住した京ちゃんだっ!!

彼は、私の幼馴染でお父さんがアーティスト、お母さんがミュージシャンという芸術家夫婦の間に生まれた子。ハーフで友達も少なかった彼と私は、共に芸術家肌って言う理由だろうか何故か気が合った。

そして、ずっと友達として遊んでいたのだけれども、母親の母国アメリカに移住してから、音信不通になっていた。それが、どうして急に・・・?

私は嬉しくって思わず、大きな声で「京ちゃん、どうしたのっ!!!?」って尋ねてしまった。


「いや、親父とお袋が離婚して、俺は親父について帰ってきたんだよ・・・・てか、お前の方こそどうしたんだよ?

 なんで、そんな格好しているんだ?」

京ちゃんが驚くのも無理はない。だって、私はつい最近、女の子になっちゃったんだから。

「お前・・・ホモだったのかよ?」

軽蔑するような目で私を見る京ちゃんにお兄ちゃんが慌てて説明する。

その説明でお姉様の存在を語るのはあまりにも突拍子が無い。いつも通り ”他所向け” の理由。お医者説明してくれた理屈をお兄ちゃんが説明してくれる。

もっともその理由も、「元々女だったけど、ホルモン異常でなぜか男の体になっていたのが、正常に戻って女になった」とか、普通に聞けば信じられないアンビリーバボー理由なんだけどね。そこはお姉様の力が加わっている。

「どれ、この説明に呪術的な効果が加わるように細工してやるか・・・・。」なんて言って、お姉様は私たち家族に術を付与してくれている。

わかりやすくいえば、今回、お兄ちゃんが説明した言葉は、お兄ちゃんの口を通してお姉様の呪術が加わっていて、聞いた相手は催眠術にでもかかったみたいに、無条件に信用してしまう効果が付与されているの。だから、京ちゃんもこの突拍子もない説明をあっという間に理解して、納得してくれた。


「ああっ! そういうことかぁ・・・。へぇ、そんなことがあるんだな・・・・。」

そう言って京ちゃんは私の顔をマジマジと覗き込む様に確認した後、「すげぇ乳に成長したな。」なんて言うから、私は反射的にビンタしてしまった。

「最っ低っ!!! 京ちゃん。女の子になんてこと言うのよっ!」

いきなりのビンタにお兄ちゃんも京ちゃんも反応できずにいたけれど、まともに食らった京ちゃんは、目を白黒させながらも、「悪い悪い」って謝ってくれた。

もう・・・・。

「それで、今日はどうしたの?」

私がそう尋ねると、

「いや、今度帰国してまた、日本に住むことになったんだ。それで、お前が今でもここにいるのか気になってな。 それで昔の記憶をたどってフラフラやってきたら、表札が今でも同じだから、お前がいるのかなって、ウロウロしてたところなんだ。」と、説明してくれた。

「覚えてくれてたんだね。私の事・・・・。」

「まぁな。今度、近くの高校にも通うことが決まってるんだ。もしかしたら、一緒の高校かもな。」

「へぇ、どこの高校?」

と、尋ねて私は驚いた。だって、それは私の高校だったから。

そこで私は不知火先輩が以前、転校生が来るよと言ったことを思い出した。

「あれは京ちゃんの事だったんだ・・・・・。」

私が感動の声を漏らした時、京ちゃんも嬉しそうに同じ高校であることを喜んだ。

そして、同時に・・・・・私に告白してきた。


「明っ!! ハッキリ言って、お前。メチャクチャ好みだぜっ!!

 恋人がいないのなら、俺と付き合わないかっ!?」


その言葉を聞いて、驚くばかりの私の心の中でお姉様がポツリと言う。


「あらたな波紋が起きているな。

 明、お前の恋模様は本当に面白い。神々の縁組の枠から外れてしまった影響かの。

 妾にも何が起こるか予測できぬわ・・・。ふふふ・・・・・。」

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