酒宴は続く
「榊家の由来を延々を聞かされた時に、俺も本当の意味で榊一族になれたしたよ。」
昨晩、榊家の面々と打ち解けられることが出来たお兄ちゃんは、榊家の一族に成れた実感を覚えた。
しかも、お祖父ちゃんから先祖伝来の南北朝時代の大太刀まで授けられて益々、榊家として認められたと、私達は驚きつつも感動した。
でも、翌朝。酔いから覚めたお祖父ちゃんは、
「大太刀を返してくれ。昨日は、酒が過ぎた。」と、真顔で言ってきた。
はあああああ~~~~っ!!?
なに、それっ!! 意味わかんないっ!!
「いやいやいや。
明よ。お前、南北朝時代の大太刀とかってどれくらい価値あるか知っとるのか?
ワシの父親がどれだけ上手くやってGHQから、この大太刀を隠したと思う?
それをこうして家宝として受け継いできたからに、やはりこの家から出すわけにはいかんのだ。
二人には悪いが、冷静に考えてもあり得ん話じゃったわ。」
って、おい。
昨日の感動を返せ。
流石に、これは酷くないですか? お姉様からも何か言ってやってくださいよ。 これじゃ、お兄ちゃんが可哀想・・・・・。
私がお姉様に泣きつくも、お姉様は「いや、武は大人じゃ。酒の席で行き過ぎたことなどで、一々、怒ったりせんわ。」という。
確かにお兄ちゃんの横顔からは、怒りは感じられない。どちらかと言えば、愉快そうだった。
「まぁの。
そもそも、明。あれだけ保存状態の良い南北朝時代の大太刀なんか、数千万はするぞ。」
すう・・・・・せん・・・・・。
ああああ。そりゃ、家から出すわけにはいかないわ。
「それに金額だけの話ではない。先祖伝来と言うものはな。家名を大切にする一族にとっては命とも言える品物。早々手放せるものではない。酒の席の笑い話と、許せ。」
まぁ・・・。私はお兄ちゃんさえなんとも思わないのなら、気にしないけど・・・・・。
そんなこんなで昨日の騒動は収まったのだけれども、私の婿取り話は終わったわけではない。
お祖父ちゃんはじめ、榊家のメンツは興味津々だった。
「明よ。武君のどこが不満なんじゃ?
見るからにしっかりした男じゃないか。」
と、お祖父ちゃんは、お兄ちゃんを気に入ったようで推してくるし、叔父さん。つまりパパのお兄さんは自分の息子で私の二つ年下の優一君を「うちの子、どうかな?」と、推してくる。
何でこんなにも私の結婚話に一族が乗り気なのかと言えば、それは、どうやらお姉様の御神託を受けたという事が原因だ。
お姉様の寵愛を受けた私が幸せになること。それがすなわち榊家の繁栄の兆しと受け取っているようだ。それは実は結構正しくて、お姉様は向こう10年は繁栄を約束してくれた。
「お前の祖父とその息子たちは、それは見上げた信仰心じゃ。
それに免じて、向こう10年は繁栄を保証してやる。じゃが、10年だけじゃぞ。それ以上の甘やかしは神として色々とマズいからの。」
なんだか、お姉様にも色々と制約があるらしい。それは仕方ないとしても・・・。それを知らないお祖父ちゃんたちは、どうにかお姉様の眷属としての寵愛を受ける私を大事にしたいらしい。
特に叔父さんは、既に恋敗れたことも知らずに、やたらと優一君を推してくる。中学生の繊細な精神がズタズタにされるので止めてあげてほしいのだけれども・・・・。
と、思ったけれども、優一君は既に心の傷は癒えたのか、どうでもいいやって表情をしながら、時折私の胸を見てくる。ああ…これは元気な証拠ね。よかった・・・・。
そうやってドタバタしているうちに朝ごはんも終わり、私はお兄ちゃんを誘って、田舎道を案内することにした。
出かける前に優一君は
「明。今はこの辺りも大分変わってお前が知らないこと多いぞ。
俺が案内してやろうか?」
なんて言ってくれたけれど、私はとにかくお兄ちゃんと二人っきりになりたかったから、それは断った。
本家の外に出ると、お兄ちゃんはお天道様を見て「暑いな。」と言いながら、大きめの麦わら帽子を私にかけてくれる。
「ありがとう・・・・。」
そんな気遣いがちょっぴりうれしい。
二人で手を繋いで本家の前を流れる川に出て、川沿いを歩きながら川の流れとそこに住む魚を見るのが意外と楽しい。そのまま歩き続けて、林に入って、涼む。蚊よけのスプレーと蚊取り線香が必須だけれども、二人で歩くのは楽しい。
高い木のおかげで林の中は涼しいし、通り抜ける風も心地いい。
そうやって、二人で木陰に座って涼みながら、スマホでラジオをかけて、ニュースを聞きながら、時折流れてくる昔のヒット曲を楽しむ。この心地よい涼しさとゆったりと流れる時間が、いまだ昨夜のお酒が残った体のお兄ちゃんには最適らしい。
それでも、お昼前になるとお酒がすっかり抜けてお兄ちゃんは元気になったのだけれども、お昼が近くなったので、また本家に帰らないといけない。
しかし、本家に戻ると、お祖父ちゃんたちはまた、酒盛りをしていた。
これには、流石のお祖母ちゃんもご立腹。
「お盆だからって毎日毎日お酒飲む気じゃないでしょうね?」
なんて嫌味をいうものの、お祖父ちゃんには全く通じない。なんだったら、お兄ちゃんを再び呼び寄せてお酒を飲ませようとするものだから、私は必死になって止める。
「もうっ!! お兄ちゃんは声優さんなんだから、お酒で喉が焼けちゃったらどうすしてくれるのよっ!」
ただ、私がプンプンと怒るのは、男の人には逆効果にしかならないらしい。
皆ニマニマ笑いながら、「可愛い可愛い」と言って、歓ぶばかり。なんだったらお兄ちゃんまで嬉しそうに笑っている。
「もうっ!! 私、怒ってるんだからねっ!」
そういいながら、とうとう私もむなしくなって、お兄ちゃんを置いて女性たちと一緒に食事をとる。
「ねぇ、ママ。
男の人って、どうしてあんなにお酒が好きなのっ!?
お兄ちゃんも明と過ごすよりもお酒の方が良いのっ!?」
割と本気の質問だけど、ママは「明は、可愛いわね。」と、クスクス笑うばかり。
叔母さんたちも私の反応が可愛らしいと大喜びだった。
・・・・・なんなの、もうっ!!
なんだか見世物になったみたいな気分だわ。
まぁ、確かに女の子になった私は可愛いけれど、だからって、こういう扱いされるのは不満かなぁ・・・・。
そもそも、このお盆休みは私とお兄ちゃんの恋のバカンスでもある。この期間は私を独り占めにできるお兄ちゃんは、この後、夏休みが終わるまでは公平さを保つために、私とデートをできなくなる。なのに、お祖父ちゃんに時間をつぶされるなんてっ!!
「そうは言うがな。明よ。
そんな風に考えておる時点で、お前の心はもう、決まっておるのじゃろう?」
ズバリ言われてしまった。
言われてしまったのだけれども、それは何処まで正しいのかは自信が持てない。何故なら、私は、隆盛や不知火先輩に抱きしめられるだけで、心が揺らいでしまうから・・・・。
「まぁ、蛇は繁殖期になったら複数の雄と関係を持つからのぉ・・・・。
あ奴らが美形すぎるってだけの理由ではない。
明、お前は気にするな。それは体質じゃ。繁殖期が終われば、落ち着きもしよう・・・・。」
でも、それって結局、いつなんですか?
私、もう1ヶ月くらいそんな状態なんですけど・・・・・・。
「猫なんか、2か月くらい繁殖期のままの個体もおるぞ。」
えっ!!
「こればかりは個体差があってな。ま、それでも長くて2か月じゃ。
夏休みの終わりに決するというのはある意味潮時かもしれん。」
そうなんだ・・・・。
・・・・・だというのに、お兄ちゃんっ!!
明を置いて何時まで飲んでるの~~~~っ!!?